HOME > BOOK >

『福祉労働とキャリア形成――専門性は高まったか』

染谷 淑子 編著 20071020 ミネルヴァ書房,248p. ISBN-10: 4623049671 2,940

このHP経由で購入すると寄付されます

■染谷 淑子 編著 20071020 『福祉労働とキャリア形成――専門性は高まったか』 (MINERVA福祉ライブラリー 95) ミネルヴァ書房 248p. 2,940(税込) ISBN-10: 4623049671 ISBN-13: 978-4623049677
[amazon]

■目次

序章 21世紀のわが国における福祉・介護労働

第T部 総論
第1章 拡大する福祉・介護労働――統計データからみた福祉・介護サービスの労働市場
 1 拡大する福祉・介護サービスの労働市場
 2 経営主体の変化と福祉・介護サービス労働市場
 3 福祉NPOの活性化と福祉・介護サービス「労働」の広がり

第2章 福祉・介護労働の専門性とキャリア形成
 1 専門性とは
 2 専門性の自立性――その「理念」と「現実」
 3 保健医療福祉分野のマンパワー
 4 実態調査結果からみた福祉・介護職の専門性

第3章 福祉専門職と資格制度
 1 わが国おける〔ママ〕福祉専門職制度の歩み――資格制度創設前史
 2 社会福祉士及び介護福祉法の成立
 3 社会福祉士及び介護福祉法の見直しと展望

第4章 ジェンダーの視点からみる福祉・介護労働
 1 女性労働と福祉労働の発展と経緯
 2 家族の福祉ニーズ
 3 女性就労を支える福祉サービス

第5章 介護事業経営とリスクマネジメント
 1 事業環境の変化とリスクマネジメント
 2 介護事業をとりまくリスクとその対応策
 3 訪問介護事業者における介護事故防止対策の現状
 4 介護事故防止に向けた課題

第U部 各論

第6章 福祉・介護労働の人的資源管理
 1 人的資源管理の意義と課題
 2 福祉・介護サービス企業の経営課題と人事施策
 3 人的資源管理の特徴的な取り組み
 4 今日の人的資源管理の課題と展望――企業事例からの示唆

第7章 大都市訪問介護事業所における介護労働力の現状――東京都福祉人材センターの調査を中心に
 1 訪問介護事業の現在
 2 大都市訪問介護事業所の存在形態
 3 大都市訪問介護事業所における人材確保
 4 大都市訪問介護事業所における人材の採用実績と退職状況
 5 大都市訪問介護事業所における教育・研修の実施状況
 6 訪問介護事業における介護労働問題

第8章 社会福祉士資格の現状と専門性
 1 社会福祉士の専門職性と職域の拡大
 2 研究方法
 3 大卒有資格者(社会福祉士)と大卒無資格者(社会福祉士でない者)の比較分析
 4 福祉現場における専門職の課題

第9章 介護労働者の労働環境――社会福祉現場における介護職と非介護職の労働環境の実態
 1 介護労働者の雇用拡大と労働環境
 2 分析の方法
 3 介護職及び非介護職の労働環境の状況と意識
 4 介護労働者の労働環境の課題

第10章 福祉・介護労働における女性労働の実態
 1 4年制大学福祉学科卒業者および日本社会福祉士会会員の実態調査(2002年度)
 2 介護福祉士資格取得者の実態調査(2003年度)
 3 在宅福祉の担い手:ホームヘルパー調査(2004年度)
 4 調査対象者の声
 5 事例調査にみる女性の福祉労働
 6 実態調査結果にみる女性のキャリア形成

終章 福祉・介護労働の課題と展望

索引

■引用

序章より

 「本書は、近年発展・角田資している介護サービスを担う従業者について、従業者の量的供給の拡大について論じるものではない。介護サービスの質の程度を決定づける、従業者のフォーマル、インフォーマル両面における、専門教育と研修の普及の現状に焦点をあて、能力開発がどのようになされているかについて論じている。介護現場で働く人びとが、どのような研修機会を得ているか。また、どのような勤務状況のもとにあるのか。これらの課題について実態調査の結果分析を基に検証し、今後の発展に役立つ知見を提供しようとしている」(p. 3)

「少子高齢化したわが国の現状において、すべての国民が安心して不安なく、人生をまっとうできることを目的に制定された介護保険は、実際にはそのサービスを提供する福祉・介護職員に委ねられている。肌理の細かいサービスを行う、経験を積んだ有能な介護スタッフの供給が不可欠である。いかに十分な人数を確保するか。そしてこの分野の就労が人びとにとって魅力ある職場にできるか。専門職制度をどのように発展させるか。本書に於いては、これらの多くの課題を抱える現状を見極め、多方面から分析検討を試みることにより、今後の方向性について模索していきたい」(p. 8)

第1章より

 「福祉・介護サービスの労働市場の実情を検討するうえで、いまひとつ考えておかねばならないのは事業者の経営動向である。」(p. 18)

「「介護老人福祉施設」(すなわち社会福祉法人)の損益構造の改善への積極的な経営行動が認められる。そこには、社会福祉法人ではあるが、労働集約型の業種として人件費削減に積極的に取り組むという、事業体としての存続を意図した「営利法人的な経営行動」をうかがうことができる」(p. 19)

 「同様に、居宅サービス分野についても表1−8によると、特徴的なのは、いずれの事業分野も、一部例外を除いて人件費率が相当高いことである。「訪問介護」「訪問入浴介護」は人件費率が8割台の半ばとなっている。「訪問看護ステーション」にしても人件費率は7割前後である。この業界が労働集約型の業種であることがここからもりかいできる。同時に、例外的に「有料老人ホーム」の人件費率の低さが目立っている。次に、指摘できるのは、事業分野によって、損益構造に大きな違いのあることである。きわめて利益率の高い「通所リハビリテーション」がある一方で、損益構造がマイナスとなっているは〔ママ〕「訪問介護」「訪問入浴介護」そして「居宅介護支援」である。」(p. 19)

「福祉・介護サービス労働市場における求人の非常勤職化を促した要因のひとつには職員配置基準における常勤換算方式の導入がある。この方式で人員を配置すれば、必ずしも従業者の全てが正規雇用である必要はなくなるからである。加えて、「市場の原理」を採用している介護保険制度では、営利法人のみならず、社会福祉法人も人件費を含めたコスト管理、一定程度の利益率の確保等、民間企業並みの経営行動が必要となる。福祉・介護サービス事業者が、事業を継続していくためには、それが労働集約型産業ゆえに人件費の削減が最も効果的な方法である。一面では、非常勤職の雇用形態を活用することは事業者としては必然的な経営行動なのである。
 しかしながら、労働市場の「非常勤職化」は、かつては厳しい労働環境ではあるが正規雇用の形態が多数を占め「安定した雇用の場」であった「社会福祉の世界」を、不安定な雇用形態の労働市場に変質させることになりかねないのである。はたして、このままで、必要とされる高度の専門性をもった人材を確21>22保できるのであろうか」(pp. 21-22)

 「福祉・介護サービス労働市場の構造上の問題

〔中略〕
 「広義」の福祉・介護サービス市場には、その組織原理をまったく異にする3つの組織が並存している。社会福祉法人や医療法人などの公益的な法人、株式会社などの営利法人、そして福祉NPOである。異なる許認可の規制下にあるさまざまな組織が、あるいは営利追求を第一義とする組織と、それは第一義的とはしない組織とが、同一の市場で競合しているのである。労働市場に目を転ずれば、生活のための賃金の獲得といった経済的利益の追求を基本とする人たちとボランティアとが、ほぼ同一の市場(とくに地理的範囲が重なる地域別労働市場)に含まれているという、福祉・介護サービス労働市場のきわめて変則的な構造的特徴あるいは構造上の問題を指摘せざるをえない。そこで、懸念されることは、例えば、有償ボランティアなどを活用した福祉NPOのサービス価格が安価であることにより、営利法人や社会福祉法人のサービス価格の引き下げを誘因し、結果として賃金水準の引き下げなど雇用・就業条件の引き下げに繋がる恐れが、論理的には考えられるのである」(p. 25)

第2章より

「ヘルパーの給与は時間給で設定されており、長年の経験のある人と、新人がほぼ同じ報酬を得ている。その状況は、研修や自己努力による技能の向上を積極的に惹き起こす状況にはない。むしろ向上心のある人は、ヘルパー職から脱しようとしている傾向を見ることが出来た。介護福祉士や社会福祉士の資格を保有している人びとは、介護支援相談員(ケアマネジャー)の資格を取り、ステップアップしようとしている人が多い。しかしながら、介護保険が本来の目標とした在宅介護を支える担い手であるホームヘルパー職にある人びとは、53>54「自分の時間の都合で働ける」、「なりやすい」などの理由からこの仕事を選び、経験を増すにつれ、変わらぬ待遇に不満を抱いている様子を垣間見るとき、介護・福祉職従業者の今後のキャリア・アップの方向性に関しての一抹の不安を感じざるを得ない。
 マンパワー政策の基本はまず養成過程を改め、関連職種から順にカリキュラムを共通にし、社会的ニーズの変化や個人の志向に合わせて職種間の移行ができるようにする必要がある。また各専門職集団の責任において評価制度を設け、職業倫理に資源制約を認める方向で改善を図る必要があると考えられる。
 とかく専門職集団は、既得権の保護と現状の維持に邁進する傾向があるので、各専門職集団の責任において評価制度を設け、職業倫理に制約を加えることが課題とされる。」(pp. 53-54)

第3章より

「介護福祉士の資格制度創設までの経緯」
「昭和50年代に入り、中央社会福祉審議会や全国社会福祉協議会から在宅福祉サービスの充実が提起され、1980年には経済社会国民会議が、一般の人に対するサービスとして有償サービスの道を開くことを提言するなど、民間福祉サービスが拡大してきたことを背景に、1980年代後半には、厚生省(当時)の高齢67>68者福祉担当課である社会局老人福祉課(当時)でケアワーカーの確保のための養成研修と資格化の検討に着手した。同時期に「高齢者保健福祉推進十ヵ年戦略」(ゴールドプラン1989(平成元)年)の作業が進められていたこともあり、計画が提示した高齢者介護を担保するためのマンパワー確保は計画達成にとって必須の課題であった。こうしたこともあり、検討の当初ではケアワーカー単独での資格化の方向で進んだ。これと平行するように同じ省内の社会局庶務課(当時)でソーシャルワーカーの資格制度化の検討が進んでお、最終的には、総合的な福祉人材育成と資質向上のためにソーシャルワーカーとケアワーカーをあわせた資格制度化を図ることとなり、福祉人材担当課である社会局施設人材課(当時)と前述の社会局庶務課が制度化作業を担うこととなった。こうして、介護福祉士法ではなく社会福祉士及び介護福祉士法として現在に至ることとなった」(pp. 68-9)

「准介護福祉士」
「これで養成施設の学生確保につながるかは疑問である。介護そのものへの社会的評価を高めたり、介護で生活していけるだけの賃金の支給などの条件整備を図ることを怠ると、看護師と准看護師のような軋轢を生じたり、今でも低いといわれる介護従事者の賃金体系に介護福祉士・准介護福祉士という二重構造を持ち込むことで、さらなる低賃金層を創出することにならないかという危惧も少なくない。」(p. 76)

第6章より

 「以上の3ケースから把握されるのは、福祉・介護サービスの世界の原理・原則が民間企業の参入によって変化してきており、介護職といってもあくまでも営利事業であるという立場に立ち、市場経済・市場競争、コスト意識、組織的行動、顧客対応、営業マインドなどの考え方を理解しなければならないということである。ただし、これは福祉の理念を否定するものではなく、専門職の倫理と企業の利益確保とのバランスをとるという姿勢が求められる。こうした観点から、福祉理念が先行しすぎる、思い込みが激しい、自分の勝手な判断で動いてしまうといったタイプの人は不適格であるとみなされる可能性が高く、利用者との契約にしたがい、会社方針のもとで組織的行動がとれる人材が必要とされている」(p. 150)

第9章より

介護労働者の労働環境の課題

1 介護労働差の雇用形態の多様化(p. 210)
2 常勤で働く介護職の待遇面の問題――介護の仕事を専従していても労働環境としての年収がアップすることは難しい(p. 211)

 「第3に、資格と仕事の関係である。今回の分析では専ら介護に従事しないものの方が労働環境は良好であると言うことであった。非介護職には、介護支援専門員や社会福祉士などの資格を取得している者が多く、たとえ学歴が低いものであっても介護支援専門員の資格を取得することにより、非介護職である相談員職、介護支援専門職、事務職に就くことも可能になる。つまり、将来的に労働環境を改善し年収を安定させて行くためには、ヘルパーの資格だけでなく介護福祉士や社会福祉士、介護支援専門員などの視角を取得するなど、キャリア・211>212アップするための介護労働者自らの努力が求められていることが分かる。」(pp. 211-212)

終章より

 「介護保険発足当時は、日本経済はバブル経済崩壊後の深刻な不況にあった。しかし徐々に経済が回復し、一般企業の求人が増加している現在、どこまで雇用を確保できるかが、大きな課題となっている。契機回復と団塊世代の大量退職にともない、一般企業の求人が急増し、さらにバブル崩壊後では久方ぶりに初任給の引き上げ、パート賃金の上昇が生じている。このような経済環境にあっては、福祉・介護分野における求人は非常に困難になっている。現在介護の重要な担い手は、40歳代、50歳代の女性たちであることはいうまでもない。
 一方、少子化対策の一環として、今や政府は、出産後も仕事を諦めずに傷害働きつづけられるよう、育児休業制度を施行し、女性の就業と子育て支援している。徐々にではあっても、確実に若い世代の女性たちの意識は変化し、子どもを保育園に預けながら仕事を続ける女性が増加足ている、さらに、女性が生涯働き続けるための資格取得、教育機会が広がっている。そこで現在の20歳代前半の女性たちの20〜30年後は、現在40〜50歳代とは異なり、出産・育児期に辞職し、その後契約職員を希望する割合は確実に減少することが予想される。235>236
 不足する介護労働に対し、海外からの介護労働者を受け入れよう、という議論が高まっている。2006年9月には、フィリピンと日本の両政府間に、介護労働従事者の受け入れを実現するための協定(日比経済連携協定)が結ばれた。外国からの労働者を低賃金労働として導入することは、外国人労働者の人権を侵害し、また国内の賃金低下を招くおそれがある。したがって条約では、日本人の賃金と同等以上であることが定められている。また自国で4年生の大学を卒業し、その後6ヶ月の介護研修コースを終了していることが前提となっている。しかも来日後、日本の看護師、介護福祉士資格で働いてもらうため、4年の在住期間を定め、その間に資格試験に合格すると、その後は任意継続して滞在が無期限に延長できるが、不合格であれば帰国を余儀なくさせられる。
 はたしてこのような条件で、有能なマンパワーがフィリピンから得られるのだろうか」(pp. 235-6)

 「介護・福祉領域における国家試験が与える資格は、今後どのように専門職として確立発展していくのだろうか。社会的要請があるのであれば、それに対応する教育と経験を積み、その職責を確立し、またそれに応じた待遇をなくして、多くの有能な人材を確保することは困難である。安心して任せられる人材の確保は、今後の介護保険制度を支える鍵になるといえよう。
 「福祉の専門職化」は、わが国にとって長年の課題である。社会福祉士、介護福祉士の国家試験が1989年に施行され、すでに19回の試験が実施された。しかし資格保有者の職業専門性の確立および発展の歩みは紆余曲折し、期待するようには進展していない。介護保険制度下の要介護度を基準とした介護費用の設定は、介護施設の収入低下をもたらし、人件費削減をもたらした。さらに2003年以来の景気回復は福祉分野の人材確保を困難にしている。人材確保がより困難になっている現在、社会福祉士固有の明確な職務の規定も確立できない状況にある。専門職試験が開始してそろそろ20年を迎えるものの、業務独占の専門職としてなり得ない現状にあっては、福祉の専門職化を確立することも容易でない、ということを意味しているのであろう」

■簡単なコメント

「専門職試験が開始してそろそろ20年を迎えるものの、業務独占の専門職としてなり得ない現状にあっては、福祉の専門職化を確立することも容易でない、ということを意味しているのであろう」という箇所について。
 「専門職化」は原理的に不可能なのか、つまり介護という仕事の性質上、そもそも専門性は要請されていないのか。あるいはニーズがあるのに他のバリアがあってそれが困難になっているのかが不明。他のさまざまな要因によって形成されている「現状」が、専門職化の確立を「容易」でなくしているのか、原則的に「容易」でないから、専門職になり得ない「現状」があるのか。

「外国からの労働者を低賃金労働として導入することは、外国人労働者の人権を侵害し、また国内の賃金低下を招くおそれがある。したがって条約では、日本人の賃金と同等以上であることが定められている」(p. 236)について。
 外国からの労働者を導入するのは、国内労働市場では、現行賃金では調達できないからであり、導入することで据え置きにできるからである。外国からの労働者を導入すること自体が、国内労働市場における労働力調達可能性という基準で要請される賃金を「低下」させることを目的としていると言うべきである。


*作成:堀田義太郎
UP: 20080118 REV:
介助/介護  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
TOP HOME (http://www.arsvi.com)