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『「悩み」の正体』

香山 リカ 20070320 岩波新書,190p.


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香山 リカ  20070320 『「悩み」の正体』,岩波新書,190p. ISBN-10:4004310687 ISBN-13:9784004310686 ISBN4004310686 735[amazon] m.

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(出版社 / 著者からの内容紹介)
「嫌われるのが恐い」「働いても生活できない」「まじめに生きてきたのに」……。競争が煽られ、効率性が求められる一方で、「場の空気」を読むことも要求される.どこか息苦しい現代社会のなかで、人々の抱える「悩み」の中身も変わってきている。今日的な「悩み」の背景を丁寧に解きほぐし、どう向き合うかを考察する。

■目次

まえがき

1 嫌われるのがこわい――人間関係編
 場の空気を読めなかったらどうしよう
 他人の失敗が許せない
 若い人の要領のよさについていけない
 暴力にどう対処したらよいか
 家族なのに気持ちが通じない

2 無駄が許せない――仕事・経済編
 忙しく働いていないと不安だ
 働いても生活できない
 効率がすべてなのか
 やりがいが感じられない
 地方にいても展望がない

3 このままで幸せなのだろうか――恋愛・結婚・子育て編
 恋愛したいけれど出会いがない
 結婚できないかもしれない
 子どもができないと不幸せなのか
 親になったが自身がない
 結婚は失敗だったのだろうか

4 老いたくない、きれいでいたい――身体・健康編
 自分の顔、からだを変えたい
 健康のために何かしないと不安だ
 老いたくない、病気になりたくない
 病気になっても医者に診てもらえない
 現代の医療に信頼が持てない

5 いつも不安が消えない――こころ編
 自信が持てない
 前向きな気持ちになれない
 気分に浮き沈みがある
 「ありがとう」が息苦しい
 自分は誰にも大切にされていない

6 まじめに生きてきたのに――社会・人生編
 まじめに生きてきて損をした
 「便利な世の中」についていけない
 自分は何の役にも立っていない
 おとなになりたくない
 この先、楽しいことはない

あとがき

■引用

・前向きにというメッセージが、「うつ病」という診断名へ向かわせる
「精神科を気軽に受診する人が増えたのは、とても良いことだ。しかしそれと同時に、少しでも気持ちが落ち込んだり、仕事や生活に退屈を感じたりするようになっただけで、「私もうつ病ではないか」と気にする人が増えたのも事実だ。一方で、「人生を前向きに生きよう」「成功に必要なのはプラス思考」といったメッセージも巷に溢れている。」p.134
「いったいいつから、「考え込むこと」や「足踏みすること」は病的で悪いこと、すぐに取り除かなければならないこと、と見なされるようになってしまったのだろう。おそらくこの背景には、世界的に進む市場原理主義や競争社会がもたらす価値観の変化も関係していると思われる。すべてを市場の競争に任せて、競争に勝った者が利益を得るのは当然という考え方が広まり、停滞すること、あるいは利益にならないことは無駄や損としてとらえられてしまう」p.136
「朝起きて、なんだか会社に行く気がしない。恋愛でつまづき、それ以来、何かにつけて涙が流れる。もっとがんばりたいと思っているのに、ため息ばかりで力が入らない。これらは、それだけでは決して病的な状態とはいえない。しかし、「先生、私はうつ病ですか?」という彼らの真剣な問いかけに、「うつ病ではありませんよ」と答えて、「なんだ、ほっとしました」と喜ばれることは少ない。なぜなら、彼らの中には「マイナス要素は悪」という価値観が強く植えつけられている場合が多く、「うつ病ではない」と言われても、「じゃ、いったいどうやって取り除けばいいのか?」と苦悩や困惑はさらに深まるばかりだからだ」p.137
「とはいえ、「うつ病」という診断を乱発し、軽い抗うつ薬を服用してもらっても、彼らが考えるような「いつも前向きでハツラツとした状態」にはならないだろう。やはり根本的な解決は、「人生に落ち込みや悲しみはつきもの。立ち止まってもため息をついてもいいのだ」ということを受け入れてもらうしかないのだが、それはなかなかむずかしい」p.138

・西洋医学によってもたらされる無力感への抵抗
「なぜ西洋医学は[民間療法に比べて:引用者]ここまで信用されないのだろう。いろいろな理由が考えられるが、その中でも重要なのは「がん」などの病巣を「悪いもの、邪魔なもの」、それに巣食われてしまった患者を「病んだ人」と見なして治療する、という医療のそもそもの考え方なのではないだろうか。どこかが痛い、苦しいと不調を訴えて病院に行って、「あーあ、こんなところにがんがありますよ、ほら」と画像を見せられたら、患者は自分自身の不始末や欠点を指摘されたような気分になってしまうのではないだろうか。人間的に「ダメ」と言われた上で、「後遺症や副作用はあるかもしれないけれど、私ならこれを取ってあげられますよ」と強者の立場から。からだまで「ダメ」にするという提案を示されて、素直に「お願いします」と言えない人がいても何ら不思議ではない。」p.123
・免責ブームの反作用、自己責任へと回帰する
 「九〇年代以降、アダルトチルドレンなど「あなたは悪くない、悪いのは親なのです」という考えに基づく心理学的な概念に注目が集まった。[…]しかし、その動きはやや行き過ぎるようになり、自分の親に対して憎悪をぶつける『日本一醜い親への手紙』(Create Media編、メディアワークス、一九九七年)といった本がベストセラーになったり、ごく最近では、自分が心を病んでも「上司が無理解だからだ」と他罰的に周りの誰かを責める人も増えているということは、本書でも何度か触れてきた。そういった一連の流れと、「感謝の心を持ちなさい」「生まれたことにありがとう」というメッセージが多くなったことのあいだをつなげれば、こういうことになるのではないか。つまり、「自分のせいじゃない」と免責を主張する動きがあまりにも強くなり、逆にその反動として、自己責任論とともに「ひどい親に見えても、その親を選んで現世に生まれてきたのはあなた自身、感謝しなさい」といった“ありがとうのススメ”が出てきたのである。[…]いくら苦しい状況でもとりあえず感謝せよ、と言われることで、本来、家族や社会あるいは時の権力に対して持つべきだった疑問、行うはずだった抗議も口に出せず、「これも運命なんだ」と受け入れてしまう人も増えてしまうのではないだろうか。そうした「ありがとう」の押しつけは、結局のところ、苦しみを背負うのは自分ばかりという自己責任の考え方に向かうことになる」(香山[2007:148-149])

・しんどさの自己主張と負担をかぶる人
 「「自己責任の時代」ということばが流行る一方で、「職場などで自己主張するのは当然の権利」という雰囲気も強まっている。先述したように(一三四ページ)、メンタルヘルスの啓蒙により、「うつ病は誰もがかかる“心の風邪”なのだから、堂々と申告しましょう」という声がよく聞かれるようになった。「どうせ私なんて」と泣き寝入りせずにしっかり自己主張するのも、うつ病にかかってしまった人がきちんと休暇をとるのも、どちらもとても大切なことだ。しかし、職場の人数も会社全体で働ける人の人数も限られているので、誰かがフォローをしなければならないというのも、また事実だ。そこで結局、がまん強い人、「私だって疲れてます」と声をあげるのが遅かった人たちが、その役割を引き受けることになってしまう。」(香山[2007:163])
 「しんどいときは、「しんどい」と言える社会。それは必要だ。しかしそこには、「そんな人が出ずに、誰もがそう言えるような」という但し書きがつく。そして、「黙ってフォローした人が損をしないような仕組みも必要」というさらなる但し書きがつくことは、言うまでもない」(香山[2007:164])

■言及

◆立岩 真也 20140825 『自閉症連続体の時代』,みすず書房,352p. ISBN-10: 4622078457 ISBN-13: 978-4622078456 3700+ [amazon][kinokuniya] ※


*作成:山口 真紀
UP:20080704 REV:20081102, 20140824
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