HOME > BOOK >

『遺伝医療と倫理・法・社会』

福島 義光 監修・玉井 真理子 編集 20070220 メディカルドゥ,215p.

このHP経由で購入すると寄付されます

■福島 義光 監修・玉井 真理子 編集 20070220 『遺伝医療と倫理・法・社会』,メディカルドゥ, 215p. 3400 ISBN-10: 4944157908 ISBN-13: 978-4944157907  [amazon]

■出版社/著者からの内容紹介
本書は、遺伝子解析技術が医療の領域で応用される時に起こる様々な問題(倫理的・法的・社会的問題)を、自然科学系と人文社会系の研究者の方々にそれぞれの立場から論じていただいております。又、海外情報としては、この領域での法政策として常に注目され国際的にそれぞれ独自のモデルとなっている、アメリカ、イギリスとドイツを取り上げております。トピックスとして、一方ではゲノムELSIの起源を、他方では最新情報として、国内での遺伝子検査と生命保険裁判の話題と、アメリカの遺伝子差別禁止連邦法案の話題を紹介しております。


■目次

  刊行に寄せて 武部 啓 004

  第1部 総論
1.遺伝医療と社会 福島義光 010
2.遺伝医療と倫理 霜田 求 020
トピック1.ワトソンとヒトゲノムELSI 玉井真理子 032

  第2部 各論:遺伝医療の現場から
 〈1〉遺伝医療の各領域から
1.染色体異常 古庄知己 036
2.小児神経疾患 和田敬仁 050
3.遺伝性・家族性腫瘍と共に生きること 片井みゆき 060
4.遺伝性神経難病 中村昭則 071
5.出生前診断 金井 誠 080
6.複数診療科にまたがる疾患 櫻井晃洋・古庄知己 089

 〈2〉遺伝医療の各側面
1.遺伝学的検査 涌井敬子 098
2.遺伝看護の実践‐クライエントに寄り添う 山下浩美 111
3.遺伝子解析と倫理審査 小杉眞司 121
4.遺伝医療とインターネットの活用 沼部博直 128
トピック2.遺伝子診断と生命保険 関島良樹・玉井真理子 136

  第3部 各論:倫理的・法的・社会的問題の観点から
1.神経疾患の発症前遺伝子診断 吉田邦広・玉井真理子 142
2.血縁者への遺伝情報開示‐米国での裁判例から 山本龍彦 150
3.イギリスにおける遺伝医療に関する社会的議論の啓発活動‐ELSI関連活動団体の動向を中心に 渡部麻衣子 165
4.ドイツにおける遺伝子診断の規制について 堂囿俊彦 177
トピック3.連邦遺伝子差別禁止法案 吉田仁美 192

おわりに 玉井真理子 195
資料:遺伝学的検査に関するガイドライン 198
索引 214

■執筆者一覧(五十音順)
(p7)
 片井みゆき 信州大学医学部地域医療人育成センター 委嘱講師/信州大学医学部附属病院遺伝子診療部/加齢総合診療科・内分泌代謝内科
 金井 誠 信州大学医学部附属病院産科婦人科 講師/信州大学医学部附属病院遺伝子診療部
 古庄知己 信州大学医学部杜会予防医学講座遺伝医学分野 嘱託講師/信州大学医学部附属病院遺伝子診療部
 小杉眞司 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康管理学講座医療倫理学分野 教授/京都大学医学部附属病院遺伝子診療部
 櫻井晃洋 信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野 助教授/信州大学医学部附属病院遺伝子診療部
 霜田 求 大阪大学大学院医学系研究科予防環境医学専攻社会環境医学講座医の倫理学分野 助教授
 関島良樹 信州大学医学部附属病院遺伝子診療部/信州大学医学部附属病院脳神経内科、リウマチ・膠原病内科 
 助教授
 武部 啓 京郡大学医学部 名誉教授/近畿大学大学院遺伝カウンセラー養成課程 客員致授
 玉井真理子 信州大学医学部保健学科 助教授/信州大学医学部附属病院遺伝子診療部
 堂囿俊彦 東京大学大学院医学系研究科生命・医療倫理人材養成ユニット 特任助手
 中村昭則 国立精神・神経センター神経研究所遺伝子疾患治療研究部細胞治療研究室 室長
 沼部博直 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康管理学講座医療倫理学分野 助教授/京郡大学医学部附属病院遺伝子診療部
 福嶋義光 信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野 教授/信州大学医学部附属病院遺伝子診療部 部長
 山下浩美 信州大学医学部附属病院遺伝子診療部 専属看護師/信州大学医学部附属病院看護部 副看護師長
 山本龍彦 桐蔭横浜大学法学部法律学科 専任講師
 吉田邦広 信州大学医学部附属病院脳神経内科、リウマチ・膠原病内科 助教授/信州大学医学部附属病院遺伝子診療部
 吉田仁美 関東学院大学法学部法律学科 助教授
 涌井敬子 信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野 嘱託講師/信州大学医学部附属病院遺伝子診療部
 和田敬仁 信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野 嘱託講師/信州大学医学部附属病院遺伝子診療部
 渡部麻衣子 Department of Sociology, The University of Warwick/北里大学大学院医療系研究科臨床遺伝医学教室 特別研究員


■引用 (*各論考冒頭に要約が記されているので、その部分を引用する)

◆福嶋義光, 20070220, 「遺伝医療と社会」福島義光監・玉井真理子編『遺伝医療と倫理・法・社会』メディカルドゥ:10-19.
 ヒトゲノム解析研究の進展により、遺伝情報は急速に日々の診療の場で利用されるようになってきている。疾病の予知・予防および個別化医療の基礎となる遺伝情報の有用性は極めて高いが、一方では、@個人に関する遺伝的易罹病性を予見しうること、A世代を超えて、子孫を含めた家族・集団に対して重大な影響を与えうること、B試料収集の時点では必ずしも明らかにはされていない情報を含みうること、C個人または集団に対する文化的な重要性を有しうること(UNESCO:ヒト遺伝情報に関する国際宣言、2003年)など通常の医療情報とは異なる側面があるため、慎重な取り扱いが求められている。

◆霜田求, 20070220, 「遺伝医療と倫理」福島義光監・玉井真理子編『遺伝医療と倫理・法・社会』メディカルドゥ:20-31.
 遺伝医療の倫理問題として挙げられるのは、まずクライエントの自律および諸権利(自己決定権・選択権、幸福追求権、知る権利/知らないでいる権利、プライバシー権)の尊重、受容・共感と非指示性の原則、差別・優生学との関連といった一般的な倫理規範に関わることである。本稿では、これらについてそれぞれ論点整理をしたうえで、来談理由に応じた具体的なケースを設定し、各ケースに内包される倫理的問いを様々な角度から検討した。特に注意すべき論点として提示したのは、個々の選択・決定の倫理的・社会的文脈を見据えることの重要性である。

◆古庄知己, 20070220, 「染色体異常」福島義光監・玉井真理子編『遺伝医療と倫理・法・社会』メディカルドゥ:36-49.
 染色体異常症について、診療の概要と倫理的問題点を述べる。染色体検査は生殖細胞系列の遺伝学的検査であり、その意義と留意点について両親に十分説明し、同意を得る必要がある。診断告知は、診断のついた時点で疾患に関する包括的情報をわかりやすく説明する。生命予後の厳しい疾患においても、診断は疾患の特徴や自然歴を考慮した最善の医療を提供するための出発点であると位置づけるべきである。羊水染色体検査による出生前診断においては、母子への負担、染色体検査としての限界、想定される疾患の自然歴や家族の思いについて十分理解を促す必要がある。

◆和田敬仁, 20070220, 「小児神経疾患」福島義光監・玉井真理子編『遺伝医療と倫理・法・社会』メディカルドゥ:50-59.
 小児神経領域の遺伝性疾患のうち、遺伝カウンセリングの現場で頻度の高い疾患を取り上げ、その問題点について概説した。多くの場合、患者本人は幼少であり、自身の遺伝学的検査について検討する能力は十分ではなく、両親の判断に委ねられる可能性が高い。遺伝学的検査は、有力な診断ツールであるが、診断することのメリット・デメリットを医師も家族も十分理解することが必要である。予想される結果に対する家族の精神的・心理的準備に対する援助、治療法のない診断が下された時の患者を含めた家族のフォロー体制が不可欠である。

◆片井みゆき, 20070220, 「遺伝性・家族性腫瘍と共に生きること」福島義光監・玉井真理子編『遺伝医療と倫理・法・社会』メディカルドゥ:60-69.
 遺伝性・家族性腫瘍は、遺伝的に腫瘍が起きやすくなり、家系内で同じ腫瘍をもつ人が複数いる疾患である。
 遺伝性・家族性腫瘍の当事者や家族が経験する状況には、腫瘍(癌を含む)という言葉が与えるダメージ、成人発症する場合が多いこと、散発性腫瘍より若年で発症する傾向にあること、腫瘍が多発する傾向にあること、家族に遺伝する可能性があること、患者数が少ないことなど、他の疾患や散発性腫瘍とは異なった側面がある。遺伝カウンセリングや治療を行う中で、当事者がこれらの状況を「受容」し、遺伝性・家族性腫瘍と「共に生きていく」ことが可能である。
 しかしながら、遺伝性・家族牲腫瘍に付随する社会的な問題として、偏見や差別が生じる可能性、遺伝子検査の貢献と問題点、保険加入の問題、経済的な負担、家族スクリーニングに対する主導権の問題、家族内での葛藤などが挙げられる。これらに対し、倫理・法・社会的なコンセンサスが確立されていくことが課題である。
 今後、遺伝性疾患に携わる医療者や研究者と倫理・法・社会に関わる専門家が連携し、遺伝性疾患と共に生きていく方々が直面する様々な問題に対して、社会全体として取り組んでいくことが望まれる。

◆中村昭則, 20070220, 「遺伝性神経難病」福島義光監・玉井真理子編『遺伝医療と倫理・法・社会』メディカルドゥ:71-79.
 神経疾患は有効な治療法がない疾患が多いうえ、多くの遺伝性疾患が含まれているが、精力的な研究により診断法の確立や病態の解明が急速に進歩してきている。一方で、発症前診断および出生前診断が技術的には可能になってきたことから、種々の社会的・倫理的・法的問題が生じることにもなった。今回は遺伝性神経難病の中でも発症頻度が高く、信州大学医学部附属病院遺伝子診療部で多く扱われた、筋緊張性ジストロフィーおよび遺伝性脊髄小脳変性症の自験例を取り上げて、発症前診断の問題点について述べる。

◆金井誠, 20070220, 「出生前診断」福島義光監・玉井真理子編『遺伝医療と倫理・法・社会』メディカルドゥ:80-88.
 出生前診断は堕胎と密接に関連していることから、目的や意味を十分に理解したうえで、その妥当性を判断することが重要である。しかし、「疾患の重篤性」を評価する適応の判断は非常に難しく、妊娠後の遺伝カウンセリングでは重大な決断に対し短期問で結論を出さざるをえないことも問題となる。また、胎児や受楕卵の人為的な選別と堕胎を前提とした出生前診断自体の妥当性、何らかの規制の必要性、胎児の人権や生命の尊厳と両親の自己決定権との対立、といった非常に大きく未解決の問題が内在しており、社会のすべての人達が真剣に考えなければならない時代になっている。

◆桜井晃洋・古庄知己, 20070220, 「複数診療科にまたがる疾患」福島義光監・玉井真理子編『遺伝医療と倫理・法・社会』メディカルドゥ:89-97.
 現代の医療は専門領域の細分化、臓器別化が進んでいる。同時に医療のあらゆる分野で遺伝学的な知識や患者への情報提供の重要性が認識されつつある。このような状況の中で、わが国においてようやくその歩みを始めた遺伝子医療部門はどのようなことができるのだろうか。また何をすべきなのだろうか。本稿では複数診療科での医療対応を必要とする疾患として、血管型エ一ラス・ダンロス症候群と神経線維腫症1型を例に挙げて考えてみる。

◆涌井敬子, 20070220, 「遺伝学的検査」福島義光監・玉井真理子編『遺伝医療と倫理・法・社会』メディカルドゥ:98-110.
 遺伝学的検査〔genetic testing〕は、「ヒトの遺伝情報を含む染色体・DNA・RNA・タンパク質・代謝産物などを解析もしくは測定することにより結果が得られる検査」と定義される。つまり、病気や体質と関連のある、ヒトの生殖細胞系列の遺伝情報の変化を明らかにしようとする,染色体検査,遺伝子検査,遺伝生化学検査などが該当する。遺伝学的検査の臨床応用、遺伝学的検査の特殊性,そしてわが国における遺伝学的検査に関する費用負担を含めた体制整備、標準化や精度管理、専門家育成などの課題について解説する。

◆山下浩美, 20070220, 「遺伝看護の実践--クライエントに寄り添う」福島義光監・玉井真理子編『遺伝医療と倫理・法・社会』メディカルドゥ:111-120.
 遺伝子診療部では、遺伝についで悩みや不安を抱えている患者や家族の相談に応じ、遺伝カウンセリングを行っている。看護師は予約からフォローアップまで全体を通してクライエントに関わり、クライエントがその人らしく生活できるように支援する役割をもっている。遺伝子診療部を訪れるクライエントの疾患や悩みは様々であり、対応も個別であるが、3つの事例を提示しながら看護師の関わりを紹介ずる。

◆小杉眞司, 20070220, 「遺伝子解析と倫理審査」福島義光監・玉井真理子編『遺伝医療と倫理・法・社会』メディカルドゥ:121-127.
 ヒト遺伝子解析を研究として行う場合、厚生労働省・文部科学省・経済産業省の3省合同で策定された「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」を遵守する必要がある。この指針の中で、ヒト遺伝子解析研究計画の倫理審査が義務づけられている。3省指針や関連のガイドライン、倫理審査は、研究に参加する被検者を守るだけでなく研究者自身も守り、結果的に研究を進展させるものであることを理解する必要がある.

◆沼部博直, 20070220, 「遺伝医療とインターネットの活用」福島義光監・玉井真理子編『遺伝医療と倫理・法・社会』メディカルドゥ:128-135.
 遺伝医療情報の収集には、教科書などの成書や学術論文を参照する方法と、インターネットにより当該情報を検索して参照する方法とがある。遺伝医学は特に分子遺伝学の分野を中心に急速に進歩しておリ、常に最新の知識が要求されることから、基本的な知識は成書を中心に得て、最新の情報は主として学術論文やインターネットを利用して得ることになる。しかし、インターネット上の情報は玉石混淆で、必ずしも科学的根拠に基づかないものも含まれているのが現状である。本稿では、遺伝医療情報の収集に際して、信頼性ならびに汎用性の高いウェブサイトを中心に、その概要と活用法を紹介する。

◆吉田邦広・玉井真理子, 20070220, 「神経疾患の発症前遺伝子診断」福島義光監・玉井真理子編『遺伝医療と倫理・法・社会』メディカルドゥ:142-149.
 遺伝子解析技術の進展によって、神経疾患についても遺伝子レベルでの病因・病態の解明が進むなか、発症前遺伝子診断の希塑をもって医療桟関を受診するクライエントが増えている。信州大学医学部附属病院遺伝子診療部では、「遺伝性神経筋疾患の発症前遺伝子診断の指針」を作成し、こうしたクライエントにチームで対応している。「知らないままでいること」の意味をクライエントとともに考え、「知ること」の意味を相対化するような対応を心がけつつ、試行錯誤を続けている。

◆山本龍彦, 20070220, 「血縁者への遺伝情報開示--米国での裁判例から」福島義光監・玉井真理子編『遺伝医療と倫理・法・社会』メディカルドゥ:150-164.
 「ヒポクラテスの宣誓」でも語られているように、患者情報の秘匿は、職業倫理上古くから重要視されており、また法律上も、刑法第134条が医師などによる守秘義務違反について刑罰を科してきた。しかし、他方において、感染症に関する慣報など、第三者に開示する必要性が特に高いものについては、その例外も認められてきた。アメリカの判決の中には、感染症に関する患者情報をその家族に対して開示する医師の義務を積極的に認めたものもある。本稿は、アメリカの裁判例を参考に、このようなヒポクラテスの宣誓の「例外」が、遺伝医療の文脈においてどのように妥当するのかを検討するものである。

◆渡部麻衣子, 20070220, 「イギリスにおける遺伝医療に関する社会的議論の啓発活動-ELSI関連活動団体の動向を中心に」福島義光監・玉井真理子編『遺伝医療と倫理・法・社会』メディカルドゥ:165-176.
 この章では、新しい医療である遺伝医療を社会が自信をもって利用するためのイギリス社会の取り組みとして、遺伝医療の倫理・法・社会的問題に関して社会的な議論を啓発するための活動を紹介する。議題に関して議論を啓発し、広く社会から市民の声を集めるための手法であるパブリック・コンサルテーションを主軸とする、このイギリス社会の取り組みの特長は、官民様々なELSI関連の活動団体が関与している点である。ここでは、それらの中から4つの機関を取り上げて、そこでの活動を紹介する。

◆堂囿俊彦, 20070220, 「ドイツにおける遺伝子診断の規制について」福島義光監・玉井真理子編『遺伝医療と倫理・法・社会』メディカルドゥ:177-191.
 ドイツには、遺伝子技術に関連した法律はいくつか存在するが、ヒトを対象とした遺伝子研究・診断を包括的に扱う法律は存在しない。法的規制については1980年代から議論されてきたが、現在のところ規範の役割を果たしているのは若干の判例と医師会のガイドラインである。こうした中で、近年における遺伝子診断実施数の急速な伸びと、それによる遺伝子差別に対する危惧から、議会の諮問委員会が法制化を求める報告書を出すなど新たな動きもみられる。しかし、具体的に何をどこまで規制するのかについてはコンセンサスが得られておらず、今後も議論が続くと思われる。


■用語解説
(pp58-59)
 1.デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD・ベッカー型筋ジストロフィー(BMD):両者とも、X染色体上にあるジストロフィン遺伝子の異常により発症し、進行性に筋肉が壊れ、筋力低下が進行する疾患。出生男児の3500人に1人の割合で発症する。DMDでは、乳児期は症状は明らかではないが、1歳を過ぎ、歩きはじめる頃から歩行の異常などの筋力低下症状で発症し、12歳頃までに歩行困難になり、30歳頃までに呼吸不全や心不全で一生を終える場合が多い。BMDは軽症型である。
 2.X連鎖性疾患:デュシェンヌ・ベッカー型筋ジストロフィーや血友病の遺伝形式。通常、46本の染色体のうち44本は常染色体、2本は性染色体であり、男性はX染色体とY染色体を1本ずつ、女性は2本のX染色体の性染色体をもつ。X染色体に存在する遺伝子の変異により発症する疾患の多くは、男性では発症するが、女性では2本のうちの一方の染色体の遺伝子は正常に働くので発症せず、保因者と呼ばれる。保因者女性から生まれる男児は50%の確率で発症する。女児の場合は全員健康ではあるが、50%の確率で母親同様に保因者となる。ただし、女性保因者も男性患者に比べると軽症ではあるが発症する可能性がある。
 3.ミトコンドリア病:ヒトの細胞の遺伝子は、核内にある遺伝子(核DNA)と細胞内小器官の1つであるミトコンドリア内の遺伝子(ミトコンドリアDNA)からなる。ミトコンドリアの重要な機能の1つはエネルギー産生であり、ミトコンドリア機能異常により全身の臓器に障害が起きるが、特に脳や筋肉が冒されやすい。体細胞のミトコンドリアのDNAはすべて受精卵の卵子由来である。ミトコンドリア病は、核DNAの異常とミトコンドリアDNAの異常の両方が原因となりうるが、後者の場合、一部を除き母系遺伝する。
 4.表現促進現象:優性遺伝形式を示す疾患で、世代を経るごとに発症が若年化し、重症化する現象。トリプレットリピート病疾患の特徴の1つであり、責任遺伝子の3塩基繰り返し配列が伸長することにより不安定さを獲得し、次世代でより伸長するために起こる。脆弱X症候群や筋強直性ジストロフィーでは母親から、ハンチントン病では父親から伝わる時に、伸長が起こりやすい。
(p78)
 1.遺伝子と遺伝子変異:遺伝子とは、デオキシリボ核酸(DNA)の中で主にタンパク質の合成に関する機能単位。DNAはアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)の4塩基が一定の配列で並んでいる。DNA鎖のAとT、GとCが水素結合し、二重らせん構造をとっている。遺伝子変異は、その遺伝子内に起きた塩基の変化、すなわち塩基置換(他の塩基に置き換わる)、欠失(塩基が抜け落ちる)、挿入(他の塩基が入り込む)、重複(同じ塩基配列が繰り返される)などがあり、その結果、表現型(症状や検査異常など)に変化をきたすことがある。変異によってアミノ酸の置換を伴う変異(ミスセンス変異)やタンパクの合成を終了してしまう変異(ナンセンス変異)などがある。
 2.浸透率:遺伝子変異を有している者のなかで、その遺伝子変異に起因した疾患を発症している者の割合をいう。出生時にすでに発症している疾患の浸透率と、遅発性に発症する疾患の浸透率がある。
 3.遺伝学的検査:遺伝性疾患を診断する目的で、ヒトのDNA、RNA、染色体、タンパク質、代謝産物を解析もしくは測定することである。研究目的で行われる遺伝子解析や生化学的解析、病理学的解析、法医学的検査は含まれない。
 4.体細胞モザイク:体細胞モザイクは、特定の遺伝子をもった細胞が混在している状態をいう。筋緊張性ジストロフィーのようなトリプレットリピ一ト病の場合は、各組識内の細胞ごとのリピート数が異なっていることが知られている。
(pp87-88)
 1.羊水検査:一般には妊娠15〜18週に、超音波で確認しながら、母親のお腹から子宮の中へ細長い針を刺して羊水を採取し、羊水中に浮かんでいる胎児の細胞を培養して検査する。検査による流産率は約0.2%。現在日本で行われている遺伝学的出生前診断は、ほとんど羊水検査で行われている。
 2.保因者:自身は正常と全くあるいはほとんど変わらない(発病しない)が、病的遺伝子や染色体異常を子どもに伝える可能性がある者をいう。
 3.X連鎖遺伝病のヘテロ接合体:ある遺伝病を決定する遺伝子(正常遺伝子Aと疾病遺伝子a)がX染色体上にあるとする。X染色体は女性が2本、男性が1本であり、女性はAA、Aa、aaの3通り、男性はA、aの2通りとなる。AAまたはaaという同一の遺伝子が存在する場合をホモ接合体、Aaという異なる遺伝子が存在する場合をヘテロ接合体という。X連鎖劣性遺伝病は女性のaaか男性のaの場合に発病し、X連鎖優性遺伝病は女性のAa、aaか男性のaの場合に発病する。女性のAaをX連鎖遺伝病のヘテロ接合体と呼び、Aの男性との間に産まれる子どもは、女性でAA、aA、男性でA、aとなり、劣性では男性の50%、優性では男女ともに50%発病する。
 4.常染色体劣性遺伝病のヘテロ接合体:ある遺伝病を決定する遺伝子(正常遺伝子Aと疾病遺伝子a)が常染色体上にあるとする。常染色体はAA、Aa、aaの3通りになり、常染色体劣性遺伝病はaaの場合に発病する。Aaを常染色体劣性遺伝病のヘテロ接合体と呼び本人は発病しない。両親がAaの場合に産まれる子どもはAA、Aa、aA、aaなので25%に発病する。
 5.常染色体優性遺伝病のヘテロ接合体:ある遺伝病を決定する遺伝子(正常遺伝子Aと疾病遺伝子a)が常染色体上にあるとする。常染色体優性遺伝病は、Aa、aaの場合に発病する。Aaを常染色体優性遺伝病のへテロ接合体と呼ぶ。両親のどちらかがAaの場合にAAの相手との間に産まれる子どもはAA、aAなので50%に発病する。
 6.堕胎:胎児を人工的に流産させること。
 7.着床前診断:体外受精を行い、子宮に戻す前の4〜8細胞期の受精卵から1〜2個の核を取りだし遺伝子診断を行う。この時期の卵細胞は1〜2個の細胞がダメージを受けてもすべて再生する能力があるので、検査で異常がない卵を子宮に戻し、異常のある卵は破棄する。堕胎を回避できることが第一の利点とされているが、体外受精に伴う母体への負荷、未知の危険性、診断の技術的限界などの問題点や、ヒト受精卵の操作や選択という生命倫理的問題を含んでおり、より慎重に考慮するべきとされ、日本産科婦人科学会への申請と認可を必要とする。
(pp134-135)
 1.インターネットinternet:複数のコンピュータを統一された通信方法により接続した全世界的ネットワーク。従来の中央コンピュータに末端のコンピュータを接続する方式とは異なり、インターネットに参加する組織のもつインターネット通信機器(ルータとよばれる)同士が同等の関係で双方向のネットワークを形成しているため、一部の通信機器に故障があっても、その機器を迂回した安定した通信が可能となっている。
 2.オンラインジャーナルonline journal:電子ジャーナルとも呼ばれる。学術雑誌を電子化したもので、インターネット上で閲覧することが可能である。ただし、著作権の保護のため、大部分は図書館などが利用契約を結んだうえで、その組織の利用者のみが閲覧ならびに電子化された文書をダウンロードして利用することが可能となっている。
 3.ウェブサイトwebsite:ワールド・ワイド・ウェブWorld Wide Webと呼ばれるインターネット上の特別な文書表示形式を用いて作成された、ホームページあるいは単にウェブと呼ばれる一連の文書を指す。これを閲覧するためには、ブラウザと呼ばれるソフトウェアが必要になる。
 4.EBM evidence-based medicine:定義には使用職種や使用目的により異同があるが、ここでは遺伝カウンセリングを目的として以下のごとく定義する。科学的根拠に基づいた医学的に確立された最良と判断される情報を、情報提供者自身が十分に理解したうえで、クライエントに客観的かつ非指示的に提示し、クライエントの自己決定に資する一連の医療行為の過程を指す。
 5.データベースdatabase:一定の主題に沿ったデータを網羅的に収集・集積し、それらを電子的に検索、抽出できるようにしたデータ管理システム。広義には電子化されていないものも含まれるが、本稿では、インターネットに接続した専用コンピュータ(サーバと呼ぶ)を用いたシステムを中心に紹介している。
 6.インターフェイスinterface:インタフェース、インターフェースとも呼ばれる。ここでは、コンピュ一タとそれを使用する人間との間での情報の交換方式を指す。人間がコンピュータを利用するに際しては、何らかの形でコンピュ一タに指示を与える必要があり、その結果が人間に理解しやすい形で示される必要がある。それを直感的に理解しやすい形にできることが望ましい。キーボードも入力装置としての例であるが、選択式メニューなどではさらにその利便性が増す。
(p139)
 1.信義誠実の原則:お互いに相手方の信頼を裏切らないようふるまうべきであるという原則のこと。「信義則」と略されることが多い。民法1条2項には「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」とある。
(p162)
 1.プライバシー権:1890年のWarren & Brandeis論文以降、「ひとりで放っておいてもらう権利」としてアメリカ判例上、生成・発展してきた権利。日本では、「私生活をみだりに公開されない権利」として、『宴の後』事件(東京地判昭39・9・28下民集15-9-2317)において承認された。憲法上も第13条の幸福追求権から導き出される「新しい人権」の1つとして承認されている(最判昭56・4・14民集35-3-620)。なお、アメリカでは、プライバシー権は自己決定権を含む広範な概念として理解されているが(参考文献13参照)、日本では、それを「情報プライバシー権」の意味に限定して捉える立場が有力である(参考文献14,454ページ参照)。
 2.家族の自律性:アメリカでは、判例上、子どもに対する親の養教育権などと関連して、「家族のプライバシー」が憲法上保譲されてきた。家族を国家からの干渉を受けない私的領域と捉えることは、リベラリズム的観点からは正当化されるが(公私二元論)、家族内における権力関係(あるいはそれに基づく虐待)を隠蔽することになるといったフェミニズムからの批判も強い。残念ながら、日本憲法学において、「家族の位置づけはいまだ十分ではない。
 3.自己情報コントロール権:プライバシー権は、私生活に関わる事柄を他人や社会から知られず干渉されない自由権的な(消極的)権利として発展してきたが、情報化社会の進展に伴い、自己に関する情報を自らコントロールする権利(自己情報コントロール権)として積極的に捉える見解が有力になっている。この見解によれば、個人は自己情報に関する閲覧請求権、訂正・削除要求権、利用・伝播統制権を有するとされる。「個人情報の保護等に関する法律」(個人情報保護法)成立の背景には、こうしたブライバシー権概念の変遷がある。
 4.守秘義務:刑法第134条第1項は、「医師、薬剤師、医療品賑売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、そ業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する」と規定している。ただし、患者本人の利益よりも高次の社会的・公共的利益がある場合には、守秘義務が免除される場倉もある(感染病の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律第12条などを参照)。
(p190)
 1.自由刑(Freiheitsstrafe):懲役、禁固、拘置など、監獄に収容される刑罰をいう。


*作成:植村要 追加者:
UP:20080703 REV:
身体×世界:関連書籍   ◇BOOK  ◇遺伝子
TOP HOME (http://www.arsvi.com)