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『介護保険制度の政策過程――日本・ドイツ・ルクセンブルク 国際共同研究』

和田 勝 編 200708 東洋経済新報社,589p. ISBN: 4492701206 6090


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■和田 勝 編 20080220 『介護保険制度の政策過程――日本・ドイツ・ルクセンブルク 国際共同研究』,東洋経済新報社,589p. ISBN: 4492701206 ISBN-13: 978-4492701201 6090 [amazon] ※


■目次

はじめに  B
第1部 3ヵ国の介護保険制度比較

第1章 3ヵ国の制度の相違点比較  ……  2
第2章 3ヵ国の介護保険の制度化の背景  …… 7
 1 共通点     7
 2 各国の相違点  8
  2−1 社会保障制度をめぐる状況の差異 8
  2−2 国(連邦政府)と地方自治体(州、コミュニティ)との関係、歴史的、地勢的な差異 8   2−3 各国特有の問題  9
第3章 3ヵ国の介護保険制度の主な相違点とその要因考察 … 16
 1 被保険者および受給者の範囲  16
     対象範囲の差異とその背景 16
 2 給付方式 20
  2−1 現物支給と現金支給  20
  2−2 ドイツにおける現金支給 21
  2−3 ルクセンブルクにおける現金支給 21
 3 介護サービス施設  22
  3−1 ドイツ 23
  3−2 ルクセンブルク 24
  3−3 日本   24
 4 保険者   27
  4−1 ドイツ 27
  4−2 ルクセンブルク 27
  4−3 日本  27
 5 要介護認定とケアマネジメント  28

 第2部 日本の介護保険制度

第4章 日本の介護保険制度の基本的な特徴  32
第5章 介護保険制度創設論議の底流  36
 1 介護保険制度論議についての評価 36
 2 制度化論議を促した複数の流れ  39
  2−1 老人保健制度の見直し 39
  2−2 措置制度の下での介護サービスの提供と利用における問題 40
  2−3 社会的入院・介護サービスの質・介護サービス提供基盤の整備確保の問題 41
  2−4 民間営利法人、非営利法人の参入促進  44
  2−5 地方分権、国保制度改革の促進  44
  2−5 保険給付の重点化と財源  44
 3 日本の介護保険制度創設の背景  45
  3−1 介護問題への国民的関心の増大  45
  3−2 税制改革との関連  46
  3−3 財政問題との関連  46
    3−4 政治情勢  48
  3−5 現役世代と高齢者世代の世代間公平の確保  48 
  3−6 措置制度がもたらした問題の解消  49
  3−7 実データに基づく基盤整備  49
  3−8 第三者が関与するケアマネジメントの仕組みの試行 49
  3−9 老人保健拠出金問題の打開  51
第6章 介護保険制度創設をめぐる利害関係と調整  53
 1 政治経済情勢の変化  53
 2 介護保険の諸課題と利害関係者  53
 3 主要な関係者・組織  56 
  3−1 厚生省関係  56
  3−2 社会保険制度審議会 56 
  3−3 大蔵省関係  62
  3−4 自治省関係  62
  3−5 地方自治体  63
  3−6 与党  64
  3−7 経営者団体  64
  3−8 日本医師会  66
 4 厚生省のプロジェクトチームの基本的なスタンス  67
  4−1 社会保険主義  67
  4−2 サービス基盤の整備が前提  67
  4−3 措置制度の限界  68
  4−4 社会保障給付費の配分見直し  68
  4−5 介護と医療の関係整理   68
  4−6 介護サービス施設体系の整理  69
 5 事務局内部における基本的な合意点  71
  5−1 現金給付は行わず、介護サービス基盤整備を重視する  71
  5−2 サービス給付の効率化、適正化につながる新たな仕組みの導入  72
  5−3 サービスの供給における市場原理の導入  72
  5−4 高齢者と若年者の間の負担の公平  72
  5−5 予防重視の制度とする  73
  5−6 医療保険、老人保健における従前の失敗を繰り返さない  73
  5−7 高齢者の権利を擁護する仕組みを整える  74
 6 創設論議の過程における特徴   74
  6−1 利害関係グループに対する積極的な合意形成  74
  6−2 介護保険賛成世論、支持グループへの働きかけ 75
  6−3 資料・情報の公開  75
  6−4 与党福祉プロジェクトの役割  75
  6−5 世論啓発、世論調査  76 
  6−6 実施までの十分な準備期間  79
第7章 介護保険制度の創設家庭   80
 1 第1期 平成5(1993)〜9(1997)年(高齢者介護対策本部設置から介護保険法案可決まで) 80
  1−1 高齢者介護対策本部の設置  80
  1−2 老人保健福祉審議会と与党内での論議  85
  1−3 介護保険法案の国会提出と成立  93
 2 第2期 平成10(1998)〜12(2000)年3月(法成立から施行準備、施行直前の混乱) 98
  2−1 施行準備と市町村の動向  98
  2−2 介護保険実施延期論の浮上 101
  2−3 「介護保険特別対策」の決定 103
  2−4 施行直前の状況  107
 3 第3期 平成12(2000)年4月〜16(2004)年(介護保険の開始とサービスの急速な拡大) 109
  3−1 平成12(2000)年4月1日・介護保険スタート 109
  3−2 サービスの「質」の急速な拡大と「質」の向上への取組み  111
第8章 介護保険制度の5年後見直し  116
 1 介護保険制度の実施状況 117
  1−1 被保険者数の推移 117
  1−2 要介護認定者数の推移 117
  1−3 「認定率」の推移  117
  1−4 介護サービス利用者数の推移 119
  1−5 介護保険財政の状況  122
  1−6 介護給付量の状況   124
  1−7 介護サービス事業所数の推移 125
  1−8 在宅サービス事業所数の構成割合(サービス事業主体別) 126
  1−9 地域差の状態 127
 2 介護保険制度の見直し課題  128
  2−1 見直し課題の類型 128
  2−2 見直しの基本的視点 129
  2−3 制度発足時からの積み残し課題 131
  2−4 制度自死過程における課題  134
  2−5 高齢者医療制度など社会保障制度全体と関連する課題  134
 3 社会保障審議会における改革論議 136
 4 平成17(2005)年介護保険制度改革の主な内容  137
  4−1 予防重視型システムへの転換  138
  4−2 給付範囲の見直し  138
  4−3 新たなサービス体系の確立  138
  4−4 サービスの質の向上  140
 5 日本の介護保険制度の今後の課題  141
  5−1 被保険者・受給者の範囲(被保険者の年齢問題)  141
  5−2 療養病床の見直し  145
  5−3 医療と介護の関係整理――サービスの一元化 145
第9章 平成18(2006)年度の介護報酬改定  148
 1 新予防給付の創設  148
 2 施設給付の見直し  148
 3 新たなサービス体系(地域密着型サービスの創設)  151

第3部 ドイツの介護保険制度

はじめに  154
 1 歴史的背景  154
 2 20年に及ぶ論議 155
 3 生活リスクとしての要介護状態 156
 4 認知症 157
第10章 法定介護保険  159
 1 概要 159
  1−1 介護保険制度の目的 159
  1−2 2段階導入  160
  1−3 全国民に対する保険加入義務 160
  1−4 公的介護保険  161 
  1−5 民間介護保険  164
 2 要介護状態の概念と区分 165
  2−1 要介護状態の概念  165
  2−2 要介護状態の区分(介護等級)  167
  2−3 メディカルサービスによる認定手続き 169
 3 介護保険給付  172
  3−1 在宅介護給付  172
  3−2 介護者に支障がある場合の在宅介護 175
  3−3 家族や非職業的介護者のための介護講習 176
  3−4 介護者への社会保障給付  176
  3−5 在宅介護における介護補助具と技術的援助  177
  3−6 住宅改修補助金  178
  3−7 部分施設介護(デイケア、ナイトケア) 178
  3−8 ショートステイ  179
  3−9 完全入所介護  179
  3−10 障害者施設の完全入所施設介護  180
  3−11 全般的な世話の必要性が高い要介護者の給付 181
  3−12 給付の推移  181
 4 リハビリテーションの優先 184
 5 要介護者の疾病治療  186
  5−1 医師による治療  186
  5−2 医学的治療ケア 187
 6 サービス供給契約および介護報酬  189
  6−1 サービス供給契約による介護市場参入の認可  190
  6−2 介護サービスに関する枠組条約と連邦勧告  192
  6−3 施設介護報酬  195
  6−4 在宅介護報酬  201
 7 投資の促進 207
  7−1 二元的財政システム 207
  7−2 旧東独地域における当初の財政プログラム 208
第11章 第1次改革  210
 1 介護品質保証法  211
  1−1 施行の必要性  211
  1−2 介護品質保証法  214
 2 介護給付補完法  223
  2−1 立法趣旨  223
  2−2 制度の対象 225
  2−3 法律の個別措置 226
  2−4 実施状況  228
  2−5 今後の対策  232
 3 介護保険 子の養育考慮法 235
  3−1 平成13(2001)年4月3日連邦憲法裁判所判決  235
  3−2 法律の概要  237
第12章 評価と展望  239
 1 プラス評価  239
 2 新たな挑戦 241
 3 介護保険改革への取組み  242
  3−1 平成14(2002)年7月22日ドイツ連邦議会決議  242
  3−2 平成14(2002)年10月16日の連立協定 243
  3−3 平成16(2004)年5月7日ドイツ連邦議会決議 244
  3−4 改善の必要性  245
  3−5 連邦政府への要請  248
 4 第3回介護報告書における改革のための注意事項(平成16(2004)年11月)  251
 5 平成17(2005)年秋における連邦議会選挙での介護保険に関する選挙公約   252
  5−1 ドイツ社会民主党(SPD)の政策綱領 252
  5−2 同盟90/緑の党の平成17(2005)年選挙公約  253
  5−3 キリスト教民主同盟(CDU)とキリスト教社会同盟(CSU)の共通の政策綱領2005-2009  254 
  5−4 ドイツ自由民主党(FDP)の政権交代綱領 256
第13章 20年間の及ぶ論議の回顧  258
 1 諸団体の案  258
 2 連邦各州および各政党の法案  259
  2−1 緑の党 259
  2−2 ヘッセン州 260
  2−3 バイエルン州 260
  2−4 ラインラント=プファルツ州  261
  2−5 ドイツ社会民主党(SPD) 261
 3 主な争点と基本モデル 262
  3−1 内容上の争点  262
  3−2 基本モデル  263
 4 連邦政府のイニシアチブ(昭和52(1977)〜63(1988)年)  264
  4−1 昭和59(1984)年の報告書  264
  4−2 昭和61(1986)年の介護改善法案 265
  4−3 医療保険構造改革法(昭和63(1988)年)  265
 5 平成5(1993)年の介護保険法までの道のり  266
  5−1 新しい取組み 266
  5−2 平成3(1991)年1月16日の連立協定  268
  5−3 原則をめぐる政府与党間の論議  269
  5−4 諸団体の抵抗  269
  5−5 平成5(1993)年5月27日の政府与党の合意原則  270   5−6 立法手続き 271

 第4部 ルクセンブルク大公国の介護保険制度

第14章 ルクセンブルクの介護制度の動向  276
 1 歴史的な枠組み 276
 2 介護保険以前の高齢者・障害者政策の変遷 278
 3 介護保険に備えた環境整備 282
  3−1 新たな施策の必要性  284
  3−2 疾病保険にとってのリハビリテーションという挑戦  284
  3−3 家庭領域での介護の優先性  285
  3−4 順応性のある給付の実現 286
 4 介護費用の資金調達  287
  4−1 疾病保険と介護保険の分離  287
  4−2 国の財政措置  288
  4−3 救急病院への収容  290
  4−4 混合型給付  290
  4−5 社会扶助  290
  4−6 外国の資金調達モデル 291
 5 介護保険導入のためのプロジェクト 291
 6 介護保険の基本事項  293
  6−1 介護依存状態(要介護状態)の定義の基礎  293
  6−2 因果関係の要素  293
  6−3 目的設定の要素  294
  6−4 閾値の要素  296
  6−5 要介護状態の期間の要素 296
 7 要介護状態の法律上の定義  297
 8 介護保険の目的 297
第15章 介護保険の構造  298
 1 序論 298
 2 給付の受給資格者 298
 3 申請手続き  299
  3−1 書面申請  299
  3−2 医学的報告書  300
 4 判定と給付決定 300
  4−1 序論 300
  4−2 判定の手段 301
  4−3 初回判定  301
  4−4 給付の決定 306
  4−5 現金給付と配分計画  307
  4−6 ケアプラン 308
  4−7 再判定 309
 5 決定手続き  310
  5−1 週決定 310
  5−2 特別な決定を必要とするケース  311
  5−3 関連権限組織 313
  5−4 訴訟  313
 6 給付  314
  6−1 受給権の開始  314
  6−2 在宅における現物給付  314
  6−3 現物給付の決定  317
  6−4 ケア施設入所中の現物給付  319
  6−5 在宅者への現金給付  320
  6−6 現物給付と現金給付  320
  6−7 介護・ケアに必要な物品  321
  6−8 医療機器・器具類  321
  6−9 住宅改修  321
  6−10 非職業的な介護者(介護を専門の職業とはしない介護者)への優遇措置  322
  6−11 さまざまなプロジェクトの試行  323
  6−12 その他の保険者の投入  323
 7 特別な措置  324
  7−1 看護セット  324
  7−2 入院・入所滞在費(ホテルコスト) 324
 8 財政    324
  8−1 財政システム 324
  8−2 国家による介入(財政負担)  325
  8−3 新しい財源  325
  8−4 その他の財源  325
  8−5 介護保険料  325
  8−6 保険料率  326
  8−7 賦課対象収入  326
  8−8 徴収方法 326
  8−9 組織  327
  8−10 介護保険給付サービス供給者との関係  330
  8−11 国際的側面  339

終章 3ヵ国に共通する今後の課題 341
 1 介護予防の重要性の高まり  341
 2 認知症対策の重要性の高まり  342 
 3 適切な要介護認定業務の実施、認定所要期間の短縮  343
 4 介護サービス基盤整備  343
 5 介護サービスの質の向上確保  344

付録  ドイツ、ルクセンブルク訪問調査記録  346

参考資料  377
 介護保険制度関連年表  569
 参考文献 583
 索引  587

■引用

「第2章 3カ国の介護保険の制度化の背景」

「2-3各国特有の問題」

「c. 日本
 高齢者介護サービスは、老人福祉と老人保健(医療)という2つの異なる制度の下で提供されていたが、利用手続きや利用者負担の面で差異があり(表2-3、図2-2)、国民にとって公平で総合的、効率的なサービス利用の障害となっていた。とりわけサラリーマン層は福祉サービスを利用しにくい実態があった。
 老人福祉制度については、措置制度により行政庁がサービスの種類、提供期間を設定し、利用者はサービスを自由に選択できない。
 老人保険では、医療の必要性に乏しい者が介護を主たる目的として一般病院に長期に入院する「社会的入院」が広範に存在し、5,000億円ないし1兆円にも上ると推定される医療費支出が行われていた。
 また、医療保険の保険者の共同事業としての性格を有する老人保健制度に関しては、老人保険拠出金の老人加入率上限の撤廃問題、負担上限の設定など制度の抜本的見直しをめぐる問題が深刻化していたが、関係者間の11>12利害が相反し、解決に至らないまま暫定的対応が重ねられていた。
 他方、平成元(1989)年に策定されたゴールドプラン(老人保健福祉推進10カ年戦略)に沿って介護サービス基盤の整備が進展し、また平成5(1993)年には市町村老人保健計画が策定され、さらに平成6(1994)年には新ゴールドプランも策定されるなど、新制度実施の受け皿整備のめどがある程度立ってきた。
 また、平成2(1990)年にバブル経済が崩壊した後、平成4、5年あたりから国の財政悪化が顕著になり、租税以外の財源として保険料、とりわけ高齢者自身の保険料負担導入が注目されるようになってきた。
 平成5(1993)年に自民党単独政権が終焉し、平成6(1994)年には自社さ連立政権が発足するなど政治状況が変化し、介護などの社会保障体制充実が実現しやすい政治的環境となった。
 さらに、地方分権の機運の高まりのなかで、市町村が主体的に取り組むべき課題として介護が重視されるようになり、これを可能とする新たなシステムが求められた(平成7(1995)年、地方分権推進法制定)。
 平成6、7年当時、厚生省事務局の作成した2つの説明資料(図2−1、図2−2)に、保険制度化の背景と狙いがよく整理され示されている。」(10-11)

図2-1「高齢者介護をめぐる問題状況」

○本格的高齢社会の到来  ○ 家族機能等の変容 
 ・高齢者の自立       ・家族形態の変化
 ・要介護者数の増加     ・女性就労の増加

○ 現行制度による対応の限界
 ・国民の介護への不安の高まり
 ・家族の過重な介護負担
 ・介護による離職の増加

→ 介護保険の導入が必要
(厚生省高齢者介護対策本部事務局資料 平成6年)

図2-2 新介護システムに関する基本的な視点

○ 老人福祉     ○ 老人医療

→ 新たな介護システム(基本的な視点)
 @ 医療・福祉などを通じ、高齢者の介護に必要なサービスを総合的に提供できるシステム
 A 高齢者本人の意思に基づき、専門家の助言を得ながら、本人の自立のために最適なサービスが選べる利用型のシステム
 B 多様なサービス提供機関の健全な競争により、質の高いサービスが提供されるようなシステム
 C 増大する高齢者の介護費用を国民全体の公平な負担により賄うシステム
 D 施設・在宅を通じて費用負担の公平化が図られるようなシステム
 (厚生省高齢者介護対策本部事務局資料 平成6年)

「第3章 3カ国の介護保険制度のおもな相違点とその要因考察」
「4 保険者」
「4-3 日本」
「平成18年(2006)年の医療制度改革法の成立により創設された後期高齢者医療制度において、都道府県単位ですべての市町村によって構成される広域連合が保険者になることとされ、これを国や都道府県、医療保険者等が重層的に支えることとされたのは、介護保険制度の考え方の延長線上にあるものといえよう」(28)

「第5章 介護保険制度創設論議の底流」
「1 介護保険制度論議についての評価」

「平成6(1994)年以降、新たな高齢者介護システムの創設に対する気運と関心が高まってきた」(36)

「平成年代に入って福祉8法が改正され、また、消費税の見直し論議の高まりのなかで、使途を介護分野に重点を置くゴールドプランの策定が大きな政策課題となってきた。ゴールドプラン策定の政策的支援材料とするために設置された厚生事務次官の私的懇談会「介護対策検討室」(座長・伊藤善市)は、平成元(1989)年12月、要介護者の生活の質を重視し、家族介護の発想からの転換を指摘した報告書をまとめた(参考資料《日本》4参照)。
 また平成4(1992)年には老人保健福祉部(部長・岡光序治)の部内作業チームが検討結果のとりまとめを行っているが、部内限定のものにとどまっており、入所型の介護施設サービスに関し、財政方式(医療保険方式、年金保険方式、私的保険方式)に力点を置いた論点整理となっている。
 平成5(1993)年8月、細川護熙連立内閣の大内啓吾厚生大臣は、就任早々持論に沿って長期ビジョンに即した社会保障体制を構築する必要があるという見地から高齢社会ビジョン懇談会(座長・宮崎勇)を設置し、同懇談会は翌年3月28日に報告「21世紀福祉ビジョン」をまとめた(p. 81, 図7-1参照)。
 また、平成5(1993)年10月、高齢者関係の3審議会委員で構成された「高齢者施策の基本的方向に関する懇談会」(座長・宮崎勇)が報告をまとめ、総合化・体系化の必要性と制度の再構築を指摘した」(37)

「同年11月、高齢者介護問題について古川貞二郎事務次官を長とした省内検討プロジェクトチーム(責任者・安部正俊審議官)が設置され、高齢者介護の現状と問題点、介護サービスとその供給のあり方、介護の費用負担のあり方、供給基盤整備のあり方、住宅対策、相続制度等について論点整理が進められた。財源調整、財政方式については、独立型社会保険方式と老人保健制度活用方式の両案が取り上げられ、論点整理が行われたが、これらは部内資料の扱いとされていた(参考資料《日本》5参照)。
 こうした経緯を振り返ってみると、高齢者介護に関連した胎動は深く強く見られたものの、日本において介護保険制度創設に向けた論議が本格的に動き出すのは高齢者自立支援システム検討会が検討を開始した平成6(1994)年7月以降と見ることができる。
 この時期に、日本では社会保障制度の持つ構造的問題が深刻化し、自民党単独政権崩壊、消費税導入といった政治・経済情勢の変化の下で、当面していた高齢者介護にかかわる諸問題の解決を志向して、介護保険制度創設が具体的な政治政策課題として表舞台に出てくることとなった。すなわち、日本の介護保険制度は、人口構造の変化、介護不安の深刻化、医療保険制度および老人保健制度並びに社会福祉制度の行き詰まりとこれら諸制度の改革をめぐる動向、財政とりわけ国庫の窮迫、社会保障の給付と負担の見直し要請、自民党単独政権の崩壊といった政治構造の変化など、社会経済的状況の変化の下で、その制度化が具体的日程に上るようになったのである。
 そうした意味で、日本の介護保険制度は、平成5(1993)年から8年末にかけて、政、官、学はじめ関係者の知識と経験を集めて検討が進められ、複雑な利害対立の調整過程を経て得られた種々の独自の工夫を入れ込んだモザイクのような成案であり、日本独自の制度であるととらえるほうが適当であって、ドイツなどの先行する制度モデルを下敷きとして具体化されたものではなかったといえるだろう」(38)

「2 制度化論議を促した複数の流れ」

「2-1 老人保健制度の見直し
 平成年代に入ると、老人保健制度は関係する各サイドから強く改革が求められるようになったが、大変厳しい利害対立の下で改革の方向と内容についてなかなかコンセンサスが得られないという事情があった。
 そこで、老人保健制度と重なり合うニーズを持つ高齢者介護分野で老人保健制度とは異なる考え方と仕組みで新たな社会的な介護支援システムをつくり、その考え方をモデルとして引き続き老人保健制度改革を実現したいという発想が生まれた。すなわち老人保健拠出金制度など財源構造問題、一部負担が定額制であるという問題、社会的入院のように好ましくないサービスの提供と利用の実態など、老人保健制度が直面している問題の改革につながる新たな仕組み39>40を模索しようということである。」

「2-2 措置制度の下での介護サービスの提供と利用における問題
 急速に増えていく介護サービスのニーズへの制度的対応が立ち遅れており、高齢者の介護サービスについては、入所施設利用および在宅サービスともに、老人保健法に基づく医療サービスと老人福祉法の措置制度による福祉サービスという両方の系譜に属するサービスが分立して存在していた。これらの間には利用手続きや財源構造、一部負担などにさまざまな違いがあり、社会的な公平40>41性や効率性という観点から見ても大きな問題があった(p. 15、図2-2、図5-1)。
 特に福祉の措置制度の下で、利用者側に恥の意識や抵抗感(いわゆる「スティグマ」)があってサービスが使いにくかった。またサラリーマン層にとっては一部負担金も高いなどから、利用しやすく公平な新たな制度がつくれないかという要請が強くなっていた。」(40-41)

「2-3 社会的入院・介護サービスの質・介護サービス提供基盤の整備確保の問題
 日本の医療の特徴の1つに、入院日数が欧米と比べて著しく長いこと、看護や介護のケアの体制が不十分であることが指摘されてきた。「付き添い」に伴う保険外負担は平成4(1992)年の健康保険法等の改正に伴う新看護体系の実施により解消されたが、改めてクローズアップされたのが社会的入院問題である。社会的入院とは、医療の必要性が乏しいものの、特養などの介護施設が不足していること、特養入所は病院入院に比べ世間体が悪い、病院のほうが費用が在宅や特養の場合よりも安い、病院のほうがより高度のサービスが受けられる期待が持てる、などといった社会的理由から長期にわたって入院している者をいう。
 当時、いわゆる社会的長期入院の費用は、年間5,000億円ないし1兆円を超えると推計されていたが、単に社会的費用負担が高くつくということだけではなく、そこで提供されるさーびうすの内容が高齢者の介護ニーズにとってふさわしくないという実態も指摘されており、何とかそこにメス を入れないということもあった(p.12の表2-2、表5-1)。これらの視点からの制度的対応の1つが、日本の介護保険制度の導入であり、その一環である要介護認定およびケアマネジメントの制度化である。」(41)

「2-4 民間営利法人、非営利法人の参入促進(供給主体の多様化)
 当時はまた、規制緩和の大きな流れのなかで、サービス供給者が市町村という行政主体、市町村が実質的に管理運営していた社会福祉協議会などの社会福祉法人のみに限定されていた在宅介護分野において、在宅介護分野への民間営41>43利法人、非営利法人の参入を促すことが期待された。これは供給主体の多様化を進め、適切な市場機能の発揮を通じて、サービス供給量を増やすと同時に質の競争を促していこうというものである。
 社会保険など社会保障分野において民間活力を導入するという着想は、健康保険法等の昭和59(1984)年改正後の昭和60(1985)年に、保険局企画課(課長・岡光序治)が訪問看護事業の実践者などの参画を得て設置した「医療及び関連分野における民間活力の導入に関する研究会」での論議とその報告「民間活力を活用した総合保険・医療・福祉サービスの研究」が先鞭となる。
 また、平成元(1989)年に社会局生活課(課長・和田勝)が設置した「生協による福祉サービスのあり方に関する研究会」(座長・京極高宣)は、自発的な相互扶助組織として国民生活の安定と生活文化の向上を目的として組織され43>44た性うかつ協同組合の活動展開の方向性として介護サービスの重要性を指摘し、これが契機となって介護問題への生協の取り組みが強化されることとなった。
 また、同じく協同組合理念に立脚する農業協同組合(農協)は物販や金融を主力事業としてきた。平成5(1993)年の農業協同組合法改正によって福祉事業が行えるよう明記され、農協が介護サービスの担い手となることが農村社会の維持と安定を可能にするというに認識に立って、全国農業協同組合中央会(JA全中)は介護保険制度創設に大きな期待をよせ、全国的な先駆的モデル事業の紹介や関係者への研修を実施した。与党自民党内で介護保険創設への批判が強かった時期に、JA全中による関係議員に対する働きかけが行われたことは、介護保険に対する与党内などの理解者を拡大させるうえで意味のあることであった」(41-44)

「2-5 地方分権・国保制度改革の促進
 さらに、ようやく本格化してきた地方分権論議の流れのなかで、平成6、7(1994、95)年ごろから、市町村を保険者とした介護保険制度の実施は、地方分権を進めたり国民健康保険制度改革を促進したりするうえでよい契機になるという意識が自治省などの一部にも浮上してきた。」 (44)

「2-6 保険給付の重点化と財源
 また、平成3(1991)年に設置された医療保険審議会(会長・宮澤健一)では、保険給付を見直し重点化を図るという観点から介護保険制度創設論議とも関連する検討が行われていることにも注目しておきたい。当時、病院内に入院する患者については、自費負担で付き添い婦をつけることが求められる実態が広く見られたが、患者の自己負担が重いばかりでなく、介助内容や施設管理上にも問題があって社会問題化しており、付き添い解消が健康保険制度上の課題とされていた。
 平成4(1992)年の健康保険法改正により入院時給食に関し療養費制度が導入されるとともに、看護・介護の質を高め保険外負担をなくすことをねらった新看護体系が導入された。これは、社会的入院の是正と看護・介護の質の向上という重要課題のために関連分野で行われた先行的な試みであ」 [る:引用者] (44)

「3 日本の介護保険制度創設の背景」

「3-6 措置制度がもたらした問題の解消
 福祉の措置制度下では、当初予算の枠内でしかニーズに対応できず、サービス供給量に制約があった。事業者も、利用者ではなく措置件を持つ市町村のほうを向いていると指摘され、介護サービスの提供と利用はいわゆる市場機能がきかず効率的ではないという認識が強くなった。
 また、福祉の措置制度において応能負担型の一部負担金制度は、所得の捕捉問題もありサラリーマンなど中間所得層にとって負担が重かった。特別養護老人ホーム入所などの福祉サービス利用への抵抗感も色濃く残っていた。
 しかし平成5(1993)年に厚生事務次官が設置した保育問題検討会の報告を契機に入所措置制度の見直し論議が浮上した際、社会党、自治労等が福祉充実への公的責任の交代だと強く反対して措置制度廃止論は実現を見なかった。こうした経過もあり、自社さ政権下での立案にあたっては反対の輪が広がらないよう慎重な判断と合意形成に向けた進め方が不可欠という認識が事務局内部にあり、こうした姿勢も若年障害者をドイツのような介護保険の対象者とする方向をとらなかったことの一因であった。」(49)

「3-9 老人保健拠出金問題の打開
 昭和60年代になって老人保健拠出金の見直し問題をめぐって健康保険組合連合会など被用者保険側と市町村国保との間の対立が深刻化し、老人保健制度の行き詰まりがはっきりとしてきた。被保険者とその被扶養者への保険給付にあてるため徴収された医療保険料が、まず老人保健拠出金支払いに充当され、そ51>52の割合も高くなってきた実態があり、健保組合などから被保険者に説明し納得を得ることが難しい、という批判が強まったこともあり、老人保健拠出金制度に代わる新制度を模索せざるを得ない状況であった。
 老人保健制度の改革については、健康保険法等の改正にあたって、平成2(1990)年、3年、6年、7年と数次にわたって2年後の老人保健拠出金制度の見直し等が法律付則や国会での確認質問で合意されたが、実現を見ないまま先送りされてきた。
 こうしたことから、従来型の対応では展望が開けず、新たな政策モデルで途を開くしかないという認識が事務局の中で育っていた。すなわち、介護保険制度において採用される新たな仕組みを援用し、老人保健制度に代わる新たな高齢者医療制度構想づくりを進めたらよいという発想である。」(52)

「第6章 介護保険制度創設をめぐる利害関係と調整」
「3主要な関係者・組織」

「3-1 厚生省関係」
「(1)高齢者介護対策本部の設置(平成6(1994)年4月)」

「(2)高齢者介護・自立支援システム研究会の設置(平成6年7月)」――「利害関係者や業界代表による調整の場としてではなく、専門の実務者、研究者によって構成されているが、特に厚生行政に批判的あるいは厳しいと見られた者の参画も得ているという点に特徴があった」(59)

「(3)老人保健福祉審議会」

「3-8 日本医師会」
「 また日本医師会は、医療における開業医、診療所の比重の低下傾向が続くなかで、介護保険制度創設の必要性を認識するようになっていった。これはたとえば、要介護認定において主治の医師の意見書という形で関与することにも表れている。かかりつけ医、ホームドクター制については、昭和58、59年当時の論議に見られたとおり、フリーアクセスの原則から法制度化には強い反対姿勢を見せてきた歴史があった。しかし、患者が入院して開業医が診ることができなくならないよう、在宅介護に積極的にかかわることが重要であり、そのため66>67には開業医が要介護認定の段階から関与する必要があるという認識が日本医師会幹部のなかにも早くから浸透していった」(66-67)

「4 厚生省のプロジェクトチームの基本的なスタンス」
「4-1 社会保険主義
 昭和25(1950)および平成7(1995)年の社会保障制度審議会による内閣総理大臣への勧告において明らかにされているように、自立した個人の連帯に基づく相互扶助の仕組みである社会保険方式をわが国の社会保障制度における基本的な仕組みとすることは、自民党および内閣を通じた共通の基本的な理解となっていた」(67)

「5 事務局内部における基本的な合意点」
「5-1 現金給付は行わず、介護サービス基盤整備を重視する(参考資料《日本》2、3参照)
@ 現金給付は、給付費を膨張させたり、不正請求等を招くおそれが強い。大蔵省主計局の反対が強い。
A 家族による介護を固定化する不安がある。
B 現物給付は、利用時の一部負担を伴うことから不適正利用も少なくなるし、サービス基盤整備を促進することになる。
C 高齢化の進んだ過疎地域などでも雇用を創出し、地域社会の維持に貢献する。
D バウチャー方式は採用しない(バウチャーが現金と同じように不正流通する懸念があるし、サービス基盤整備につながらない可能性もある」(71)

「5-5 予防重視の制度とする
 社会保険である医療保険では、疾病予防や健康増進といった予防については保険給付しないことを原則としていたが、介護保険では要介護状態の前段階にある虚弱な高齢者を要支援者として位置づけ、要介護状態への移行を防止したり遅らせることを意図した給付(予防給付)を創設することとした。
 予防重視の考え方は、ドイツやルクセンブルクにはない仕組みで注目を浴びたが、制度実施状況を踏まえて平成17(2005)年の介護保険法改正によってさらに徹底されることとなった」(73)

*作成:堀田 義太郎
UP: 20080407 REV:
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