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『生活保護は最低生活費をどう構想したか――保護基準と実施要領の歴史分析』

岩永 理恵 20110228 ミネルヴァ書房,343p.

last update: 20140615

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■岩永 理恵 20110228 『生活保護は最低生活費をどう構想したか――保護基準と実施要領の歴史分析』,ミネルヴァ書房, 343p.  ISBN-10: 4623059448 ISBN-13: 978-4623059447 ¥5400 [amazon][kinokuniya]

■内容(ミネルヴァ書房HPより)

 現代の貧困を俯瞰する視点として、生活保護の歴史的変遷を紐解く。
 生存権を最低限保障するという意味で社会保障の最後の砦である生活保護は、1946年の旧生活保護法制定から60年以上にわたって運用されてきた。しかし、なぜいまだに、いやむしろ今になって、高い相対的貧困率や低い捕捉率の背景に存在する多様な貧困状態、たとえばホームレス状態で生活する子どもまでもが存在するというような状況が起きているのか。
 本書では、旧生活保護法制定から現在の生活保護までの歴史的展開を時系列的に分析することで、この制度が保障すべき最低限度の生活がどのように構想されてきたか、あるいは実現されてこなかったかを検討する。生活保護の運用には、その時々の厚生大臣、厚生省事務次官、審議会などによるさまざまな措置や運用上の論理が重層的に絡み合っているため、現行の生活保護は相当に複雑化している。その複雑な実体を丹念に解明し、生活保護制度の中で形成されてきた貧困概念とはどのようなものかについて、核心に迫っていく。

■目次

序 論 日本の貧困と生活保護

第1章 歴史分析の視点と対象
 1)生活保護のしくみ
 2)生活保護の政策形成過程
 3)分析視点と時期区分
 4)分析対象資料

第2章 生活保護法の制定と改正――1946年から1950年まで
 1)旧生活保護法の制定
 2)旧生活保護法の実施
 3)第八次保護基準改定の意義
 4)旧生活保護法全面改正と新生活保護法の成立
 5)旧生活保護法から新生活保護法へ

第3章 社会保障整備過程における生活保護――1951年から1960年まで
 1)新生活保護法下の保護基準と実施要領
 2)医療扶助問題と国庫負担削減案
 3)予算措置を要しない保護基準と実施要領の改定
 4)厳しい予算編成と保護基準策定過程への注目
 5)栄養基準不充足の保護基準であることが明白な時期

第4章 高度経済成長下の生活保護――1961年から1968年まで
 1)エンゲル方式採用
 2)生活保護専門分科会中間報告にいたる経緯
 3)保護基準改定と予算編成方法の変更
 4)実施要領の「遅れ」
 5)最低生活費の再定義
 6)エンゲル方式から格差縮小方式へ?

第5章 高度経済成長後の取り残された生活保護――1969年から1979年まで
 1)格差縮小方式と「新」マーケット・バスケット方式
 2)被保護勤労世帯と一般世帯の質的格差の放置
 3)インフレ下での保護基準改定
 4)極限状況の「格差縮小方式」
 5)「新」マーケット・バスケット方式採用が頓挫した経緯

第6章 「適正」を強調する生活保護の運用――1980年から1989年まで
 1)保護基準の検証作業と「123号通知」
 2)「123号通知」発出後の制度運営
 3)国庫負担割合削減
 4)生活保護の「適正運営」
 5)保護申請者を選別する運用が生じた経緯とその後

第7章 生活困窮者を放置する生活保護――1990年から1999年まで
 1)1990年代の保護基準と実施要領の改定内容
 2)生活保護専門分科会等審議機関の開催経過
 3)他制度の変化への対応
 4)低い保護率と「ホームレス」問題
 5)「対応しないという手法」を取った1990年代の政策過程

第8章 “身動きが取れない”生活保護からの脱却に向けて――2000年以降
 1)生活保護の歴史の総括
 2)生活保護と貧困政策の今後

あとがき
参考文献
付表 保護基準改定の説明一覧(第1回〜第20次)(第21次〜第66次)
索 引
 

■書評・紹介

◆岩永 理恵 201209 「文献賞を受賞して・感謝と反省 : 生活保護は最低生活をどう構想したか/保護基準と実施要領の歴史分析 (第30回社会事業史文献賞)」 『社会事業史研究』 (42):133-135.

◆川上 昌子 2012 「書評 岩永理恵著『生活保護は最低生活をどう構想したか ――保護基準と実施要領の歴史分析』(ミネルヴァ書房2011)」 『季刊社会保障研究』 国立社会保障・人口問題研究所 47(4):448-451.

◆菊地 英明 20121001 「岩永理恵著 『生活保護は最低生活をどう構想したか――保護基準と実施要領の歴史分析』ミネルヴァ書房 2011年」 『社会政策』 4(2):132-136.

◆20110606 「この一冊 『生活保護は最低生活をどう構想したか』岩永理恵著」 『週刊社会保障』 65(2631):32.

◆布川日佐史 20110603「岩永理恵著『生活保護は最低生活をどう構想したか――保護基準と実施要領の歴史分析』」『貧困研究 vol.6』6:110-111.

■言及

■引用

第1章 歴史分析の視点と対象

4 分析対象資料(36−)

「生活保護の政策形成過程を歴史的に述べるにあたり、資料として何を用いるかは重要である。歴史的手法による実証の水準は、資料に規定される。そして、認識能力の限界を実際に規定するのは、利用可能な資料の内容である。」(岩永2011:36)

「生活保護の政策形成過程において、直接関与して影響力を行使してきたアクターであって、最も重要なのは厚生省社会局保護課である。厚生省社会局保護課は、生活保護法制定以来、一貫して生活保護の主管官庁である。この組織及び官僚が、時どきの状況の中でどのように立ち回ってきたかをたどることで、政策形成のかなりの部分が捉えられるといってよい。
 それゆえ基本となる資料は、厚生省/社会局/保護課による文書である。
 まず、もっとも重要なのは、小山進次郎(一九五一=一九七五)『改訂増補 生活保護法の解釈と運用(復刻版)』である。これは、一九五〇年に制定した生活保護法のコンメンタールであり、現在にいたるまで制度運用上の基本文献となっている。なお、本書における引用も多いため、以降の記述における『生活保護法の解釈と運用』からの引用は「『解釈と運用』:頁数」と略記する。
 生活保護の運用上では、膨大な数の告知、通知といった行政文書の類が出されてきた。それらは、ある程度まとめて示されてきた。制度発足当初には、『生活保護百問百答』と題した実務者に対する解説が、第一輯から第一九輯まで出されてきた。一九五〇年代後半からは、年度ごとに運用の中身をまとめた実務者必携の書である『生活保護手帳』が出版されてきた。『生活保護手帳』には課長問答を集めた『別冊』も発刊されている。
 社会福祉調査会(後に全国社会福祉協議会)が出版する雑誌『生活と福祉』は、生活保護の時どきのトピックスを知り、たどる上で大いに参加になる。その他にもいろいろな雑誌に生活保護関連の記事があり、それらも参照する。
 また、生活保護実施三〇年を記念して発刊された『生活保護三十年史』は、三〇年間の奇跡を知るのに不可欠な資料である。
 以上に述べた資料や重要な参考文献を箇条書きにすれば、次のとおりである。<0037<

   ・小山進次郎(一九五一=一九七五)『改訂増補 生活保護法の解釈と運用(復刻版)』
   ・厚生省/社会局/保護課から出される告示、通知等
   ・『生活保護百問百答』の第一輯から第一九輯
   ・『生活保護手帳』各年度版〈脚注13〉
   ・『生活保護手帳別冊』
   ・『生活と福祉』(社会福祉調査会、全国社会福祉協議会)
   ・次の雑誌より収集した生活保護関連の記事
    『厚生広報』(厚生大臣官房総務課広報係)、『厚生』(厚生問題研究会)、『社會事業』
    (中央社會事業教會社會事業研究所)、『月刊福祉』(全国社会福祉協議会)、『月刊社會保
    障』(社會保險法規研究會)、『週刊社会保障』(社会保険法規研究会)、『社會保險旬報』
    (社会保障研究所)、『厚生の指標』(厚生統計協会)、『福祉事務所』(社会福祉研究
    會)、『社会保障研究』(厚生大臣官房総務課)、『時事通信厚生福祉版』(時事通信社)、
    『厚生情報』(参議院厚生委員会専門員室)
   ・厚生省社会局保護課編(一九八一)『生活保護三十年史』社会福祉調査会

 以上の資料からは、厚生省社会局保護課だけでなく、制度を実際に運用する都道府県、市町村の関係者や識者らが当時持っていた意見や運用の実態も把握できる。保護基準や実施要領は厚生省が定めるものであるが、その実行が委ねられる地方の実施機関ももちろん影響を行使する。とりわけ、雑誌『生活と福祉』は、一九五二、三年頃の医療扶助や外国人保護の適正化、生活保護費国庫負担五割引き下げ問題等により生じた厚生省と実施機関の溝を埋める役割を担わされ発刊された経緯をもつ。雑誌の「主眼は『地方と中央』『福祉の現場と中央』をつなぐ『太<0038<いパイプ』の役割を果すこと」にあった(板山賢治 一九八四)。『生活と福祉』という雑誌が媒体となって、保護課、監査指導課と福祉事務所さらには査察指導員やケースワーカー等、さまざまなアクター間でなされてきたやり取りを見ることができる。」(岩永2011:37)

「保護課内での議論や調整の経過を明らかにするには、以上の資料では不十分である〈脚注14〉。保護課内での審議経過については、いくつかの回顧録や解説に記された内容から推測するより他ない。
 そこで注目するのが、重要な政策決定に関する専門的検討を依頼し、課内での議論を深めるのに寄与したと考えられる生活保護に関連する専門委員会である。生活保護に関連する各種の専門委員会では、生活保護の展開過程で問題になったことや、その問題への対応を検討する働きをしてきた。特に持続的に開催されてきた中央社会福祉審議会生活保護専門分科会〈脚注15〉は重要な役割を果たしてきた。
 この生活保護専門分科会の資料を利用することは、本書の特色である。
 二〇〇五年二月現在、厚生労働省社会援護局保護課に収蔵されていた一九五六年から、一九九七年までに開催された生活保護専門分科会における配布資料及び議事録である。これまで生活保護専門分科会は、存在は知られているものの、開催日程、委員構成、議事はほとんど明らかでない〈脚注16〉。答申や中間報告すらその一部の閲覧が容易でない。生活保護専門分科会は制度運営において卓越した存在であったが、資料の制約のためか、その働きはこれまで十分に明らかにされてこなかった。厚生労働省の所蔵状況は、かろうじて時系列に並べられているのみであって、整理されておらず、すべてが残されているわけでもない〈脚注17〉。とはいえ、議事録も残されており、議論の詳細をたどることができ、きわめて重要である。<0039<
さらに生活保護制度改革を要請する声の高まりがあって、最近、厚生労働省社会・援護局保護課が事務局となり、いくつかの委員会等が設置されてきた。一九九〇年代以降、社会福祉基礎構造改革が進められ、社会福祉諸制度の枠組みは変化したが、生活保護の取り扱いは留保されてきた。ようやく生活保護について根本的な検討の場が持たれたのは、二〇〇三年七月二八日社会保障審議会福祉部会の承認による生活保護制度の在り方に関する専門委員会(以下、専門委員会)設置によってである。その後設置された各種委員会の名称と開催期間、回数は表1−2「生活保護関連各種委員会(2000年代)」にまとめた。表1−2の各種委員会審議資料及び議事録は、厚生労働省ホームページによりすべて閲覧可能である(二〇一〇年二月時点)。委員会での審議では、過去の経緯に触れられた部分もあり、本書でも参照する。なお引用にあたりURLは省略し「専門委員会/検討会第◯会資料/議事録」と表記する。」(岩永2011:39−40)

 ※表1−2 生活保護関連各種専門委員会(2000年代)[岩永2011:40より]

 開催期間/名称/開催回数
 2003年8月〜2004年12月/生活保護制度の在り方に関する専門委員会/18回
 2005年4月〜11月/生活保護費及び児童扶養手当に関する関係者協議会/9回
 2007年10月〜11月/生活扶助基準に関する検討会/5回
 2008年11月〜3月/生活保護制度に関する国と地方の協議/2回


「国会、国会議員の動きは、行政を監視する役割を担っていて重要である。本書では、国会図書館のホームページ内に国会会議議事録検索システムを利用し、一九五〇年から一九九九年までに開かれた国会の会議録のうち、「生活保護」というキーワードを含むすべての会議録を参照している。国会会議録からは、制度運営に関与した人自身の発言がすべて記録された点で貴重であり、時代状況とそれを反映した動向を知るのに適当な資料である。
 予算を握っている大蔵省(現財務省)も主要なアクターであるが、その行動を知る資料を<0040<えることは困難である。そこで注目するのが、各年度版の『国の予算』という書である。『国の予算』は、「財務省主計局」が公的に発表したものではないが、主計局の担当官有志が毎年執筆しているもので、はしがきに『国民一般に対する明快な予算解説書であると同時に、予算内容の記録的資料であるように特段の配慮を加えた』とあるように、比較的わかりやすい予算解説書」である〈脚注18〉。このうち「生活保護」という項目から、あまりおおやけにされることのない生活保護予算に対する大蔵省(現財務省)の考えを知ることができる。
 また、制度創設期を明らかにする貴重な資料として、厚生省で事務次官、社会局長等歴任した木村忠二郎旧蔵の文書資料のうち、生活保護に関連する文書史資料も用いる(以下、木村文書史資料)。この木村文書史資料は、日本社会事業大学図書館の所蔵資料であり、柏書房より『戦後創設期 社会福祉制度・援護制度史資料集成:第T期』としてマイクロフィルム版が二〇一〇年に刊行された。本書が用いる木村文書史資料については、その分類記号とファイル名、及びリール番号とコマ番号をつけた。」(岩永2011:40−41)

第1章 脚注
(13)第2章で述べるが一部発刊されていない年度があると思われる。
(14)筆者は二〇〇八年、時どきの保護課内の状況をより具体的に理解するために、厚生省社会・援護局保護課や監査指導課に在籍したことのある元厚生省官僚に対するヒアリング調査を行った。ヒアリングは、当時の雰囲気をうかがうことに重点をおいて実施した。ヒアリングを通じて、本書のもととなった博士論文の全体的な流れに間違いはなかったという感を確かめることができた。ヒアリングした結果は、実証資料としては不十分である場合が多いと考え、主に論証を展開する際の参考資料として利用する。
(15)以下の文中では、生活保護専門分科会と省略する。また、中央社会福祉審議会へ諮問された場合でも、生活保護について実質的に議論して結論を出すのは、生活保護専門分科会であり、本書で議論する中身から、両者に実質的な区別はないものとして記述する。
(16)篭山京(一九七八)には、わずかだが生活保護専門分科会の記録が残されている。二〇一〇年二月時点では、一九九六年一月三一日の審議分から「中央社会福祉審議会生活保護專門分科会議事録要旨」が厚生労働省ウェブサイト上で閲覧可能である。筆者が入手した一九九六年一月三一日の議事録によれば、一九九五年九月の「審議会等の透明化、見直し等について」の閣議決定に基づき審議会の運営を検討した結果、生活保護専門分科会については、会議や議事録は原則非公開とし、議事要旨を公開することが決定された。
 生活保護を主に議論する委員会の会議、議事録や資料が公開されたのは、二〇〇四年一二月一五日に最終報告を出した「生活保護制度の在り方に関する専門委員会」が初めてである。
(17)時どきに開かれてきた生活保護専門分科会の会議が、それぞれ第何回目であるかが途中から不明である。そのため、本文中に言及する生活保護専門分科会が各々第何回目の審議であるかは記録されている限りで記述するにとどめる。所蔵状況等詳細は、本文中で参照する際に示す。
(18)社団法人政府資料等普及調査会・資料センターのウェブサイト(http://www.gioss.or.jp/clip/yosan3.htm、二〇〇六年一〇月一一日アクセス)より引用。


*作成:中村 亮太
 UP:20140615 REV:20140617
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