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『精神科薬物治療を語ろう――精神科医からみた官能的評価』

神田橋 條治・兼本 浩祐・熊木 徹夫 編 20071025 日本評論社,221p.

last update:20130725
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神田橋 條治 ・兼本 浩祐・熊木 徹夫 編 20071025 『精神科薬物治療を語ろう――精神科医からみた官能的評価』,日本評論社,221p. ISBN-10: 4535982813 ISBN-13: 978-4535982819 2520 ※+[広田氏蔵書] m.d07.

■出版社/著者からの内容紹介


EBM主体の現在、投薬・服薬体験をもとに精神科薬物のナラティブを語り合う。精神科治療をきわめるための刺激的な提言。

■目次


第1章 官能的評価を語る意義とは
官能的評価とは何か
官能的評価をいかに考えるか

第2章 症例検討会を通してみる官能的評価
A うつ病として治療されていた双極性障害の親子
B 体感幻覚を読み解く

第3章 それぞれの薬物の官能的評価を語ろう
ジプレキサ
リスパダール
セロクエル
ルーラン
セレネース
コントミン、ウインタミン
ヒルナミン、レボトミン
ルボックス、デプロメール
パキシル
ドグマチール、ミラドール、アビリット
アモキサン
トレドミン
デジレル、レスリン
テトラミド
ルジオミール
リーマス
テグレトール
デパケン、バレリン、セレニカ
リボトリール、ランドセン

■編者

神田橋條治[カンダバシジョウジ]
伊敷病院副院長。1937年、鹿児島県加治木町生まれ。1961年、九州大学医学部卒業
兼本浩祐[カネモトコウスケ]
愛知医科大学医学部精神神経科講座教授。1957年、島根県松江市生まれ。1982年、京都大学医学部卒業

熊木徹夫[クマキテツオ]
あいち熊木クリニック院長。1969年、京都府京都市生まれ。1995年、名古屋市立大学医学部卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

◆熊木 徹夫 20071025 「官能的評価とは何か」,神田橋・兼本・熊木編[2007:12-16]
 「これは私が提唱したものですが、具体的には「処方あるいは服用した薬物について、患者さんあるいは精神科医の五感を総動員して浮かび上がらせたもの(薬物の”色・味わい”といったもの)や、実際に使用してみた感触(薬効)、治療戦略における布置(他薬物との使い分け)といったもの」を指して、官能的評価と言います。」(熊木[2007:14])

◆症例検討会を通してみる官能的評価

神田橋: DSMが流行して、どんどんどんどんオーガニック(脳器質的)なものが見落とされているんです。
 その誤診たるや、大変なものですよ。ステロイド精神病なんかを見落とすんですからねえ。甲状腺機能の症状全部にDSMでどんどんどんどん抗うつ薬が出されたり、メジャートランキライザーが出されたりしています。
 幻視らしきものがある人にメジャートランキライザーを出すっていうのは考えられないですよね。幻視なんていうのはそんなに出る症状じゃないのに、まず幻視が出たらオーガニックなものを考えて、たとえばクリアな本物の幻視であれぱ、脳幹の病変を疑わなきゃいかんのに、全部見落とされているんです。腹立たしいことが多いです。
兼本:軽度発達遅滞の人はよく誤診されるというか、DSM診断の落とし穴にな<0085<りがちだと近頃よく指摘されていますね。
神田橋:学習障害の人は、「そういう点で自分は何か機能が抜け落ちているんゃないか」「ああやはりそういう病気があるんだ」つていう認識を得られただけで、ずいぶん情緒的に安定するんです。
 自分は欠陥があるんだと聞いて安心するわけじゃないけど、なんかわけわけわからなかったのがわかったということによる精神安定作用は絶大なものです。
 昨日も、間質性肺炎からうつ病になったって患者さんが来たから、「あななたステロイドによるうつ病じゃない? あなたみたいにそんなに、「あーなっったこーなった」って言って悩んで、「これはどうしたことだろう、うつ病ではミないだろうか亅って、うつ病の人は言わないんだよ。あなたステロイドはだんだん減っていくから、それでいいのよ」って言ったら、喜んで帰った。
 今だんだんステロイドを減らしている過程でね。たくさん服んでいたとき12錠も服んでたっていう。「12錠のときはひどかったでしょう」って聞くと、「もうなんか地獄のようになりました」つて。だんだん減ってきたら、ようやくうつ的なものでまとまってきた。そして「うつ病じゃないか」つて言うんでしよ。「向精神薬服まんほうがいいよ、間質性肺炎が悪なるわ」つて言ったら、喜んで帰った。
 このBさんがどうかはわかりませんが、やっぱりここでは被害者としてこの狸りを考えて、抑肝散を使うし、加味逍遥散と両方出して、そしてそのあと何を出すかって考えるかなぁ。
 この、加味逍遥散の「逍遥」というのは散歩のことで、転々とあちこち動き回るという意味なんですよね。症状が散歩する、うろつき回るという意味です。」(pp.85-86)

神田橋:よくねえ、ばかなスーパーバイザーが「振り回されてはいけません」と言うのよ。あれで自殺が増えると思うの。少なくともリストカットは絶対増えますよ。いけないですよね。
 僕はね、皆に「面接というのは箱庭です」と教えているんです。箱庭の中に、患者さんという生きたお人形さんがいて、治療者というお人形さんもいて、何かが治療に役立つような箱庭ができればいいんです。それで(上から種を蒔くようにして)薬をこうやってね。正しい必要はないんで、結果がよければいいやとい<0089<うことだと思うの。正しいことをすることはない。やっばリサービ業だからねえ。
兼本:でもそれはなかなか大変ですよね。しんどかったですしね。
栃本:そう、この人を診るのは本当に「もうどうしようかな、どうしょうかな」とつねに考えていましたね。
村上:誰がやっても難しいですよ。
神田橋:こういう人を診ていくためには、同じ職場に愚痴を言う仲間がないともちませんよ。何も医者である必要はないですよね。看護師さんや掃除のおばさんに「困っとるんじゃー」とか言うのが一番いいですけどどねえ。そういう人た責任がないからね、「先生がんばらにゃあ、若いうちは」とか言われて(笑)。
杉山:最後には感謝の意を述べていかれたわけですよね。意識した通りの意図的工治療はできなかったけども、結果的に本人の感情を受け止める結果になっていったのかなあと思います。
神田橋:サイコドラマがここで起こったんだと思うんだけどなあ。
兼本:「動揺しないように、振り回されないように」というのが、結構一般的な教えですよね。「振り回されることは患者さんのためにはならないんだ」とという教えが、だいたいよく言われることですよね。
神田橋:それがね、僕は境界例の患者さんを診ているときに、振り回されている自分を見つめておれることが中立性だ、ということに到達した時点から精神療法がずいぶんうまくなりました。30代でしたねえ(1970年発表)。どこかに文章が残っていると思います。『発想の航跡』(「境界例の治療」43-55頁)の中にあったんじゃないかな。
兼本:相手の気持ちをどこかでシャットアウトしているから、振り回されないん<0090<ですよね。そうしたら治療者は楽なんだけども、振り回され続けていれば、そのぶんだけずっとしんどいんですもんね。
神田橋:しかし、振り回されていれば成長しますから、振り回されないようにトレーニングを受けてだんだん成長した人は皆、頑なな感じの顔つきになりますよね。
 自分の感情を動かないようにしてしまいますからね、精神的にもとても悪くて、年をとるにつれて豊かな人にはならず、ますます専門家以外の何者でもな、人間じゃないような人になってしまうんですよ。どうしてあんなに悪いトレーニングが行われたんですかねえ。人には寄り添ってみよ、という感じがよろしいと思うんだ。」(pp.89-91)

■言及

◆立岩 真也 2013 『造反有理――身体の現代・1:精神医療改革/批判』(仮),青土社 ※
◆稲場 雅紀・山田 真・立岩 真也 2008/11/** 『流儀』,生活書院


UP:20080831 REV:20130719, 0725
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