『社会科学系のための「優秀論文」作成術――プロの学術論文から卒論まで』

川﨑剛　20100415　勁草書房，180p.

last update:20130415

■川﨑剛　20100415　『社会科学系のための「優秀論文」作成術――プロの学術論文から卒論まで』，勁草書房，180p.　\1995　ISBN-10:4326000341　ISBN-13:978-4326000340　［amazon］／［kinokuniya］　 ※

■内容

内容紹介
政治学,社会学,経済学といった社会科学では,論文の「型」があいまいで,大学でもきちんと教えられていない。本書では,北米の大学で長年研究生活をおくっている著者が,プロ研究者のための査読論文,院生のための博士・修士論文,さらには大学生のための卒業論文の書き方まで,平易明快・懇切丁寧に指南します。

内容（「BOOK」データベースより）
政治学、社会学、経済学といった社会科学では、論文の「型」があいまいで、大学でもきちんと教えられていない。本書では、北米の大学で長年研究生活をおくっている著者が、プロ研究者のための査読論文、院生のための博士・修士論文、さらには大学生のための卒業論文の書き方まで、平易明快・懇切丁寧に指南。

■目次

はじめに
第I部社会科学論文の「型」をマスターする
第1章まずは3つのPを念頭におく
第2章論文の骨格をつくる
1 目的
2 中心命題
3 「問題と解決」の枠組み
4 中心命題が持つ含意
5 まとめ
第3章論文の細部を仕上げる
1 中心命題の説得力を最大限にする
2 表現法で説得力を増強する
3 まとめ
第II部学位・卒業論文の攻略法
第4章博士論文攻略法
1 博士論文の基本的性格
2 研究計画書作成段階での注意点
3 研究計画書執行段階での注意点
4 おわりに
第5章修士論文攻略法
1 修士論文の基本的性格
2 修士論文の基本タイプ
3 修士論文作成上の注意点
4 おわりに
第6章卒業論文攻略法
1 卒業論文の基本的性格
2 「古い仮説・新しいデータ」型論文のすすめ
3 卒業論文の骨格
4 おわりに
第III部学術雑誌攻略法
第7章学問の「実戦」を理解する
1 論文草稿が学術雑誌に掲載されるまでの過程
2 審査員が求めているもの
3 まとめ
第8章投稿してつぎに備える
1 学術雑誌を選び,投稿する
2 論文生産システムを構築する
3 おわりに――システム思考の大切さ
付録1 研究計画書の作成術
2 主なる問題発見法の一覧表
3 論文用・研究計画書用のチェックリスト
4 参考文献ガイド

■引用

第I部　社会科学論文の「型」をマスターする
第1章　まずは３つのPを念頭に置く

◆ここの基本は、論文の目的は懐疑的な読者を説得すること、これを理解することである。［2010:4］

◆社会科学論文は、問題を指摘し、それを解決するというかたちをとる。…それを前提として論文の完成度を高めていくこととなる。ここでいう問題とは先行研究が抱える不備や限界でなければならない。…／…先行研究の不備をみつけ訂正（問題解決）することが論文執筆の――それに研究活動の――基本目的だからである。先行研究に不備がないテーマに関して新たに論文を書く必要はない。［2010:6-8］

◆先行研究が抱える重要な問題を正確に指摘し、それを適切な分析手法を行使して(部分的ながらも)解決する、これが査読論文や博士論文といった上級クラス論文の基本的パターンである…求められる学問的貢献度をクリアーするには、先行研究における問題が一定以上重要なものでなければならない。そこは、文献に関する知識だけではなく、問題を発見したり識別する能力が発揮される場である。そして、問題を解決する際には模範的な分析手法の行使が求められる。［2010:9］

◆修士論文や卒業論文といった下級クラスの論文では解決のほうに重点が置かれる。つまり、そこでは学生は学術的に重要な問題を発見すべしといったような高いハードルを越える必要はない。適度な、いうなれば入門者むけの問題を選んだあと、それを解決する作業のほうに全力をあげることが期待されている――それも締め切りまでに。［2010:9］

第2章　論文の骨格をつくる

◆基本的には、論文は主要目的を１つだけ持っていなければならない。その目的の選択肢は基本的にはつぎの４つ、すなわち「概念の検討・整理」「仮説検証」「仮説創設」「新事実の提示」である。これらから１つ選ぶ。…なぜ１つかといえば、複数の目的は十分に達成できないどころか、かえって中途半端になったり論文の性格を混乱させたりしてしまうからである。［2010:15］

◆社会科学論文の基本的な目的は、論証したり証拠をあげるなどして「この中心命題は正しい」と読者を説得することである…／…「1論文には１つの中心命題」の原則があてはまる。［2010:17-19］

◆さて、「問題と解決」の枠組みは別の言い方をすれば「診断と治療」の枠組みである。この枠組みが整合的であるためには、つぎの３つの基本的条件すべてが満たされなければならない。
(A) （問題の）診断が正しい。
(B) 選ばれた治療計画（解決計画）が診断内容に適合している。
(C) 治療方法（分析手法）が正しく遂行されている。［2010:22］

◆この解決作業の計画では、一般的にいってつぎのような4つの課題を取り扱う。解決されるべき問題と選ばれるべき解決計画との関係は――さらにはこれら4課題間の関係も――整合的でなければならない。
・使うべき資料・データ
・使うべき分析方法
・取り扱われる仮説（解釈）
・仮説（解釈）の信憑性を判断する基準［2010:35］

第3章　論文の細部を仕上げる

◆まず最初にしなければならないことは、論文が主張する論理の強化である。…／まず第一の手段は証拠（あるいは論拠）を積み上げることである。…／反論を織り込んだうえで、より研ぎ澄まされた中心命題を提出するのは常套手段である。…／以上の2つの手段のねらいは、中心命題の論理構造といった議論内容のレベルでの説得力を最大化することである。この種の努力と並行して、方法論のレベルでも論文の説得力の最大化を図るべきであろう。これらが対になることによって、論文全体を説得的なものとするわけである。／そのような方法論レベルでの説得力増強策としてやるべきことが、ここでいう選択の正当化である。［2010:46-52］

◆序論部は基本的にはつぎの4要素からなる。
(1) 問題の提起（未解決のままにすればコストが高くつくことの提示）
(2) 解決を当該論文が提示するという主張
(3) 当該論文が提示する議論のサマリー
(4) 本論以下の行き先案内図［2010:55]

◆本文の内容はおおまかにいって、「中心命題を立証するために必要な準備や背景となる情報」の提示がまずあって、その後に論文の核心部である「中心命題の立証」が展開されることになる。［2010:59］

◆最後の締めとなるのが結論部であるが、実はここも意外に重要である。…／序論部と同様、一組の要素からなっている。
(1) 当該論文が提示する議論のサマリー
(2) 中心命題の含意
(3) 将来の課題
(4) コーダー［2010:61］

第II部　学位・卒業論文攻略法
第4章　博士論文攻略法く

◆…資料収集後の「ゴールまでの最短距離」をめざす博士論文執筆作戦はつぎのようなものとなる。
(1) 問題に関する部分、ならびに文献調査の部分を研究計画書からコピーする。前者を元に仮の序論部を書く（後に改訂することとなる)。
(2) 「中心命題の立証」部分をまず攻略する（複数章から成るかもしれない）。
(3) 中心命題の含意を書く。
(4) 本文の残りの部分（理論と方法論）を書く。
(5) この段階で(1)(2)(3)(4)のあいだの整合性をチェックし、必要なら手直しをする…。
(6) 序論部を改訂し、結論部をつけ加え、さらに注を整える。
(7) 序論部から読み通して、スムーズに読めるか確認する。必要なら文章を整える。
(8) タイトル、要旨、ならびに（あらかじめ準備しておいた）文献目録を加える。目次を整える。［2010:80］

◆発表の基本方針としては、発表で大枠・大筋の話をして、細かい点は質疑応答の時間でまかなうことにするのが良い。［2010:82］

◆いずれにせよ、論文の場合と同様、聴衆は「問題と解決」の枠組みを想定しているという前提にたって、それに呼応するような口頭発表をすることが肝要である。［2010:84］

第5章　修士論文攻略法

◆査読論文と博士論文は知的フロンティアの拡大に直接的に貢献することを目的とするが、修士論文はそうではない。その主要目的は、基本的な研究プロセスを（指導教官の助けを得ながらも）自力でこなせる能力を示すことにある。［2010:89］

◆…修士論文の基本的なタイプは概念の検討・整理を目的とする論文か、仮説検証を目的とする論文ということに落ち着く。［2010:92］

第6章　卒業論文攻略法

◆卒業論文に関して教授が学生に求めるものは、基礎的な学術スキルであるが、具体的にいえばつぎの4点である。
(1) 研究計画書を作成し、それにもとづいて自力で着実に締め切りまでに論文作成プロジェクトを仕上げることができること（プロジェクトが途中挫折しないこと）。
(2) 完成した卒業論文が学術作品としていちおう成り立っていること。…。
(3) 選択したテーマに関する先行研究文献、ならびに周辺文献に関する知識が正確なこと。読解力が確かなことはもとより、そのために必要な図書館での論文検索方法などもキチンと知っていること――教授の研究助手になれるぐらいに。…。
(4) その分野で広く使われている――そして選択したテーマの研究に必要な――資料・データ収集方法ならびに分析手法を正しく駆使できること。くわえて、分析結果の解釈も正確にできること。そうでなければ、研究にはならない。［2010:110-112］

◆できあがった卒業論文は以下の点をすべて満たしていなければならない。
(a) 目的が1つだけで明確なこと
(b) 綿密に研ぎ澄まされた中心命題が１つあること
(c) 「問題と解決」の枠組みがあること
　　(c-1) 問題を特定する際に、先行研究の理解（ならびに基礎・関連文献の理解）が正確であること
　　(c-2) 解決が実施されている際、分析手法の駆使（資料収集および分析結果の解釈も含める）が適切なこと
(d) 中心命題が持つ含意に言及されていること…
(e) 本文がうまく整合的に構成されており、上の要素がうまく展開されていること
(f) 序論部・結論部のあるべき基本的パターンが成り立っていること…
(g) 中心命題の説得力を増やす技術のうち、少なくとも「反論に対応する」と「採用した解決方法を正当化する」という2つは駆使されていること［2010:112-114］

第III部　学術雑誌攻略法
第7章　学問の「実戦」を理解する

◆審査員はつぎの2つの質問をその心に携えて査読にとりかかる。
(A) この草稿は学術論文（ひとつの作品）として充分な完成度を備えているか？
(B) この草稿は出版するに値する学問的貢献をなしているか？
これら（A)と（B)両方が満たされて初めて、「この論文は出版するに値する」という判断を受ける。［2010:134］

◆…審査員が学問的貢献度に関して好印象を持ってくれる可能性、そして「この論文は出版する価値がある」と思ってくれる可能性を高めることができるのである。そのような作戦はつぎの2つの手段から成り立っている。
(1) 投稿先の学術雑誌を適切に選ぶ。
(2) 先行研究を踏まえたうえで、その分野にとって重要な問題や論争的な問題を選ぶ（また、もしも可能であれば通説あるいは常識に挑戦する）。［2010:137-138］

第8章　投稿してつぎに備える

◆適切な学術雑誌を判断するには、つまるところ、各誌の持っている「ストライク・ゾーン」、つまり出版可能範囲をさぐっていくことである。［2010:143］

■書評・紹介

■言及

＊作成：櫻井浩子・片岡稔

UP：20100720　REV:20101202　20130415

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