・本書「はしがき」より
障害者(persons with disabilities)は、ながらく構造的な人権侵害を被ってきたにもかかわらず、自由権規約や社会権規約、女性差別撤廃条約等において正面からとりあげられてこなかった。障害者が国際人権法(学)の領域において無視しえぬ存在となったのは、2006年12月に障害者権利条約が採択されてからといってよい。この条約と選択議定書はいずれも2008年5月に発効した。日本政府は2007年に条約に署名したが、2010年3月時点で、まだ批准をしていない。(中略)「障害の普遍性」は、2010年に世界保健機関(WHO)が採択した国際生活機能分類(ICF)にも採りいれられた障害観である。「世界最大のマイノリティ」としてのみならず、このように普遍的存在としても観念される障害者が、その尊厳を尊重され、対等な立場で人間らしい生活をいとなみ、社会に主体的に参加しうるために、障害者権利条約はさまざまな法的義務を国家にかす。このことが、この条約の意義である。私たち編者は、この意義を広い視野から開花させるため、さるべく多くの論点をとりあげて。この条約の内容と日本の課題を多角的に明らかにすることを本書の目的に据えた。
■目次
はしがき
凡例
第1章 障害者権利条約の基礎 (川島 聡)
T はじめに
U 障害の社会モデル
V 人権価値の社会モデル的理解
W おわりに
第2章 障害者の参加 (藤井 克徳)
T はじめに
U 参加をめぐる国際動向の経緯と権利条約
V 政策決定過程への参加
W 政治的活動への参加
X おわりに
第3章 障害の概念 (佐藤 久夫)
T はじめに
U 障害者権利条約における「障害」、「障害者」の概念
V 特別委員会での議論の経過
W 障害の現象、原因、障害者の範囲―諸定義の分析
X おわりに―わが国の課題
第4章 権利義務の構造 (阿部 浩己)
T はじめに
U 障害者排除の力学―二分法言説の実相
V 平等から多元性の承認へ
W おわりに
第5章 差別の禁止 (玉村 公二彦)
T はじめに―人権の確立と差別の禁止・撤廃
U 障害のある人の完全参加と平等―機会均等化と差別禁止
V 障害者権利条約における差別禁止条項
W 「障害に基づく差別」の禁止に関わる課題―差別禁止法の実現とその役割