『権利としてのキャリア教育』
児美川 孝一郎 20070501 明石書店,195p.
■児美川 孝一郎 20070501 『権利としてのキャリア教育』,明石書店,195p. 1890 ISBN-10:
4750325597 ISBN-13: 978-4750325590 [amazon]/[kinokuniya]
■日販MARC
キャリア教育とは何か、なぜ日本の学校にはキャリア教育が必要なのかを明らかにすると同時に、教育政策として展開されているキャリア教育の問題点を検証
し、保障されるべきキャリア教育の内実を考える。
■著者について
児美川孝一郎[コミカワコウイチロウ]
1963年生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。法政大学キャリアデザイン学部教授。専攻は、教育学(青年期教育、キャリア教育)
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
■目次
プロローグ
第1章 子どもと若者の進路をめぐる状況
第2章 なぜキャリア教育が求められるのか
第3章 日本におけるキャリア教育政策の展開
第4章 「政策としてのキャリア教育」の批判的検討
第5章 「権利としてのキャリア教育」の創造へ
エピローグ
■引用
「アメリカにおける「キャリア・エデュケーション運動」は、華々しいキャンペーンとともに登場し、連邦レベルでの強力な政策の推進に促されつつ、各地での
展開が繰り広げられていったものであるが、それが、1970年代初頭という時期に登場した背後には、やはり相応の社会的背景が存在していた。端的に言って
しまえば、1960年代を通じて進行したアメリカ社会の構造変動――とりわけ産業社会の変化――に対して、学校教育がその対応に立ち遅れ、教育制度として
の行き詰まりを見せはじめていたという事情である。
この時期のアメリカ経済は、産業構造の転換と技術革新の進行によって、職業世界を複雑化させるとともに、そこで求められる労働力水準を高度化させてい
た。その結果、若年層を中心とした失業率の増加が、深刻な社会問題になりはじめていたのであるが、伝統的な職業教育に依拠する学校教育は、こうした状況に
十分に対応できるものではなかった。そればかりではなく、「生きがい」や「働きがい」、自己充足や自己実現といった価値を重視しはじめた当時の青少年の価
値観や労働観の変化に対しても、学校における伝統的な職業指導やガイダンスは、十分な対応ができていなかったと言わなくてはならない。」(p.68)
「もちろん、現在の子どもたち・若者たちが直面する困難を、学校教育の力だけで克服できるなどと考えるのは、「教育万能主義」にも似た”夢想”にすぎな
い。第1章で指摘したように、事態の困難さは、なにより企業の採用行動(雇用方針)の変化と政府の雇用政策(=「労働力の流動化」政策)によってもたらさ
れているのだとすれば、まずもってそうした構造的要因への対処こそが、事態の打開への第一歩であるはずである。若者たちに雇用の場を保障し、正規雇用・非
正規雇用を問わず、現に働いている者たちが背負わされている過酷な労働条件こそが改善されなくてはならない。そうした社会全体での取り組みを抜きにして、
教育の役割や課題だけを強調することは、社会矛盾を”教育で始末をつける”かのような構図になってしまいかねないだろう。さらにその場合には、教育の対象
である子どもたち・若者たちにこそ、彼/彼女らの「学校から仕事への移行」の困難の原因がある――いわく、”甘えているから””働く意欲がないから””職
業観が未熟だから”――といった、問題認識の「転倒」さえ誘発してしまうことに注意しなくてはならない。」(p.77-78)