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『テレワーク――「未来型労働」の現実』

佐藤 彰男 20080520 岩波書店,209p.


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■佐藤 彰男 20080520 『テレワーク――「未来型労働」の現実』,岩波書店,209p. 700+税  ISBN-10: 4004311330 ISBN-13: 978-4004311331 [amazon]

■出版社/著者からの内容紹介
自宅のパソコンを使ったり、出先でモバイル機器を利用しながら、オフィス以外の場所で仕事をする―テレワークとはそうした「柔軟な」働き方をいう。はたしてこれは仕事と生活を調和させた「夢の未来型労働」なのか。それとも働き手の私生活に食い込んでくる歯止めのない労働の安売りなのか。データを駆使して検証するその実像と問題点。

■著者略歴
1957年兵庫県生まれ。甲南大学大学院博士課程単位取得退学。社会学博士。専攻は社会学・情報社会論。現在、大手前大学現代社会学部准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

■目次
はじめに

第1章 テレワークは新しい働き方か
1 テレワークという夢
2 政府による多彩な振興政策

第2章 在宅勤務とワークライフバランス
1 「在宅勤務」という選択
2 ホワイトカラーと在宅勤務
3 在宅勤務はなぜ、広がらないのか

第3章 モバイルワークとオフィス革命
1 企業にとってのモバイルワーク
2 モバイルワーカーの仕事と生活
3 モバイルワーカーは第三空間で働いているか

第4章 テレワークという名の自宅残業
1 自宅残業は労働時間なのか――ある裁判から
2 自宅残業と在宅勤務

第5章 在宅ワーク――家事・育児と仕事を両立させる切り札か
1 調査データが語る「在宅ワーク」
2 誰が在宅ワーカーになるのか
3 「電脳内職」化の構造
4 脱電脳内職をめざして――在宅ワーカー・ネットワークの試み
5 家事労働と在宅ワーク

第6章 労働が見えなくなるということ
1 テレワークのかたちをきめるものは
2 不可視化する労働のあやうさ
3 よりよいテレワークは可能か

おわりに――「新しい技術」が生み出す「新しい社会問題」
引用文献等



■紹介・引用
  
5 家事労働と在宅ワーク
 在宅ワークの主たる担い手が主婦層であることは、何度も述べてきた。在宅ワーカーたちにインタビュー調査を行うと、現在小さな子どもがいるワーカーに限らず、すでに子育てを終えた人たちも、「子どもが小さいうちに家にいられること」のメリットをさかんに数えあげる。彼女たちは「からっぽの家に子どもが帰らなくてよい」ことが、どれほど子どもに安らぎを与>166>えるかを強調してやまない。

「家にいること」のメリット
 少々意地が悪いのを承知で、子どもの帰宅より先に帰れる短時間のパートではだめなのかと尋ねると、「夏休みや春休みも、寂しい思いをさせないですむ」「学校行事に参加しやすい」などのメリットが引き合いに出される。またパートに出ていれば「子どもが病気で学校を休んだときに、ずっとそばにいてやる」ことは不可能である。さらに、締め切り間際で仕事を休めなくても、在宅ワークなら「病気で寝ている子どもの枕元で仕事ができる」のだという。
 「子どものために家にいなければならない」という考え方があまりに保守的であると批判することはやさしい。けれども、この社会では現実問題として、ほとんどの世帯で家事・育児のすべてが女性、母親のみに負わせられていると言っても過言ではないだろう。
 表5-6は妻の就業形態別に、平日の家事労働時間を比較したものである(水野谷他、八八二 >167> 頁)。妻がフルタイムで働いている場合、夫たちは一日平均四一分家事労働をしている。しかし妻が専業主婦の場合、夫の家事労働時間は一四分にすぎない。注目すべきは、妻がパートで働きに出たとしても、夫の家事時間にほとんど変化がないという点だろう。現実にはパート収入がなければ生活できない家庭が多いにもかかわらず、「パートに出るなら、家事も完璧にこなせ」という夫たちの勝手な言い分が聞こえてくるかのようである。他にもいくつかの調査結果をくらべてみたが、ほとんど同様の傾向が示されている(堀内他、二一一頁および貴志他、七頁)。つまり、在宅ワークをやめてパートに出たとしても、家事労働に関する限り、夫の支援はあてにできないのである。

夫の働き方と妻の在宅ワーク
 けれども家事を手伝わないからといって、夫たちを非難することができるだろうか。もう一度、Fさん(一四〇頁)とGさん(一四五頁)の一日に注目してほしい。ふたりの夫たちは毎日のように帰宅が深夜だというが、それは日本の日本社会では、決してめずらしい働き方ではない。第3章で取り上げたMRたちも、帰宅時間は早いが、一日一二時間労働は当たり前という働き方をしている。妻が専業主婦であれ、パートタイマーであれ、午後一一時に帰宅する夫たちが、 >168> 家事労働に携わることは困難である。
 このような男たちの長時間労働の背景には、その妻たちが家事・育児のほぼ一〇〇%を負担しなければならないという前提がある。その一方で、多くの家庭の生計は、女性の賃金労働なしには成り立たない。このような生計上の現実と、女性がすべての家事を担うべきというタテマエは、大きな矛盾を引き起こす。
 N・チョドロウによれば、「今日のおんなは、四六時中、母親でありながら、有給労働にたずさわることを期待され、もし、保育園を要求すれば、母親らしくないと思われ、夫からの援助を期待すると貪欲で理不尽とみなされ」る始末である(チョドロウ、三一九頁)。
 家事も育児もひとりで完璧に行おうとするなら、正社員でもパートでも、外へ働きに出ることは難しいだろう。そのうえで収入を得ようとするから、在宅ワークは数少ないというより、ほとんど唯一の選択肢となる。その在宅ワークですら、「家事優先」のプレッシャーから逃れられるわけではない。
 皮肉なことに、Gさんは夫の帰宅が遅いことも在宅ワークを続けられる条件のひとつだという。なぜなら、一日五、六時間も在宅ワークに従事しているので、どうしても家事がおろそかになる。もし夫が毎日早い時間に帰宅するようであれば、その手抜きが目について、たぶん問 >169> 題になるだろう。休日以外は夫の家にいる時間が短いので、手抜きが目につきにくく、問題が起こらないのではないかと思う。

 在宅ワークは、言うまでもなく家庭内労働であるが、女性がなぜ家庭内労働を選ぶのかという問いに対する答えの根源的な部分は、単に仕事と家事・育児との両立の必要性にとどまるものではない。結局、この社会が女性を家庭にしばりつけているのである。そのような視点からみたとき、「女性の能力を活用する」はずのテレワークが、女性の家事労働への緊縛を強化するという面も否定できない。在宅ワークであれ、在宅勤務であれ、家事との両立をめざす女性労働には、間接的にせよ「家事育児は女の仕事」というジェンダー・バイアスを強化する一面があることを、忘れてはならないだろう。(pp.165-169)


■書評・言及



*作成:北村 健太郎
UP:20091114 REV:
ワーク・ライフ・バランス  ◇女性の労働・家事労働・性別分業  ◇身体×世界:関連書籍 2005-  ◇BOOK
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