『萩』
柳澤 桂子 20070530 角川書店,233p.
■柳澤 桂子 20070530 『萩』,角川書店,233p. ISBN:4046215720 ISBN-13:978-4046215727 \2100 [amazon]/[kinokuniya] ※ w06
■【著者情報】(「kinokuniya」データベースより)
柳澤桂子[ヤナギサワケイコ]
昭和13年東京生まれ。35年お茶の水女子大学卒。38年ニューヨーク・コロンビア大学大学院博士課程修了。Ph.D.を得て帰国し、慶應義塾大学医学部助手。46年三菱化成生命科学研究所副主任研究員。48年理学博士。50年主任研究員。58年病気のため同研究所を退職。寝たきりとなるが、セロトニン欠乏症であることがわかり、起きられるようになる。61年から闘病生活のかたわら、サイエンスライターとして執筆をする。同年「音」に入会して短歌を始める。平成5年『卵が私になるまで』で講談社出版文化賞科学出版賞、同年『お母さんが話してくれた生命の歴史』で産経児童出版文化賞、7年『二重らせんの私』で日本エッセイスト・クラブ賞。11年日本女性科学者の会より功労賞。15年お茶の水女子大学より名誉博士。19年『文藝春秋』読者賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
■目次
地鳴りのごとく
満月ひとつ
病むほどに
合歓
老人ホーム
青白い孤独
焙烙
秋空高し
残り火
朝刊の匂い
したたりて
遠き家鳩
花
薔薇の汁
膝
けだもの
失望
ひとつこと
柘植の櫛
狭心症
馬の眼のかげり
魂を研ぐ
富士
月をちぎって
悲しいことを
白い椿
蜂蜜バター
残菊乱る
年は流れる
かそけきものを
耳をまるめて
緑陰
とろりまどろむ
葉擦れの音
蝉
おくれ毛
紅葉の一葉
阿古屋貝
遊びならずや
ほうとう
ベージュの空
シェルカメオ
白きメシア
カフスボタン
シュ・ア・ラ・クレーム
萩
赤き月
鰯雲
在りたき願い
深く埋めよ
老いの無惨
畑
海鳴りの音
黒き水泡
魚の気持ちで
津波
羽虫
苦しみの棘
すぎゆきて
睫毛パーマ
夾竹桃
ゆうらゆうらと
油蝉
神のなき世に
しずしずと
クラシックジャズ
青磁のかげり
冬の日だまり
生への希求
山茱萸
G線上のアリア
福寿草
口紅
仔鯨
椿の照り葉
物食う人
砂丘の砂
残り火
夢幻の炎
■引用
それは昭和六十一年のことだったと思います。すでに五年以上、病の床に伏していた私は、中城ふみ子の『乳房喪失』を手にしました。短歌といえば『万葉集』くらいしか読んだことがなかったので、短歌のもつ表現力に圧倒されました。
悲しみや苦しみを何と深く表現することができるのだろう。そこで使われる言葉の何とも美しいことであろう。その表現によってもたらされる想像の世界は際限もなく広がります。
その頃の私は大学卒業以来つづけてきた生命科学の研究者の道を病気のためにあきらめねばならなくなり、生命科学についてわかりやsく本と書く仕事をしておりました。
短歌の勉強によって語感を磨くことは、自分の仕事にも役立つという欲張りな考えもありました。さらに、病気がもっと悪くなって、文章を書けなくなったとき、短歌なら書けるかも知れないという思惑もありました。(p230-231)
■書評・紹介
■言及
*作成:櫻井 浩子