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『逝かない身体――ALS的日常を生きる』

川口 有美子 20091215 医学書院,270p.
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last update: 20100615
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川口 有美子 20091215 『逝かない身体――ALS的日常を生きる』,医学書院,270p. ISBN-10: 4260010034 ISBN-13: 978-4260010030 \2100 [amazon][kinokuniya] ※ b02.


『逝かない身体――ALS的日常を生きる』表紙    第41回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作

  ◆出版社/著者からの内容紹介
  ◆著者情報
  ◆目次
  ◆序文より
  ◆書評・紹介・言及
  ◆第41回大宅壮一ノンフィクション賞受賞関連


 

■出版社/著者からの内容紹介

 「植物的な生」を肯定する
 言葉と動きを封じられたALS患者の意思は、身体から探るしかない。まばたきさえ奪われたロックトインシンドロームを経て亡くなった母を支えたのは、「同情より人工呼吸器」「傾聴より身体の微調整」という即物的な身体ケアだった。
かつてない微細なレンズでケアの世界を写し取った著者は、重力に抗して生き続けた母の「植物的な生」を身体ごと肯定する。

◆医学書院の紹介ページ(序文と著者動画)
http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=81229

 

■著者情報

 著者の川口有美子さんは1962年生まれ。日本ALS協会理事、立命館大学大学院先端総合学術研究科在籍中。実母がALSに罹患しのたは1995年。12年の闘病を経て、2007年9月12日に死去。

 

■目次

第1章 静まりゆく人
 国際電話
 悲しみのはじまり
 こちら側にひきとめるもの
 コーデリア
 リンダの予言
 挿管
 対決と決別
 疲労
 期待しない自由
 医療に関する約束
 外へ
 テレパシーの訓練
 スピリチュアリティとリアリティ
 父と妹
 素通りしてきた人々
 決められない人のそばに佇んで
 遺書
第2章 湿った身体の記録
 1 宝くじより希少
 2 身体とスイッチの接触不良
 3 湿った綿のような身体の移動
 4 トイレ以上のトイレ
 5 萎えた身体で慣れないトイレ
 6 海底の聴覚
 7 鉛の瞼
 8 重力に逆らえない顎関節
 9 一リットルの唾液
 10 身体と世界を循環する水
 11 穴にチューブ
 12 管による自然食
 13 罠と宴
 14 徴候としての皮膚
 15 眼で語られた最後の言葉
 16 病人の温もり
 17 発汗コミュニケーション
第3章 発信から受信へ
 1 真夜中のデニーズ
 2 解放
 3 ゴッドマザー
 4 つくられる意味
 5 ブレイン・マシーンの前に
 6 生きる義務
 7 WWWのALS村で
終章 自然な死
 二〇〇七年八月二七日/母危篤/父の入院/
 母の生き霊?/足裏マッサージ/
 ピーちゃんとP波/本当のお別れ/
 母のいない朝に/同じ天井/夕焼け雲の葬列
あとがき

 

■序文より

 実家の母の左の乳房にがんが発見されたとき、私はロンドンの郊外、テムズ川の西南に広がるリッチモンドパーク南端の街ニューモルデンに住んでいた。
 日本の金融機関に勤めていた夫がロンドン支社勤務になり、一九九三年の春から私たちは家族そろって二度目の海外生活を送っていた。けれども、翌九四年の春に母は乳房ごとがんの摘出手術を受けることになり、私は一歳と五歳の二人の子どもを両腕に抱えて、一時帰国することになったのだ。
 それは、不穏な予感に苛まれる日々のはじまりだった。

 母によれば、初めて乳房の辺りにごりんとした感触を見つけたのは、友人と訪れた信州の温泉に入ったときだった。湯煙の向こうに三人の尼僧の剃髪した頭が霞んでみえた。ただそう聞けば夢のような優しい光景だが、母には不吉な予感がしたという。
 「背中にもときどき痛みが走っていたから、たぶんこれはもう、初期ではないと思う……」
 日本でもようやく患者主体の医療とかインフォームド・コンセントなどという言葉が聞かれるようになり、がんも告知される時代になっていた。母も大学病院の外科医から、それはていねいな説明を受けていて、闘病の心構えもできていた。
 このときは、病気の本人が家中でもっともしっかり病気を受け止めていたし、万事において自分で采配を振るっていた。手術の段取りも母は医師と相談をして決めていたから、家族には事後報告で済んでいた。手術当日は持病の狭心症に慎重すぎるほどの対応がなされたため、術後もなかなか目覚めないほどに麻酔が効いてしまったのだが、そうとは知らない父と妹はただおろおろと廊下で気を揉んでいたという。
 母は術後二週間ほどで退院してきた。だから一時帰国のお見舞いといっても名目ばかりで、私にとってはのんびりできる里帰りに変わりなかった。母も久しぶりに会う孫の成長に目を細めて、リハビリと称しては台所に立ち、得意の煮物をつくってくれた。しかし実際には母の予想したとおり早期発見とはいえない進行がんだったから、温存療法どころではなく念には念を入れた処置がなされていた。  「どれどれ」と胸を開いて手術痕を見せてもらうと、脇の下のリンパ腺も大きくえぐりとられ、筋肉を剥がされたような左の胸は、肋骨が皮膚の下に透けて見えた。その胸の傷は、母の陽気な振る舞いとは裏腹に、手術の侵襲性と深刻な現実を物語っていたのである。私の動揺を見て、母はため息まじりに寂しそうに笑った。
 「これじゃあ、もう温泉には入れないわよね」
 そしてぽつりとこう続けた。
 「パパがわたしのことを、かたわになったなんて言うのよ」
 そういう言い方でしか自分のショックを誤魔化せない父なのだ。
 乳房を失った妻。女性としての自信も失った母を慰めることもできない。そんな反応も父らしいといえば父らしかった。しかし後になって振り返れば、このときは母はまだ、片方の乳房を失った「だけ」だったのだ。

(第1章「静まりゆく人」より)
 

■書評・紹介・言及

◆2010-06-14 「生きようとする母を知る――介護12年の記録で大宅壮一ノンフィクション賞 川口有美子氏」 『日本経済新聞』夕刊:9
 ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症した母を12年間に及び介護した記録「逝かない身体」が、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。ALSは徐々に体の筋肉が動かなくなり、自力での呼吸も困難になる難病。患者は人工呼吸器をつけて息をし、眼球で文字盤を指して意思を伝える。
 夫の仕事で英国にいた1995年、母の発症を知った。すぐに2人の子と帰国。まもなく母は動かなくなり、声を失った。呼吸器を付け自宅での介護を選んだが、家族の苦労は想像を絶した。主婦として送っていた穏やかな生活は幕を閉じ、「30代前半で自分の人生は終わったと思った」。
 病気は残酷で、最後に残された眼球も動きを止めた。もはや言葉による対話は成立しなくなったが、血圧や顔色、涙で心情を読み取った。動かない体でも汗をかき、よだれを垂らし、排せつをする。「皮膚の下にある細胞のひとつひとつは生きている」。介護するなかで見えてきたのは、生きようとする母の姿だ。
 手探りで始めた在宅介護は「家族だけでやっていたら続かない」と痛感した。だが、見渡せば周囲の助けを得られずに悩む家族が少なくない。そうした人たちの力になりたいと、介護の人材派遣会社を設立し、家族から相談に乗る特定非営利活動法人(NPO法人)をつくった。
 母の最期はあっけなく訪れた。遺書には「人生は楽しいことがいっぱいある」と書かれていた。肩の力がすっと抜けた。

◆長田 豊臣 2010/05/14 テレビ東京 ワールドビジネスサテライトの「スミスの本棚」で紹介
 http://www.tv-tokyo.co.jp/wbs/smith/guest_005.html

◆川口 有美子 2010/04/25 「看護学校の先生たちに知ってほしい「逝かない身体」と「逝かない心」の声」『看護教育』51(4): 296-298

◆2010-03-29 週刊『医学界新聞』第2873号 「本書が大宅壮一ノンフィクション賞候補に!」
 第41回大宅壮一ノンフィクション賞の候補作品が3月23日に発表となり、本書が選出されました。同賞は、大宅壮一氏の半世紀にわたるマスコミ活動を記念して制定されたもので、過去には柳田邦男著『マッハの恐怖』、沢木耕太郎著『テロルの決算』、猪瀬直樹著『ミカドの肖像』などが受賞しています。選考会は4月5日に開催予定。他の候補作品など同賞の詳細情報は こちら(文藝春秋「大宅賞」のページ)。」
http://www.bunshun.co.jp/award/ohya/index.htm

◆柳田 邦男 2010.03.29 特別寄稿「沈黙の身体が語る存在の重み」
http://210.139.254.43/cl/JuU/VhV/bW/lFvUQ/

◆川口 有美子・鎗田 淳(聞き手) 2010/03/27 「川口有美子氏に聞く『逝かない身体』――「殺させないために何ができるか」/病人の「生」が軽んじられる社会であってはならない」,『図書新聞』2010-3-27(2959):1-2

◆真部 昌子 2010-03  書評「「どのような状況であれ、ともに生きる」という生命観」『訪問看護と介護』VOl.15-3:241

◆2010-02-22「ゆずりは通信」 http://www.rakuraku-soft.com/koda/index.php?id=471

◆2010-02-22 熊谷晋一郎・川口有美子 週刊「医学界新聞」第2868号 講演会
「私のカラダを捨てないで」
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02868_02

◆松田 良一  2010/02/16  書評「母親の介護を通じて」 週刊読書人

◆松野 享一 2010-02-15 BOOKS KINOKUNIYA (洋書部 松野享一) 紀伊国屋書評空間BOOKLOG
http://booklog.kinokuniya.co.jp/staff/archives/2010/02/als.html

◆西川 勝   2010/02/14  書評「生き続けようとする力」北日本新聞

◆粂和彦 2010-02-11 粂和彦のメモログ
http://sleep.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post-5ce9.html#more

◆2010-02-07 ブログ「在宅医療とソーシャルワーク〜参考文献覚え書き〜」
http://blog.goo.ne.jp/naonao0706/e/d8e034dc08aee7582c421341a738a2ad

◆2010-02-04 週刊文春「新刊推薦文」2月4日号P119
「徐々に筋肉が萎縮し、最後は呼吸筋のみならず眼球すら麻痺してしまうALS(筋萎縮性側索硬化症)―治療法のない難病に罹患した母を十二年間介護した著者の壮絶な魂の記録は、ターミナルケアと尊厳死のあり方をめぐって深い問いを投げかける。介護に疲れ切って、一時は母の安楽死すら願った著者。しかし病人への期待を一切捨て、日々皺や筋肉の微妙な動きと対話するうちに、全くちがう命の風景が見えてくる。「病に侵されてもなお自分を大切にできる人」は真に自由で柔軟な思考の持ち主だ。神谷美恵子ファンにもお勧めの一冊。」

◆上野千鶴子 2010/02/01「二〇〇九年読書アンケート」『みすず』52-1(2010-1・2 no.):56
「4は昨年にひきつづき入れこんでいる当事者もの。ALSのなかでももっとも重篤なTLSに陥った実母を一二年間にわたって介護した娘の記録。「生きたい」と「死にたい」のあいだを揺れ動く患者とその家族の体験を微細に深く紡ぎ出して、病み、衰えながらそれでも生き続けることの意味を問う。ことばが詩の域に達している。頁を繰る手が、何度もとまった。」

◆立岩 真也 2010/02/01 「二〇〇九年読書アンケート」,『みすず』52-1(2010-1・2 no.):- http://www.msz.co.jp

◆伊藤 智樹 2010-01-29 紀伊国屋書評空間BOOKLOG
http://booklog.kinokuniya.co.jp/ito/archives/2010/01/post_26.htm

◆石川れいこ 2010-01-15 百万年の孤独  石川れいこのブログ
http://d.hatena.ne.jp/schizophrenic/20100115/1263530066

◆石川れいこ 2010-01-15 leikoさん amazon カスタマーレビュー
http://www.amazon.co.jp/gp/pdp/profile/A11SNAK445E0RK/ref=cm_cr_dp_pdp

◆2010-01-03 ともみんさん amazon カスタマーレビュー
http://www.amazon.co.jp/gp/pdp/profile/A64430GP00CEA/ref=cm_cr_dp_pdp

◆2010-01-02 耳が痛い! AHOIさんのブログ
http://ahoi.tea-nifty.com/ahoi/2010/01/post-3a1d.html

◆2009-12-28 みずもり亭日誌2.0 近況@200Q.12.28
[外部リンク]http://d.hatena.ne.jp/KAYUKAWA/20091228

◆立岩 真也 2009/12/25 「最終回です。」(医療と社会ブックガイド・101 最終回),『看護教育』50-12(2009-12):-(医学書院),

◆2009-12-24 石井政之 紀伊国屋書評空間BOOKLOG
[外部リンク]http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4260010034.html

◆2009-12-24 みずもり亭日誌2.0 『メディカルバイオ』1月号、水泳帽の帰還、『AVATAR』
[外部リンク]http://d.hatena.ne.jp/KAYUKAWA/20091224/1261648564

◆2009/12/19 DELTA どこにでも行ける!注目のイベント「私のカラダを捨てないで」
[外部リンク]http://www.delta-g.org/event/2009/12/post-147.html

◆2009/12/19 三省堂書店公式ブログ <シリーズ ケアをひらく 講演会第2回>熊谷晋一郎さん×川口有美子さん 対談「私のカラダを捨てないで」
[外部リンク]http://www.books-sanseido.co.jp/blog/jinbocho/2009/11/2-7.html

◆2009/12/19 綾屋紗月のブログ 熊谷晋一郎(脳性まひ)×川口有美子(ALS支援)対談 【東京・神保町 三省堂本店】
[外部リンク]http://ayayamoon.blog77.fc2.com/

◆ALS Epoch notebook
[外部リンク]http://miyagijalsa.blog75.fc2.com/blog-entry-285.html

◆2009/12/19 野崎泰伸 amazon カスタマーレビュー 
[外部リンク]http://www.amazon.co.jp/review/R1BZ2HXTP546RM

◆2009/12/19  いつまでも仕事ができるわけではない- NPO法人ユニークフェイス代表日記
[外部リンク]http://d.hatena.ne.jp/uniqueface/20091219/p1

◆2009-12-19 みずもり亭日誌2.0「私のカラダを捨てないで」
[外部リンク]http://d.hatena.ne.jp/KAYUKAWA/20091219/

◆2009-12-16 逝かない身体 ALS的日常を生きる - 感じない男ブログ
[外部リンク]http://d.hatena.ne.jp/kanjinai/20091216/1260935677

◆2009-12-16 本日のお勧め本 医学専門店MedicomPS
[外部リンク]http://blog.livedoor.jp/medicomps/archives/51477241.html

◆2009-12-12 逝かない身体 - NPO法人ユニークフェイス代表日記
[外部リンク]http://d.hatena.ne.jp/uniqueface/20091212/p1

 
■第41回大宅壮一ノンフィクション賞受賞関連

◆第41回大宅壮一ノンフィクション賞は上原氏と川口氏に決定!: 大宅賞最新情報
[外部リンク]http://www.bunshun.co.jp/award/ohya/index.htm

◆2010/04/15 「家族や出自と向き合い発信――大宅ノンフィクション賞 川口さんと上原さんが抱負」『京都新聞』
[記事PDF]

◆2010年 「川口有美子さんが第41回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞」: 立命館大学HEADLINE NEWS
[外部リンク] http://www.ritsumei.jp/news/detail_j/topics/5650/year/2010/publish/1

◆2010/04/05 「大宅壮一ノンフィクション賞に上原、川口の2氏」:産経ニュース
[外部リンク] http://sankei.jp.msn.com/culture/books/100405/bks1004051941002-n1.htm

◆2010/04/05 「大宅賞に上原、川口両氏」:時事ドットコム
[外部リンク] http://www.jiji.com/jc/zc?k=201004/2010040500730

◆2010/04/05 「大宅賞に上原氏、川口氏が受賞」:スポーツ報知
[外部リンク] http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20100405-OHT1T00191.htm

◆2010/04/05 「大宅壮一ノンフィクション賞に上原善広さんら」:YOMIURI ONLINE
[外部リンク] http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20100405-OYT1T01089.htm

◆2010/04/05 「大宅壮一賞:上原善広さんと川口有美子さんに」:毎日jp
[外部リンク] http://mainichi.jp/enta/art/news/20100406k0000m040034000c.html

◆2010/04/05 「大宅壮一賞:上原善広さんと川口有美子さんに」:毎日jp
[外部リンク] http://mainichi.jp/enta/art/news/20100406k0000m040034000c.html

◆2010/04/06 「第41回大宅賞に上原善広さん、川口有美子さん」:asahi.com
[外部リンク] http://www.asahi.com/culture/update/0406/TKY201004050475.html

◆2010/04/11 「【手帖】大宅賞に「異色作」2作」:msn産経ニュース
[外部リンク] http://sankei.jp.msn.com/culture/books/100411/bks1004110947008-n1.htm



*作成:川口 有美子竹中 聖人中倉 智徳
UP: 20091215 REV: 20100116, 0126, 0131, 0218, 0222, 0402, 0415, 0423, 0518、0615
ALS(筋萎縮性側索硬化症)  ◇川口 有美子  ◇医学書院の本より  ◇身体×世界:関連書籍 2005- ◇BOOK
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