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『労働搾取の厚生理論序説』

吉原 直毅 20080228 岩波書店,298p.


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吉原 直毅  20080228 『労働搾取の厚生理論序説』(一橋大学経済研究叢書 55), 岩波書店,298p. ISBN-10: 4000099140 ISBN-13: 978-4000099141 \5460 [amazon][kinokuniya] ※ w01

■出版社による紹介

「格差社会」化やワーキング・プア問題が焦眉の現代において,マルクス『資本論』の労働搾取概念は主流派経済学の理論体系にはない独自性を持つ厚生理論である.本書では,現代経済学の手法によって,労働搾取概念を厚生経済学における一つの非厚生主義的well−being指標として,その理論的再構成を探求するプレリュードである.

■著者による紹介

吉原 直毅 「吉原直毅『労働搾取の厚生理論序説』(岩波書店, 2008年2月刊行予定)について」
吉原 直毅 『労働搾取の厚生理論序説』

■目次

第1章 今、なぜ労働搾取理論なのか?
  1.1 現代における貧富の格差問題
  1.2 労働搾取概念に基づく市場経済の厚生的特徴分析
  1.3 本書における方法論と各章の構成について
第2章 マルクス的一般均衡モデルと均衡解概念
  2.1 基本的生産経済モデル
  2.2 再生産可能解
  2.3 再生産可能解の存在定理
  2.4 一般凸錐生産経済の特殊ケース:フォン・ノイマン経済と均斉成長
  2.5 マルクス的均衡解に関する厚生経済学の基本定理
  2.6 労働者階級内の異なる消費選好の存在する経済での均衡解
第3章 レオンチェフ経済体系におけるマルクスの基本定理
  3.1 森嶋型「労働搾取率」及びマルクスの基本定理
  3.2 労働価値説と転化論
  3.3 数理マルクス経済学による,労働価値説の限界の露呈
  3.4 転化問題に関する“New Solution”アプローチ
  3.5 「マルクスの基本定理」の厚生的含意
第4章 一般的凸錘生産経済におけるマルクスの基本定理
  4.1 森嶋型労働搾取に基づくマルクスの基本定理
  4.2 代替的労働搾取の定式に基づくマルクスの基本定理の可能性:その1
  4.3 代替的労働搾取の定式に基づくマルクスの基本定理の可能性:その2
  4.4 労働者階級内の異なる消費選好の存在する経済でのマルクスの基本定理の可能性
  4.5 所得依存的労働搾取の定式の下でのマルクスの基本定理の可能性
  4.6 結論に代えて
第5章 搾取と階級の一般理論
  5.1 基本的生産経済モデルと再生産可能解
  5.2 階級−富対応関係
  5.3 富−搾取対応関係
  5.4 階級−搾取対応原理
  5.5 一般的凸錐生産経済における「階級−搾取対応原理」の成立の困難性
  5.6 新しい労働搾取の定式下での階級−搾取対応原理の成立
  5.7 所得と余暇に対する選好を持つ経済環境での搾取と階級の一般理論
  5.8 マルクス的労働搾取概念の意義――ジョン・ローマーの位置づけ
  5.9 マルクス的労働搾取論の限界?
第6章 搾取・富・労働規律の対応理論
  6.1 基本的生産経済モデルと再生産可能解
  6.2 再生産可能解の存在問題
  6.3 富−労働規律対応関係
  6.4 富−搾取−労働規律対応関係
  6.5 結論
第7章 労働搾取理論の公理的アプローチに向けて
  7.1 「マルクスの基本定理」問題における「労働搾取の公理」
  7.2 「階級搾取対応原理」問題における「労働搾取の公理」
  7.3 労働搾取の3つの代替的アプローチ――労働スキルの個人間格差の存在する生産経済への労働搾取理論の拡張可能性

■引用

第1章 今、なぜ労働搾取理論なのか?
  1.1 現代における貧富の格差問題
  1.2 労働搾取概念に基づく市場経済の厚生的特徴分析
 「1970年代における「マルクス・ルネッサンス」の影響下で、現代的な数理的分析手法を用いて、マルクスの経済理論を再構成する研究が活性化した。しかしそれらの研究成果は基本的に、古典的なマルクス主義の経済学体系の理論的土台の堅固性に疑問符を突きつける効果を持っていたのである。具体的には、例えば、古典的なマルクス主義の経済理論はいわゆる投下労働価値説(labor theory of value)」を理論的土台にして構築されたものであるが、この投下労働価値説の理論的頑健性に重大な問題があることが次第に明らかにされてきたのである。マルクスの労働搾取論もまた、投下労働価値説を理論社的土台として構築されたもの故、投下労働価値説への批判は、労働搾取論の学問的影響力低下へと波及する効果があった。」(吉原[2008:8])

第5章 搾取と階級の一般理論
 「剰余生産物が利潤として資本家に帰属するのは、いかなるメカニズムによって説明されるだろうか? それは、労働者からの剰余労働物の掠め取りではなく、むしろ生産手段の不均衡な私的所有と市場における資本の労働に対する相対的希少性ゆかに、その資本財の所有主体である資本家に帰属すべく発生するレント(rentr=賃料)が、正の利潤であるという説明で十分である。」(吉原[2008:171])

第7章 労働搾取理論の公理的アプローチに向けて
 「今や、労働価値説は市場の交換関係を説明する理論社とは成り得ない事が知られる様になり、さらに7.1節と7.2節の結論によって、労働搾取論もまた、資本主義経済の客観的運動法則に関する理論ではなく、むしろ特定の規範的評価基準に基づく、資本主義経済の規範的特徴付けの為の理論である事が明らかになったきたと思う。各労働者もしくは各個人の取得労働時間がどの様に確定されるかという問題は、客観的かつあたかも自然科学的に自ずから一つの数値に確定されるという類いの話ではなく、むしろ人々の納得と合意を以って確定されるべき数値であるという意味において、規範的評価の関わる問題と考えるべきなのである。」(吉原[2008:274])

■書評・紹介

◆立岩 真也 2009/02/01 「二〇〇八年読書アンケート」,『みすず』51-1(2009-1・2 no.569):-


*作成:坂本 徳仁立岩 真也
UP:20080721 REV:20081105, 20090727
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