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『大学教員準備講座』
夏目達也・近田政博・中井俊樹・齋藤芳子 20100315 玉川大学出版部,221p.
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last update:20130513
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■夏目達也・近田政博・中井俊樹・齋藤芳子 20100315 『大学教員準備講座』,玉川大学出版部,221p. ISBN-10:4472404001 ISBN-13:978-4472404009 \2520
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■内容
多様化した学生の教育、高度な研究の推進、地域社会への貢献など、大学教員には専門性の高い職務を遂行することが期待されている。本書はそうした職務について前もって知っておくべき知識や技能、大学側から求められることを体系的にまとめたテキストである。大学教員を志す大学院生、研究員、非常勤講師や若手教員へ。
■目次
はじめに
第1章 大学教員という職業
1 大学教員職を理解する
2 大学教員職の誕生と発展
3 職業としての特徴
4 めざすべき大学教員像
第2章 授業を設計する
1 授業は設計から始まる
2 授業のシラバス
3 設計のポイント
4 授業の設計力を高めるには
第3章 教授法の基礎
1 どのように学生は学ぶのか
2 授業づくりの基本の型
3 学生を授業に巻き込む
4 教授法を洗練させるには
第4章 学習成果を評価する
1 評価するとはどういうことか
2 教育評価の基礎知識
3 評価の基本方針
4 評価の具体的方法
5 評価する立場になるとは
第5章 学生に書く力をつけさせる
1 学生はなぜ書くことに苦労するのか
2 学生にレポートを書くための準備をさせる
3 書くための突破口を学生にみつけさせる
4 採点結果をフィードバックする
5 学生に書く力をつけさせるためには
第6章 学生のキャリア形成を支援する
1 大学生の就職をめぐる状況
2 大学のキャリア形成支援の取り組み
3 キャリア教育の取り組み
4 キャリア形成支援に関する教員の役割
5 学生を進路決定の主体にさせる
第7章 大学教育におけるチームワーク
1 なぜ大学教育にチームワークが必要か
2 大学教員も組織人である
3 授業で困ったときはチームワークが役に立つ
4 授業以外でもチームワークが役に立つ
5 チームに貢献する
6 大学教育でチームワークを機能させるには
第8章 研究のマネジメント
1 大学における研究活動とそのシステム
2 研究者としての大学教員
3 研究活動のマネジメント
4 研究マネジメントの予行演習
第9章 社会サービスに取り組む
1 大学の第三の使命
2 市民と交流する
3 企業と連携する
4 大学教員として社会サービスに取り組む
第10章 国際化のなかの大学教員
1 大学の国際化は何を意味するのか
2 大学教育の国際化を促進する
3 国際的な研究活動を展開する
4 国際化から逃げない
第11章 大学教員の倫理
1 倫理の基本を知る
2 教育をめぐる倫理
3 研究をめぐる倫理
4 倫理に関わる課題
第12章 多様な高等教育機関
1 高等教育機関の多様な実態
2 高等教育機関の種類
3 大学における多様性
4 大学における教育条件の格差
5 多様な実態にいかに対処するか
6 専門職としての力量形成
第13章 大学教員のライフコース
1 大学教員になるまでのプロセス
2 大学教員の職階と職務内容
3 定年までの大学教員の生活設計
4 教員の職務能力向上のための研修機会
5 流動性を高める
第14章 大学教員への第一歩
1 博士のキャリアを考える
2 知識基盤社会における博士
3 博士として自立するまでに
4 大学教員をめざすあなたへ
参考文献
おわりに
索引
■引用
◆大学教員のなかで最も厳しい要件が課されている教授の資格は、大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を能力をもっており、以下の6つの条件のいずれかを満たすことです。
@博士の学位を有し、研究上の業績を有する者
A研究上の業績が前号の者に準ずると認められる者
B専門職学位を有し、当該専門職学位の専門分野に関する実務上の業績を有する者
C大学において教授、准教授又は専任の講師の経歴のある者
D芸術、体育等については、特殊な技能に秀でていると認められる者
E専攻分野について、特に優れた知識及び経験を有すると認められる者[2010:15]
◆大学教員職は…大学に所属して学術活動に従事する専門職です。…専門職としていくつかの特徴をもっています。/第一に、高度に体系化された専門的な知識や技能に基づいて活動するということです。…/第二に、公共の利益を第一義的に重視するということです。…/第三に、活動を進めるうえで一定の裁量を与えられていること、そのため同時に大学教員としての自己統制も求められることです。…/第四に、相対的に高い社会的威信を享受しているということです。/一方で、大学教員は一般的な専門職とは決定的に異なる特徴をもっています。それは、弁護士や医者といった他の専門職を大学教員が養成していることです。…大学教員職はキー・プロフェッションとも呼ばれています。[2010:16-17]
◆大学教員職を特徴づける最も重要な概念は、学問の自由(Academic Freedom)です。…学問的活動は知的好奇心に基づくものであり、外部の権威から介入や干渉をされることなく自由に行われるべきであるという考え方です。学問の自由という考え方は、世界中に普及しており、日本においては日本国憲法によって保障されています。/大学の自治は、学問の自由という考え方に基づいています。大学における学問的活動が自由に行われるためには、大学自らが管理運営することが必要不可欠であると考えられているのです。[2010:17]
◆今日の大学教員に期待される主要な職務は、教育、研究、社会サービスです。知識の伝達、知識の創造、知識の社会における活用と言い換えることもできるでしょう。大学教員職の理念は、教育、研究、社会サービスを通じた社会への貢献であり、教育者、研究者、奉仕者の役割を統合することといえます。大学の内部においては管理運営も重要な職務であるため、大学教員の実際の活動は、教育、研究、社会サービス、管理運営になります。[2010:18]
◆…教育や研究などの大学教員の活動は、ここまでやれば十分といった境界があいまいです。そのため、活動が無制限に拡大する可能性があります。…学生の学習を支援する活動に際限はありません。さらに、大学教員は、種類の違う仕事を並行して進める必要があります。教育、研究、社会サービス、管理運営において、さまざまな職務をこなすことが期待されています。[2010:20]
◆量的に拡大したにもかかわらず、大学教員職は、依然として希望する誰もが就ける職業ではありません。長い準備期間と厳しい競争を乗り越える必要があります。[2010:21]
◆授業を行うための第一歩は、事前にしっかりと授業を設計することです。…/担当する授業に前任者がいる場合は、その教員から授業について話を聞いておくことをお勧めします。そして、可能であれば、シラバス、課題、配布資料、試験問題、成績評価の分布などの資料の提供をお願いして手に入れましょう。一方、新しく開講される授業を担当する場合は、他大学の類似した授業を参考にしたり、教科書として活用できそうな書籍を通読するなどして準備しておくことが必要です。[2010:25-26]
◆授業設計において大事な問いは3つあります。授業を通して学生が到達すべき目標は何か、学生がどのように目標に到達するのか、そして、授業の目標に学生が到達したかどうかをどのように確認するのかの3つです。[2010:27]
◆シラバスには次のような3つの役割があります。第一に、教員と学生の契約書という役割です。…このようにシラバスは、学生と教員の双方が授業の成立に責任をもつことを促します。/第二に、学生の学習手引書という役割です。各回の授業の内容、参考文献、課題などが記され、授業の全体像が示されます。…/最後に、学生への事務連絡文書という役割です。教員への連絡方法、オフィスアワー、レポートの提出方法や期限、教室内で守るべきルールなどを、まとめて伝えることができます。[2010:29]
◆
シラバスを作成する意義
(1)学生の学習を効果的に支援できる
…。
(2)教員自身が安心して授業を進められる
…一度丁寧に授業を設計すると、同じ授業を再度担当する際は授業の準備が格段に効率的になります。
(3)授業改善につながる
シラバスをつくる作業を通じて、教員は授業の全体像をより具体的なものにすることができます。…。
(4)授業への期待に対応できる
…。 [2010:29-30]
◆授業を設計するときにまず必要となることは、適切な学習目標を設定することです。…考慮に入れるべき4つの視点を紹介します。
(1)カリキュラムからの視点
大学のカリキュラム全体を通して、どのような人材を養成しようとしているのか。担当する授業がカリキュラムのなかでどのような位置づけを与えられ、何を期待されているのか。学生が履修する他の授業とどのような関係があるのか。
(2)学問分野からの視点
自分が教えようとする学問分野ないしテーマにおいては、何が本質的で重要なのか。学問分野の研究成果を教えることを重視するのか、それとも学問分野特有の考え方や研究方法を教えることを重視するのか。
(3)受講者からの視点
学生がその授業を受講するにあたって、どの程度の予備知識と能力をもっているのか。どのようなことに関心を抱いているか。どの程度の学習習慣が身についているのか。卒業後どのような進路を選択しようとしているのか。
(4)物理的制約条件からの視点
どのような教室で授業をするのか。どのような情報機器が利用できるのか。ティーチング・アシスタントなどによるサポートが得られるのか。予想される受講者数は何人程度なのか。このような物理的制約条件のなかで実現可能なことはどういったものか。 [2010:31-32]
◆評価が恣意的だと感じると、学生は学習へのモチベーションを低下させてしまいます。そのため、評価の方針を明確にすることが重要です。なぜ試験をするのか、なぜレポートの課題を与えるのか、通常より厳しい成績評価を行う場合、なぜ自分はそのように厳しくするのかなど、自分の評価についての考えを学生に語っておきましょう。[2010:53]
◆テスト問題のチェックリスト
・事前に学生に予告したとおりの形式になっているか
・テストの内容が授業の目標を反映したものになっているか
・授業において学生が獲得した知識や技能によって解答できる問題になっているか
・問題の分量は適切か
・問題文の指示はあいまいでないか、誤解を招かないか
・解答欄のスペース配分は適切か
・問題の難易度は適切に分布しているか
・やさしい問題から難しい問題へと配置されているか
・学生が取り組みたいと感じる問題になっているか
・過去の試験問題と全く同じになっていないか[2010:58]
◆アカデミックな世界におけるよい文章とは、簡潔で読みやすく、書き手の意図が誤解なく伝わる文章のことです。具体的には次のような点に留意すべきことをあらかじめ学生に伝えましょう。
・一文を短くする
・読点(、)をできるだけ少なくする
・主語や述語の対応関係を明確にする
・あいまいな言葉(指示語、代名詞など)を少なくする
・話し言葉を使わない
・一部の人しか理解できない特殊用語を少なくする
また、アカデミックな文章では事実と意見を峻別することが求められます。 [2010:68]
◆第一は、学生の問題意識をいくつかの「問い」の形に分解させるという方法です。自分が関心のあるテーマについて、「なぜ?」「どうやって?」という問いを次々に連想させて書き出させてみましょう。大きなテーマを小さな問題意識に分解すると、具体的な論点がいろいろみえてきます。…/次にこのように展開したそれぞれの問いについて、学生なりの見解を書き出させるのです…/こうして書き出した自分なりの意見は、「たぶんこうじゃないかな」というレベルの推測的見解であり、いわゆる仮説の卵に相当します。これが本当に正しいといえるかどうかを特定の方法(実験、文献調査、アンケート調査、参与観察、インタビュー調査など)で学生に調べさせるわけです。そうするなかで、…具体的な道筋がみえてくるでしょう。[2010:69-71]
◆学生が提出したレポート課題に対してはすみやかにフィードバックを行うことが重要です。…レポートにコメントを加えて学生に返却するという方法は、学生の学習意欲やレポートに対する意識を高めるうえで効果的です。その際は、レポートを否定するのではなくコメントによって改善すべき点を明示したり学生を励ましたりすることが望ましいでしょう。ただし、受講生が多い場合、…次のような方法を用いることで、教員の負担を抑えながら学習効果を高めることができます。
・模範解答をあらかじめ用意して、課題の提出後に学生に示す
・次回の授業で、学生の提出したレポートのなかから、優れている事例や間違いを起こしやすい事例を挙げる
・優れたレポートを匿名にして授業のウェブページに掲載する(事前に学生に断っておく必要があります)[2010:73]
◆よいレポートを書かせるためには、教員側にもそれなりの準備が必要です。レポート課題に関する基本文献をあらかじめ学生に紹介する、学生に対するフィードバックの方法、学生からの異議申し立て方法などについてシラバスに明記する、授業の要旨や文献レビューを学生に作成させるなど、ふだんから学生に書く習慣をつけさせることが大事です。/そして実際に学生が書く段階に至っては、書き手の意図が誤解なく読み手に伝わる文章を書くこと、与えられたテーマを小さな「問い」に分解すること、自分の主張の説得力を高めるためには信頼できる根拠が必要だということ、などを学生に伝えましょう。[2010:74]
◆大学教育の核となるのはカリキュラムです。大学教育の個性はカリキュラムのなかに表現されます。…カリキュラムが十分な効果をあげるためには、個々の教員が自分の大学の「建学の精神」やミッションについて知り、これらに基づいた教育目標を理解し、自分の授業がどのような役割を果たすべきかを意識し、実行しなければなりません。…/カリキュラムを知るうえで最初にすべきことは、所属する大学の教育目標は何かを知ることです。大学には建学の精神やミッションが掲げられているはずです。これらはウェブサイトや大学紹介冊子などに必ず掲載されています。さらに、中期目標・中期計画などといった、時限つきの目標が定められていることもあります。自分の大学が何をめざそうとしているのか、何を実現したいのかを知っておくことは、個々の教員にとっても有益なことでしょう。[2010:93]
◆次に新任教員がすべきことは、自分の所属する学部や学科の教育目標とそのカリキュラムを知ることです。これもウェブサイトなどから簡単に知ることができるでしょう。自分が担当する授業は、こうした学部や学科のカリキュラムのどのあたりに位置づけられているでしょうか。入門レベルでしょうか、それとも上級レベルでしょうか。また、あなたの授業で求められているのは、学生が知識を習得することでしょうか。それとも特定のスキルや態度を身につけることでしょうか。/あなたの授業は、他のどのような授業と関連しているのでしょうか。それらは、どのような水準で、どこまでの内容を扱っているでしょうか。学生がそれらの授業をスムーズに履修できるようにするためには、内容や方法において他の授業とのつながりが明確であることが重要です。[2010:94]
◆大学評価の導入や公的研究資金の制度改革がなされた現代では、研究の時間を捻出することや研究資金を獲得することも重要な任務です。…成果の社会への還元が今まで以上に期待されているのも明らかです。[2010:107]
◆大学院生の頃は自分の研究だけに携わることが許されがちですが、大学教員などの研究職を得た後は、学会運営や社会への貢献が求められるようにもなります。/すでに加入している学会、協会などの専門集団においては、より責任の重い役割をこなすようになっていきます。年会、大会などで、セッションの司会を担当したり、セッションを企画したりするようになります。大会全体の実行委員になることもあります。また分科会やワーキンググループなどを立ち上げたり、引き継いだりして、運営に携わることもあるでしょう。…学会事務局の担当が回ってくることもありますし、さらには評議員や理事といった役職に就くことがあるかもしれません。/学会等の学術論文誌において、査読…を依頼されるようにもなっていきます。…研究費申請書の審査を担当することもあります。…境界領域も含めて分野全体に目を配り、研究の水準、これから伸びそうな研究領域、実現可能性、といったことを見極めることが必要です。/専門家としての公共的役割を担うことも期待されています。行政から審議会などの委員を委嘱されたり、マスメディアからコメントを求められたりもしますし、自ら社会サービスを行っていくことも必要です。これらの活動は学術研究を担う大学教員には当然求められるものであり…。[2010:112-113]
◆日本の大学が世界に伍していくためには、日本人専用に設計された大学教育のシステム自体を根本から見直し、大学を「世界の共有財産」として位置づけることが求められています。[2010:139]
◆教育や研究の業績一覧をウェブ上に公開する大学教員が増えています。その際に、できれば日本語だけでなく英語版も作成してはいかがでしょうか。海外の大学や研究者と交流する際に大変便利です。…日本語版と英語版をまったく同じ内容にするのではなく、英語による研究発表やいくつかの代表的な教育・研究成果に絞って英語化するという方法もあります。[2010:145]
◆このような大学間の多様な実態に対して、これから教員になろうとする人はどのように対処すればよいのでしょうか。
@教員人事に応募する際に、大学の状況を十分に調査する
…各大学の教育・研究条件等の概要は、大学が公表する各種のデータ、たとえば、「点検・評価報告書」「大学基礎データ」などにより把握することができます。財務情報なども、ほとんどの大学がインターネットや広報誌を通じて公表しています。これらのデータを他大学と比較することにより、当該大学の置かれた相対的位置を知ることができます。
Aどの職場でも克服すべき問題はあることを知る
…
B問題への対処を通じて、大学教員としての力量を高める
…[2010:175]
■書評・紹介
■言及
*作成:
片岡 稔
UP: 20100810 REV: 20101124 20130430 0507 0509 0513
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