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『医療と生命』

霜田 求・樫 則章・奈良 雅俊・朝倉 輝一・佐藤 労・黒瀬 勉 20070827 ナカニシヤ出版,シリーズ「人間論の21世紀的課題」3,176p.


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■霜田 求・樫 則章・奈良 雅俊・朝倉 輝一・佐藤 労・黒瀬 勉 20070827 『医療と生命』,ナカニシヤ出版,シリーズ「人間論の21世紀的課題」3 176p. 1995 ISBN-10: 4779501857 ISBN-13: 978-4779501852   [amazon] ※ b be

■内容

 医療の現場、生命の価値、社会の中の医療を問う! 
 生と死の諸相、先端医療、そして医療をめぐる社会のあり方に関わる多様な問題をコンパクトに解説した医療・生命倫理の入門書。

「あとがき」より
 本巻はまた、専門職に従事するためのハンドブックにとどまらず、医療や生命科学研究に関わる公共政策に積極的に参画する市民のための参考文献となることを 願って執筆された。さまざまな意見がぶつかり合ういくつかのトピックについては、異なる立場や視点からの論拠が挙げられているので、議論をする際にそれら を材料として利用していただきたい。

■著者紹介

霜田 求[シモダ モトム] 担当:第7章、第9章
1960年生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。哲学・倫理学専攻。大阪大学准教授
◆樫 則章[カタギ ノリアキ] 担当:第1章、第10章
1956年生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。倫理学専攻。大阪歯科大学准教授
◆奈良 雅俊[ナラ マサトシ] 担当:第2章、第4章
1959年生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。倫理学専攻。慶應義塾大学准教授
◆朝倉 輝一[アサクラ コウイチ] 担当:第3章、第12章
1959年生まれ。東洋大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学・乙)。哲学・近現代ドイツ思想専攻。東洋大学非常勤講師
◆佐藤 労[サトウ ツトム] 担当:第5章、第6章
1957年生まれ。専修大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。博士(哲学)。哲学・倫理学専攻。藤田保健衛生大学准教授
◆黒瀬 勉[クロセ ツトム] 担当:第8章、第11章
1950年生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。哲学・倫理学専攻。近畿大学非常勤講師

■目次

第I部 医療倫理と生命倫理の基本原則
第1章 医療と生命の倫理的課題へのアプローチ

1 伝統的な医の倫理から現代の医の倫理へ
2 生命倫理と臨床倫理
3 伝統的理論と現代のアプローチ
功利主義/カント主義倫理学/権利基底的倫理学/カント主義と契約説/原則主義
4 現代の他のアプローチ
徳倫理学/結疑論/ナラティブ倫理学/ケア倫理学/共同体主義/フェミニスト倫理学

第2章 生命の質と価値をめぐる倫理 奈良 雅俊
1 ロングフル・ライフ訴訟――生きるに値しない生命
2 障害新生児の選択的治療中止――死ぬにまかされる生命
選択的治療中止をめぐる論争/日本における議論
3 選択的治療中止の倫理的根拠
倫理学者たちの見解/障害を持って生きるよりも、死んだほうが望ましい
4 障害モデル
障害の社会モデル/障害者として生きる
5 出生前診断と優生学
優生学とは/出生前診断は優生学か

第3章 医療におけるコミュニケーション――IC、パターナリズム、看護とケア
1 医療におけるコミュニケーションの在り方の変化
患者中心医療への転換/患者・医療者関係のコミュニケーションモデル/コミュニケーションモデルへの構造論的視点の導入
2 インフォームド・コンセント――アメリカと日本
IC確立までの歴史 アメリカ/日本での浸透/インフォームド・コンセント(IC)概念の二つの側面と要件/パターナリズム医療と自己決定医療のディレンマ
3 看護とケア
ケアの倫理――自律概念の見直し/世話と気遣い/ケア概念の再構築へ

第II部 生と死を見つめて
第4章 生命の始まりをめぐる倫理

1 人口妊娠中絶
犯罪から合法化へ/胎児は「ひと」か/誰が決めるべきか
2 生殖補助医療
生殖補助医療とは/生殖補助医療の倫理的課題/生殖補助医療は必要なのか
3 出生前診断と着床前診断
出生前診断と選択的中絶/着床前診断

第5章 安楽死・尊厳死 佐藤 労
1 はじめに――安らかな死
2 医療と人生
医療の進歩/医療の始めと終わり
3 人生にとって大切なもの
支え合い/人生の尊厳/自由な選択
4 安楽死の諸相
積極的安楽死/間接的安楽死/消極的安楽死
5 おわりに――チームによる決定

第6章 臓器移植
1 はじめに
2 移植の実際、たとえば腎移植
腎不全/人工透析・腎移植
3 移植の統計と提供の条件
移植希望登録者と移植者数/提供者(提供できる条件)
4 臓器移植は部品交換ではない
移植後の生活/移植にともなう人間関係/生体提供者の側からの考察
5 移植を受けた後の人間関係
6 おわりに――死体からの臓器提供者

第III部 先端医療の行方
第7章 遺伝子と医療

1 はじめに
2 遺伝子治療
体細胞遺伝子治療と生殖細胞系列遺伝子治療/デザイナー・ベビー
3 遺伝子診療
遺伝カウンセリングの諸問題/発症前診断に関わる事例の検討
4 遺伝子と社会設計
遺伝子型と表現型/遺伝子中心主義とその批判
5 おわりに

第8章 クローン技術の応用をめぐる倫理的問題
1 生殖クローニング
禁止されたクローン人間/クローン人間をめぐる倫理的問題/クローン人間をつくる必要があるのか
2 治療的クローニング
ES細胞とクローン技術/治療的クローニングをめぐる倫理的問題/研究の必要性の検討

第9章 テクノロジーと人間改造
1 はじめに
バイオテクノロジーによる生命のコントロール/身体・精神の改造へ
2 個人の自発的選択か社会的規制か
個人の自発的選択の尊重(推進論)/社会的規制の強化(慎重論)
3 「幸福追求権」か「分別なき欲望追求」か
生命への介入がもたらす幸福(推進論)/社会を危険にさらす欲望追求(慎重論)
4 「人間性」「人間の尊厳」の〈侵害〉か〈真の実現〉か
不可侵の原則である「人間の尊厳」(慎重論)/文明の進歩と人類の自己実現(推進論)
5 ネオリベラリズムかリベラル・デモクラシーか
選択の自由と市場原理による管理(推進論)/社会秩序の安定と平等の堅持(慎重論)
6 批判的考察の試み
推進論と慎重論の対立構図/社会的相互行為という視角

第IV部 医療と社会
第10章 医学研究の倫理

1 人を対象とする医学研究の倫理
人を対象とする医学研究の倫理の必要性/人を対象とする医学研究の倫理的原則/人を対象とする医学研究の基本的問題
2 胚や胎児を対象とする医学研究の倫理
母体外にある胚を対象とする研究/母体内にある胚および胎児を対象とする研究/もとは母体内にいた、生きた胚や胎児を対象とした研究/母体外の死亡胎児の組織利用のための研究
3 動物を対象とする医学研究の倫理

第11章 社会的共通資本としての医療制度の危機
1 医療事故の衝撃
頻発する医療事故/認識の転換
2 医療事故対策とリスクマネジメント
事故対策とリスクマネジメント/インシデントレポーティングシステム
3 医療事故訴訟
刑事訴訟と医療の萎縮/医療制度を守るために

第12章 健康と病気、医療と文化
1 健康と病気
ヘルスプロモーションと健康/健康概念の曖昧さ・多様性/医療の産業化と医原病
2 健康と文化
養生と健康/生‐権力と社会福祉国家/ポリツァイと優生学/死生観の違いに見る健康と文化

あとがき
事項索引
人名索引

 

■引用

◆第6章 臓器移植 (pp.75‐87) cf.臓器移植

4 臓器移植は部品交換ではない

 「…一つ目の誤解は、移植すれば新車と同じように健康になるというものである。腎移植後は、水分は多めに、塩分は気にせず、ほとんどなんでも食べられるようになる。しかし原因疾患が糖尿病である<0080<とすれば、もちろん生活習慣病のための食事制限は続けられる。…しかし、まったくの健康になったわけではない。
 部品交換の誤解の二つ目は、移植すれば新車と同じ寿命を手に入れるというものである。…提供してくれる相手によって生着率が異なるのであれば、より長く生着する臓器を希望するのは、自然な感情であろう。

 …部品交換の誤解の四つ目は、臓器は機械ではないということである。つまり、貰う方も、提供する方も、人間なのである。貰う人も、提供する人も1人で生きているのではなく、それぞれを囲む人間関係のなかに生活している。<0082<…しかし、いずれにせよ患者と一緒に住んでいて、つらい透析生活をそばで見ている。そして、この血液透析の生活から解放される方法として、腎移植手術があり、腎臓を提供する人がいれば、患者が救われるのを知っている。そこで家族は組織適合検査を受ける。より移植に適している人をそうでない人に区別される。<0083<」

 この章での参考文献
・大谷貴子 1998 『生きてるってシアワセ!』、スターツ出版
・倉持武・長島隆編著 2003 『臓器移植と生命倫理』、太陽出版
・杉本健郎 2003 『子供の脳死・移植』、クリエイツかもがわ
・中山研一ほか編 1998『臓器移植法ハンドブック』、日本評論社

◆第11章 社会的共通資本としての医療制度の危機(担当:黒瀬)

 認識の転換
 「医療は患者の生命を取り扱うゆえに、間違いは許されない、したがって、事故を起こした場合、「不注意だった」とか「能力不足だった」と、その人の責任が追及される。しかし、こうした考え方では、頻発する医療事故に対応できない。事故の問題に積極的に発言してきた柳田邦男は、わが国では、事故が起こったら、医師や看護師が追及され、その発想が「責任指向」である、と言っている。日本では、過失についての考え方が道徳的で、科学的でない。そして、安全対策のための事故調査と過失責任論が混同される。しかし、そうした「責任指向」では有効な事故対策にならない。事故調査<0148<は、「誰がやったのか」を問うものではなく、「なぜ起こったのか」を分析して、原因を明らかにしなければならない。「原因指向」の対処によって、有効な事故対策を講じることができる。
 事故原因の分析としては、医療従事者の個々の行為の是非を検討するのではなく、「医療機関のシステムや診療プロセス」に焦点をあてた分析をしなければならない。「根本的原因分析」、アメリカの航空機事故などの調査と分析で行なわれる「4M‐4E方式」や「SHELモデル」が求められる(柳田)。例えば、手術部位を間違える事故では、要因として、手術に複数の医師がかかわること、時間的プレッシャーがあるなど、いくつかあるが、こうした事故の根本的な原因は、患者とのコミュニケーション不足、手術部位の確認システムの不備である。横浜市大付属病院での患者取り違え事故の根本原因は、コミュニケーション不足と患者確認システムの不備であった。」(pp.148-149)


cf. 田中滋 19860105 「「薬害」の総体的認識に向けて――薬害の顕在化過程の分析」,宝月編[1986:213-250]
  宝月誠編 19860105 『薬害の社会学』,世界思想社

■言及

◆奈良 雅俊 20070827 「生命の質と価値をめぐる倫理」,霜田・樫・奈良・朝倉・佐藤・黒瀬[2007]
◆佐藤 労 20070827 「安楽死・尊厳死」,霜田他[2007:62-74]

◆立岩 真也 2008 『唯の生』,筑摩書房 文献表


*作成:橋口昌治 増補:北村健太郎有吉玲子
UP:20070825 REV:20071228 20080424,0817
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