丹念な調査で得られた多角的データから
途上国に生きる障害者の現実を浮き彫りにする
――貧困削減戦略の再構築をめざして
編者からのメッセージ:
昨今,日本においても貧困への関心が高まってきている.厚生労働省は2009年10月,「相対的貧困率」と呼ばれる所得中央値の50%以下の所得しか得ていない人たちの割合が15.7%(2007年)であると発表した.これはOECD諸国の平均値を上回る衝撃的な数字である.また一方で,障害者自立支援法をめぐる議論のなかで,そもそも自立とは何なのか,また障害者も含めた本来あるべき社会のあり方はどのようなものなのかということについても関心が高まってきている.本書は,そうした日本の状況とはまた異なる開発途上国の障害者の状況について,統計と生計を中心に実際のデータを丹念に検証し,検討を積み重ねた成果である.〔中略〕
これらの分析全体から得られたのは,「生計を営む主体としての障害者」の具体像である.障害者は決して,支援や福祉の受け手という単なる受け身の存在ではない.特に政府財政にゆとりのない開発途上国では,政府からの福祉の支援を当てにすることはできない.家族や地域のコミュニティからの助力を得ることはあるにせよ,障害者たちは必死に自力で生計を営んでいる.すなわち,障害を持つ人たちの経済生活を営む力,稼得能力は筆者たちの想像以上のものがあった.それと同時に,そうした能力を拡大し,高めるための支援,またエンパワメントのあり方にはもっと工夫の余地があることも見えてきた.本書の分析を踏まえて,障害者の持つケイパビリティ発揮のための望ましい政策のあり方を探る必要がある.(「あとがき」より)
開発学と障害学が出会ったところから、障害統計、障害生計に迫る中で、途上国の貧困者の中の相当割合を占めるのにも関わらず国連ミレニアム開発目標でも不運から漏れた障害者の問題についてのデータに則した実証研究です。ぜひとも皆様の研究室、図書館で備えて頂ければ幸いです。
【目次】
序章 障害統計と生計 ………………………………………森 壮也(アジア経済研究所)
はじめに
第1節 本書の課題と分析方法
第2節 障害のモデル
第3節 障害の定義と分類
1 国際障害分類の歴史 / 2 障害概念と途上国
第4節 先進国と開発途上国における障害調査
1 米国における障害調査 / 2 障害調査のデザイン/ 3 途上国における障害調査
第5節 障害データの国際比較
1 障害データの国際比較の歴史 / 2 世界銀行 / 3 ワシントン・シティ・グループ
おわりに
第1章 中国の障害者の生計 ……………………………小林昌之(アジア経済研究所)
――政府主導による全国的障害調査の分析――
はじめに
第1節 中国の障害統計
1 障害統計の位置づけ / 2 調査体制と手順 / 3 調査内容 / 4 障害の定義 / 5 小括
第2節 障害者の生計実態
1 障害者数の概況 / 2 都市・農村人口 / 3 教育状況 /4 就業状況 / 5 生活収入源 / 6 社会保障 / 7 所得 / 8 小括
おわりに
第2章 フィリピンの障害者の生計 …………森壮也・山形辰史(アジア経済研究所)
――2008年マニラ首都圏障害調査から――
はじめに 59
第1節 フィリピンにおける障害調査
1 フィリピンの障害調査の背景 / 2 過去の調査主体と結果
第2節 障害インクルーシブな調査
1 障害当事者の調査員採用 / 2 アクセシビリティの改善で拡がる当事者の活躍
第3節 調査結果
1 調査対象市の概要 / 2 標本抽出法 / 3 標本の属性 / 4 障害者の生計
おわりに
第3章 インドネシアの障害者の生計 …………………東方孝之(アジア経済研究所)
――教育が貧困削減に果たす役割――
はじめに
第1節 インドネシアの障害統計と先行研究
1 Susenasから得られる障害者情報 / 2 Podesから得られる障害者情報
第2節 障害者の生計――2006年Susenasから
1 障害者比率 / 2 障害者の生計――障害者は貧しいのか?
第3節 教育へのアクセスと障害者の厚生水準
1 教育水準の向上と厚生水準 / 2 推計結果
おわりに
第4章 ベトナムの障害者の生計 ………………………寺本 実(アジア経済研究所)
――外部環境とのかかわりについての事例調査を通した考察――
はじめに
第1節 ベトナムの障害統計
1 人口・地域別分布・年齢 / 2 障害の種類・原因 / 3 教育・仕事・生活
第2節 ベトナムの障害者の「生計」に関する事例研究
1 調査地に関する検討 / 2 フィールド調査に基づく考察
第3節 社会政策・社会行政論に基づく整理,分析
1 基礎的概念と分析枠組み / 2 整理と分析
おわりに
第5章 マレーシアの障害者の生計 …………………久野研二(国際協力機構)
――持続的生計アプローチの視点から――
はじめに
第1節 調査方法
1 調査の概念的枠組み / 2 調査方法
第2節 マレーシアの障害分野の概要
1 統計 / 2 法律・政策・行政制度 / 3 障害者福祉行政の状況 / 4 障害者の所得貧困をめぐる状況 / 5 障害者の雇用をめぐる状況
第3節 障害者の生計
1 生計資本資産 / 2 脆弱性 / 3 構造とプロセスの変容――制度・組織・政策 / 4 生計戦略
おわりに
第6章 タイの障害者の生計 ……………………………福田暁子(前早稲田大学)
――統計調査とケーススタディから見える全体像――
はじめに――障害者政策の制度的変化
第1節 タイの障害者の把握
1 障害者把握の方法 / 2 障害者登録報告制度に基づくデータ収集 / 3 統計調査
第2節 ケーススタディに見るタイの障害者の実態
1 都市に住む障害者の例 / 2 農村地帯に住む障害者の例 / 3 障害を持つ児童とその家庭のケース(1) / 4 障害を持つ児童
とその家庭のケース(2) / 5 障害者の自助団体
おわりに
第7章 コートジボワールの障害者の生計 …………亀井伸孝(大阪国際大学)
――公務員無試験採用制度の達成と課題を中心に――
はじめに――アフリカにおける障害調査の意義
第1節 現地調査の方法
1 調査地と調査期間 / 2 対象と調査法
第2節 調査結果
1 障害者数と国勢調査 / 2 政府機関 / 3 障害者関連法と政策 / 4 障害者公務員無試験採用制度 / 5 学校と教育 / 6 障害当事者団体と諸活動 / 7 個人の生計――調査票から / 8 個人の生活感覚――直接観察と自由会話から / 9 そのほかのトピック
第3節 考 察
1 公務員無試験採用制度の光と影 / 2 アフリカ障害者の生活戦略/ 3 アフリカ社会の特性にかかわる問題群
おわりに――アフリカの特性に根ざした「障害と開発」研究
あとがき
*追加情報です。
こちらの本、諸事情でテキスト・データ引換券がついておりません。
もしお買い上げ頂いた方で、アクセシビリティの観点からテキスト・データが必要という方がおられましたら、個別に森@IDEまでご連絡頂けますでしょうか。
出版元の担当編集者につなぐように致します。宜しく御願いいたします。
→ このページの作成者・斉藤龍一郎へ連絡下さい。
メール:info@ajf.gr.jp