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『刑罰論序説』

大越 義久 20080530 有斐閣,184p.


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■大越 義久 20080530 『刑罰論序説』,有斐閣,184p. ISBN-10:4641042535 ISBN-13:978-4641042537 \1995 [amazon][kinokuniya] c0134

■内容紹介
刑罰の目的に≪犯罪抑止≫があることは否定できない。しかし,現在の刑罰は犯罪抑止策として有効なのか? そうでなければなぜ犯罪者は処罰されるのか? 刑罰の理論と現実を対比しながら,刑罰について考えていく。刑事政策の入門書として。

■著者紹介
大越義久[オオコシヨシヒサ]
1949年3月27日生。現職、神戸大学法学部教授、大阪地方裁判所判事を経て、東京大学大学院総合文化研究科教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

■目次

T ガイダンス
 1. 近年の刑事立法ラッシュ
 2. 犯罪,刑罰,刑事裁判
 (1)犯罪 (2)刑罰 (3)刑事裁判
 3. 犯罪と刑罰の現状
 (1)捜査段階での処理状況 (2)地方裁判所での処理状況 (3)高等裁判所での処理状況 (4)最高裁判所での処理状況 (5)裁判確定人員
U 我が国における刑罰の歴史
 1. 氏族時代
 2. 律令時代
 (1)律令時代前期 (2)律令時代後期
 3. 武家法時代
 (1)武家法時代初期――御成敗式目 (2)武家法時代中期 (3)武家法時代後期
 4. 明治時代の刑罰
 (1)旧刑法以前――律令への復帰 (2)旧刑法――ヨーロッパ式刑法の導入 (3)現行刑法
V 死刑
 1. 我が国における死刑の歴史
 (1)明治憲法時代まで (2)日本国憲法下における議論
 2. 死刑の現在
 (1)現行法の死刑犯罪 (2)死刑執行の手続き (3)死刑の運用 (4)死刑囚の一日 (5)死刑囚と無期囚 (6)死刑の執行
 3. 死刑の存廃論
 (1)死刑廃止論 (2)死刑存置論 (3)刑罰としての死刑――威嚇力と応報感情の点から
 4. 死刑についての司法判断――死刑と憲法
 (1)死刑は「残虐な刑罰」か? (2)絞首刑は「残虐な刑罰」か? (3)絞首刑は「法定の手続」か? (4)死刑選択の基準は何か? (5)死刑と無期を分ける基準は何か?
 5. 死刑と形而上学
 (1)社会契約説と死刑 (2)功利主義と死刑
 6. 死刑と科学主義――新派刑法学
W 自由刑
 1. 近代自由刑の起源と歩み
 (1)アムステルダム懲治場 (2)懲治場の普及 (3)我が国の明治以降の処遇制度の歩み (4)分類処遇と累進処遇
 2. 自由刑の現在
 (1)我が国の自由刑――刑務所の現在 (2)刑務所の一日 (3)拘禁下での処遇の効果と弊害
 3. 自由刑についての司法判断――自由刑と憲法
 (1)無期懲役刑は「残虐な刑罰」か? (2)禁錮刑は「勤労の権利・義務」に反するか?
X 財産刑
 1. 財産刑の歴史
 2. 財産刑の現在
 (1)現行刑法典の財産刑犯罪 (2)裁判と財産刑
 3. 財産刑の課題
Y 現代社会の犯罪と刑罰
 1. 少年法の改正
 (1)改正前少年法 (2)第一次改正少年法 (3)改正の方向――「厳罰化で歯止め」 (4)第一次改正少年法の運用状況 (5)第二次改正少年法
 2. 心神喪失者等医療観察法
 (1)制定以前の状況 (2)心神喪失者等医療観察法の問題点 (3)見切り発車の施行 (4)現在の状況
 3. 環境保護と刑法
 (1)現行法のシステム (2)特別刑法と環境保護 (3)刑法の役割
 4. 共謀罪の新設
 (1)その経緯 (2)根底にあるもの
Z 中間的帰結…「刑罰の理論」に代えて
 1. 刑罰の理論と実際
 (1)犯罪者の追放 (2)犯罪者の隔離 (3)犯罪者の矯正?
 2. 我が国の再犯防止教育
 (1)改善指導 (2)性犯罪者処遇プログラム
 3. 社会政策としての刑罰
 4. 犯罪防止対策
おわりに
参考文献
索引

■引用

「武家法時代後期
 江戸時代の刑罰は、「武士に対する刑罰」と「庶民に対する刑罰」の2本立てであった。
 武士に対する刑罰
 武士に対する刑罰は、主君と家臣の関係に基づく懲戒であった。
 「厳重注意」としては叱があり、「停職+謹慎」としては、遠慮>38>(門を閉じて家にこもること、役についている者が一時役所出所を差し止められること)、押込(一定期間閉居させ出入りをさせないこと)、逼塞(門を閉ざして白昼の出入りを許さないこと。30日か50日)、閉門(100日位門を閉じて召使いの出入りさえも許さなかったもの)、蟄居(一室に閉じこめて謹慎させるもの。閉門より重い。終身蟄居させることを永蟄居という)があり、「懲戒免職+財産刑」としては、高召上、扶助召放(家禄を召し上げること)、改易(家禄を没収し、平民としたこと)があり、「追放刑」としては、追放、永預(無期他家に禁錮すること)、遠島があり、「生命刑」としては、切腹、斬罪があった。
 これらは、江戸時代を通じて、本質的な変化はなかった。
 庶民に対する刑罰
 徳川吉宗(1684〜1751。享保元〔1716〕年に8代将軍になる)は、武士に対する刑罰体系を修正・補充し、庶民に対する刑罰体系を作り上げた。寛保2(1742)年の御定書百箇条が、それである。「よらしむべし、しらしむべからず」との統治の理念から、公表は禁じられていた。全国の領主の下で、土地に定住させられ生産に携わっている庶民を対象とし、刑罰によって庶民が失われることを防止しようとしたのである。
 正刑は、「生命刑」、「追放刑」、「敲刑」であり、入墨刑は属刑の1つであった。
 @「生命刑」としては、鋸挽(竹鋸で首を挽いた後に磔殺する。主殺に対して)、磔(磔にして槍殺する。古主殺、親殺、師匠殺、主人傷害などに対して)、獄門(斬首した後にその首を晒す。追剥、主人の妻と密通した男、毒薬売、関所をよけて山越えした者、贋秤、枡の製造者などに対して)、火罪(焼き殺す。火付けに対して)、死罪(斬首+家・家財の没収〔+引廻〕。10両以上の盗み、他人の妻との密通〔男女とも〕、利欲にかかわる殺人などに対して)、下手人(斬首。喧嘩口論による殺人などにい対し>39>て。下手人とは、元来、手を下して殺した者という意味であるが、手を下して殺した者は死刑に処せられる定めだったので、自然と死刑の意味に用いられるようになったとされている〔石井『江戸の刑罰』30頁〕)が、存在した。
 A「追放刑」としては、遠島(女犯の寺持僧、過って人を殺した者、不受不施派類の法をすすめる者などに対して。江戸は伊豆七島、京都・大阪・西国・中国は壱岐・隠岐・天草・薩摩五島。士庶の別なく、動産不動産共に没収する)、重追放(関所を忍び通った者、女の得心がないのに押して不義した者などに対して)、中追放(主人の娘と密通した者、口留番所を女を連れて忍び通った者などに対して)、軽追放(縁談の決まった女と不義した男、帯刀した百姓・町人などに対して)、江戸払(酒狂で人に手傷を負わせた武家の家来、追放者を隠した者などに対して)、追院(寺院の品の売渡証文で借金をした僧などに対して)があった。
 B「敲刑」は、耳切り、鼻そぎの肉刑を不可として、それに代わるべき刑として創られたものである。男子のみの刑であり、軽重があった。敲は笞50(軽い盗み、湯屋での衣類着替え、盗物と知りながら預かることなどに対して)、重敲は笞100.
 C属刑としては、入墨(いったん敲になった上での軽い盗みなどに対して)、晒(本刑前1日引廻し、刑後3日刑場に晒す。僧侶の場合には、市上に拘縛し、3日衆に晒す)、非人手下(身分を非人に切り替えられる。三笠附の句拾い〔賭博の一種〕、取抜無尽〔富くじに似たもの〕の札売り、下女と相対死して生き残った主人などに対して)、闕所(動産、不動産の没収)があった。
 D閏刑としては、手鎖(両手に手錠をかける。30日、50日、100日。寺社附の品を書き入れた俗人、夫のない女と密通して誘い出した者などに>40>対して)、過料(銭3貫以上5貫以下、銭10貫、財産相応。田畑を永代売した者、拾い物して訴え出ない者などに対して)、閉戸(門戸を鎖し営業を停止させる。20日、30日、100日)が、存在した」(pp.38-41)

江戸時代の牢屋
 江戸時代に牢屋は存在したが、現在の刑務所とは異なるものであった。たとえば、小伝馬町牢屋敷は、「牢屋敷」(2677坪余り、表口52間余り、奥行50間)であり、囚獄(牢屋奉行)石出帯刀(徳川三台将軍の抜擢を得て牢屋奉行の役を承り、>42>小伝馬町牢屋敷の平面図(注)『古事類苑』より。(省略)>43>17代に及ぶ。与力の格式で町奉行の支配下にあり、役高は300俵である)の「役宅」、牢役人(同心。定員は58名)の「執務室」、「獄舎」、「刑場」から成っていた。
 獄舎には、「揚座敷」、「揚屋」、「大牢」、「二間牢」、「百姓牢」が設けられていた。大名や500石以上の直参は牢屋敷には収容されないが、武士や僧侶は格式により、揚座敷か揚屋に収容される。庶民は、狭義の牢である、大牢、二間牢、百姓牢に収容される。女性は分隔するが、雑居拘禁であり、作業を科せられることはなかった(図U‐2)。そこでは、公のものではないが、役付囚人(12人)と平囚人から成る牢名主制が敷かれていた(牢が混んでくると、「作を造る」という私刑が行なわれていた)。
 牢屋の機能には、以下の4つがあった。
 @刑事裁判で取調中の者を収容する未決拘留の場所として用いられた。拷問も、ここで行われた。もっとも、全ての者が拷問にかけられたわけではない。拷問にかけられたのは、犯行の証拠があるにも関わらず自白しない者、ならびに共犯者は自白しているにも関わらず自白しない者である。拷問の方法としては、笞打、石抱、海老責、釣責の4つが有名である。さらに、拷問にかけることができる犯罪は、限定されていた。享保7(1722)年に、人殺し、火付け、盗賊と定まり、元文5(1741)年に、関所破り、謀書(文書偽造罪のこと)、謀判(印章偽造罪のこと)が加えられた。それ以外の者を拷問にかける場合には、奉行衆評議の上、申上しなければならなかった。
 A有罪判決を受けた者を刑の執行まで拘置する場所として使用された。
 B永牢(無期禁錮刑。旧主に仇を為した者、女犯の僧などに科せられ>44>た、過怠牢(30日か50日の禁錮刑。敲刑の換刑としての入牢)という刑罰を執行する場所として使われた。しかし、これは例外的な使用方法であった。
 C刑場(私刑、入墨刑の執行)でもあった。敲刑は牢屋の門前で執行された。なお、私刑の刑場を「切場」という(俗に「土壇場」ともいう。ニッチモ、サッチモいかなくなったことを「土壇場」とうのは、ここからきている)。首切り役は町同心の持役であるが、町同心が頼んだ場合には、刀のおためし御用が本職であった山田朝右衛門(首切朝右衛門)が、首切り役を勤めた」(pp.42-45)

「近代刑法学には、犯罪の原因を、行為者の自由意志に求める立場(旧派)と行為者の性格・環境に求める立場(新派)がある。
 刑務所が犯罪原因を除去する場所であるとすると、「旧派」からは、犯罪は、行為者の自由意思の産物であり(非決定論)、それに対する刑罰は応報であるので、処遇内容は反省・自覚を促すもの(たとえば、ペンシルバニア制)という構図になる。そうすると、刑務所での作業は受刑者に反省・自覚を必然的にもたらすものではないので、これまでの作業中心の処遇内容を変える必要がある。しかし、実際に処遇内容を具体的に決定することは困難である。受刑者の反省・自覚を促すものは一様ではあり得ず、かつ、旧派からすれば、反省・自覚はあくまでも本人の自由意思から生まれるものだからである。
 これに対して、「新派」からは、犯罪は、行為者の性格・環境から生ずるものであり(決定論)、刑罰の目的は犯罪予防にあるので、処遇は再犯防止を内容とするもの(性格を変える、環境を変える)との構図になる。
 しかし、環境は変えることができても、性格を変えることはできないのではないかとのプリミティブな疑問が生じる。まず、作業中心の施設内処遇では受刑者の犯罪性格を変えることはできない。したがって、この立場からも、処遇内容を変える必要がある」(p166)

「犯罪を防止するためには、犯罪を生じさせる原因を除去しなければならない。これまでは、犯罪者に着目して議論をしてきた。犯罪の原因を犯罪者にだけ求めてきたともいえる。このことは、見方を変えれば、犯罪の責任を犯罪者にだけ押しつけることにもなる。だが、視野を少し広げた場合には、犯罪者に犯罪原因を求めるだけでなく、犯罪の原因は複合的であると考えることもできる。
 その際、ホッブズが明言しているように犯罪の防止は国の任務であるとすると、犯罪防止のために犯罪原因を除去しようとする場合には、犯罪原因が複合的に存在するのであれば、犯罪原因に即した>174>多方面での施作が必要になり、当然のことながら、犯罪者を単に刑務所に隔離するだけでは済まないことになる。
 これまでも、犯罪原因を探求する試みは、生物学、心理学、社会学の知見を用いてさまざまな観点からなされてきた。しかし、犯罪の原因を探ることには常に困難が伴う。犯罪はどれも歴史的には一回的事実であり、犯罪には個性があるので、犯罪を個別的・具体的に観察した場合には、犯罪原因は多種多様になるのに対して、犯罪をグルーピングしたりして包括的に捉えた場合には、事実が抽象化される結果、抜け落ちる(無視される)犯罪原因も自ずと出てくるからである。「犯罪原因論」の難しさは、ここにある。
 そのことを前提にした上で、たとえば、犯罪者、被害者、社会環境のそれぞれに、大小の差はあっても犯罪原因はある、と敢えて考えてみることにしよう。
 その場合には、犯罪の原因を除去するためには、犯罪者を刑務所に収監し犯罪者に悔悟させるなどして犯罪者にある犯罪原因を除去するだけでは足りず、被害者の改善や防犯運動などを通して被害者にある犯罪原因を除去し、社会にある犯罪原因については失業対策などの社会環境(少年犯罪の場合には、とくに家庭環境)の改善によって除去しなければならないことになる。病気を治すためには、外科手術と体質改善の両者が必要であることに似ている。その際、留意しなければならないことがある。健康回復のためとはいえ、患者の体力を奪う外科手術の多様は控えるべきであるということである。患者の死を引き起こすことにもなりかねないからである」(pp.174-175)

■書評・紹介

■言及



*作成:櫻井 悟史 
UP:20080922 REV:
「死刑執行人」  ◇身体×世界:関連書籍 2005-  ◇BOOK
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