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『仕事中だけ《うつ病》になる人たち――30代うつ、甘えと自己愛の心理分析』

香山 リカ 20070118 講談社,190p. 1365


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香山 リカ 20070118 『仕事中だけ《うつ病》になる人たち――30代うつ、甘えと自己愛の心理分析』,講談社,190p. ISBN:4062594846 ISBN-13:978-4062594844  1365 [amazon] m.

■内容(出版社/著者からの内容紹介)

病気休暇中に海外旅行。不調になったのは会社のせい。自分の「うつ病」をあちこちに言って回る。心の病の休職者による企業損失が年間約1兆円とも言われる時代。30代に、新しいタイプの「うつ病」が急増している。果たして彼らは、ほんとうに病気なのか?それとも!?いまどき若年層ビジネスマンの心理を、当代一の人気精神科医が、切り口鋭く読み解く!
こんな「うつ」が30代に増えている
●職場では不調だが、好きな趣味は精力的に行える
●学歴が高く、まじめだが、やや自己中心的
●自分が「うつ」であることの自覚が強い
●一定のレベルまで回復するが、なかなか復職に踏み切れない
●不安感、恐怖感、あせりといった感情の動揺がひどい…など
ツグオさん(31歳)はブログを開設したのだが、そこでは会社の不当な扱いに加えて、「今日もうつだ」「もう死んだほうがいいのかな」「気がついてみたらビルの屋上に立っていた」といったうつ症状、希死念慮をほのめかす記述が目立った。しかし、一方では好きなアーティストのライブに行ったり学生時代の友だちとキャンプに行ったり、と元気な様子も記されていた。会社の相談室から紹介された精神科に通って、かなり大量の抗うつ薬を服用しているらしかった。<本文より>

■目次

序章 三〇代に新型の「うつ」が急増中

第1章 仕事以外のことならできる
自覚症状は変わらない/「うつ病」にはいくつかタイプがある/注目したいふたつのタイプ/奇妙な特徴を持つ「30代うつ」/自分に甘く、他人に厳しい/思ったことをすぐに口にする

第2章 職場に広がる二次被害
身のまわりの人が「うつ」になったら/「誰もがなる病気だから」/病気休暇中に海外旅行/フォローする人が「うつ」に/職場放棄の危険性も

第3章 時代が「うつ」を変化させてきた
エリートに多い「逃避型抑うつ」/葛藤に弱い「未熟型うつ病」/帰属意識が薄い「現代型うつ病」/仕事過重で起こる「職場結合性うつ病」/無気力な「退却神経症」/国際診断基準にもある「気分変調性障害」

第4章 責任回避の世代
年齢の問題か、世代の問題か/三〇過ぎても自分探し/傷つきたくないから予防線/精神科受診に抵抗がない/すぐに「うつ」になりきれる/無意識の利得計算/「頼まれたからそうしただけ」/インターネットという免責空間

第5章 対応のしかた、治療のありかた
治療の基本は「休息」だが……/万能薬SSRIの功罪/「とりあえずSSRI」でよいか/意外に短いカウンセリング/環境と内面とへのアプローチ/受容はするが許容範囲も決める/広がっているリワーク支援/「30代うつ」ならではの接し方がある

第6章 「30代うつ」は病気か否か
「うつ」=「うつ病」とは限らない/精神医療の対象/落ち込みに原因探しをしすぎる風潮

終章 自分が「30代うつ」だと思う人へ

■引用

「九〇年代に診察室にやって来た人たちの中には、「私、多重人格だと思うんです」と自己申告するケースさえめずらしくなかった。彼らは、テレビドラマや映画で「多重人格」の存在を知った瞬間、これこそが自分の殻として適している、と直感的に気づき、知らないあいだに影響を受けて“多重人格そっくり”になったのではないだろうか。比喩として適当かどうかはさだかではないが、やどかりの宿となる貝殻が見つかった、というイメージである。」p.115
「そして、「何でもいい、とにかく殻がほしい」とひそかに願う人たちにとって、今や「うつ病」は「多重人格」にかわる“宿”になりつつあるのではないだろうか。」p.116

「何らかの疾患になることで、結果的には自分が得をしたり有利な立場になったりすることを「疾病利得(しっぺいりとく)」と呼ぶ。そう考えると、うつ病になることで深刻なクラッシュを回避できた、というのも疾病利得のひとつだと言えるだろう。従来は「クラッシュを避けられる」という利得よりも「うつ病を会社に申告する」ことに伴う損害(偏見の目で見られる、昇進が遅れる、など)のほうが大きかったので、「うつ病で疾病利得を」と考える人は少なかった。それがうつ病に対する理解の広まりとともに、利得が損害を上回ったのだろう。」p.119
→しかし本人は「得をしている自分」を切り離しているため、自分を客観的に見ることはできない。だから「ウソ」ではない。

「このように増加する「解離」も「三〇代うつ」も、その背景には「私の責任ではない」という非常に強い免責のよ欲求が隠れている。(…)ここには、たとえ主体性をいっさい放棄しても、「自分で望んだことが実現した」という達成の喜びを捨ててでも、とにかく免責される方が重要だ、というある種の強い意志、揺るぎのない価値観を感じる。」p.122-123

*SSRIについて
「一九九五年に日本でも「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」と呼ばれる新しい抗うつ薬が認可され、うつ病治療は画期的に進歩した。それまではうつ病の治療には、主に三環系抗うつ薬と呼ばれる薬が使われていたのであるが、これには口の渇き、ふらつき、からだのだるさ、便秘などさまざまな副作用があり、投与から効果が現れるまでにも数日から一週間程度の時間を要した。また三環系の場合、大量服用で呼吸抑制が起きることもあり、しばしば自殺の手段に使われることも大きな問題になっていた。その点、SSRIは効果発現までの時間が短く、不快な副作用もほとんどない上に、たとえ大量に服薬しても命を落とすことはまずない、と言われている。
しかし一方で、このSSRIがあまりに“使いやすく安全な薬”であることが、逆にうつ病の概念をぼんやりさせてしまったのも確かだ。副作用が少ないことに加えて、このSSRIには、「気分の落ち込みや意欲の減退から不安、焦燥感、さらには過食などの衝動行為まで」と非常に幅広い効用がある、という大きな特徴もある。そのため、その患者が、原因がなくても自然に起きるからだの病気に近い内因性うつ病なのか、それともストレス状況に反応して一過性の抑うつ状態を呈しているだけなのか、といったことが十分に見きわめられないうちに、まずは薬だけが投与されてしまう危険性があるのだ。」p.136-137
「かくして、この“使いやすくて何にでも効くSSRI”が出現してから、「とにかくSSRIが効いたケースはうつ病」というように、これまでとは順序が後先に「うつ病」の診断名がつけられるケースも増えてしまった」p.138

「うつ病を「誰にでも一定の確率で起きる病気」「特別な人だけがかかる病気じゃない」と考えることは、うつ病の早期発見、早期治療に大きなプラスとなった。しかし、皮肉なことに「うつ病は薬で治るからだの病気」と一元的に考えすぎることが、逆に「30代うつ」など新しいうつ病を増やし、治りを遅くしているとも言えるのだ。その理由のひとつには、「わたしが悪いんじゃない。からだや脳が悪いのだ」と考えて自分自身は免責されることで、「あとは治療者が治してくれるべきだ」「職場ももっと働きやすい環境を整えるべきだ」と自分の側の治療意欲や職場復帰の意欲を放棄してしまうことが考えられる」p.140-141

「個人的見解を言えば、私は「30代うつ」にはかなりの割合で「うつ病には分類されない抑うつ状態」が含まれているのではないか、と考えている。」p.167
「しかし(…)それがたとえ「うつ病」に基づかないものであるにしても、何らかの援助やケアは必要だと私は思う。そして今の時点では、その援助やケアは精神医療の場を中心に行われるのが望ましいのではないか。これも後述するように、「30代うつ」はこれまでの「うつ病」とは違うとしても、何らかの新しい病である可能性もゼロではない。」pp.171-172

■言及

◆立岩 真也 20140825 『自閉症連続体の時代』,みすず書房,352p. ISBN-10: 4622078457 ISBN-13: 978-4622078456 3700+ [amazon][kinokuniya] ※


*作成:山口真紀
UP:20080704 REV:20081102, 20140824
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