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『医療改革――危機から希望へ』

二木 立 20071108 勁草書房,235p.


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二木 立  20071108 『医療改革――危機から希望へ』,勁草書房,235p. ISBN-10:4326700572 ISBN-13: 978-4326700578  \2835 [amazon][kinokuniya] ※ ms. r02.

■目次

第1章 世界の中の日本医療とよりよい医療制度をめざした改革
はじめに
第1節 世界の中の日本医療
1 小泉・安倍政権の医療改革の評価
2 世界の中での日本医療の質の複眼的評価
第2節 よりより医療制度をめざして
1 よりよい医療制度改革を考える上では3つの幻想を捨てる必要がある
2 私の医療制度改革の複眼的スタンス
第3節 敢えて「希望を語る」
1 第1の希望
2 第2の希望
3 第3の希望
おわりに
補論1 効率的診療と医療費抑制とは別次元
補論2 医療経済学から見たリハビリテーション医療の効率
補論3 医療・社会保障についての国民意識の「矛盾」
補論4 私はなぜ医療者の自己改革を強調するか?
補論5 厚生労働省が医療費・医師数抑制政策の軌道修正を考え始めた?

第2章 後期小泉政権の医療改革
第1節 混合診療解禁論争とその帰結
1 小泉首相の混合診療解禁指示と今後の見通し
2 混合診療問題の政治決着の評価と医療機関への影響
3 混合診療問題の政治決着の勝者と敗者
4 混合診療全面解禁論の凋落
第2節 2004・2006年の診療報酬改定の特徴
1 2004年診療報酬改定の特徴と2006年改定の展望
2 2006年診療報酬改定の意味するもの
3 リハビリテーションの算定日数制限の問題点と解決策
第3節 2005年郵政選挙前後の医療改革案
1 複眼で読む「骨太の方針2005」と「平成17年版経済財政白書」
2 小泉自民党圧勝後の医療費抑制政策
3 厚生労働省「医療制度構造改革試案」を読む
第4節 2006年医療制度改革関連法と療養病床の再編・削減
1 医療制度改革関連法による医療制度改革の見通し
2 療養病床の再編・削減

第3章 安倍政権の医療改革
第1節 安倍政権の医療改革の方向を読み
第2節 安倍政権の半年間の医療政策の複眼的評価
第3節 「基本方針2007」と「規制改革推進3か年計画」を読む
第4節 厚労省「医療政策の経緯、現状及び今後の課題について」を読む

第4章 医療改革と医療ソーシャルワーカー、認知症ビジネス
第1節 医療制度改革と増大する医療ソーシャルワーカーの役割
第2節 認知症ケアのビジネスモデルを考える

第5章 医療満足度と医療費の常識のウソ
第1節 医療満足度の国際比較調査の落とし穴
第2節 医療費についての常識のウソとトンデモ数字
1 日本の医療費水準は2004年に主要先進国中最下位となった
2 日本の医療費水準は主要先進国中最下位なことが確定
3 2003年度概算医療費の3つの「真実」
4 正反対の医療給付範囲縮小論と麦谷医療課長のトンデモ発言
5 「がん難民」の解消で5200億円の医療費削減??
6 終末期医療費についてのトンデモ数字

■引用

第1章 世界の中の日本医療とよりよい医療制度をめざした改革

第2章 後期小泉政権の医療改革

 第2節 2004・2006年の診療報酬改定の特徴

 2 2006年診療報酬改定の意味するもの(2006年7月) 76-85

 2−5 特定療養費の拡大の見送り 81-82
 「[…]2005年10月にリハビリテーション分野に導入された制限回数を超えるリハビリテーションの混合診療化も事実上棚上げされたと言える。なぜなら、急性期・回復期リハビリテーションの回数制限が従来の1日最大6単位(2時間)から最大9単位(3時間)に引き上げられた結果、保険の枠内で十分なリハビリテーションの実施が可能になるとともに、リハビリテーション<0081<の算定日数制限を越える慢性期・維持期の患者に対する自費でのリハビリテーションの実施は禁止されたからである。」(二木[2007:81])

 2−6 病院の外来分離の抑制と社会福祉士の認知 82-83
 「[…]今回の診療報酬改定で、回復期リハビリテーション病棟入院料等の施設基準や算定基準に、社会福祉士の配置が明記されたことである。さらに、同じ時期に、社会福祉士及び介護福祉士法施行規則が一部改正され、2006年4月から、社会福祉士養成課程における実習施設に病院等が追加された。実は、社会福祉士は、1987年の制度発足時には、医療分野以外のソーシャルワーカーを対象にした国家資格とされ、医療ソーシャルワーカーは独立した国家資格とすることが予定されていた。しかし、その後精神保健福祉士は国家資格化されたものの、一般医療分野のソーシャルワーカーの国家資格化の大きな動きはなかった。それに対して、今回の診療報酬と社会福祉士及び介護福祉士法施行規則の改定により、社会福祉士が医療分野でも通用する国家資格として事実上認知されたことになる。と同時に、一部の医療ソーシャルワーカー組織が求めていた、医療ソーシャルワーカー独自の国家資格化の道はこれで完全に絶たれたと言える。その結果、今後、,医療機関で働く医療ソーシャルワーカーにとっては、社会福祉士資格が事実上の必須資格となるであろう」(二木[2007:83])

 3 リハビリテーションの算定日数制限の問題点と解決策(2006年7月) 85-89(以下全文引用)

 「2006年4月の診療報酬改定で、リハビリテーション医療は施設基準・診療報酬とも全面改定されました。その中で、医療機関だけでなく患者にも重大な影響と混乱を与えているのが、リハビリテーション算定日数の上限設定です。
 今までリハビリテーションの実施期間は医療者の判断に任されていましたが、4月以降は、4種類の疾患別(正確には疾患群別)に上限が導入され、もっとも長い「脳血管疾患等リハビリテーション」でも、算定日数の上限は、原則として、「発症、手術又は急性増悪から180日」とされました。これには、失語症や高次脳機能障害等のいくつかの適用除外も設けられましたが、発症後180日を超えた脳血管疾患患者の大半は医療保険ではリハビリテーションを受けられないことになりました。<0085<
 このような「制限診療」に対しては、医療機関だけでなく患者側からも強い抗議の声があげられました。その代表的なものが、著名な医学者で重度脳血管疾患患者の多田富雄さんが「朝日新聞」2006年4月8日朝刊に寄稿した「診療報酬改定 リハビリ中止は死の宣告」です。
 このような抗議を受けて、厚生労働省は2つの手直し(解釈変更)を行ないました。1つは、3月までにリハビリテーションを受けていた患者については、算定期間の起算日を4月1日に「リセット」すること。もう1つは、「脳血管疾患により麻痺や後遺症を呈している患者であって、治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合であれば」、算定日数上限の適用除外となる「神経障害による麻痺及び後遺症に含まれる」としたことです。ただし、前者の通知が出されたのは改定直前の3月28日、後者に至っては改定後1か月近く経った4月28日でした。しかもこれらの通知のうち、特に後者はまだ徹底されていないようです。
 厚生労働省は、これにより対応は終了したとの立場ですが、「状態の改善」の判断基準は示していません。そのため、今後、厚生労働省や都道府県の審査支払機関が、「状態の改善」をきわめて狭く解釈し、機能の維持や低下の予防のためのリハビリテーションを一律認めない危険性もあります。
 私は元リハビリテーション専門医でもあるため、医療関係者だけでなく、新聞記者や政党関係者から、何度となくこの問題に対する見解と解決策を求められています。以下は、それらに対する私の回答です。

元リハビリテーション専門医としての私の認識と解決策
 原則的に言えば、私は、リハビリテーションは、他の医療と同じように、個々の患者の特性に応じて個別的に行うものであり、機械的に算定日数の上限を設けることには反対です。
 ただし、「高齢者リハビリテーション研究会報告(上田敏会長)」(2004年1月29日)が指摘していたように、「長期間にわたる効果のないリハビリテーションが行われている」、「リハビリテーションとケア[介護保険給付――二<0086<木]との境界が不明確である」のも事実です。私自身も、以前からこの点を指摘し、「リハビリテーション医療の適応と禁忌の明確化、『根拠に基づいた』リハビリテーション医療の確立」を提唱してきました(拙著『21世紀初頭の医療と介護』勁草書房、2001、164-171頁、『医療改革と病院』勁草書房、2004、198-203頁)。
 そのために、入院患者に関しては、疾患群ごとに算定上限を設け、それを超える場合は、医師による判断で、リハビリテーションの継続による効果があると考えられる例に限り認めることは、「長期間にわたる効果のないリハビリテーション」を行わないためには、それなりに合理的と思います。
 脳血管疾患を例にとると算定上限(180日)を超えて医学的リハビリテーションが必要な患者には、次の2種類があります。1つは身体障害(機能障害と能力低下)が重度だが長期間のリハビリテーションを受ければ、徐々に回復を続ける患者、もう1つは半年以内に身体障害は固定するが、その機能を保つ(廃用症候群の発生やADLの低下を予防する)ために、「維持的リハビリテーション」が必要な患者です。患者数から言えば前者はごく少数で、大半は後者です。後者のためのリハビリテーションは、外来で週1〜2回行うだけで十分です。
 そのために、私は、例えば月8日(16単位)までとの回数制限を設けた上で、医療保険でも、外来での維持期リハビリテーションを原則的に認めるのが合理的と思います。医学的には、高血圧や糖尿病等の慢性疾患患者が疾病の悪化予防のために医療機関を長期間受診するのと慢性期の脳血管疾患患者等が身体障害の悪化を予防するための外来リハビリテーションを続けるのは同等です。ただし、慢性期の患者に上記回数を超えて濃厚なリハビリテーションを行う場合には、医師の側に効果の(再)評価を義務づける必要があると思います。
 厚生労働省は、急性期・回復期は医療保険で対応し、慢性期・維持期は介護保険で対応すると主張しています(2006年4月13日の参議院厚生労働委員会での水田邦雄保険局長の答弁)。この方針は、一見合理的なように見えますが、<0087<医学的にも、現実的にも不合理で、机上の空論です。
 まず、脳血管疾患患者の大半は高血圧、糖尿病等の基礎疾患を有しており、それの管理のために医療機関を受診しますので、リハビリテーションのみを介護保険対応にするのは二度手間になります。しかも、介護保険の通所リハビリテーションは医学的管理体制が極めて弱いために、多田富雄さんのような、障害が重度で厳格なリスク管理を行う必要がある患者に対応することはできません。

 なお、才藤栄一藤田保健衛生大学教授の御論考「『総合リハビリテーション』の行方」(『総合リハビリテーション』2006年5月号「巻頭言」)は、今回のリハビリテーション改定全体の問題点を簡潔かつ包括的に検討していますので、一読をお薦めします。

【補注】2007年4月のリハビリテーション料緊急改定の複眼的評価
 中医協は2007年3月14日の総会で、リハビリテーション料の緊急見直しについての答申を行い、同年4月から実施されました。改定の主な内容は、以下の3つです。@2006年4月改定で導入された算定回数上限の適用除外となる患者を増やす。A維持期のリハビリテーシヨンを実施できるように「リハビリテーション医学管理料」を新設する(原則月1回。介護保険がサービスが対応する前の間の措置)。Bリハビリテーション料の逓減制を復活し、算定上限回数の8割程度の日から2割弱引き下げる。
 診療報酬改定が2年ごとの改定の時期を待たずに行われるのは、2003年の再診料の逓減制廃止以来のことであり、極めて異例です。これは、リハビリテーションの算定日数制限撤廃を求めた、短期間に48万人もの署名を集めて厚生労働大臣に提出した、「リハビリ診療報酬を考える会」(代表=多田富雄東大名誉教授)や保団連の運動の成果と言えます。もう1つ見落とせないのは、中医協の公益委員で組織される診療報酬改定結果検証部会が、リハビリテーション実施保険医療機関における患者状況調査を速やかに行い、2006年改定後、「少数であるが、医学的に改善の見込みがあるが、医療保険でリハビリテーションが継続されていないと思われる事例等があること」を明らかにしたことがあります。この点では「根拠に基づく」改定と言えます。この背景には、改正社会保険医療協議会法(2007年3月施行)で、中医協「公益医員の主導的役割」が明確化されたことがあります。ただし、今回の緊急改定は、新たな財源投入をせずに「財政中立」的に行うこととされたため、上記@・Aのための財源捻出のために、B逓減制の復活が行われ<0088<ました。しかも、再改定と同時期に、従来は認められていた、医療保険のリハビリテーションと介護保険のリハビリテーションの併用、および複数の医療機関における同一月のリハビリテーションの算定が原則として禁止されることになりました。その上医療機関には、医学的な改善の見込みを明確に示すための膨大な文書作成義務が課されました。
 そのために、患者救済を目的にしたせっかくの緊急改定にもかかわらず、その実効性には疑問があります。例えば、京都府保険医協会が2007年5〜6月に疾患別リハビリテーション施設基準を届けている府内全医療機関を対象に行った再改定の影響調査によると、2007年3月までに医療保険でのリハビリテーションを終了した患者のうち、介護保険への移行ができず中止や終了となった患者のうち、再改定によってリハビリテーションを再開できた患者はわずか1%にすぎませんでした(「京都府保険医新聞」2007年7月2日。要旨は『日経メディカル』2007年8月号:40)。」(二木[2007:85-89])

第5節 2005年郵政選挙前後の医療改革案

2 小泉自民党圧勝後の医療費抑制政策(2005.10)

 2-3 療養病床の公的医療費抑制の3つのルート 97-98
 「[…]3つめは、回復期リハビリテーション病棟の入院料の2階建て化による事実上の引き下げである(回復期リハビリテーション病棟入院料は一般病床、療養病床とも算定可能だが、療養病床が3分の2を占めている).保険医療課が作成して8月にリハビリテーション関係の学会・団体に内々に提示している「リハビリテーションの見直し(案)によれば、回復期リハビリテーション病棟入院料は高レベルの「入院料1」と低レベルの「入院料2」の2段階となり、療養病床の大半に適用される「入院料2」の点数は現在の1680点から1300点へと、なんと380点(22.6%)も引き下げられることになっている.しかもそれの算定の上限も現行の180日から120日に短縮することが予定されている。この「見直し(案)」はあくまで「叩き台」であり、今後のリハビリテーション関係の学会・団体の働きかけによりかなり変更される可能性もあるが、点数の引き下げと算定期間の短縮そのものは避けられない、と私は判断している。なぜなら、拙論「後期小泉政権の医療改革の展望」で指摘したように、回復期リハビリテーション病棟入院基本料は、一般の病棟と比べて非常に高く設定され、多くの病院(特に療養病床)で「超過利潤」を生んでいるからである。」(二木[2007:98]、下線は原文では傍点)

 2-4 第3のルートは保険給付範囲の縮小 99-100
 「[…]3つめは、リハビリテーションの算定日数上限を超えた慢性期リハビリテーションの混合診療化である(入院の慢性期リハビリテーションの大半は療養病床で行われている)。上述した「リハビリテーションの見直し(案)」では、理学療法・作業療法・言語聴覚療法の医療保険給付に「算定日数上限」(90日〜2年)を設けることとされており、それ以降は介護保険給付に以降するが全額自費となる。しかしこのような乱暴な保険外しを一気に行うことは困難であり、慢性期リハビリテーションの制限回数が強化され、それを超える部分の混合診療化が図られる可能性が大きい。「見直し案」の「通則」にも、「患者の求めに応じて行う、制限回数を超えて追加的なリハビリテーションの費用については、患者の負担とする」ことが明記されている。これは、2005年10月から実施されることになった、「医療上の必要性がほとんどないことを前提」とした、制限回数を超える医療行為(リハビリテーション)の<0099<混合診療化の「一般化」(悪用)である」(二木[2007:99-100])

 第4節 2006年医療制度改革関連法と療養病床の再編・削減
 1 医療制度改革関連法による医療制度改革の見通し

 1-1 2006年診療報酬改定の第6の特徴
 「[…]1つは、上述した第5の特徴と重なりま すが、急性期・亜急性期医療については高度医療や手厚い医療も保険給付し、混合医療は極力排除・抑制したことです。その象徴は、心臓移植を含めた4移植術が一気に保険適用されたことです。私がかつて専門にしていたリハビリテーション医療に関しても、<0118<急性期・亜急性期については1日最大3時間の訓練(理学療法・作業療法・言語聴覚療法の合計)が保険給付されることになりました(今までは最大2年間)。これはアメリカ並の水準です。実は、2005年10月には、混合診療の一部解禁として、制限回数を超えるリハビリテーションが認められたのですが、今回の改定により、少なくとも急性期・亜急性期のリハビリテーションについては混合診療の入り込む余地はなくなったと言えます。
 他面、2006年診療報酬改定では、慢性期医療はリハビリテーション医療を含めて大幅に切り捨てられるか、介護保険給付へ移行することになりました。2006年10月からは、医療療養病床に入院している慢性期入院患者の食費・居住費も保険給付から外され、原則自己負担化されました。これは、食費・住居費を含めて給付対象とするというかつての医療保険給油の大原則から見れば、慢性期医療の混合診療化と言えます。この大原則の一角を最初に崩し、入院患者の食費の材料費相当分を自己負担化したのは、1994年の健康保険法改正でした。」(二木[2007:118-119])

「実は私は22年前(1985年)から、次のように、一部の病院の長期療養施設への転換を主張していました。「欧米諸国に比べて著しく多い病院・有床診療所病床数と極端に不足している特別養護老人ホーム数とのアンバランスの下では、病院の一定部分が『重介護を要する老人の高齢施設』に転換することが必要と考えている。そのためには、特別養護老人ホームに比べて著しく劣る生活の場としての機能と維持的リハビリテーション機能を付加することが不可欠であり、施設整備・要員確保のための公費助成が必要である」」140

 2 療養病床の再編・削減

 2−2 療養病床の再編・削減についての私の「客観的」将来予想 135-

 「(4)慢性期医療費抑制の隠れた方策?
 療養病床の再編・削減についての将来予測の最後に、慢性期医療費抑制の隠れた方策について、簡単に指摘します。それは、「医療が必要な場合に必要な医療給付を行うという[保険給付の]原則」49)(8頁)を放棄して、重症な慢性期患者に対する手薄な医療給付を制度化することです。その切り札(?)は、広井良典氏等が1997年に提唱し、大論争を巻き起こした、在宅や非医療施設での医療抜きの「福祉のターミナルケア」です。56)
 もしこれが制度化されると、治療可能な疾病・病態により一時的に状態が悪化した慢性期の高齢患者に対する治療を行わない「見なし末期」(横内正利氏)が横行することになります。57)その結果、日本療養病床協会が介護力強化病院の時代から営々と築いてきた高齢患者に対する「良質な慢性期医療」の提供が根底から崩され、30年前の「悪徳老人病院」が復活する可能性すらあります。
 これは杞憂ではなく、厚生労働省が2005年10月に発表した「医療制度構造改革試案」の「新たな高齢者医療制度の創設」の項では「ターミナルケアの在り方」「在宅(等の)看取り」が強調されていました。58)
 ただし、私は、近年国民の求める医療水準が非常に高まっていることを考えると、このようなドラスティックな改革は政治的に困難、ほとんど不可能と判断しています。」(二木[2007:139])

49)榎本健太郎「“療養病床削減”の背景とその行方」「月刊/保険診療」61巻8号、2006。
56)広井良典・他『「福祉のターミナルケア」に関する調査研究報告書』、1997。
57)横内正利「高齢者の終末期とその周辺」『社会保険旬報』1976号、1998。
58)二木立「厚生労働省『医療制度構造改革試案』を読む」『社会保険旬報』2261号、2005(本章第3節3)

第3章 安倍政権の医療改革
 第1節 安倍政権の医療改革の方向を読み
 第2節 安倍政権の半年間の医療政策の複眼的評価 
 (1)大枠では小泉政権の政策を継承した 148-149
 (2)部分的には小泉政権の政策の見直しも生じた 149-150

 「[…]主な揺り戻しは4つあります。第1は、2006年4月の診療報酬改定で導入された、リハビリテーションの算定日数制限が見直されたことです。具体的には、2007年4月から、算定日数上限の除外対象患者の範囲が拡大されるとともに、医療保険でも維持期リハビリテーションが実施できるようになりました。(「リハビリテーション医学管理料」の新設)。これは「リハビリテーション診療報酬改定を考える会(会長=多田冨雄東大名誉教授)」とそれを強力に支援したリハビリテーション関係者・保険医協会等の運動の大きな成果と言えます。この見直しを決めた3月14日の中医協総会で、土田武史会長は、「48万人の署名が厚生労働大臣に出されるなど、国民の関心は高い。現場への周知が行き届かず、混乱しているとの報道もあり、私も強い関心を持ってきた」と率直に語りました(『週間社会保障』2425号:8)」(二木[2007:149])

 「これらの揺り戻し・見直しにより、患者・利用者の受けた大きな被害は、多少は修復されたと言えます。と同時に、このことは、小泉政権末期に実施された一連の医療・介護・福祉費抑制政策が、各政度と患者・利用者の実態を無視した、いかに乱暴で残酷なものであったかをも明らかにしています。土田中医協会会長は、上述したリハビリテーション料の緊急改定に際して、「介護保険がどういう状況なのか事前に分かっていれば、問題はある程度避けられた」と、厚生労働省に苦言を呈したそうです(『日本医事新報』4325号:7)。」(二木[2007:150])


*作成:田島 明子
UP:20080806 REV:20110801
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