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『その数学が戦略を決める』

Ayres, Ian 2007 Super Crunchers: Why Thinking-by-Numbers Is the New Way to Be Smart, Bantam Books.
= 20071130 山形 浩生訳 文藝春秋, 340p.


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■Ayres, Ian 2007 Super Crunchers: Why Thinking-by-Numbers Is the New Way to Be Smart, Bantam Books. = 20071130 山形 浩生訳 『その数学が戦略を決める』, 文藝春秋, 340p.  ISBN-10: 4163697705 ISBN-13: 978-4163697703 /1800円 [amazon]

■出版社/著者からの内容紹介
未来のワインの値段を決め、症状から病気を予測し、最適の結婚相手まで決める「絶対計算」とは? 一兆のデータが生む新世界秩序! 一見まったく違う要素の相関関係を計算していくことで、直感ではわからなかった意外な事実が浮上してきます。 クレジットカード返済率と、そのひとが車で事故を起こす確率。買い物履歴と離婚率。ぶどうを収穫した年の降雨量と、そのワインが出荷された時の値段。技術革新が兆単位(テラバイト)のデータの集積を容易にした今、「絶対計算」は、医者、政治家、評論家などの専門家をおしのけて問題を解決していっています。 著者は、自ら「絶対計算」を駆使して政府の政策の有効性などを調査しているエール大学の教授。文系にもわかる「知的大興奮の書」登場です。

■目次
絶対計算者たちの台頭
第1章 あなたに変わって考えてくれるのは?
第2章 コイン投げで独自データを作ろう
第3章 確率に頼る政府
第4章 医師は「根拠に基づく医療」にどう対応すべきか
第5章 専門家vs.絶対計算
第6章 なぜいま絶対計算の波が起こっているのか?
第7章 それってこわくない?
第8章 直感と専門性の未来

■書評・言及
◆プロ脅かす「絶対計算」
 職人、玄人、専門家――そんな<プロ>たちの直感や眼識に私たちは惹かれ、そして日々の生活の多くを負っている。しかし、本書によれば、信頼すべき<プロ>の存在が「絶対計算」(=兆単位の大量データ解析)によって凌駕されつつあるというのだから穏やかではない。
 ぶどうが収穫された時点で、降雨量や平均気温といったデータの積み重ねでワインの品質や値段まではじき出してしまう絶対計算は、ワイン評論家の権威を揺さぶる。もはやヒット映画の脚本も、ドッグレースの勝ち犬も、記録を残せる野球の新人選手も、すべて算出してしまえるというではないか。もし本当なら、誇り高き<プロ>たちの思い込みや気まぐれに翻弄されるより、よっぽどマシだ。
 だが待てよ。絶対計算は人間の感性や趣向までをも操作することにならないか?さまざまな差別を助長しやしないか?そんな疑問も、著者であるこのエール大学の絶対計算者の議論はとっくに織り込み済みだ。それどころか、読者の食いつきを良くするため、原著のタイトルも絶対計算を駆使して決められたというから徹底している。
 絶対計算が絶対の世になれば、私のような読書委員はすぐにお払い箱になるに違いない。今後、<プロ>たちの地位低下は不可避で、せいぜい絶対計算のための仮説立案程度になると著者はいう。
 もっとも、幸か不幸か、人間の精神や社会は複雑で屈折している。完全に絶対計算にとって代わられることなどないかも知れない。とはいえ、人間の暗黙知や経験則をとことん可視化し、数式に置換してゆくのは高度デジタル時代の必然でもある。自らが紡ぎだした意味の網の目に支えられた動物である人間は、その無味乾燥さとどこまで向き合ってゆけるのだろうか?本書が投げかけている問いはより深いところにある気がしてならない。 (読売新聞2008年1月28日号書評、評者:渡辺 靖(文化人類学者))
◆shorebird 書評「その数学が戦略を決める」



*作成:坂本 徳仁
UP: 20080720
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