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『いのちの格差社会――「医療制度改革」と患者の権利』

患者の権利オンブズマン 編 20091030 明石書店 ,212p.

last update:20120220

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患者の権利オンブズマン全国連絡委員会 編 20091030 『いのちの格差社会――「医療制度改革」と患者の権利』,明石書店,212p. ISBN-10: 4750330876 ISBN-13: 978-4750330877 \1260 [amazon][kinokuniya] r06 f02 sjs


■内容紹介


NPO法人患者の権利オンブズマン・創立10周年記念シンポジウム「許されんばい! いのちの格差社会」講演をもとに、医師、弁護士、労働組合役員等、様々な論者たちが、日本の医療の現状と今後の課題、医療制度改革と患者の権利確立のための方策を論じる。


■目次



はじめに 患者の権利を基軸として医療再生への道を切り開こう 池永満

第一章 呻吟する医療の現場 シンポジウム「許されんばい! いのちの格差社会」報告から
一 減少し続ける産科医 下川浩
二 療養病床の危機 有吉通泰
三 患者の命を脅かす人手不足 井上久

第二章 「医療制度改革」と患者の権利シンポジウム「許されんばい! いのちの格差社会」報告から
一 「医療制度改革」をどう見る、どうするか 日野秀逸
二 医療「構造改革」と患者の権利 内田博文
三 患者の権利法の制定 小林洋二

第三章 患者の権利促進宣言と世界の歩み
一 オランダを中心として、ヨーロッパ諸国の現状と課題について S・ジェバーズ
二 アメリカの現状からみた日本医療への提案 李啓充
三 英国からみた日本、韓国、台湾における患者の権利の問題状況――子どもの患者の権利を中心に I・ニアリー

第四章 終末期における患者の権利
一 オランダにおける安楽死を含めた終末期医療の選択 S・ジェバーズ
二 アメリカにおける終末期の患者の権利 李啓充

第五章 患者の権利オンブズマンの一〇年と医療再生への道
一 患者の権利オンブズマンの一〇年と日本医療の展望 日野秀逸
二 患者の権利オンブズマン誕生の背景とボランティア活動が生み出したもの 池永満
三 患者の権利オンブズマン一〇年の到達点と今後の課題 久保井摂

あとがき 池永早苗


SJS(皮膚粘膜眼症候群)に関連する部分の引用



二 医療「構造改革」と患者の権利
民法上及び刑法上の責任
 医療構造改革のなかでは、患者の権利は、市場で商品を購入する局面における「消費者の権利」という局面にますます限定されていくことになります。医療過誤についても、このような需要者及び供給者の自己決定・自己責任という観点からの問題処理が図られることになります。それでは、前述の医療法等における患者の権利についての医療従事者等の側の努力義務規定と、この「消費者の権利」との関係は、どのように整理されることになるのでしょうか。この点で注目されますのは、刑事ではなく民事の判決ですが、医薬品添付文書に過敏症状と皮膚粘膜眼症候群の副作用がある旨記載された薬剤を継続的に投与中の患者に発しん等を認めた医師に、同症候群発症についての過失がないとした原判決に違法があるとした、平成一四年一一月四日の最高裁判所第二小法廷判決です。
 同判決は、次のように判示しています。

 本件医師らは、過敏症状の発生を認めたのであるから、十分な経過観察を行い、過敏症状又は皮膚症状の軽快が認められないときは、本件薬剤の投与を中止して経過を観察するなど、本件症候群の発生を予見、回避すべき義務を負っていたものといわなければならない。そうすると、本件薬剤の投与によって上告人に本件症候群を発症させ失明の結果をもたらしたことについての本件医師らの過失の有無は、当時の医療上の知見に基づき、本件薬剤により過敏症状の生じた場合に本件症候群に移行する可能性の有無、程度、移行を具体的に予見すべき時期、移行を回避するために医師の講ずべき措置の内容等を確定し、これらを基礎として、本件医師らが上記の注意義務に違反したのか否かを判断して決められなければならない。

 このような判示です。医師に薬害結果発生等について予見義務及び結果回避義務違反があった場合には、過失責任を免れないとしたものと考えられます。これは民事責任についての判断枠組ですが、刑事責任についても同様の判断枠組が採用されています。より正確に言いますと、むしろ、刑法の枠組が民法でも採用されたといってよいかと思います。
 この判決については、医師等の裁量権を否定したものとの評釈もみられます。しかし、そうとはいえないように見受けられます。予見義務及び結果回避義務違反があったかどうかの判断に当たって、医師等の裁量権は当然、考慮に入れられるからです。現に、本判決は、他方で、「本件薬剤投与に関する本件医師らの判断が医師としての裁量の範囲を超えるものということはできないから、本件医師らに過失があったということはできない」と判示しています。一定の標準的な医師像を措定し、この標準的な医師にとって予見が可能であったか、結果回避が可能であったかどうかを問題とし、可能であった場合には過失責任を認めるという形で処理するという方法です。標準的な医師像が高く設定されれば、過失責任の成立範囲は拡大し、低く設定されれば、過失責任の成立範囲は縮小するという意味で、標準的な医師像をどう設定するかはきわめて重要ということになります。医師等の証言等に基づいて設定されることになるでしょう。
 ここで重要なことは、この医師像に及ぼす前述の医療施設の「類型化・機能分化」の影響です。この類型化・機能分化により医療施設が提供する医療サービスの質と量が系統的に差別化され、格差づけられる結果、高度医療に特化したごく少数の病院では、標準的な医師像は高く設定されるのに対して、その他の大多数の病院では、標準的な医師像は高いものが求められないという点です。混合診療の影響も見逃すことはできません。私費負担による、いわば上乗せ医療については、医師等に対しより高い注意義務が求められることは必定でしょうが、それは、経済格差が、医師等の過失責任の有無の判断にも影響を及ぼすということを意味するからです。


*作成:植村 要
UP:20120220 REV:
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