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『「患者中心の医療」という言説――患者の「知」の社会学』

松繁 卓哉 20100331 立教大学出版会,189p.

last update:20110519

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■松繁 卓哉 20100331 『「患者中心の医療」という言説――患者の「知」の社会学』,立教大学出版会,189p. ISBN-10:4901988166 ISBN-13:978-4901988162 \3570 [amazon][kinokuniya] ※

■内容

保健医療の在り方をめぐる「患者中心」というコンセプトに潜む「知」の問題に、批判的言説分析というアプローチで迫る。英国での調査データから得られた知見をもとに、医学教育改革と患者の自助活動という対極にある二つの動向に目を向け、「患者中心の医療」をめぐる今日的状況の中で、健康と病を取り扱う「知」と「専門性」について考察する。

■著者

松繁 卓哉
2004年Royal Holloway,University of London医療社会学修士課程修了(MSc in Medical Sociology)。2009年立教大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。現在、国立保健医療科学院福祉サービス部福祉マネジメント室研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

■目次

序章 理論的枠組み
第1章 健康と病の社会学における「専門性」「エビデンス」
第2章 研究アプローチ――批判的言説分析の構想
第3章 医学教育におけるproblem‐based learningのひろがり―医療者による「患者中心の医療」構想
第4章 英国Expert Patients Programmeにおける患者の「専門性」
第5章 “disease specific”という現象
第6章 「患者中心の医療」と「専門性」
終章 総括と展開


■引用

1章 理論的枠組み
MMR論争の患者と保健当局側の対立→専門知識、生活知の関係性を象徴的に示す(筆者の出発点!?)
1950年代のT.parsonsの「患者役割論」=スプリングボード

E.Freidson…1970年台に医学知識そのものは客観科学の基盤の上に成立しいているものであるとしても、その応用は必ずしも客観性が担保されるものではない(p.13)
道路を建設するエンジニアは、道路建設に関してエキスパートでも、どの場所に道を作るかということに関しては、必ずしもエキスパートではない。

応用だけでなく、医療社会学は、初期医療社会学が必ずしも問うてこなかった「医学知識」や医学専門職の「専門性」の精査の目を向けるに至る(p.14)
ラトゥール他の科学知識の社会学という、流れに影響をうけ、健康と病の社会学 という分野が誕生する。健康と病の社会学は、医学の知の誕生となる医学教育に目を向けるようになった

専門知識が生成される現場に着目し、カリキュラム、・知識の社会学研究のアプローチをとる。
カリキュラムには、臨床というグレーゾーンがある。
医学カリキュラム=解剖学・生理学という基礎医学の後に、産科学、泌尿器科学などはじめとする臨床科目を学ぶ。
筆者が考えるドミナントストーリー=生物医学
一言でまとめると筆者は、社会学がいうような病の規定性に患者や社会が関与してるのに、なぜかその、関与はドミナントストーリーには抜け落ちている。だからこそ、その取りこぼされてしまった可能性を考えるのだという。
2章 研究アプローチ
本書は、批判的言説分析という立場を取るが、「Disease-Illness」の二項対立を脱構築するものではない。そうではなく、「患者中心の医療」という大きなうねりの中で、これをそれぞれ異なる立場から実現しようと取り組まれてきた複数の営みを見比べたときに立ち現れる相違、齟齬を理解し、言説と言説の関係性を理解した上で、ふたたび各々の言明を吟味していく営みを構想している(p.53)。
MMR論争にやレイエキスパートなどの専門家―素人の図式の言説生成のプロセスと結果として医学に回収されてしまうような二項区分観の提示。
3章 医療者による患者中心の医療についての構想
医師―患者の関係性においてのPBLの必要性
医学研究の発展、社会の意識変化が影響を及ぼし、医師の専門教育カリキュラムのProblem based learingの必要性が語られるに至った(p.59)。

Griffiths Reportが示すように、マネジメントや対人能力の必要性を医学は訴えているが、そこに想定される「患者」は「素人然」として、医学的ではない言葉で、「主観的」に自らの病気を目の前の医師に語る。
P63にマクパーソンが1982年に調査した、国や地域の特定疾病の手術の割合が著しく違うということを指摘している。→つまるそれは科学的手順にそってるにもかかわらず臨床でまったくちがうということを明らかにした。
1970年代にかなりの変化を医学教育はする。それは、医学部の学生に行動目標の設定を提案して評価するやり方。90年代以降は、とくに知の獲得のためのグランドデザインを医学生に担わせた。実際イギリスでは、GP(グランドパティキュラー)と専門医のコースが医学部にはあるし、イギリスには医師の国家試験なんてものがなく、大学の医学部ノカリキュラムの難易度に注目が向けられている。要するに臨床医育成に力をいれてるということ
4章 英国Expert Patients Programmeにおける患者の「専門性」
Lay Expert(素人専門家)というコンセプトが求心力を得て、病の実体験者としての患者が得た、スキル、知識の存在に目が向けられるようになった(p.86)

英国保健省とNHSが手動する、Expert patients Programme(EPP)は、慢性的な症状をもつ人々がその症状に上手く対処しながら、社会生活を送っていくためのスキルを獲得するために作られたプログラム(p.87)
↓特徴
1, 患者歴の長い患者が指導員として浅い患者をリード
2, 素人の専門性を確立し活用していこうとする点
問題点
1,「当事者中心」を掲げるプログラムが、その内部において、当事者間の新たなヒエラルヒーを作り出す可能性がある(p.102)
2, 正しい知識/間違っている知識の二文法で構成される「素人の専門知識」という召喚はプログラム自体を矛盾に導く(p.102)
(「素人知識」の制度化がジレンマをかかえている)
プログラムの理念と実践はかけ離れている。とりわけ、「素人知」の獲得という点において、これが顕著である。つまり慢性疾患患者であれば誰もが「素人知」の所有主体なのか、そうではないのか、という点である。(p.112)
筆者が実施した調査では、患者専門家は知識やスキルをみにつけていたことが読み取れた。だがこのことは、近代以降の「伝達される知」がシステムの基盤になっており、どうしても、「科学知」「医学知」の拘束スペクトル内に「素人知」が置かれている(p.113)
筆者による素人知の良いところ
「症状は改善しないけど今はあまり気にしない」を伝えるのが「患者中心の医療」にほかならない(p.113)
医学的な経験を「専門性」の土台とするのではなく、そうしたものとは異なる「日常生活運営」における自律性を「専門性」の基盤として打ち出す戦略(p.113)
じゃあどうすればいいの!?↓
5章 disease specificという現象
EPPにおいて、generic self management(以下GSM)という活動がある。
GSMとは…医学は疾病区分(disease specific)を基礎としているが、GSMはそうではなく、「病に立ち向かう自分の立ち位置に自信を持つ」似たち、「糖尿病患者同士の」「発達障害のある子を持つ親の」などというように同一疾患による結びつきを必要としない(p.125)
Ex, Chronic disease(慢性疾患)ではなくlong-term conditions(長期的コンディション)(p.124)、一年8760時間、ケアしているのであり、専門医の3時間は小さい(p.128)。

肉体をもってその病の現実を知覚しうるただ一人の存在である、という「存在の希少性」こそ、Freidsonの指摘した高度な知識を有するがゆえの医師の「自律性」に対峙しうる可能性を持つものである(p.132)。
6章 「患者中心の医療」と「専門性」
PBLやOSCEの導入が進み、医師が患者の意思・要望を読み取りうる職能者となり、そこに網羅的なエビデンスベース、さらに臨床家としての経験知が加われば「患者中心の医療」がるという認識の誤謬は、そこに患者のアクション・プランが不在であることにおいて明白である(p.155)
さらに、筆者は、すべての患者が主体的な役割を果たしたいわけではないということを示す研究を重要視しており、「主体的立場」を是とする規範モデル「べき論」ではない。 (p.157)

まとめ:
・Disease-illness(科学―社会)というに二項区分の再構築の試みは、脱構築するのではなく、二項区分を振り返り、矛盾をはらむダイナミズムだという点を明らかにした(p.163)
・二項区分のうち、患者の極が実質を伴わない観念上の設定にとどまっているが、この部分の基礎工事に目標設定行く必要がある(p.163)
・社会学的な位置づけとしては、Freidsonの「応用知識の問題」とStraussの「慢性疾患患者の生活世界」との交点を見出す方向性を提出した(p.167)

課題:
オーディット文化として医の知に患者の知が収斂されつつある現状を提示したが、防御策を提示しきれなかった。

■書評・紹介

■言及




*作成:山口 真紀
UP: 20110407 REV:20110519 REV:20120212 中田喜一
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