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『病院の世紀の理論』

猪飼 周平 201003331 有斐閣,330p.

last update:20130506

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猪飼 周平 201003331 『病院の世紀の理論』,有斐閣,330p. ISBN-10:4641173591 ISBN-13:978-4641173590 \4000+税 [amazon][kinokuniya]

■内容

20世紀の医療は,その中核をなす制度としての「〈病院〉の世紀」であった。そして、医療システムが「生活の質」に結びつけて評価され、地域社会に戻りつつある現在、 その「病院の世紀」は終焉を迎え、日本はいま医療システムの1世紀ぶりの大きな変動期に入っている。現代人にとって常識となっている病院を中核とする医療が、 20世紀という時代の産物であることを明らかにするとともに、歴史を俯瞰する視点からこれからの医療政策を長期的に展望する。 近代日本の医療システムを歴史的・理論的に位置づける力作。 現代人がイメージする「病院」での治療などの価値、機能、制度は、 20世紀に導入され、作られたものであることを明らかにし、これからの医療に必要な歴史的視野にたった政策展望を提示する。

■著者略歴

一橋大学大学院社会学研究科准教授。社会政策、医療政策、医療史専攻。1971年生まれ。東京大学経済学部卒業。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。 佐賀大学経済学部助教授をへて現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

■目次

序章 病院の世紀という構想について
1 病院の世紀としての20世紀
2 病院の世紀の理論
3 病院の世紀の終焉の時代
4 日本の医療政策における歴史意義の欠如

第1章 病院の世紀の理論
1 はじめに
2 プライマリケア/セカンダリケア・診療構造・病床開放性
3 医療システムの3類型
4 医療システムの3類型の歴史理論への拡張
5 病院の世紀の理論の意義について

第2章 所有原理型医療システムの原型――明治期日本における開業医の形成
1 はじめに
2 明治期前半における一般病院
3 明治期前半における医学教育制度の形成
4 公立一般病院の不振と医学上の開業セクター流入
5 日本的開業医集団の成立:開業セクターにおける医学士の中核化
6 おわりに

第3章 専門医化する日本の医師――20世紀前半日本における医師のキャリア
1 はじめに
2 臨床能力とキャリアパス
3 20世紀前半における医学教育制度の変化
4 20世紀前半における医師のキャリアパターン
5 おわりに

第4章 「医療の社会化」運動の時代――20世紀前半日本における医師の地理的分布
1 はじめに
2 「開業医制度」の用語法について
3 「医療の社会化」論と「開業医制度」
4 1920〜30年代における医師の地理的分布と無医村問題
5 おわりに

第5章 開業医の経済的基盤と公共性――20世紀前半日本における開業医の病院経営
1 はじめに
2 20世紀前半における「公立病院」・「施療院」・「私立病院」
3 一般病院供給の公私バランスと公共性
4 家計からみた20世紀前半における医療普及
5 1920〜30年代における医師の
6 安上がりな病院という戦略
7 おわりに

第6章 病院の世紀の終焉――健康戦略の転換の時代
1 はじめに
2 病院の世紀における医療システムの固定的性格と医療政策形成
3 健康戦略の転換と包括ケアシステム
4 包括ケアシステムにおける2つの論理
5 医師―患者関係の変容
6 おわりに

第7章 治療のための病床――20世紀日本における病床の変遷
1 はじめに
2 20世紀日本における病床の一般病床化
3 一般病床の治療化と一般病床の柔軟性
4 「社会的入院」とは何だったのか
5 おわりに

第8章 医局制度の形成とその変容
1 はじめに
2 医局制度の構造
3 医局制度の形成
4 医局制度のゆくえ
5 おわりに

参考文献一覧
付表
あとがき
索引

 

■引用

序章 病院の世紀という構想について
2 病院の世紀の理論
 本書の基本的な主張は、20世紀的状況において、医療供給システムが効果的な治療システムであることを要請されるようになったことが、 20世紀において日本を含む医学の先進地において、その後の医療発展の道程を強く規定したというものである。本書では、 この医療供給システムに対する強い規律が与えられた時代という意味で、20世紀を「病院の世紀」とよび、 その「病院の世紀」における医療供給システムの型に関する理論を「病院の世紀」の理論とよぶ。(p3)

 
第7章 治療のための病床――20世紀日本における病床の変遷
4 「社会的入院」とは何だったのか
 [……]日本における病床発展には、@質的高度化よりも量的増大を指向する、A病床の利用に関しては柔軟である、という特徴が見られることになった。そして、 これらの特徴には、日本の医療システムが所有原理に属しているということが深く関わっていたのである。
 以上を踏まえた上で、あらためて「社会的入院」とは何だったのかについて検討してみたい。これについて一般に流布している理解としては、本章の冒頭でも紹介したとおり、 「社会的入院」は1970年代初頭に老人医療費を無料化したことが主因と考えられている。もし、この見解が正しいとすれば、高齢者の長期入院現象は、 日本の医療システムが採る所有原理から中立的現象であるということになる。というのも、所有原理は、長期的なトレンドに関与するものであるからである。したがって、 高齢者の長期入院と所有原理との関係を理解するために、まず、老人医療費無料化とは何であったのかについて議論をしておくことが必要であるといえよう。
 老人医療費無料化は、1969年ごろから東京都などによって先行的に実施され、1973年に全国化したものであるが、それによって、 高齢者の外来受>261>療率・入院受療率とも急激に高まる結果を招いたとされている。たとえば、『厚生労働省白書』平成19年版は、老人医療費無料化の結果、 「経済的理由から高齢者の受診が抑制されることがなくなり、高齢者は受診しやすくなった。その反面、ややもすると健康への自覚を弱め、行き過ぎた受診を招きやすい結果ともなり、 『必要以上に受診が増えて病院の待合室がサロン化した』あるいは『高齢者の薬漬け、点滴漬けの医療を助長した』との問題も指摘されるようになった」と述べている。
 たしかに、高齢者の外来受療率(図7−4)だけをみると、この指摘は間違ってはいない。[……]これに対し、高齢者の入院受療率(図7−5)の上昇カーブについては、 その原因を単純に老人医療費無料化に帰すことはできないであろう。すなわち、第1に、外来受療率・入院受療率(10万人あたりの患者数)ともに、 遅くとも1960年代から急速な伸びをみているということである。このことは、少なくとも老人医療費無料化だけが、 戦後における高齢者の入院受療率を引き上げる要因と>262>なったわけではないことを意味している。そして、第2に、 1983年における老人保健法施行によって高齢者の自己負担が復活した後も、しばらくの間高齢者の入院受療率が増大していることである。このことは、 入院受療率は、医療保険における自己負担額によって説明されないということを意味している。
 [……]医療法人立病院・個人立病院ともに平均在院日数の増大は、遅くとも1950年代には始まっていた(それ以前についてはデータがない)。また、 平均在院日数の上昇は、1950年代にはすでに確認され、その後上昇は、老人保健法施行後まで続いていたことがわかる。これらのことが意味しているのは、 高齢者による病院への入院および入院の長期化は、老人医療費無料化が生み出したショックではなく、数十年単位の変動によって説明されるべきであるということである。
 では、高齢者の長期入院傾向を生んだ長期的要因とは何だったのであろうか。需要面については、従来から介護サービスに対する需要が高まっていく原因として、 多くの論者が言及してきた。そこでは、@人口高齢化、A少子化、B核家族化、C女性の基幹労働力化など、さまざまな要因が指摘されており、 もはやここで繰り返す必要はないであろう。[……]需要面の>263>要因によっては、日本の平均在院日数や病床数の国際比較的にみて特異な動向、象徴的にいえば、 「社会的入院」に対応する英訳が存在しないことの理由を説明することはできないということを意味している。
 これに対し、従来の議論においては、供給面の重要性はあまり指摘されてこなかったように思われる。だが、日本の高齢者の長期入院傾向の実現化に決定的な影響を与えた要素が、 需要側の要因にないとすれば、供給側の要因の意義にもっと目を向けなければならない。
 供給側の要因を考察する場合、高齢者が病院を「老人ホーム」代わりに利用するためには、次の2つの条件がクリアされなければならないということを踏まえる必要がある。
 1つは、医師がそれを認めるということである。そもそも入院とは医師がその必要を認めることで開始される。したがって、「社会的入院」は、 治療必要度の相対的に低い高齢者が病床を占めることであるから、これを医師が認めるためには、病床利用の柔軟性に対して、ある程度「寛容」でなければならない。 [……]1ついえることは、一般病床を医学的治療以外の目的に使用することに対するこのような「寛容」さこそが、日本の開業医セクターの伝統であるということである。
 もう1つは、高齢者を入院させるに十分な病床が供給されなければならないということである。入院受療率が、継続的に上昇していくためには、 高齢者に供される病床が継続的に増加していかなければならない。この点、開業医たちは、きわめて柔軟な対応によって、収益の上がる経営モデルを構築していったといえる。 [……]もっとも、それと引き替えに、高い保険外負担と入院者に対する非人間的処遇の両面で社会から強い批判を浴びることになったのではなるが。
 ともあれ、ここで最も重要なことは、高齢者による入院圧力が、実際に高>264>齢者による病院利用の拡大に結びついたのは、 上の2つの条件をクリアする開業医の存在があったからであり、このような開業医の存在は、まさに所有原理型医療システムの特質でもあるということである。表7−4にみえるように、 開業医の病院=医療法人立病院と個人立病院の平均在院日数が特異的に長期化したことは、まさに、日本の開業医に上のような反応がみられたということを裏書きしている。

■書評・紹介

■言及

◆立岩 真也 20140825 『自閉症連続体の時代』,みすず書房,352p. ISBN-10: 4622078457 ISBN-13: 978-4622078456 3700+ [amazon][kinokuniya] ※

◆立岩 真也 2018 『病者障害者の戦後――生政治史点描』,青土社


*作成:中田 喜一 *増補:北村 健太郎
UP:20120109 REV: 20120321,20130506, 20140824, 20180421
医学史・医療史  ◇池上 直己  ◇松田 亮三  ◇BOOK
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