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『格差社会ニッポンで働くということ――雇用と労働のゆくえをみつめて』

熊沢 誠 20070626 岩波書店,270p.


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■熊沢 誠 20070626 『格差社会ニッポンで働くということ――雇用と労働のゆくえをみつめて』,岩波書店,270p. 1900+税 ISBN-10: 4000224786 ISBN-13: 978-4000224789 [amazon]

■内容について
 一九九〇年代後半から加速度的に顕在化した雇い方・働かせ方に関する企業労務の展開からもたらされた、雇用形態の多様化、ワーキングプアの急増、働きすぎ の人たちと働けない人たちの共存、労働条件が悪くても声をあげられないこと…つまり、“労働問題”こそが、日本をまぎれもなく格差社会とさせているのだ。
格差社会論はこれまでも数多いが、労使関係の視点から「労働そのもの」をみつめた議論はいまだなかった。
 本書は、それをみつめつづけてきた著者だからこそ可能となった新しい格差社会論であると同時に、労働研究の到達点から語られる“日本の労働”入門でもある。

■出版社からのコメント
 「ふつうに働くひとびと」をみつめつづけてきた著者が,今の日本を「格差社会」にしている決定的な要因としての労働の状況を,多方面から検証する.急速に進む雇用の多様化といった,働くことをめぐる変化をどう考えればよいのか.これまでの格差論議には抜け落ちていた視角から語られる,現状分析と格差是正への道行き.(……岩波書店ホームページより)

■著者について
熊沢誠[クマザワマコト]
1938年三重県に生れる。1961年京都大学経済学部卒業(1969年経済学博士)。甲南大学教授などを経て、甲南大学名誉教授、研究会「職場の人権」代表。専攻は労使関係論、社会政策論。

■目次

1章 労働のパノラマ――労働者の第1次的階層形成

1 序にかえて
2 労働のパノラマ
  システムの設計・管理とシステム間の媒介/システムに統合されたさまざまの流れ作業/間接的・周辺的な作業の担い手
3 「恵まれた」仕事の影
  裁量権とストレス/納期のしめつけ/危機に立つ仕事の自律性/ノルマの軛/規制緩和のなかで
4 単純労働をみつめて
  単純労働の「公分母」と「もっとも可視的な兆候」/担い手の群像/単純労働はなぜなくならないのか/単純労働論の視野/仕事の階層性と格差社会

2章 格差と不平等をみる視点

1 格差社会の検証
  「いわれなき差別」と「いわれある格差」/国際比較的にみた格差/格差の諸相
2 私のスタンス
  機会の平等があればいいのか/追求されるべき社会――ノンエリートたちの生活権と発言権
3 格差をもたらした要因
  小泉構造改革/人事・労務管理の変化
4 格差の全体構造とその受容
  当面のプログラム/格差の全体的な構造を語る2表/格差構造の受容をめぐって

3章 大企業と中小企業の処遇格差

1 企業規模間格差の諸側面
  中小企業労働者の比重/賃金と退職金の格差/休日と福利施設/国際比較
2 企業規模間格差の背景
  労働力の質をめぐって/支払能力の解析
3 支払能力の作用を制約するもの
  労働力需要と労使関係/下請企業の諸相/欧米の賃金交渉/欧米と日本を「相対化」する視点/春闘相場の形成/支払能力への「里帰り」

4章 個人処遇としての賃金格差

1 戦後日本の賃金体系
  賃金の決め方に関する4象限/賃金体系をめぐる労使の確執/職能資格給への収斂
2 日本的能力主義の性格と展開
  働き方のフレキシビリティと「生活態度としての能力」/年功制度のなかの能力主義/1990年代半ばの新しい展開/個人別賃金格差の拡大
3 望ましい賃金体系とはなにか
  成果主義批判/能力主義管理のチェックポイント/望ましい賃金体系

5章 正規雇用と非正規雇用――女性労働者の位置

1 非正規労働者の状況
  その激増と諸形態/非正規労働者の雇用・キャリア・仕事/低賃金/労働者の権利と社会保障給付
2 非正規雇用に誘導される女性たち
  執拗な性別職務分離/性別職務分離の背景/「働きすぎが標準」のインパクト/非正規雇用の選択/大団円としての主婦パートタイマー
3 女性労働者の階層分化
  モザイク化する職場/分業と雇用形態と格差

6章 正規雇用と非正規雇用――若者たち

1 非正規雇用の若者たち
  格差と年齢階層/トランジションの困難/フリーターの仕事/ステイタスの継続性と生活不安
2 正社員生活の修羅
  仕事のしんどさ/人間関係の緊張とストレス――早期退職の背景
3 若者労働の状況がもたらす社会的影響
  パラサイトの激増/男性結婚率の格差/外国人労働者についてのコメント
4 非正規労働者の状況改善のために
  4点の追求目標/EU諸国の達成/非正規労働者の発言権――さまざまの労働組合

7章 「働きすぎ」と「働けない」の共存

1 日本の労働時間――どこが問題なのか
  労働時間の2極分化/経済的自立の困難な短時間雇用者
2 働きすぎの分析
  執拗な長時間労働/メンタル・クライシス/働きすぎの根因――ノルマの重圧/労働時間の延長をもたらす諸要因/「働きすぎ」から「十分に働けない」へ
3 ワークシェアリングの必要性と可能性
  2つの形態――「一律型」と「個人選択型」/望ましい労働時間・時給・年収のイメージ/ホワイトカラー・エグゼンプション批判

8章 「官民格差」と公務員バッシング

1 なぜ公務員問題を取り上げるのか
  公務員批判の虚実/「サッチャー革命」と新自由主義の台頭/行政改革――「先進国病の予防」
2 現時点の公務員バッシング
  公務員への新しい加圧/ワーキングプアと「厚遇」の公務員/労使癒着のプロセス/公務員バッシングの危険なモメンタム
3 公務員バッシング対抗論
  賃金と業務コストの「官民格差」を凝視して/民間委託労働者の均等待遇/公共サービス擁護の原理論/公務員労働のフロンティア/「自主管理的」労働の主体性

9章 困窮する人びととセーフティ・ネットワーク

1 生活困窮者の群像
  長期失業者,フリーター,シングルマザー/多重債務者,ホームレス
2 セーフティ・ネットワーク――日本の特徴
  所得再分配の一定の役割/低い国民負担率の明暗/ウェルフェアよりはワークフェア/セーフティ・ネットワークの日本的主体/福祉国家から福祉社会へ/ウェルフェアのゆくえ

3 セーフティ・ネットワークの充実のために
  生活保護の問題点/雇用保険制度の欠陥/低すぎる最低賃金

終章 格差是正と労使関係

  法律と行政にできること/労使関係の役割/日本の労働組合――存在の希薄さ・問責の不在/ストライキの国際比較をめぐって/産業民主主義の意義/多様な労働組合の可能性

あとがき
参考文献

■引用

「単純労働についての大切な論点を、さらに二点ほど考えてみたいと思います。ひとつは、この種の仕事はもっとも機械化できるはずなのになぜなくならない か、です。この点については次のようにいえます。たとえばコンビにの弁当にしても、いろいろなおかずのついた弁当が一挙に出てくる自動販売機みたいな機械 でつくるわけではないのです。ものづくりのオートメーション化というのは、かならず工程ごとに不均等に進みます。ある工程は自動装置、ある工程は手作業で す。ここが枢要です。最先端の自動装置の経済性は、それを休止させることなく稼動させることが一番ですが、そのためには、オートメーション装置の前後に古 典的な単純労働の提供者をたくさん配置して、新鋭装置に間断なくワークを食べさせ、消化したワークをすかさず処理する絶対の必要性が生まれるのです。
 たとえば自動車工場では、エンジン製作部門に、一度にあらゆる角度から多数の穴あけ作業を済ませる完全な自動装置があります。しかしその装置の生産性が なまじっか高いからこそ、シャーシーの組み付けには、その新鋭装置を経済的ならしめるために、昔ながらの単純労働を遂行するたくさんの人員が必要になる。 この関係はあらゆる労働現場にみられます。その場合、新鋭装置の周辺労働を担う人たちが国内の同じ工場にいるとは限りません。下請けの部品工場かもしれな いし、外国の系列企業かもしれません。しかし産業社会全体をみれば、先端技術の導入はどこかに膨大な単純労働を要請するといえましょう。単純労働がなくな らない、これが要因のひとつです。
 もうひとつ。省力化というものの経済的条件は、端的にいって機械のほうが人よりも安いことです。だから、賃金水準が高いと機械化されやすく、賃金水準が 安いと機械化されにくい。かんたんな理屈です。それゆえ、企業というものは、とくに多くのマンパワーを要するU-A-Aの分野ではつねに、安い賃金で働い てくれる、そのうえ可能ならば整理しやすい労働者を求めます。非正社員、請負労働者、女性、若者……といった群像が直ちに思い浮かびます。資本移動による 海外労働力の活用もあります。こうしてこの分野には、雇用形態や賃金水準においてもっとも不遇な労働者が集積する次第です。」(pp.22-23)


*作成:橋口 昌治
UP:20070810
「若年者雇用問題」文献表 ◇
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