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『「家族」はどこへいく』

山 美果子・岩上 真珠・立山 徳子・赤川 学・岩本 通弥 20071206 青弓社,229p.


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■沢山 美果子・岩上 真珠・立山 徳子・赤川 学・岩本 通弥 20071206 『「家族」はどこへいく』,青弓社,229p. ISBN: 4787232819 ISBN-13: 9784787232816 1680 [amazon][kinokuniya] ※ s00

■内容
少子化・高齢化・晩婚化が同時に進行するなかで、DVや児童虐待、子殺し・親殺しのニュースが毎日飛び交い、「家族」がきわめて今日的な問題として浮上し ている。
これを「家族の危機」として捉えるかぎり、「危機」の原因を探り、崩壊を嘆く言説は流通しつづけるだろう。
それに対して本書では、病理の象徴として家族を論じるのではなく、家族を論じることを通して社会のありようを注視する。具体的には、捨て子が文化としてあった江戸期の家族像や戦後日本における家族の変容などの歴史事象を確認し、人口減少社会の実情や地域と家族の関係性を把握し、家庭内殺人をめぐるメディア報道のあり方などを俎上に載せて家族をめぐる問題系を読み解く。
家族と社会の「これまで」と「これから」を見定める格好の入門書。

■目次
第1章 家族の歴史を読み解く
1 一九八〇年代から九〇年代へのパラダイム転換
2 近代家族と子育て 
3 教育家族としての「家族」
4 「家庭」という生活世界
5 父親による近代家族批判の試み
6 近世民衆の望むこと/産まないこと
7 出生コントロールの諸相
8 捨て子の諸相
9 近代の捨て子と「母子心中」
10 「子育て」の語の復権

第2章 戦後日本の家族はどう変わったか
1 戦後日本の家族の話をするにあたって
2 日本の「家」と日本型近代家族
3 家制度の廃止と戦後家族への胎動
4 核家族化
5 女性の社会進出と家族役割の変化
6 女性のライフコースの変化
7 人口変動と家族
8 人生と家族−個人化ということ
9 家族との新たな対話−まとめにかえて

第3章 都市・家族・ネットワーク(戦後家族の変化;地域社会と家族 ほか)
1 戦後家族の変化
2 地域社会と家族
3 都市空間のなかの家族
4 郊外家族の誕生
5 都市・家族・ネットワーク
6 都市家族はどこへいくのか?−サービス購入とネットワーク構築

第4章 人口減少社会と家族のゆくえ
1 人口減少社会は不可避
2 少子化はなぜ問題か
3 仕事と子育て(家庭)を両立すれば、子どもは増えるか
4 出生率に影響を与える社会経済的要因
5 人口減少社会の制度設計

第5章 都市化に伴う家族の変容
1 現代民俗学とその視点
2 現代家族は崩壊したのか―そのリアリティーと現実
3 家族内殺人の物語化とその〈まなざし〉―日韓の比較から
4 都市化と家族の変容―実態の日本的特徴

■紹介(「はじめに」より要約)
 「家族の危機」といわれる現代社会。家族のありようが急速に変化しているという認識が、多くの人の間で共有されるようになった。ある種の危機意識が広が り、漠然とした不安を覚える
しかしその「変化」を感じるのは、自らの経験を通してというよりは、マスメディアで連日のように流れる情報を媒介してのことだ。DV、幼児虐待、親殺しなどの犯罪や事件が報じられ、そして少子化、高齢化、晩婚化、離婚率の増加、家庭内離婚など、家族の問題性を強調する情報が流れる。そして現代の家族は「危機的状況」にあると判定され、さらに不安が増加。しかし、このようなマスメディアによるセンセーショナルな報道は、現代社会の漠然とした不安を生み出すにいたった共通の「敵」が何者であるかをわかりやすくし、犯人探し求める人々の心性と一致する結果になる、という。
 しかし、筆者は、『必要なのは「犯人探し」をするきおとでも、「家族の崩壊」にひたすら恐れおののいていることでもなく、むしろ考えるべきは、そのようなものとして呈示されざるをえない意識の背後に透けてみえる社会のありようではないか」と問う。
 本書はこのような問題意識のもと開催された、一連の講演会の記録である。講演期間中は、問いの厚生労働大臣による「女性は子どもを産む機械」発言が波紋をよんでいたただなかだった時期とも重なり、白熱した質疑応答が展開されたようだ。

■引用・紹介
第1章(家族の歴史を読み解く)は、「近代日本における母性の強調とその意味」という論文が研究の出発点だという筆者による、家族の歴史のひもとき。30年前に大学院生だった筆者が、保育園に預けて研究を続けたいと思ったときにぶつかったのが、いわゆる「三歳児神話」。子どもも育てたいが研究もしたい、生活のために働きたい、というのはわがままなのだろうか、と後ろめたい思いにかられたという筆者の体験が、「母性愛をもつ母親という常識はいつ誕生したか」を研究テーマに選ばせたという。
 「三歳までは母の手で」と「子どもが小さいうちは母親は子育てに専念すべき」と母親の育児責任を強調する三歳児神話だが、これが成立するためにはいくつかの歴史的条件が必要だという。田間泰子は、「三歳児神話は、母親が一人だけで、少なくとも三年間、子ども数が増えれば十年、二十年も育児に携わることのできる関係性においてのみ、実現可能」と述べ、以下四つの近代的な家族のあり方と社会の条件があってこそ成り立つ、と述べる。@保健・衛生的条件(子どもが三歳以後まで生き延びるための)A性と生殖をめぐる条件(一人の子どもに力を注ぐために子どもは少数でなければならないため、避妊や中絶が可能でなければならない)B家族の形態に関わる条件(子育てをするのは母親だけの核家族)C性別役割分業家族という家族のあり方の条件(夫が生活費を稼ぎ、妻は育児に 専念)、である。従って、三歳児神話は、いわば性別役割分業にもとづく近代家族が大衆化していった時代(70年代)の歴史的産物だ、と筆者は述べるのである。
 では、それ以前の、近代家族の子育てはどうだったのかを、実は、幕末から明治期の男たちは、子育てをする父親が普通であったことも知られている。その父親像はすでに近代家族を形成し、育児は母親の専業となっていたヨーロッパからきた人々の目に新鮮に映り、見聞録として残っている。「12人から14人の男たちが低い塀に腰を下ろして、それぞれに自分の腕に二歳にもならぬ子どもを抱いてかわいがったり、一緒に遊んだり、自分の子どもの体格と知恵を見せびらかしているのを見ていると大変面白い。。。この朝の集まりでは、子どもが主な話題となっているらしい」と、イザベラ・バードが残している(1878年)。
 しかし、大正時代になると様相が変わる。「教育家族としての家庭」が求められ、それを担うのは母親という、母親たちに対する子育て役割規範が強まる。育児書には、少数の子どもを「作る」という意識がはっきりと表れていた。「数人の凡人を産むよりは、一人の善良なるものを産む」(『我が子の教育』鳩山春子)が良い例である。なお、母性という単語が使われるようになったのは大正期。実は翻訳語であり、母性愛という言葉で急速に広がっていったのは、職住が分離し、夫は会社に働きに行き、妻は家で家事・育児をする「家庭」という家族のあり方が広まっていった時代と重なる。しかしこのころは、「父親不在」が急速に広まっていった時期とはいえ、明治・大正の父親は子の教育には不在であっても、子どもと接することは普通だったという。野村芳兵衛という性別役割分業家族の父親による近代家族批判も紹介されるが、こういった思想は歴史の表舞台から消えてしまう。
 近世の民衆の男女が、産むことと産まないことにどう関わっていたのかに関する検証は興味深い。筆者は、夫がお産の場に挑み、積極的に関わっていたとことを示す文献や、産まないこと(間引き)も夫婦で一緒に行っていたことを示す文献をあげる。産むか産まないかは近世民衆にとって農業作業を営む上でも「家」の存続という点からも切実な問題だったため、母体の健康、いつ、どれくらいの感覚で、何人の子どもを産むかということを考えていたと筆者は言う。
 明治前半期には、離婚率が大幅に減るのと同時に子捨ても減る。明治民法で結婚・離婚の手続きが厳格になり、女性からの離婚ができなくなったという外的束縛、子ども中心の愛に満ちた「家庭」を作ることが女性の役割とする近代家族モデルの登場で、特に女性たちに「子どものために」離婚をためらう心証がうまれた内的束縛が作用してのことだという。その一方で、「家庭不和」を理由とする母子心中が増える。「家庭」が自分の生きる場でありすべてである女性たちにとって、また、我が子を他人には託せない、そうした心情から心中を選ぶ女性が増えたというのだ。
 このように近代家族の変遷を読み解くことによって、現在が引き継いでいるのは歴史のほんの一部分であることを気づかされる。

第2章(戦後日本の家族はどう変わったか)、第3章(都市・家族・ネットワーク)では、戦後の家族形態についての考察・検証がなされる。戦後の都市家族の特徴は、単身世帯や核家族世帯が相対的に多く、人数の少ないコンパクトな家族で、専業主婦の女性がいる、だった。自営家族(女性は働く母であり妻)から雇用家族(サラリーマンと専業主婦の構成)へ、職住一致・職住近接のライフスタイルから職住分離のライフスタイルへと家族形態が大きく変化させた結果のことである。
 家族生活のマネージメントに欠かせないのが、ネットワーク資源。村落家族では例えば「おばあちゃん、ちょっとお願い」で子どもを預けられたりとできるが、都市家族には、村落家族に比べてこのようなネットワーク資源が少なく、頼れる人が近くにいない、相互扶助関係が作りにくいという状況を生み出す。したがって都市家族は、家族生活を維持するために、ネットワーク資源の替わりに、サービスを利用することが解決策となる。また、専業主婦という女性労働力が補完してこざるをえない、という状況も生み出し、結果的に都市部に専業主婦を多く生み出すことになった。また、このような状況下の都市家族のセーフティネットとして産まれたのが、仲間作り。子育てネットワークや、ボランティアネットワーク、またはNPOなどである。筆者は、このような家族を超えたネットワー クの存在が必要だと締めくくる。


*作成:山本 奈美 訳
UP: 20080513 REV: 20081115,20090730
赤川 学  ◇フェミニズム (feminism)/家族/性…性(gender/sex)人口(population)・少子化・高齢化  ◇男と女の過去と未来身体×世界:関連書籍 2005-  ◇BOOK 
 
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