『ワーク・フェア――雇用劣化・階層社会からの脱却』
山田 久 20070719 東洋経済新報社,284p.
■山田 久 20070719 『ワーク・フェア――雇用劣化・階層社会からの脱却』,東洋経済新報社,284p. ISBN-10: 4492394869 ISBN-13: 978-4492394861 \1890
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[kinokuniya] ※ p0206
■内容
(「MARK」データベースより)
2002年以降、日本経済は回復傾向を続けている。企業の経常利益は史上最高水準を記録し、設備投資も拡大局面に入った。昨年11月には「いざなぎ景気」を凌駕して、戦後最長の景気拡大期間を更新中である。悪化していた失業率も回復傾向を示し、「量」的な面では雇用問題は解消したようにみえる。だが一方、非正規労働者の増加、若年就労問題など、雇用の「質」の面では劣化が進んでいる。中年フリーター、ワーキングプアといった深刻な問題も顕在化し、平等社会を誇った日本はいま「階層社会」への瀬戸際にある。いわゆる「格差問題」がしきりに取り上げられ、構造改革路線の見直しを求める声もあがっている。だが、日本を取りまく経済環境の激変を踏まえれば、構造改革路線は後戻りできないし、するべきではない。構造改革のプラス面も正当に評価した上で、経済改革で生じた社会的な「ゆがみ」を直す必要がある。そして、その切り札となるのが、本書で提示する「ワーク・フェア」なのである。
この言葉のもとになった「ワークフェア(Workfare)」とは、もともと米国で社会保障給付をする際に就労義務を課すことを意味していた。その後、各種就労支援も含む政策を指すようになり、欧米で「成長と福祉の両立」において成果を挙げている。わが国でも、このコンセプトを、1就労形態の多様化、2就労可能性を高める職業訓練の重視、3福祉受給対象者に対する就労インセンティブの給付、4勤労者の仕事と育児・家事の両立支援、5「同一価値労働・同一賃金原則」への収束――の5本柱により拡充したものを、新しい経済社会の基本理念とすることが求められている。そして、これを実行することが、喫緊の課題である「若年就労問題への対応」「貧困層の解消」「少子化への対抗策」となることはもちろん、いま話題の「年金制度の信頼回復」にもつながる。
こうした政策は、福祉のみならず経済の面でも大きな効果をもたらす。構造改革・経済再生の成果を企業部門だけでなく、国民全体が享受することにもつながり、そのことがまた経済全体を押し上げるというプラスの循環が生まれるからだ。また、本書で示しているように、企業サイドもこうしたワーク・フェアの理念をマネジメントの基本哲学に据えることが、企業価値を高めることにもなる。このように、雇用・労働面にみられる様々な問題を通して、日本に迫る危機を明らかにし、国と企業と個人の新たな成長・繁栄の道筋を示したのが本書なのである。
■内容
(「BOOK」データベースより)
非正規労働者の急増、若年就労問題、中年フリーター、ワーキングプア…雇用の“不公平”から「社会の階層化」の瀬戸際に立つ日本の実態を鋭く分析。欧米で成果をあげたワークフェア改革をもとに、企業側の対応法も含め、「格差」を是正しつつ「成長」も達成する新たな道筋を指し示した話題の書。
■著者紹介
- 山田久(やまだ・ひさし)
- (株)日本総合研究所調査部マクロ経済研究センター所長。1963年大阪府生まれ。87年京都大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行。同行経済調査部、(社)日本経済研究センター出向を経て、93年日本総合研究所へ出向。2003年3月、法政大学大学院修士課程(経済学)修了。マクロ経済分析をベースにしながら、企業人事の動向を踏まえつつ、今後の雇用・労働システムのトータルなあり方について研究・発言を行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
■目次
序章 「ワーク・フェア」の時代――「成長」と「福祉」の新たな関係
高まる国民生活の不安―構造改革の光と影
「ワーク・フェア」とは何か―日本を救うブレイクスルー
「大企業中心経済・企業依存型社会」崩壊のはじまり
本書の構成―問題の本質を分析し解決策を提示
第1章 過去一五年間で労働の現場はどう変わったか――二つの「非典型化」と新しい貧困の危機
1 「失業増」から「賃金デフレ」へ―労働現場の大転換期
バブル崩壊後から金融危機発生まで―雇用悪化のはじまり
◎「戦後日本型雇用システム」の構造
◎「戦後日本型雇用システム」の機能不全化
金融危機発生以降―失業率上昇と人件費抑制
◎日本型雇用システムの変質
◎“賃金の下方硬直性"打破による失業率の抑制
二〇〇四年末期以降―環境好転と雇用過剰感の解消
2 二つの「非典型化」――“典型的な正社員”比率の低下
非典型労働(非正規労働)の増加
典型労働者の非典型化(日本型雇用慣行の変質)
3 蝕まれる雇用社会の現実
雇用不安の高まり――企業への信頼感の喪失
労働時間だけでは説明できない「過労死」問題
「戦後日本人」的働き方の限界―なぜ追い込まれるか
若年就労問題――「フリーター」「ニート」の背景
貧困層の増大――「ワーキング・プア」の衝撃
いわゆる「格差問題」の本質
第2章 職場はどのように変容していくのか――環境変化が求める新たな人材マネジメント
1 マクロ経済環境の変化――今後を読み解く四つのポイント
国民の生活水準の向上
新興工業国の台頭
情報技術の発達
少子高齢化の発展
2 成果主義の実態と今後
成果主義とはなんであったのか
「現場力」低下等のマイナス作用
「いわゆる成果主義」失敗の所在
3 変わる労使関係――これからの企業に求められる対応
雇用のニューディール――オープンな契約関係へ
「非典型労働」増加のインパクト
新たな人材マネジメントの必要性
◎一般従業員
◎現場マネージャー
◎ジェネラル・マネジメント(経営層)
企業理念・経営ビジョンの重要性――明文化し共有する
雇用流動化時代の人材育成――企業を越えた取り組みの必要性
◎機能開発の問題
◎企業能力の二つのタイプ
◎職業特殊能力=プロフェッショナリティー
第3章 若年就労問題が警告するもの――破綻した日本型キャリア形成
1 低下する勤労継続意欲―「悪い離職」の増加
「フリーター」「ニート」をめぐる議論の変遷
若年正社員の離職率の高まり
2 “キャリアの視界不良化”がもたらすもの
キャリア・コースを示せなくなった企業――「雇用のニューディール」の影響
「良い仕事」に就けない現実
なぜ「良い仕事」が減ったか
3 若年雇用問題から日本社会の病理
「知識経済の時代」に必然的に起こる問題
欧米社会はどう対応してきたか
プロフェショナルが育たない日本社会
第4章 機能不全に陥った「戦後日本型・生活安定化システム」――社会が階層化しないための新たな公平原理
1 戦後日本を支えてきた生活安定化システムの特徴
日本型雇用システム
企業依存型福祉システム
夫婦分業型家族システム
「企業依存型」システムはなぜ維持できたのか
2 システムの機能不全がもたらしたもの
機能不全で露呈した様々な問題
◎雇用・生活不安発生のメカニズム
◎日本人の日本人のアイデンティティーの危機
「規制緩和・構造改革・グローバル化」主因説の検証
◎「規制緩和原因説」の検討
◎「グローバル化」「構造改革」が原因か
3 「社会の階層化」の瀬戸際に立つ日本
「生活基盤の弱体化」と「経済力低下」の悪循環
階層化による日本社会分裂の危機
問われる「公平原理」の転換
第5章 欧米におけるワークフェア社会の経験をどう活かすか―「経済成長」と「社会福祉」の発展的両立
1 三つの福祉国家レジームの類型
◎「自由主義レジーム」
◎「社会民主主義レジーム」
◎「保守主義レジーム」
レジームごとのパフォーマンス比較
「ワークフェア」の原理
2 スウェーデン・モデルからの示唆―成長と福祉の両立
「安定成長・低失業率・高政府支出」の維持
「成長と福祉の両立」の背景
◎成長のエンジンとしての輸出
◎産業構造の高度化
◎積極的労働市場政策の展開
◎公的部門による家族サービスの提供
最近の動き――自由主義的要素の咀嚼的導入
わが国が参考にすべき点
3 イギリスにおけるワークフェア改革―構造改革のマイナス面の是正
「福祉国家イギリス」行きづまり
サッチャー改革の光と影―経済再生化の格差拡大
ワークフェア改革―経済再生とセットで行うべき社会改革
わが国が学ぶべき点―産業基盤強化策と生活基盤強化策
4 「ワークフェア」から「ワーク・フェア」へ
◎就労形態の多様化
◎職業訓練の重視
◎福祉受給対象者に就労インセンティブ
◎仕事と育児・家事の両立支援
◎同一価値労働・同一賃金原則の再構築
第6章 「日本型ワーク・フェア社会」の構想――企業・個人・政府の関係の再構築
1 わが国における「ワーク・フェア」の有効性
諸問題に対する「ワーク・フェア」の効果
◎若年就労問題への対応
◎「貧困層解消のための対応策
◎少子化への対抗策
◎年金制度の信頼回復
外国人労働者の活用をどう考えるか
2 スウェーデンとイギリスから学ぶべきこと
経済改革と社会改革の同時達成の必要性
多元化雇用・勤労福祉社会の実現が問題を解決する
3 「日本型ワーク・フェア社会」実現への課題
多元的雇用モデルを前提とした労働法則の整備
◎正社員・非正規社員の待遇均等化
◎解雇法制
◎労働法制改革
職種別労働市場の創出
積極的労働市場政策の推進
◎ワンストップサービスの実施
◎「日本版コミュニティーカレッジ」の創設
◎「若年キャリア自立支援プログラム」の大規模な実施
勤労促進型の社会保障インフラの構築
◎社会保障制度改革の三本柱
◎制度の「ゆがみ」の是正
◎生活保護制度の改革
ワーク・バランスの支援(家族機能の社会的補完)
◎三つの効果
◎実現のために必要な環境づくり
◎ホワイトカラー・エグゼンプションの本来機能
「職業人としての自立」を促す仕掛け作り
4 結びにかえて――「ワーク・フェア」で企業価値を高める
新たに求められている経営・人材マネジメント
富士ゼロックスのケース
知識想像力、ブランド価値の向上
あとがき
参考・引用文献
■引用
■紹介・言及
◇橋口 昌治 20090910 「格差・貧困に関する本の紹介」, 立岩 真也・村上 慎司・橋口 昌治 20090910 『税を直す』,青土社,350p. ISBN-10: 4791764935 ISBN-13: 978-4791764938 \2310 [amazon]/[kinokuniya] ※ t07.
*更新:三野 宏治