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『高齢者医療難民――介護療養病棟をなぜ潰すのか』

吉岡 充・村上 正泰 20081229 『高齢者医療難民――介護療養病棟をなぜ潰すのか』,PHP研究所,203p.


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■吉岡 充・村上 正泰 20081229 『高齢者医療難民――介護療養病棟をなぜ潰すのか』,PHP研究所,203p. ISBN-10: 456970591X ISBN-13: 978-4569705910  [amazon]

■内容紹介
構造改革、財政再建=「病気のお年寄りは早く死んでください」!? 医療と介護の分断をただちに止めよ! 施行直後から大混乱が生じている後期高齢者医療制度。見直しの目途がいまだ立たないなか、財政再建の名の下に、今度は療養病床の大幅削減がひそかに実施されようとしている。十分なケアを受けられないまま行き場をなくす11万人の“医療難民”。まるで「病気のお年寄りは、無駄な医療費を使わずに早く死んでください」と言っているかのように……。いったいなぜなのか? 高齢者医療の難問に立ち向かってきた現場の医師と、医療制度改革に携わった元官僚が、「医療崩壊」が叫ばれる危機的な状況に一石を投じる。

■内容(「BOOK」データベースより)
施行直後から大混乱が生じている後期高齢者医療制度。見直しの目途がいまだ立たないなか、財政再建の名の下に、今度は療養病床の大幅削減がひそかに実施されようとしている。十分なケアを受けられないまま行き場をなくす11万人の“医療難民”。まるで「病気のお年寄りは、無駄な医療費を使わずに早く死んでください」と言っているかのように…。いったいなぜなのか?高齢者医療の難問に立ち向かってきた現場の医師と、医療制度改革に携わった元官僚が、「医療崩壊」が叫ばれる危機的な状況に一石を投じる。

〈目次〉

はじめに

第I部 医療と介護の現場から――吉岡充
第1章 「介護療養病棟の廃止」問題とは何か

介護療養病棟の廃止と「社会的入院」について
介護療養病棟とはどんなところか
「医療区分」の実際はどんなものか
一一万人の医療難民が発生する
医療難民となったその後は?
療養病床削減の経緯

第2章 「介護療養病棟の廃止」問題になぜ反対なのか
厚生労働省へのメッセージ
尊厳ある死が難しくなるだろう
介護療養病棟に「問題」はあるのか
転換型老健の不備
医療財源の確保をどうするか
ほかにも目を向けてほしい「医療費の無駄遣い」

第3章 「医療・介護難民」を生じさせないために
「戻ってきたい看護師さん」のエピソード――最近の医療現場より
「戻ってきたい患者さん」のエピソード
「アドバンスド・ディレクティブ」と療養病床削減問題の関係
上川病院の終末期医療の取り組み
身体拘束について
今後どうなるか――在宅医療の難しさ
グループホームの問題点
認知症高齢者への取り組み
認知症の治療はどこまで進んだか
超高齢化社会のこれから
後期高齢者医療制度について

第II部 医療制度改革の現場から――村上正泰
第4章 療養病床23万床削減決定の舞台裏

社会保障費抑制のターゲットとなった療養病床
療養病床削減目標はいかにしてつくられたか
「社会的入院」の是正の必要性
突然に決められた療養病床再編計画
縦割り行政の弊害
場当たり的対応のつぎはぎ
本当に「受け皿施設」は整備できるのか
現場から乖離した政策判断
「伸び率管理」をめぐる経済財政諮問会議との攻防
「伸び率管理」導入の問題点
小泉総理のひと言で決まった「目安となる指標」の策定
ミクロの医療費適正化目標なら問題ないのか
療養病床削減計画の混乱は終わらない

第5章 後期高齢者医療制度の問題点
混迷の度を深める後期高齢者医療制度
後期高齢者医療制度導入の背景
結果的に公費負担は減っている
データが致命的に欠如している
税制と社会保障の縦割りの弊害
国民感覚から乖離した後期高齢者医療制度
メタボリックシンドローム対策の問題点
社会保障費削減政策の誤り
問われるべき政治の責任
社会保障費は単なる「負担」ではない
国会審議活性化の必要性
高齢者医療の再構築に向けて
生死にかかわる医療政策のあり方

おわりに


■著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
吉岡 充
1949年生まれ。77年東京大学医学部卒業。東京都立松沢病院勤務などを経て、82年東京八王子市・上川病院に勤務。現在、同病院理事長。この間、 老人の専門医療を考える会事務局長、副会長、現・日本慢性期医療協会事務局長、副会長を務め、高齢者医療・ケアの政策決定過程に関与。 86年より高齢者医療現場での身体拘束(抑制)廃止に取り組み、介護保険における身体拘束禁止規定に影響を与える。NPO全国抑制廃止研究会理事長、 厚生労働省身体拘束ゼロ作戦推進会議委員。

村上 正泰
1974年広島県因島市(現・尾道市)生まれ。97年東京大学経済学部を卒業後、大蔵省(現・財務省)に入省。カリフォルニア大学サンディエゴ校国際関係・ 環太平洋地域研究大学院留学。在ニューヨーク総領事館副領事、財務省国際局調査課課長補佐、内閣官房地域再生推進室参事官補佐、 厚生労働省保険局総務課課長補佐などを経て、2006年7月に退官。厚生労働省出向中に医療制度改革に携わり、医療費適正化計画の枠組みづくりを担当した。
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)



「おくりびと」を見に行く、その前に読もう〜『高齢者医療難民』吉岡 充・村上 正泰著(評:山岡 淳一郎)PHP新書、700円(税別)

 遺体を清め、棺に納める納棺夫を描いた映画「おくりびと」が、話題をさらっている。こうした仕事が注目されるのは、死が社会的に身近な存在になってきたからでもあろう。平成19年度版厚生労働白書によれば、2005年の年間死亡者数は108万人だが、2015年には130万人、2040年にはなんと166万人に達すると推計されている。
 高齢社会とは世間全体で大勢の死を受けとめねばならない社会でもある。
 大多数の人にとって、死は日常の延長上にある。日ごろ介護を必要とせず、自立して生活できる「健康寿命」は、日本人の男性72.3歳、女性77.7歳。統計的にみれば、それから約7〜8年、男女とも病院にかかったり、介護ケアを受けたりしながら黄泉へと旅立つ。
 人間は、100パーセント死ぬ。高齢者の医療や介護は、人生の集大成を支える大切な役割を担う。「おくりびと」のお世話になるまえにたくさんの人の手が必要なのだ。
 ところが、厚生労働省は、近年、誰もが避けて通れない、この道行きを壊す「姥捨て政策」を次々と講じてきた。その典型が大幅な「療養病床の削減」である。
 本書は、高齢者医療現場で多くの難題に取り組んできた医師・吉岡充氏と、財務省から厚労省に出向して当の療養病床削減の計画をつくった元官僚・村上正泰氏の共著。高齢者医療のプロと政策立案の専門家による告発の書として読める。国民から見えにくい政府内の事情も記されており、説得力がある。志の高さが伝わってくる。
 療養病床削減問題は、以前、わたしも取材し、雑誌(週刊ダイヤモンド2006年7月15日号)に書いた。まず、制度のあらましを押さえておきたい。
 そもそも療養病床とは、病院や診療所のベッドのなかで、長期療養を必要とする患者を入院させるための医療施設。このうち介護保険が適用されるものを「介護療養病床」、医療保険適用のものが「医療療養病床」といわれ、病気を患い、ケアを受けながら生活しなければならない高齢者の大きな受け皿になっている。
 一方で、療養病床は、治療の必要性は低いのに退院後の受け入れ先がないなどの理由で留まる「社会的入院」の温床ともいわれた。社会的入院が増えれば、国民医療費が押しあげられる。不必要な入院でベッドがふさがれば緊急の患者を受け入れにくくなる、と懸念される。

重度の要介護者が病院から追い出されていく
 2005年12月、厚労省は、突如、13万床あった介護療養病床を2012年度までに全廃し、25万床の医療療養病床を15万床に削減すると発表した。トータルで一気に23万床も減らすというのだ。その目的は公的医療費の伸びの抑制である。
 当然、多くの高齢者患者が病院から追い立てられる。どう対処するのか?
 厚労省は、社会的入院中の高齢者を病院と介護施設の中間的機能を持つ「老人保健施設」などの居住系施設に移せばいい、との見解を示した。そして「社会的」か否かを判断する基準として「医療区分1〜3」という考え方を持ち出してきた。

・医療区分3=医師や看護師による24時間監視体制が必要で、気管切開や酸素呼吸器などの処置がなされているような状態。
・医療区分2=肺炎や肺気腫、せん妄の徴候などがみられ、経管栄養や喀痰吸引、気管切開などのケアが求められるような状態。
・医療区分1=医療区分2、3に該当しない者。

 厚労省は、簡単なサンプル調査で介護療養病床は「医療区分1」の患者が多いと解釈し、ゼロにすると断を下した。考えてもみてほしい。全体で23万もの病床を削るのに、その根拠がわずか三種類の医療区分なのだ。医療難民が出るのは火を見るより明らかだった。
 翌2006年2月、病床の大削減が盛り込まれた医療改革関連法案が国会に提出される。自民党内からも強い反発が出るなか、介護療養病床の全廃が明記された法律が成立。しかも「医療区分1」の患者を抱えた病院は損をする診療報酬の改定まで行われた。経営的にも「医療区分1」の患者は吐き出すしかない。なにが何でも高齢患者を病院から追い出そうとしているようだった。
 高齢者医療の第一線で医師として体を張ってきた吉岡氏は、「医療区分1」イコール「社会的入院」とする厚労省を「デマゴーク」と断罪し、介護療養病床の実態をこう述べる。

〈介護療養病床に入院している患者の要介護度は、全国平均で要介護4・3くらいです。(中略)介護を少し知る人であれば、相当に重度で、多くの介護を必要とする人だということがおわかりいただけるだろうと思います。寝たきり、あるいはほとんどそれに近かったり、認知症も重かったり、自分の身のまわりのことはほとんどできない状態です〉

 介護療養病床の患者は〈いくつかの持病を抱えもち、いつ急変するかわからない〉状態だ。医療と介護は分けられず、医者や看護師、リハビリテーションのスタッフたちが、毎日のケアをつづけて状態の増悪(ぞうあく)や急変を防いでいる。医療処置も必須なのだ。
 このような高齢患者が病院から放り出されたらどうなるか。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090306/188339/

 厚労省が受け皿と期待する「老人保健施設」は、看護師もリハビリスタッフも少なく、医者は昼間しかいない。休日や夜間に容態が悪化したら……患者は惨憺たる状況で余命を切り刻まれる。
 昨年告発された千葉県浦安市の無届け老人施設は、利用者を檻に入れて手錠のようなものをかけていた。東京足立区の有料老人ホームは、職員が足りないにもかかわらず、医療処置が必要な高齢者を受け入れると宣伝して入居者を集めた。入浴は10日に1度、入居者を手ぬぐいでベッドの柵に縛りつけていたという。
 吉岡氏は、法案が審議されていた頃、厚労省の担当局の上層部と面談している。もちろん、見直しを求めてだ。

〈そのときの保険局の宮島俊彦審議官の傲慢な態度には本当に驚きました。「療養型を残すんじゃなかった」「いまだって難民はいるんだろう」と凄むように言うのです。われながら、よく我慢できたと思うほどです。その彼が現在、老健局長です〉

 この局長は、就任早々、〈療養病床にいる医師1万人を小児科や産婦人科にまわすべきだ〉と発言して現場をあきれ返らせたという。医師の専門性がわかっていないようだ。
 病床削減に反対するばかりでなく、吉岡氏は、「社会的入院」を減らすための対案として、医療と介護を絡めたチェック方法も提唱している。厚労省のトップである事務次官の話を聞く場にも出向いている。そこで、事務次官は介護療養病床の廃止決定について、〈これで老人病院についての財界との約束は果たした〉と表現した、という。
 本書のもうひとりの著者、元財務官僚の村上氏は、事務次官が口にした「財界との約束」について赤裸々に綴っている。舞台裏で社会保障費削減の大圧力をかけていたのは、小泉政権下の経済財政諮問会議と財務省だった。

市場原理派に屈した厚労省
 05年2月の諮問会議で、牛尾治郎、奥田硯、本間正明、吉川洋ら民間議員が連名で「経済規模に見合った社会保障に向けて」というペーパーを提出した。
 ここで社会保障費の伸びを「名目GDPの伸び率」に合わせる案が示された。厚労省は「社会保障の規模はその国の実情によって決まる」「医療や介護の費用に一律枠をはめることは困難」などと激しく反発する。じつは、数年前に厚労省自身が「伸び率」の管理を提唱し、医療界から猛反発を受けて撤回していた。その難しさが骨身にしみていたようだ。
 マクロ的に社会保障費の伸びを管理しようとする諮問会議に対し、厚労省は「平均在院日数の短縮」などミクロ的指標で公的医療費を抑えると訴える。両者の議論がかみ合わない2005年4月、諮問会議でキーパーソンが重大な発言をする。

〈小泉純一郎総理大臣が「何らかの指標が必要」「何らかの管理が必要」と発言した。厚生労働省がいくら抵抗しようとも、総理の発言はきわめて重い。この小泉総理のひと言を受けて、もはや指標による管理の是非ではなく、それをどのように設定するかということに議論が進んでいった〉

 その後、「郵政選挙」で自民党は圧勝し、小泉首相と「上げ潮派」を誰も止められなくなった。厚労省は「伸び率」の管理を否定すればするほど、ミクロの個別施策で指標を示し、公的医療費を抑える具体策を求められる。じわじわと市場原理派に取り込まれていった。
 先述したように、自民党内でも厚生労働族議員から一年生議員に至るまで、病床削減反対の大合唱がわき起こった。にもかかわらず……。

〈大多数の国会議員が反対を叫ぶなか、自民党厚生労働部会でも当時の部会長の大村秀章衆議院議員によって「強行採決」が行われ、ぎりぎり法案提出にこぎつけたのである。強行採決は、国会だけではなく自民党のなかでも行われているのだ〉

 しかし制度を運用するために、各都道府県で削減計画を作成したら、とても計画どおりにいかないことが判明。厚労省は、療養病床総数を22万床にとどめる緩和方針を決めた。ただし、介護療養病床は法律に明記されたとおり全廃へと向かっている。これを食い止めるには法改正しかない。

〈高齢者医療の問題を議論していくと、家族、地域社会、死といった戦後日本社会がもっとも軽んじてきた問題に直面する〉と村上氏は記す。

 「おくりびと」への喝采は、われわれに「いかに死に臨むか」「どう生きるか」を考えるきっかけを与えてくれたともいえようか。

(文/山岡 淳一郎、企画・編集/須藤 輝&連結社)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090306/188339/?P=2

山岡 淳一郎(やまおか・じゅんいちろう)
1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」を共通テーマとして都市開発、医療、ビジネス、近代史と分野を超えて、旺盛に執筆。ドキュメンタリー番組のコメンテーターとしても活動。著書:『後藤新平 日本の羅針盤となった男』、『あなたのマンションが廃墟になる日――建て替えにひそむ危険な落とし穴』(ともに草思社)、『ボクサー回流―平仲明信と「沖縄」の10年』、『マリオネット―プロサッカー・アウトロー物語 』(ともに文藝春秋)、『マンション崩壊 あなたの街が廃墟になる日』(日経BP社)、『命に値段がつく日』(中公新書ラクレ・共著)、『地球にやさしい家に住もう』(朝日新聞出版)ほか多数。本サイトの人気連載「金ぴか偉人伝(金子直吉)」「泥亀サバイバル〜金ぴか偉人伝・2(山下亀三郎)」がこのほど大幅に加筆されて『成金炎上 昭和恐慌は警告する』(日経BP社)として刊行された。
(写真:GO FUJIMAKI)

*作成:北村健太郎
UP:20090328, 0830
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