『転換期の雇用・能力開発支援の経済政策――非正規雇用からプロフェッショナルまで』
樋口 美雄・財務省財務総合政策研究所 編 20061215 日本評論社,439p.
■樋口 美雄・財務省財務総合政策研究所 編 20061215 『転換期の雇用・能力開発支援の経済政策――非正規雇用からプロフェッショナルまで』,日本評論社,439p. ISBN-10: 453555515X ISBN-13: 978-4535555150 \5250 [amazon]/[kinokuniya] y01 w0114
■内容(「MARC」データベースより)
能力開発支援の有効なあり方とはいかなるものか、労働市場の機能を強化する支援のあり方とは何か、こうした能力開発支援改善のためにいかなる評価方法がとりうるのかについて、国内外の事例を参考に、財政的視点を含め検討。
■著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
樋口 美雄
慶應義塾大学商学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
■目次
はじめに
序章 能力開発のための新たな社会支援の必要性と政策評価
第T部 多様化する就業形態
第1章 人材ビジネスの社会的機能と課題――雇用機会創出とキャリア形成支援
第2章 若年層の雇用の現状と課題――「ダブル・トラック」化にどう取り組むか
第3章 ニート、フリーター、若年失業とマクロ的な経済環境
第4章 企業内人材育成における現状と課題
第5章 人事担当者から見た企業における若年層
第U部 諸外国の事例
第6章 EUにおける若年者雇用と若者政策
第7章 フランスの雇用政策・人材育成政策とその評価制度
第8章 イギリスの雇用政策・人材育成政策とその評価
第9章 デンマーク及びEUの雇用政策とその評価
第10章 欧米と日本の組織モデルの違い――なぜ日本ではプロフェッショナルが育たないのか
第V部 多様な就業形態と経済・財政政策
第11章 若年を中心とした雇用形態の多様化が社会・経済に及ぼす影響について
第12章 税・社会保障制度と労働供給
第13章 人的資本蓄積と税制を考える
第14章 雇用を取り巻く環境の変化に対応した制度や政策のあり方「多元的雇用・勤労福祉型システム」の創出に向けて
特別講演
■12回の転職経験から考える転職の意味と新しい働き方
■社会意識と若者――サブカルチャーとしてのニート
■引用
「ニートの場合に、1人当たり所得の係数がマイナスであることは興味深い。ニートは豊かな社会の病理現象と説明されることが多い。しかし、本稿の分析によれば、ニートを豊かな社会の病理現象と説明することは基本的に誤りであり、むしろ貧しさの結果であるということになる。この解釈は、ニートの本来の発祥の地であるイギリスでの分析に近い。
ニート率とフリーター率の場合、建設業就業者比率もマイナスで有意になった。工業事業の減少による、地方での雇用の下支えが減少していることがニート率、フリーター率を上昇させていることになる。これは再び、ニートやフリーターを豊かな社会の病理現象と説明することに疑問を呈するものである。」(p.102)
「新卒者に対する即戦力という言葉は、専門的な技術や知識ではなく、もっと基本的な能力、つまりどのような仕事にも共通して必要となる能力の保有を期待していたのである。
新卒で採用した人材が戦力化するには平均して3年程度の時間がかかる。これを少しでも早めるには、基礎的な能力(コミュニケーション力や問題発見能力など)の保有が欠かせないということだ。」(p.110)
「この、新卒へのこだわりはどこから来るのだろうか。
まず、筆者のこれまでの経験から、事業規模を急拡大させようとしている企業にとっては、新卒採用は比較的安価な労働力を大量に確保させるための、最も効率的な方法であるといえる。2006年を例にとると、約57万人の労働力が、4月に一斉に労働市場に登場することになる。」(p.129)
「マインドは、行動のパターンを形成する。また、いったん身につけたマインドは容易に変更されない。新卒の就職は、その新しいマインドを獲得する数少ない機会であるともいえる。そこで企業では、その企業独自のマインドを入社時に徹底して教育する。楽天でも、新卒社員は最初の1年間を教育期間と考えている。
マインドを身につけた社員は、その企業で求められる働き方をするために、中長期的なパフォーマンスは向上するものと考えられる。先に述べたように、新卒社員の質が高いとされるのは、こうしたマインドをしっかりと身に着けているからであるともいえる。」(p.131)
「この自己分析は、就職活動において自分自身を企業に売り込むマーケティング戦略であるともいえる。そこでは、自分という「商品」を差別化する要素となる「自分らしい」個性を訴求する。」(p.133)
「しかし、今日の学生は就職活動を通して、「とんがっている」こと、つまり個性的であることに価値をおくことを学ぶ。さらに企業の人事担当者も「光る人材」、つまり集団に埋没しない人材を採用する。しかし、こうした人材が運命共同体に帰属すると、自己矛盾に陥ることになる。価値観が多様化している個人が共同体と結ばれることで、むしろ自分の幸せが阻害されるような事態が起こるような場合が増えてきた。」(p.135)
*作成:志知 雄一郎