『包まれるヒト――〈環境〉の存在論』
佐々木 正人編 20070223,岩波書店,216p
■佐々木 正人 編 20070223『包まれるヒト――〈環境〉の存在論』,岩波書店,216p. ISBN-10:4000069543 \1900 [amazon]/[kinokuniya] ※r02 cp
■目次
はじめに
プロローグ『包まれるヒト――〈環境〉の存在論』への招待 佐々木正人
1 包囲される身体
インタビュー 世界とつながる椅子――シーティングセラピー 野村寿子×佐々木正人
環境における呼吸、そして知覚と行為―― 古山宣洋
コラム 光学的情報による身体と環境のカップリング 三嶋博之
2包囲の哲学
「認識」の哲学から「環境」の哲学へ 染谷昌義
アンダーグラウンド哲学史――存在の哲学/環境の哲学の可能性
染谷昌義×斉藤暢人×佐々木正人
コラム 宇宙のアフォーダンス 斉藤暢人
3包囲と表現
インタビュー 環境と写真 ホンマタカシ×佐々木正人
映画にとって身振りとは何か 青山真治
小説、言語、現実、神 保坂和志
コラム 視線の生態学 佐々木正人
エピローグ
■引用
「インタビュー:世界とつながる椅子――シーティングセラピー」より
「【佐々木】: 野村さんは4年前から、大阪に設立された株式会社ビーエスエスで、脳性麻痺の方のための、オーダーメイドの椅子を作るお仕事をなさっています。その前は、たしか吹田市の施設で作業療法士をなさっていましたね。
【野村】: はいわけたか園というしせつです。肢体不自由のお子さん、脳性麻痺や知的障害のお子さんが保護者と通園し、機能訓練、療育指導等を受けながら、運動機能の向上をはかる施設でした。」p31
「【野村】:これまでのリハビリテーションの考え方は、障害や病気を持つ方に対して、その障害や病気の部位・部分を取り上げて、機能回復などの訓練を専門家が施す、というものでした。一方、遊びを通したリハビリテーションという私のやり方は、必ずしも障害部位に働きかけるわけではなりません。でも、遊びを通してさまざまな感覚をフルに働かせることで、子供たちの心身の状態が良い方向に変化してくるのです。・・・ちょうどその頃であったギブソンの考え方は自分の体験を理論化するのに、大きなヒントになりました。
ギブソンは、脊椎動物は5種類の知覚システムを持つ、といいます。まず、大地と身体の関係を知覚するためのシステムで、他のシステムの基礎となる「基礎定位のシステム」。それ以外に、「聴くシステム」、「接触のシステム」「味わい嗅ぐシステム」「視るシステム」があると。ここでギブソンは大地と身体の関係がまず基礎だ、と言っていますね。・・・人間の身体は、全身が骨と筋肉でつながっています。そしてその身体が、大地をふくめた、身体を取り巻く環境ともつながっているのです。つながりを通して障害を持つ人自身が自分の身体を発見することを促して、つながりの中で、心身の元気を回復させる技術、それが私の作業療法であると再発見したのです。
【佐々木】:その作業療法士時代と、現在の椅子作りとのあいだに連続しているものはありますか。
【野村】:はい。お子さんを見るときに、ギブソンの言う基礎定位のレベル、つまり姿勢を重視している点は通底しています。・・・それは、脳性麻痺のような>33>重い障害をもつ子供たちが安心して動き出せる場であり、そのお子さんが情報、つまり環境のアフォーダンスを受け取れる状態に身体をリセットできるような場ですね。身体の歪みによってひきおこされる痛みやむくみなどのさまざまな問題を取り除き、身体をニュートラルにすると、その姿勢定位の場は、その人が動き出すための情報を収集できる場・環境になるのです。そこから導き出される知覚と行為の循環は、いいことをいっぱい引き起こします。・・・
【佐々木】:では、椅子の作り方について具体的に教えていただけますか。
【野村】:はい。」p32―p33
「【野村】:・・・脳性麻痺は早期に治療を始めないと、治療効果が少ない、といわれます。確かに早ければ早いに越したことはないけれども、遅いから駄目ということには絶対にないと思います。どんな身体の状態にあっても、またお年がいくつであっても、身体は探索し、自らの知覚をもとに学習する可能性を持っています。だから40歳になっても50歳になっても、大丈夫だと思います」p46
*作成者:近藤 宏