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『脳死論争で臓器移植はどうなるか――生命倫理に関する米大統領評議会白書』

A White Paper of the President's Counciel on Bioethics 200812 Controversies in the Determination of Death. =20100527 上竹 正躬 訳,篠原出版新社,143p.


last update:20100712
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■A White Paper of the President's Counciel on Bioethics  200812 Controversies in the Determination of Death. =20100527 上竹 正躬 訳 『脳死論争で臓器移植はどうなるか――生命倫理に関する米大統領評議会白書』,篠原出版新社,143p ISBN-10:4884123506 ISBN-13:978-4884123505 \1890 [amazon] [kinokuniya] ※

■内容

出版社からのコメント
脳死論争で臓器移植はどうなるか<生命倫理に関する米大統領評議会白書>
生命倫理に関する大統領評議会白書 "Controversies in the Determination
日本人がなかなか受け入れにくい米国での臓器移植の手法が、どのような哲学的・倫理学的思慮と根拠に導かれて、かなりの国民的同意のもとに普及しているかを知る格好の資料の翻訳。


著者からのコメント
    脳死論争で臓器移植はどうなるか
    <生命倫理に関する米大統領評議会白書>
 米国大統領への書簡
                         生命倫理に関する大統領評議会
                     1425 New York Avenue, NW, Suits C100
                             Washington, DC 20005
                                  2008年12月

 米国大統領
 ホワイトハウス
 ワシントンDC

 大統領殿

  今回、生命倫理に関する大統領評議会白書 "Controversies in the Determination
 of Death"を提出することができ、大変光栄に存じます。これは、今後に予定されて
 いる臓器移植の倫理問題に関する評議会レポート準備のための検討レポートでありま
 す。これら2つのレポートは、米国における移植臓器の大半が、神経学的基準により死
 と判定された患者から摘出されている現状にかんがみ、共通の倫理基盤に立って記さ
 れるものであります。
  したがって、評議会による本白書の内容も、主として神経学的基準、すなわち "全
 脳死" の臨床的判定に由来する倫理問題の綿密な分析であります。
  そもそもこの基準は、1981年 "医学および生物医学・行動科学研究における倫理問
 題検討のための大統領委員会" によって支持されたものです。そのレポートのなかで
 委員会はまた、法と実地医学において広く国内の統一化を進めるよう制定法のモデル
 を提案しました。この時以来、神経学的基準は死を判定する2つの有効な基準の1つと
 して容認され、現在世界の多くの国で採用されています(容認されているもう1つの
 基準は、古くからある伝統的心肺基準です)。
  しかし近年になり、神経学的基準の法的・倫理的正当性をめぐる論争が起こり、従
 来の臓器移植に一石を投じる事態を生じました。
  その結果、基準であまり厳しく規制することになると、移植臓器の需要に応じられ
 なくなると懸念する人や、全脳死は人の死に相当しないのではないかと疑う人が、こ
 れまでになく多くなっている事実も否めませんが、それでもまだかなりの人は、 "不
 確かさ" に直面した際には、概念と根拠を入念に検討することが、倫理的に賢明で慎
 重な態度だと考えております。
  評議会は本白書のなかで、この論争において対立する見解それぞれについて慎重に
 考察しました。そして、関連する文献や多くの専門家の証言を検討し、さらに委員間
 で徹底的な議論を交わした後、本評議会は "神経学的基準が有効であることに変わり
 はない" という結論に達しました。
  しかし、一部の委員は、1981年大統領委員会が提案したものよりも満足できる理論
 的根拠を採用すべきだと考えます。また少数の委員は、神経学的基準にはかなりの不
 確実性があるので、脳死患者のケアや臓器調達の問題にはそれに代わる取り組みが必
 要だと主張しております。
  本評議会は、あなたが発する大統領令 "国民が生命倫理問題をよりよく理解できる
 ように..." との趣旨に沿い、この研究成果を提出しました。
  白書ではまず、神経学的基準そのものを検討し、それを臨床的、歴史的、倫理的背
 景に照らして考え、さらにその正当性の賛否両論を批判的に分析したことで、この命
 令にこたえることができたと確信致します。
  終わりに本評議会は、一般の人々や移植の方針策定者たちが、人間の深遠な本質を
 熟慮し、その尊厳を何よりも守ることができるよう、白書がその一助になればと願っ
 ています。
  これが果たされてこそ、倫理規制のもとで近代医療技術の有益性が真に容認される
 と思います。
                                     敬具

                          署名
                          Edmund D. Pellegrino, M. D.
                          議長


■目次

米国大統領への書簡
 生命倫理に関する大統領評議会委員
 評議会事務局スタッフ
 まえがき

 第1章:序論‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥15
 T.死の判定に対する神経学的基準の歴史‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥16
  A. 人工呼吸器と死の判定の問題‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥16
  B. “超昏睡状態(Coma Depasse)” ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥・16
  C. ハーバード委員会と大統領委員会‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥17
  D. 現代の論争‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥20
 U.本レポートの目的と理論的根拠‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥20
  A. 一般の人々の教育‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥20
  B. 神経学的基準への異議の説明‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥21
  C. 死の判定と臓器調達との複雑な関係の明確化‥‥‥‥‥‥‥21
 V.本レポートの構成‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥25

 第2章:用語について‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥31

 第3章:全脳不全の臨床像と病態生理学‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥35
 T.健康時と脳損傷後の“生命機能” ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥・36
  A. 酸素の摂取と二酸化炭素の排出‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥36
  B. 中枢神経系の役割と人工呼吸器による支持‥‥‥‥‥‥‥‥37
  C. 血液循環‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥41
  D. 人工呼吸器による支持と死の判定‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥42
 U.全脳不全の診断‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥43
 V.全脳不全:病態生理学‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥47
 W.全脳不全:“健康”と“予後” ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥・50
  A. “肉体的健康” ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥・51
  B. “予後” ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥・53
 X.全脳不全と植物状態‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥55
 Y.全脳不全:臨床像、病態生理学から哲学的討論まで‥‥‥‥‥57
  
 第4章:哲学的議論‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥61
 T.第1の立場:今日の神経学的基準に対する確たる生物学的根拠はない
   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥64
 U.第2の立場:今日の神経学的基準に対する確たる生物学的根拠がある
   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥70
  A. 統合体(または統一体)としての生体の仕事‥‥‥‥‥‥‥‥71
  B. 英国基準との比較‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥76

 第5章:政策と実施に対する将来的影響‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥81
 T.神経学的基準の否認:第1の立場の将来的影響‥‥‥‥‥‥‥・81
  A. 死と“臓器提供適格性”との関連を断つこと‥‥‥‥‥‥‥82
  B. 心停止ドナーからのみの重要臓器摘出
  (controlled DCD:操作的心停止後臓器提供) ‥‥‥‥‥‥‥・・・84
 U.神経学的基準の肯定:第2の立場の将来的影響‥‥‥‥‥‥‥・86

 第6章:心停止後臓器提供‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥91
 T.背景‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥91
 U.早急な死の宣告と“不可逆性”の問題‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥94

 第7章:死の判定の神経学的基準に関する評議会の議論の総括
 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥101
 個人的文書‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥105
 T.Alfonso Gomez-Lobo, Dr.Phil.‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥・106
 U.Gilbert C. Meilaender, Ph. D. ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥112
 V.Edmund D.Pellegrino, M.D. 議長‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥115

 項目別参考文献‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥131
 訳者あとがき‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥141



■引用

まえがき

  人の死をどのようにして----どんな基準によって----宣告すべきか? 生命維持の
 技術が普及するにつれ、必然的に人の死の判定に伴う問題が複雑化し、新たな論争を
 巻き起こしている。
  そこで、 "生命倫理に関する大統領評議会" は、本レポートでこの論争、とくにそ
 の中心的問題を取り上げ解明しようと思う。
  このなかで、本評議会は神経学的基準(脳死判定基準)に対する批判や擁護の主な
 内容を検討し、また、操作的心停止後臓器提供(controlled donation after
 cardiac death)といわれる臓器調達法に、伝統的心肺基準を適用することによって
 生じる倫理問題を検討する。
  米国の一般の方々が、このレポートによって論争の現状をよく理解し、社会や人間
 にとって肝要なこれらの問題について深く考察できるようになることを期待する。 

             【訳者あとがき】

  本書は2008年12月公表された生命倫理に関する米大統領評議会白書
 "Controversies in the Determination of Death"の全訳である。
  この評議会は2001年創設されてから、ヒト・クローン技術、ヒトES細胞研究、新生
 児スクリーニングなど、医学・生物学の進歩とともに台頭してきた倫理問題を検討し、
 国民の哲学的理解に助言を提供する形にまとめて公表し、難解な問題を一般の人々に
 親しみのあるものにすることを任務としてきた。本書の"まえがき"にもその目的が
 明記されている。
  委員は議長を含め計18名、うち医師(MD)は10名、専門分野は内科、神経内科、精神
 科、医療倫理学のほか1 名の小児神経外科医がおり、移植外科医は含まれていない。
 その他の8名は法学、哲学、倫理学、政治学の教授からなり、様々の視座からの公平
 不偏な審議を期待しての委員構成であることがわかる。また、内容に移植の実地面に
 関する具体的記載を省いていることも、一般の読者への配慮が感じられる。また、一
 般の人たちにその活動を知らせるため積極的に新聞、放送、ネットなどを介し広報活
 動をすすめていることにも感服する。
  脳死・移植は、それによってしか救われない人がいる一方で、臓器提供者の死を前
 提とする厳しい側面を併せもつ。どうしても自らの死をどのように迎えるか、家族の
 死をどう受け入れるかという国民一人ひとりの死生観が関係する。それだけでなく、
 脳死を容認できない人のために、米国で急拡大し、まだ問題の多い操作的心停止後臓
 器提供(仮称)のキー・コンセプトともいうべき"治療の無用性倫理原則"(議長の個
 人的文書参照)については、人の生き方、思想、価値観などが影響するので、ますま
 す人々の理解や支持がなければ進まない。本書でも勧告されているように、そのため
 にはこのような問題について、われわれが日常的に学校、職場、集会、家庭などでで
 きるだけ多くの議論の場をもつ努力が必要であろう。評議会が広報活動を重視してい
 るねらいもここにあると思われる。
  現在世界で脳死・移植を実施している国はほぼ70 カ国に達する(UpToDate)が、他
 国に比して日本の脳死・臓器提供者は極端に少なく、人口100万人当たり最も多いス
 ペインでは日本の434倍、米国384倍、ドイツ219倍、南米コロンビア141倍、アジアで
 は香港61倍、韓国40倍、イスラム教国のイランでも26倍である (06年、スペイン臓器
 提供教育財団ほか) 。この情勢を理想化するつもりはない。だが、各国の移植待機者
 が増加の一途をたどる現状にかんがみ、WHOでは近く新たな移植ガイドラインととも
 に、臓器移植における臓器は各国で自給自足すべきとする決議案をまとめる予定にな
 っていたと聞く。
  わが国もこれに呼応せざるをえず、昨年7月いまの臓器移植法案を十分な審議を経
 ぬまま大きく変える法案を両院で可決した。それによると、本人に拒否の意思がない
 限り家族の同意があれば臓器摘出ができ、また脳死の子供からの臓器提供も可能にな
 り、国際基準におおいに近づくことになる。1年後の実施に向かって本人の意思をめ
 ぐる課題、子供の移植への配慮、医療現場の態勢づくりなど解決を要する問題が山積
 するが、相変わらず国内の反応は沈滞していて、法運営の先行きに不安が感じられる。
  ところで近年、海外からみた日本の脳死・臓器移植の現状批判を収集して検討した
 論文(大阪大学・工藤直志氏)があり、興味深い。相変わらず宗教的価値観の相違を説
 くものが多いが、本問題に対する日本人の強い抵抗感を醸成しているものとして、医
 療への不信感、倫理的問題を引き起こす可能性のある西洋的な医療を躊躇なく導入す
 ることへの警戒心、死を家族によるみとりを伴うプロセスとする考えなどを挙げてい
 る論説には説得力があり、本問題が国際色を濃くしている現在、われわれに反省点を
 教示しているように思われる。
  医学は不確かな科学であり、蓋然性の"わざ"であるという碩学のことばがある。
 実際臨床の様々の状況下で、しばしば科学的論議に固執していては適切な判断をくだ
 せず、同時に哲学的論議を行って始めて解決の道に近づくことができる。脳死ほか生
 命倫理関係の問題も、このプロセスを経なければ、なかなかウエイトのある倫理的根
 拠を見いだすことは難しいだろう。またこれと関連するが、臨床医とくに使命感に燃
 えて活躍する人たちが善意で行ったつもりの行為が、人間の尊厳を侵していたり、社
 会の利益や秩序に悪影響をもたらすことを、本書は気づかせてくれるようでもある。
  改正臓器移植法は、成立した状況さながらにひとり歩きする姿で、一路実施に向け
 準備が進められているようである。だからこそ今、個々人が臓器移植を人間共通の課
 題として、また、とくに第2人称の問題としてとらえ考え直す必要があるように思う。
 あまり感情論に陥らずに。
  われわれがなかなか受け入れにくい米国での臓器移植の手法が、どのような哲学的
 ・倫理学的思慮と根拠に導かれて、かなりの国民的同意のもとに普及しているかを知
 る格好の資料として本書を選び、出版への引き金を引いていただき、形あるものへと
 いろいろご尽力くださった篠原出版新社編集長の井澤 泰氏以下各位に心からお礼申
 しあげたい。最後に私事ながら、原稿の整理その他に家族の協力なくしてはできなか
 ったことを付記しておきたい。

 2010年3月
                                 上竹 正躬

■書評・紹介

■言及



*作成:三野 宏治 
UP:20100712 REV:
臓器移植 /脳死  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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