第1章 今、なぜ労働搾取理論なのか?
1.1 現代における貧富の格差問題
1.2 労働搾取概念に基づく市場経済の厚生的特徴分析
「1970年代における「マルクス・ルネッサンス」の影響下で、現代的な数理的分析手法を用いて、マルクスの経済理論を再構成する研究が活性化した。しかしそれらの研究成果は基本的に、古典的なマルクス主義の経済学体系の理論的土台の堅固性に疑問符を突きつける効果を持っていたのである。具体的には、例えば、古典的なマルクス主義の経済理論はいわゆる投下労働価値説(labor theory of value)」を理論的土台にして構築されたものであるが、この投下労働価値説の理論的頑健性に重大な問題があることが次第に明らかにされてきたのである。マルクスの労働搾取論もまた、投下労働価値説を理論社的土台として構築されたもの故、投下労働価値説への批判は、労働搾取論の学問的影響力低下へと波及する効果があった。」(吉原[2008:8])