HOME > BOOK >

『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実――誤った責任追及の構図』

武藤 春光・弘中 惇一郎 編 20080920 『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実――誤った責任追及の構図』,現代人文社,249p.


このHP経由で購入していただけたら感謝

■武藤 春光・弘中 惇一郎 編 20080920 『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実――誤った責任追及の構図』,現代人文社,249p. 2000+税  ISBN-10: 4877983864 ISBN-13: 978-4877983864 [amazon]

■内容紹介
血液製剤によるエイズ感染はまことに悲惨な出来事であった。その責任追及は安部医師に集中し、安部医師は業務上過失致死罪で起訴された。しかし、メディアの予想に反して無罪となった。なぜ無罪になったかを浮き彫りにする。付録CD-ROM付。

■内容(「MARC」データベースより)
血液製剤によるエイズ感染で、業務上過失致死罪で起訴されたものの、メディアの予想に反して無罪となった安部英医師。無罪判決の理由を解説し、メディアと検察から誤った責任追及が行われた「薬害エイズ事件」の真相に迫る。

〈目次〉

はじめに

序章 安部医師の無罪は当然なのです――本書の目的

第1部 安部医師無罪判決の衝撃――マスメディアの予想外報道
第1章 メディアの作り出した虚像とバッシング
コラム1 NHKの『埋もれたエイズ報告』
第2章 「薬害エイズ」問題と安部英医師をめぐる動き
コラム2 菅厚生大臣の謝罪と「郡司ファイル」

第2部 エイズ問題の構図――エイズ問題の正しい理解のために
第3章 エイズ問題の構図とエイズ侵入への行政の対応
第4章 「薬害エイズ」問題の勃発と世界の動き──日本の血友病治療医の対応
第5章 血友病という病気と治療法の変遷──福音としての濃縮製剤
第6章 医療におけるベネフィットとリスク

第3部 安部医師への誤った責任追及と「薬害エイズ」裁判
第7章 エイズ問題責任追及の動き──とくに刑事裁判の動きと判決の骨子
第8章 帝京大学の中の医師たち
第9章 エイズ研究班の活動と調査検討委員会
コラム3 国会での安部医師に対する質問
第10章 加熱製剤の治験の真実
第11章 検察の陰謀──国策捜査・国策起訴
コラム4 ミドリ十字治験責任者への取調べで何があったのか
第12章 否定された安部医師の過失
コラム5 ギャロ嘱託尋問調書の発見
第13章 「薬害エイズ」感染・裁判から政府の意思決定の改善を学ぶ
終章 血友病治療と安部医師の軌跡
コラム6 安部英医師獄中記

エイズ関連年表
「薬害エイズ」裁判起訴状

あとがき


付録CD-ROM目次
「薬害エイズ」事件・第一審判決文(東京地裁平成13年3月28日判決)全文

岡本和夫「俗説「加熱製剤の治験調整」を検証する」
  はじめに 
  第一章 安部医師はミドリ十字の開発を待って、治験を開始したか?──いわゆる治験調整はあったか?
  第二章 名誉毀損裁判はメディアにたずさわる人の資質が問われた裁判であった
  参考資料
  あとがき




はじめに
 東京地方裁判所は、2001(平成13)年、いわゆる「薬害エイズ」事件において、安部医師に無罪の判決を下しました。この本を読まれた方は、この事件において、安部英医師に責任のないことは、あまりにも当たり前で、どうして起訴までされたのだろうと思われるのではないでしょうか。しかし、世間では、第一審無罪判決が下される前はもちろん、その後でさえも、安部医師の責任を問う声が絶えません。その理由は、血友病患者に対してエイズのウイルスに汚染された血液製剤を投与したためにこれだけの被害が出たのだから、責任者がいないはずはない、安部医師は血友病治療の第一人者であるから責任を負うのは当然だ、ということにあるようです。
 私たちは、そういう声を聞くたびに、無罪判決のエッセンスを、それはつまり本書のエッセンスなのですが、それを要約して説明してまいりました。そうすると、ほとんどの方が、30分ほども私たちの話を聞かれると、なるほど、そうか、そういうことかと、安部医師の無罪を納得されました。そして、それでは、なぜ一部のマスメディアはあんなに書き立て、検察は起訴までしたのかと慨嘆し憤慨される方も多くおられました。
 そこで、そういう経験を持ってみて、私たちは、もっと多くの方にこの事件の真実を知っていただきたいと思うようになりました。それが、本書執筆の動機であります。みなさんの理解が広まることによって、安部医師に着せられた濡れ衣も乾くことになりますし、また、これからは無実の人を起訴することも少なくなるものと思います。
 血液製剤は、人間の血液を原料とする薬品であるために、各種のウイルスに汚染される可能性があります。最近、大きな社会的問題となった肝炎の問題も、肝炎のウイルスに汚染された血液製剤の投与によって生じたものであります。血液製剤における肝炎ウイルス汚染の可能性と危険性は、エイズウイルス汚染の場合に比べて、医師の間では、かなり古くから知られておりま<ii<した。また、肝炎に罹った方の数は非常に多く、エイズに罹った方の何倍にもなります。しかし、これまでのところ、マスメディアや検察を含めて、誰からも、医師の責任を問う声は全く聞こえてきておりません。これは、安部医師に対する事件についての深刻な反省によるものと考えられますが、それにつけても、安部医師に対しては、ひどいことをしたものだという思いがこみ上げて参ります。
 本書の執筆者のうち、武藤春光、弘中惇一郎、喜田村洋一、飯田正剛、坂井眞、加城千波の6名は、安部医師の弁護団の弁護士、郡司篤晃は当時の厚生省の生物製剤課長、そして、岡本和夫は当時のミドリ十字の社員であります。(ii-iii)
p align="RIGHT">2008年8月
編者 武藤 春光
   弘中 惇一郎



 一般に「薬害」と呼ぶのは、サリドマイドやスモンのように、医薬品の有害作用がきわめて強く、反面、医薬品として残すだけの価値の少ないものを指します。つまり「薬」とは名ばかりで、「公害」と同様の「害悪そのもの」との意味合いです。
 これに対して、麻酔薬や輸血などでは、副作用や合併症で重大な被害が起こることが知られていても、これを「薬害」とは言いません。
 血液製剤は人体の血液の一部を抽出したものであり、血液製剤の投与とは、基本的には輸血行為なのです。血液製剤のウイルス感染による副作用は、製剤の一部にウイルス汚染されているものが潜んでいたという問題なのです。そして、血友病治療には血液製剤の投与は必要不可欠であり、エイズウイルスの問題が判明してからも、加熱という工夫を施しながら使い続けてきているのです。
 したがって、「薬害エイズ」という言葉は適切ではありません。「輸血事故エイズ」という言葉の方がふさわしいでしょう。しかし「薬害エイズ」という言葉が既に広く用いられていることから、この本においては、「薬害」という言葉の意味に注意しながら使用するという意味を込めて、括弧をつけて、"「薬害エイズ」"と呼称することにします。(iii)



2 公害と薬害
 いわゆる「薬害」は「公害」を連想させますが、異なる点が多いことを認識することが重要です。

1)公害で排出される汚染物質には効用はないが薬には効用がある。
2)汚染物質は除去や排出防止が可能だが、薬剤では効能と副作用等が密接不可分である。
3)公害の場合は、汚染物質の危険のみの評価であるが、薬害の場合は効用と危険の比較考量である。効用も危険も具体的な測定は困難である。
4)汚染物質の排出削減には種々の技術開発があり得るが、医療技術、<0200<特に治療技術は代替性に乏しい。最良の医療技術に新たな危険があるという事態が生じた時、危険は次第に明らかになるので、最良の技術を「何時」止めるべきかが問題となる。
5)公害の場合は、産業のありかたの問題が問われたが、いわゆる薬害の場合は救命のための医療技術の不完全性に社会がどう対応すべきかが問われている。不完全技術にはかなりの程度の受忍が伴うので、受忍の限度が問題となる。

 公害の汚染物質には効用はないので、そのような物質の排出はない方が良いのは当然です。薬には効用があり、人類にとってなくてはならないものです。また、薬剤の効能と副作用は密接不可分です。
 薬剤は効能と安全性を評価する。有効性の判断は、現在の薬剤と比較してその効能が有意に優れているか、これまでの薬剤にない効能があるので有用であるか、で行われます。
 多くの薬剤には毒性がありますが、それは単に量的な違いにより無効域、有効域、中毒域となるのです。あまりにも有効域が狭い薬剤は安全とはいえません。副作用が大きい時にも安全な薬とはいえないのです。
 有効・有用ではあるが副作用も大きい時には、その目的によって判断が行われます。例えば、抗がん剤は一般にはきわめて副作用が強い、即ち安全でない薬剤ですが、癌という疾患が重篤なので、若干の延命効果があれば薬剤として認められます。(pp.200-201)


*作成:北村健太郎
UP:20090328,0501
薬害  ◇BOOK
TOP HOME (http://www.arsvi.com)