HOME > BOOK >

『遊女の社会史――島原・吉原の歴史から植民地「公娼」制まで』

今西 一 20071020 有志舎,280p.


このHP経由で購入すると寄付されます

■今西 一 20071020 『遊女の社会史――島原・吉原の歴史から植民地「公娼」制まで』,有志舎,280p. ISBN-10:4903426092 ISBN-13:978-4903426099 2730 〔amazon〕

■内容(有志舎HPより)

アメリカ下院の「従軍慰安婦」決議に見られるように、世界の視線は日本の「性的奴隷」制に向けられている。そのなかで、「かぶき者」、島原、吉原の歴史からはじまって、植民地「公娼」制までを、周縁民衆史研究の第一人者が書き下ろした力作の歴史書。
従来の論争を踏まえ、新史料を発掘し、絵画や写真資料を豊富に掲載。


■目次

はしがき
序章 グローバル化と「性の植民地」
第一章 遊廓の誕生
 一 「かぶき」と中世の遊女
 二 島原への途
 三 元吉原の再興
第二章 遊廓の構造
 一 島原支配の成立と崩壊
 二 元吉原から新吉原へ
第三章 芸娼妓「解放令」前後
 一 〈文明〉のまなざし―ヨーロッパ人の見た遊廓―
 二 いくつかの「解放令」
 三 京都の近代
 四 近代「公娼」制の確立
終章 帝国「日本」と植民地「公娼」制
 一 国内植民地北海道の芸娼妓「解放令」
 二 植民地朝鮮の「公娼」制
あとがき

■引用

◇第三章 芸娼妓「解放令」前後
「明治初年に人身売買の禁止を建言した津田真道もまた、「廃娼論」(『明六雑誌』第四一号、一八七五年)のなかで――
 それ娼妓の世の風俗を頽荒し、人の徳義品行(道徳上の義務・行い)に大害を為すは固より論を俟たず。
 その民財を薄弱にするの弊害、またかつて言うべからざるな
 り。蓋国(我が国)は人民に頼って立ち、人民に頼ってなる。一人の貧は即ち全国の貧なり、一
 民の弱は即ち全国の弱なり、今それ無智の小民娼妓の為に惑溺(迷って本心を失う)し、家産を
 蕩尽(使い果た)して、以てその家を喪し、因て以て梅毒を買い、身体衰弱、精神混夢(夢うつ
 つ)と為る者枚挙すべからず。
と語っている。前半では、国が「人民に頼ってたち、人民に頼ってなる」といった、人民主権のような議論もしているが、その国を滅ぼすのが、「娼妓」ということになる。そして津田は、「娼妓を廃せずんば、二千五百有余年の久しき、未だかつて外国の侮辱を受けざる、堂々たる我大日本帝国も、永<0189<くその国体を維持すること、あに危殆(非常にあぶない)ならずや」と説いている。まして「今の時は、いわゆる文明富強の各国と交際を為さヾるを得ざるの時」だと注意している。
 このように、外国の文明国の〈まなざし〉を気にして、「富国強兵」を進めていくためには、娼妓のような者は、「無智の小民」を惑溺させ、家を滅ぼし、梅毒にかかって身体を虚弱させる、国家の最大の敵ということになって、新たな差別の対象となっていく側面を見る必要がある。」(pp.189-190)

◇終章 帝国「日本」と植民地「公娼」制
「 私はむしろ、なぜ戦前の日本では「フランスと同様に自国の植民地や保護国では公娼制をしき、そこではかならずといってよいほど日本人経営の娼館が設置され、多数の売春婦が活動していた」のかを知りたかった(清水洋・平井均『からゆきさんと経済進出』コモンズ、一九九八年)。帝国日本の「同化」主義のひとつの例を、売買春を通して考えたかったのである。
 そして戦後の韓国では、「植民地化以前から朝鮮の地に根を下ろした公娼制度による売買春の慣行<0262<は、南北分断や朝鮮戦争などの社会的不安が続く中で存続し、一九六一年一一月九日、「淪落行為等防止法」が発布後も、今日までその名残をとどめている」と言われている(山下英愛前掲載論文 *引用者注 山下英愛「朝鮮王朝末期の妓生について」『総合女性史研究』第一二号、一九九五年参照)。帝国日本の遺産を受け継いだ現代日本でもまた、本書の冒頭に書いたような「性の植民地」化は、ますます拡大していっている。この「帝国意識」と結びついた「性差別」の連鎖は、いったいいつになったらたちきれるのであろうか。」(pp.262‐263)


*作成:松田 有紀子
UP: 20080605 REV:20081128
性(gender/sex)   ◇身体×世界:関連書籍 2005-  ◇BOOK