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『精神障害と回復――リバーマンのリハビリテーション・マニュアル』

ロバート・ポール・リバーマン(著)西園昌久(総監修)池淵恵美(監訳)SST普及協会(訳) 201103 星和書店,492p.

last update:20210204

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■Liberman,R.Paul, 2008, Recovery from Disability : Manual of Psychiatric rehabilitation. Washington D.C. and London, UK: American Psychiatric Publishing. =2011,西園昌久(総監修)池淵恵美(監訳)SST普及協会(訳)『精神障害と回復――リバーマンのリハビリテーション・マニュアル』星和書店.[amazon][kinokuniya]

■内容

(出版社ホームページより)
SSTの創始者として名高いリバーマン博士による精神障害リハビリテーションの集大成が,SST普及協会の総力を結集して,ここに邦訳された。リカバリー概念を中核とした心理社会的リハビリテーションの体系的理論書であるとともに,有効で心のこもった支援を提供するための最新技術が獲得できる実践マニュアルである。著者の強い信念に貫かれ,リハビリテーションのあるべき未来を見据えた「生きた教科書」。

■目次

第1章 リカバリーへの道としてのリハビリテーション
第2章 精神障害リハビリテーションの原理と実践
第3章 疾病管理
第4章 機能的アセスメント
第5章 社会生活技能訓練(SST)
第6章 治療とリハビリテーションに家族の関与を得る
第7章 職業リハビリテーション
第8章 リハビリテーションサービス提供のための手段
第9章 特定集団のための特別援助
第10章 リハビリテーションとリカバリーにおける新たな展開

■言及


■書評・紹介


■引用

p. iii(西園)
【推薦の辞】リバーマン教授が来日され、東京大学に滞在されて、現在のSST普及協会のリーダーの皆さんと共同研究をされた。また長崎での日本社会精神医学会でも特別講演をされた。つまり、わが国の精神障害者の社会復帰活動のレベルアップのための新しい学問の種子を蒔いて下さったのである。

p. iv(西園)
リバーマン教授の精神障害者リハビリテーション学の背景をなす人間観の基盤が「愛し、働く能力」重視なのであろう。ところで、愛し、働く能力の獲得は、実は、精神分析学の始祖、S・フロイトが治療目標として掲げたことでもある。リバーマン教授が独自の認知行動療法である社会生活技能訓練(SST)を開発したことに対し、精神分析学術団体から栄誉ある学会賞を受賞するという一見、不思議な出来事も、人間理解に共通認識があってのことであろう。(SST普及協会会長/心理社会的精神学研究所 西園昌久)

p. v
【日本語への序文】「日常生活の障害(disability)」をもたらす精神障害からのリカバリーを考えるうえで、2つの大きな領域があります。リカバリーは、個人を疲弊させる疾患をのりこえていく闘いをしている人にとっては、主観的な意味があります。たとえば、自分に責任をもち、よりよい未来に向けた希望や、目的をめざす強さや、人生の意義や、自己決定や、自分や周囲への尊敬を体験するときに、精神障害をもつ人は「リカバリーのなかにいる」と主張します。研究者や臨床家はより客観的に規定されたリカバリー概念の領域――たとえば、症状の寛解や指導なしの自立した生活や地域の通常の場で働いたり社会生活を営むなど――を志向します。本書をひも解くと、読者は、リカバリーのこの2つの領域が相互に関連していて相補的であることに気づくでしょう。〔中略〕つまり、リカバリーの主観的および客観的な領域は、緊密に関連し、相互に強化しあっているのです。

p. vi
重い精神障害からのリカバリーを達成するには、効果的で、治療を受けやすく、包括的で、よく統制され、協働的で、上手に実施される、持続的で熱意あふれる治療とリハビリテーションが必要なのです。

p. xvii(ジョン・A・タルボット)
【序文】「リカバリー(回復)」という目標を取り入れることで、最新の有効な治療を用いつつ、患者が地域社会のなかであたりまえの生活―働き、学び、家族や友人とのかかわり、より長い期間にわたってウェルネスを楽しむなど――をする力を獲得していくことが可能だとする現代的視点を明確にしています。〔中略〕リバーマンは自身の技法を、信条としてではなく、リカバリーに至る道筋の手引きとして提示しています。

p. xix-xx
【まえがき】リカバリーは、客観的な方法によっても主観的な方法によっても定義することができ、さらに長期的転帰に向かう連続的な過程においても定義することができます(IH)。客観的には、日常生活機能や生活の質(QOL)をひどく妨げる症状がなくて自立した生活をしていること、金銭管理や服装管理を自分でしていること、少なくとも半日は普通の状況で仕事をしたり学校に通ったりしていること、週に一度は仲間とともに通常の地域社会の場での社会的あるいはレクリエーション的な活動や行事に参加していること、そして適度に心の通う家族関係を楽しんでいること、これらがあれば、その人は精神障害から回復したといえるでしょう。主観的には、将来への明るい希望をもつこと、自分の生活や人生に対して個人的に責任を引き受けていること、そして日常生活に満足と意味をもたらすような決定を行ううえで必要なスキル、援助、そして尊重によってエンパワーされていること、これらがリカバリーの経験に含まれています。リカバリーの過程は、動機付けや自主選択を支援して促す協働的な治療関係のもとで、精神障害のある人が目標や治療機会を自分で選択できるようになることを通して起きてくるのです。●リカバリーへの鍵は、配慮をもってケアにあたる臨床家が握っている。(II)

p. 2
障害は出発点であり、リカバリーは目的地であり、そしてリハビリテーションは旅行くその道のりである。

p. 12
【リカバリーとは何か】リカバリーを定義するにあたって、臨床家と研究者は客観的で測定可能な基準を主張しがちである。たとえば、職に就いているまたは学校に通っている、自立して生活している、薬物療法を自己管理できているなど。このようにリカバリーの臨床的定義は、ある時点で長期的転帰を操作的に表現したものが中心となる。一方、コンシューマーの側は、主観的なものをリカバリーの指標として主張する。たとえば、障害がもたらすことへの挑戦に対して、疾患の経過を通じて、未来への希望と現在における自己価値の感覚や、目的を得られるような向上心とともに取り組んでいる、など。精神科医は、自分自身が何を重要と考えるかに基づいて、症状の軽減と処方計画へのアドヒアランスを強調する傾向がある。心理士は、認知機能、自己効力感、そして社会、家族、職業における機能に重点を置く。社会学者は、経済的豊かさ、メンタルヘルスサービスの利用の減少、ソーシャルネットワーク、そしてスティグマへの対処に焦点をあてる。実際には、リカバリーにはこれらの意味合いのすべてが含まれている。リカバリーは、客観的で臨床的な観点からも、主観的で個人的な観点からも定義することができる。

p. 278
【職業リハビリテーションの範囲】私たちは自らの文化的・社会的経済的なバイアスというレンズを通して見ているので、競争市場での一般就労を、精神障害のある人の誰にとっても最善の職業活動であるとつ考えてしまう。就労支援サービスが広範囲にわたっていれば、自分に合う仕事に出会う可能性が高まる。(p.277)。援助付き雇用は、プログラムに参加できる人が限られ、参加した人で実際に職を得た人はわずか2分の1にすぎず。さらに一般企業で仕事を始めた人でも6カ月以上働き続けている人は2分の1以下に過ぎない。ゆえに、援助付き雇用は、すべての人に適したものだとはいえないのである。職業リハビリテーションの選択肢には、過渡的雇用、作業エンクレーブ、コンシューマー運営事業、そして、やりがいのあるボランティアの機会なども含めて、いろいろな形態がある。これらの方法は、精神障害のある人に、生産力、お金、社会的な接触とつながり、誇りと満ち足りた気持ちを提供するさまざまな形態の仕事を保証するうえで有効であると報告されている。さらに、患者は働いて収入を得たら社会保障やメディケイド(低所得者向け医療保険制度)を利用できなくなるのではないかと心配しないですむのである。

p. 283
21世紀になり、米国では精神障害者のための授産施設(sheltered workshop)が時代遅れのものとなった。〔中略〕授産施設の仕事は一般雇用から切り離された部門で行われる。これらの仕事は、同じことの繰り返しでしばしば退屈ではあるが、その一方で、それらを通じて、日課を作り、達成感を経験し、退役軍人年金や社会保障給付を補うお金を稼ぐことができる。実際に、何年にもわたって統合失調症を患っている退役軍人を対象に行われた研究では、授産施設でのさまざまな種類の仕事が症状や社会的機能の改善と関連しており、その後の一般就労の可能性を増加させることを報告している。

p. 285
カルフォルニア州サクラメント郡では、コンシューマーが郡の既定のもとで独自に心理社会的クリニックを経営している。彼らは、「UCLA自立生活技能(SILS)プログラム」を含めて、さまざまな援助を精神障害のある患者に提供している。そのほかのコンシューマー運営事業(consumer-runenterprase)には、清掃および造園業(Fairweather et al.1969)、配膳業、花屋、レストランなどがある。プロシューマ―(prosumer)は、地元のメンタルヘルス当局によって「支援の専門家」として雇われる一方で、同時にメンタルヘルスサービスの利用者でもある人を指す。このような人は、精神障害から良好なリカバリーを果たし、ケースマネージャー、コンシューマーの権利擁護者、また連携役として雇われている。カルフォルニア州サクラメント郡は300名以上のプロシューマ―を雇っており、その数は米国内の郡で最も多い。

p. 290
【援助付き雇用についての調査研究】IPSでは、認知機能障害および統合失調症のある患者は消耗性の程度がより軽い疾患の患者と比べて効果が出にくいことがわかっている。(McGurk & Mueser 2004; 2006) 援助付き雇用と従来型就労支援サービスとを比べるた無作為比較試験では、・・・(Bond et al. 2001a) 6つの研究では、援助付き雇用の患者の・・・(Cook et al. 2005) ・・・

p. 291
【援助付き雇用の現実的な限界】どの月でも有給で雇用されている人がわずか20〜35%に過ぎないということに注目せざるを得ない。援助付き雇用による平均在職期間は20週もしくは約5カ月であり、その一方で就職するまでにかかる期間は長く、約6カ月である。ほとんどの職業評価尺度でより有効であると認められているが、絶対的な数値においてその差が大きいわけではないことも理解しておいたほうがよい。たとえば、援助付き雇用を通じて仕事に就いている人の1か月の給料は平均120ドル程度だが、これに対して、心理社会リハビリテーションや地元や州の標準的な職業リハビリテーションサービスでは、月に100ドルである(Cook et al. 2005) 統合失調症やそのほかの能力障害のある人についての多くの研究では、いずれの時期においても就労率は5〜15%である。〔中略〕援助付き雇用での仕事のほぼすべてが平均して週に10時間以下のパートタイムにすぎないことを理解しておくべきである。このことはしかし、援助付き雇用の個人的、社会的、そして経済的な価値を減ずるものではない。なぜなら、重篤な精神障害のある人にとっては、働く時間や給料の多い少ないにかかわらず、仕事を得ることそのものに意味があるからである。援助付き雇用に登録されているほとんどの人が社会保障給付を受けており、彼らが労働によってある程度以上の収入を得ると給付が打ち切られる可能性があることを忘れてはならない。

p. 292
援助付き雇用が、ほかの治療上の長期的な転帰に波及効果があると期待すべきではないし、実際にそういうことはない。援助付き雇用の研究が行われている1〜2年の間において、社会適応、社会関係に関する満足度、症状の程度、生活の質、認知機能、そして自尊心は有意に改善してはいない(Bond et al. 2001b; Mueser et al. 2004)。

p. 299
【勤労誘因】障害者給付受給者の3分の1が精神または発達の障害をもつものの、いまだに5%未満に人しか障害者給付受給者の名簿からはずれることができない。そのため、ソーシャルセキュリティー事務局は、精神障害のある人のために、次にあげるような「復職への報酬となる制度」を紹介している。補助収入(Supplemental Security Income: SSI)受給者のための労働報酬の除外:SSI受給者は、SSI給付を減額されることなく、月当たり65ドルまで稼ぐことができる。労働報酬が月65ドルを超えた場合、SSI給付は月600ドルまで、2ドルにつき1ドルの割合で減額される。

p. 299-300
 【認知機能リハビリテーションによる就労転帰の改善】精神障害による認知機能障害があると、仕事のための学習や能率を維持しようとする動機だけでなく就労への動機にも影響が及ぶ(McGurk et al. 2003)。そのため、これらの認知機能障害を改善するために、コンピューターを用いた認知機能訓練が開発された。(p.299) 統合失調症のある患者にコンピューターを用いた神経認知強化を援助付き雇用に追加して行うと、無作為に援助付き雇用の身を割り当てられたグループと比べて、作業結果、勤務時間、そして収入面で有意により大きな利益が得られたとの報告がある(Bell et al. 2007)(p.300)


*作成:伊東香純
UP:20210204
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