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『やさしいうつ病論』

高岡 健 20090410 批評社,173p.

last update: 20110411

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高岡 健 20090410 『やさしいうつ病論』,批評社,173p. ISBN-10: 4826505019 ISBN-13: 978-4826505017 \1575 [amazon][kinokuniya] ※ d05 s01

■内容

・同書の帯より
うつ病とは何か.
うつ病の発症は,社会関係の変化と密接な関係にあります.
うつ病が蔓延し拡散するなかで,進化するうつ病をわかりやすく解き明かしたうつ病論の入門編.

■目次

はじめに 3

第一部 うつ病とは何か 11
 1 うつ病とは何か――i 12
 2 うつ病とは何か――ii 16
 3 メランコリー型うつ病――i 20
 4 メランコリー型うつ病――ii 24
 5 笠原−木村分類 28
 6 軽症化――i 32
 7 軽症化――ii 36
 8 軽症化――iii 40
 9 非定型化――i 44
10 非定型化――ii 48
11 躁うつ病 52
12 双極II型と双極スペクトラム 56
13 混合状態――i 60
15 うつ病の治療――i 68
16 うつ病の治療――ii 72
17 うつ病と自殺 76
18 躁うつ病と刑事事件 80
19 ライフステージとうつ病――i 84
20 ライフステージとうつ病――ii 88
21 自閉症スペクトラムとうつ病 92
22 人格障害とうつ病 96
23 戦争とうつ病 100
24 うつ病と文学 104
25 うつ病と美術 108
26 うつ病と映画 112

第二部 競争社会と現代の人間――自分と向き合うために(〔聞き手〕藤原正寿) 117
 『新しいうつ病論』を書くきっかけ 118
 一九八七年とうつ病の時代 119
 新自由主義の問題性――自己責任論がもたらす苦悩 122
 うつ病と自殺の問題 126
 うつ病の「功」と「罪」――分岐点をどう捉えるか 126
 引きこもりとうつ病――人間にとって必要だから出てくる 135
 学校教育の問題 137
 「絶望の中に見える希望」――新しい時代の転換点に 140

第三部 〈情報〉と精神医療 145
 はじめに:〈情報〉受容の構造 146
 〈情報〉の自己関係づけと抑うつ型コミュニケーション 147
 〈情報〉の他者関係づけと統合失調型コミュニケーション 150
 他者の参照を経由する〈情報〉受容 154

資料篇 157
 資料2 自殺対策加速化プラン 162(逆引き)
 資料1 自殺対策基本法(平成十八年法律第八十五号) 168(逆引き)

あとがき 170

■引用

新自由主義の時代とうつ病の非定型化
新自由主義社会に登場したうつ病の特徴を,一言で表すなら,非定型化ということになります.それまでのメランコリー型うつ病や,その軽症化したものを定型とした上での,非定型化ということです(ただし,すでに示唆しておいたように〔*同書 pp. 26-7を見よ〕,ほんとうは定型というべきではなく,戦後社会の一時期に登場した,特殊型というべきなのですが)(44; 亀甲カッコ内コンテンツ作成者加筆).

すでに〔他国にさきがけて〕新自由主義の世の中へ移行していたアメリカには,非定型の特徴を持つうつ病が,多くみられるようになっていました.なぜなら,後に日本へも輸入されることになる成果主義が,他者からの評価に一喜一憂するよう,人々を駆り立てていたからです.
他者からの評価が芳しくないときに現れる症状が,対人関係の拒絶に至る敏感さや,鉛のような身体の重さです.また,熟眠障害としての過眠であり,ストレスの一時的解消のための過食です〔中略〕.
バブル崩壊後,周回遅れで日本へも新自由主義が輸入されました.そのとき,非定型うつ病もまた,同時に輸入されたのです(45-6; 亀甲カッコ内コンテンツ作成者加筆).

差異化強迫〔=差異化による市場価値上昇への強迫〕と孤立恐怖〔=差異化にゆきづまりアッパーミドルクラスからはじき出されることへの恐怖〕が限界にまで達したとき,非定型うつ病が発症するのです.過去にはとりたてて注目されてこなかった非定型うつ病が,新自由主義社会になって注目を浴び始めたのも,故なきことではありません(47; 亀甲カッコ内コンテンツ作成者加筆).

 → cf. ネオリベラリズム

子どものうつ病について
一○歳以下の子どもにうつ病が出現することは,多くありません.もし出現したなら,真っ先に考えなければならないのは,虐待を受けている可能性です(84).

一○歳以上の子どもになると,別の様相が登場することになります.代表的なものは,学校でのいじめに伴ううつ病です.
いじめは,三つの条件さえ揃えば,どのような場所でも生じます.第一に,集団が閉じられていること〔=自律性が強い〕.第二に,集団の価値観が一般社会の価値観とかけ離れていること〔=外部の法や慣習とはかけはなれた〈内向きの論理〉が支配する〕.第三に,集団の勢いが停滞から下降へと向かっていること.これらがあれば,その集団は一人を犠牲にすることによって,残りの成員の団結をはかろうとしがちです.これこそが,いじめの構造なのです.
残念ながら,日本の学校の多くは,右に記した条件を備えています〔中略〕.
〔中略〕
ところで,不登校の子どもにはうつ病が少ないという,日本の児童精神科医による,興味深い研究があります.敷衍して考えるなら,いじめの被害にあった子どもには,自分自身を責めてうつ病を発症するかわりに,いじめの発生する場所から避難し,うつ病の発症を回避する道筋があるということになります.
そうみてくると,いじめに伴ううつ病の治療に関する要諦が,明らかになってきます.それは,周囲の大人たちが,不登校の権利を無条件に保証することです.ここで,「無条件」というのは,「いじめがあれば不登校を認めるが,いじめがないなら登校しなさい,といった吝嗇な考え方を持ってはならない,という意味です(86-7; 亀甲カッコ内コンテンツ作成者加筆).

 → cf. 内藤朝雄『いじめの社会理論――その生態学的秩序の生成と解体』

管理職女性の自殺とうつ病――これまでの人生を振り返る契機としての軽症うつ病
日本の場合,例えば女性は社会で活躍するチャンスが非常に少なかったし,いまもその現状は続いている〔中略〕このために,男性と互角ないし互角以上に働いて初めて,女性は社会から認められるということになるわけですね.これは女性一般と言ってもいいのかもしれませんが,特に,そういう矛盾を背負い込みやすいのは,管理職の立場にある女性です〔中略〕女性の場合,管理職の自殺が一番多いんですね〔中略〕.
繰り返すなら,女性の場合,男性と互角以上に張り合う生き方を自分の人生のなかに織り込んできた人が,実は大変な苦労を抱え込んで,自殺へと至る〔中略〕その直前にうつ病の状態がある〔中略〕多くは軽症慢性のうつ病ですから,会社に出勤することはできます.しかし,以前のようにテキパキと判断し,指示していくことが難しくなる.難しいのだけれども,そういうつらさを外に出さないまま,苦しみながら仕事を続けていく〔中略〕軽症うつ病とは,「そういう生き方をそのまま続けていくと,本格的なうつ病,そして自殺という道筋に突き進んでいきますよ」という一つの警告といいますか,サインだろうと思うのです.そう考えれば,自分で命を落とさなくていい,死ななくてもすむ機会をすでに手に入れているとも言えるわけです(129-31).

 → cf. 女性の労働・家事労働・性別分業
 → cf. 過労死・過労自殺/過労自死

■書評・紹介


■言及

◆樫村 愛子 20110201 「ネオリベ社会におけるうつ――『自分であること(軽躁)への疲れ』とマゾヒズム幻想」『現代思想』青土社,39(2): 190-204. ISBN-10: 4791712226 ISBN-13: 978-4791712229 \1300 [amazon][kinokuniya] ※


*作成:藤原 信行
UP: 20110411 REV:
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