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『うつ病――まだ語られていない真実』

岩波 明 20071110 筑摩書房(ちくま新書),228p.

last update: 20110409

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■岩波 明 20071110 『うつ病――まだ語られていない真実』,筑摩書房(ちくま新書),228p. ISBN-10: 4480063943 ISBN-13: 978-4480063946 \756 [amazon][kinokuniya] ※ d05 m s01 s01-ow

■内容

・同書のカバーより
いまやうつ病は国民病,あるいは生活習慣病といってもいいほど一般的になった.だが,この疾患に対しては,軽症の場合でも経過を観察するだけでは不十分である.症状が進展すると,長期にわたる仕事からの脱落,さらに重症の場合は自殺へとつながってしまうからである.本書では,これまで一般に信じられてきたうつ病に関する診断や治療の誤りを正すとともに,患者および家族の指針となる臨床的な事実を提示する.

■目次

序章  うつ病の刻印――ヘミングウェイ,最後の日々 7
第一章 死を招く病 23
第二章 うつ病の薬物療法 57
第三章 気分変調症(ディスサイミア) 103
第四章 うつ病は増えている 153
第五章 抗うつ薬は危険か? 175
第六章 自殺者の国 197
おわりに 223

■引用

薬物療法における悩みどころ
精神科の薬物療法に関する教科書などにおいては,一種類の抗うつ薬による治療が推奨されることが多い.これは複数の抗うつ薬を同時に投与すると薬物の効果の有無がわかりづらくなることに加えて,副作用の頻度が高くなることなどがその理由として主張されている.
確かに安易な併用療法は好ましくない.中途半端な投与量で併用療法を行うよりも,ある一剤を最高用量まで投与する方が効果がみられる可能性が高い.
しかし,現実の臨床はそれほど単純ではない.
一般に抗うつ薬の効果がみられるまで,二週間以上の時間が必要であるといわれている.しかし,生活をしている患者にはそれぞれの事情があり,クスリの効くのを悠長に待っているわけにはいかないことも少なくない.したがって,抗うつ薬を二剤,三剤と併用することは,広く推奨しようとは思わないが,選択肢として考えるべき治療法であると考えている(98).

うつを通して見た(現代)日本の〈病理〉
日本においては,失業の持つ心理的な意味合いが,他の国々と比べて大きいのである.日本の自殺者の七割は男性である〔中略〕失業問題は男性においては,収入という側面にとどまらない重要な社会的出来事なのである.つまり男性の失業者は,日本の社会においては,社会的な不適格者とみなされるということだ.これが日本社会における暗黙のルールである.きちんとした正業を持っていない男性は,「真っ当な」人間として認められないのである(209-10).

日本の社会は落伍することを許容しない社会である.人々は,家族からあるいは周囲の人々から,決まりきったライフコースを歩むことを求められてきた.いったん会社という規範からはずれてしまうと,それは社会的な「死」を意味していた.勤労者はどういう事情があろうと,みなと同じく働き続ける必要があったのである.
ところがこの雇用の安定性が失われたとき,人々は激しく心理的に動揺し,うつ病,うつ状態となりやすくなり,それが容易に自殺に結びついたのである.本書で述べた症例のいくつかも,失業をきっかけにうつ病を発症し,自殺までいたっている.
現在,終身雇用制は過去のものとなりつつある.代わって登場したのは成果主義とは名ばかりのリストラ社会だ〔中略〕多くの会社では社員のリストラのために,しばしば陰湿な方法が用いられている.これは極めて日本的な現象である(212-3).

■書評・紹介


■言及



*作成:藤原 信行
UP: 20110409 REV:
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