HOME > BOOK

『安心して絶望できる人生』

向谷地 生良・浦河べてるの家 20061110 日本放送出版協会,246p.

last update: 20110822

このHP経由で購入すると寄付されます

向谷地 生良(むかいやち・いくよし)・浦河べてるの家 20061110 『安心して絶望できる人生』,日本放送出版協会(生活人新書),246p. ISBN-10: 4140881992 ISBN-13: 978-4140881996 \777 [amazon][kinokuniya] ※ m beteru

■内容

・(「BOOK」データベースより)
北海道にある浦河べてるの家。統合失調症などを抱える人たちが暮らす共同体だ。最近べてるの家では、自分の病気を自分で研究する「当事者研究」が盛ん。「幻聴さん」と一緒に暮らし思いが極まれば「爆発」する。そんな自分を「研究」してみると、いつもの苦労や絶望のお蔭で、何だか自分の助け方がわかるように思えるから不思議だね。弱いから虚しいから、絶望の裏返しの希望を見晴かせる。逆転の人生哲学の「爆発」だ。
・(「MARC」データベースより)
北海道にある統合失調症などを抱える人たちが暮らす共同体、浦河べてるの家。ここでは自分の病気を研究する「当事者研究」が盛んだ。精神病を抱えた人たちが、自分で自分の助け方を見つける。病気なのに心が健康になってきた!

■目次

第1部 自分自身で、共に――弱さを絆に、苦労を取り戻す
 「当事者研究」までのプロローグ
 べてるの家の「当事者研究」
第2部 「弱さの情報公開」をはじめよう――「当事者研究」の実際
 「べてるウイルス感染症候群の研究」
 「“劇場型”統合失調症の研究」
 「“人格障害”の研究その一」
 「“人格障害”の研究その二 見捨てられ不安の研究」
 「人間アレルギー症候群の研究」
 「“サトラレ”の研究」
 「起業の研究」
 「救急車の乗り方の研究」
 「どうにも止まらない涙の研究」
第3部 苦労や悩みが人をつなげる――座談会「私たちにとっての当事者研究」

■引用

◇「個人苦」から「世界苦」へ
当事者研究の持つ力の一つに、「個人苦」が「世界苦」へと広がる経験を当事者がするということがあると思います。当事者の感じる孤立感の一つに、自分の抱える生きづらさが、周りの人との間で共有されないという苦しさがあります。p.36
当事者研究とは、歴史性の取り戻しへのお手伝いでもあります。自分という人間が、今、ここに生きてあることを支える具体的な人のつながりをよみがえらせていく歩みでもあります。当事者研究とは、まさしく悩みを苦労に変え、苦労をテーマに変えていく作用を持っています。p.38

◇べてるの法則
病院は病気の悪いところを治そうとします。いわゆる「医療のモデル」といわれているものです。最近は「希望指向のモデル」が着目されていて、悪いところではなく健康的な部分に着目し強めることを大切にします。それに対して「べてるのモデル」というのは「問題」といわれていることが役に立ったり、有利だとおもわれていることが、マイナスに作用する世界だということができます。p.44

◇当事者研究
浦河では、いつのころからか「研究」という言葉は、きわめて日常的な言葉として使われてきました。統合失調症をはじめとする精神障害を抱えながら生きようとする中で起きてくるさまざまな苦労や行き詰まりが頂点に達したときに、「どうしたらいいか、一緒に考えよう」という言葉によって、それまでの現実の苦しさや関わりが、一瞬のうちにゆるみ、少しだけ生きていけそうな気分になるからです。一人だけで抱える孤独な作業が、「研究しよう」という言葉によって、いつの間にか共同作業に変わるのです。つまり、「こだわり」や「とらわれ」の歯車が、自分の抱えp.51
る苦労への興味や関心となって、観察者の視点を持って自分自身の抱える生きづらさに向き合う勇気へと変えられるのです。p.52

当事者研究の意義とは、統合失調症など精神障害を抱えた当事者自身が、自らの抱える固有の生きづらさと向き合いながら問い、人とのつながりの中に、にもかかわらず生きようとする「生き方」そのものということもできます。それが「自分自身で、共に」という当事者研究の理念に反映されています。当事者研究とは、生活の中で起きてくる現実の課題に向き合う「態度」であ p.53
り、「人とのつながり」そのものであるといえます。ですから「当事者研究」という営みは、決して、単一の問題解決をめざす方法論――問題解決技法――ではありません。p.54

◇進め方 p.68-71
@統合失調症など精神障害の疾病としての側面と薬物療法の重要性を重んじながらも、当事者自身の主観的な理解や対処方法をできるだけ尊重し、ユニークで、当事者自身にとって有益な方法やアプローチの仕方を、自由に話し合い、語り合える雰囲気作りに心がける。
A話し合いや検討の中で、「人」と「問題」を分けて考えることの理解を助けるために、人形やイラスト、ロールプレイ、板書など視覚的に訴える手段を積極的に活用する。
B当事者研究を通じて得られた結果が、現実の生活の中で般化されるように、SST(Social Skills Training)などを活用する。
Cテーマごとに「研究班」を立ち上げ、当事者がリーダーとなり、継続的な研究活動を側面的に支援する。
D半年に一度の割合で、研究発表の機会を設ける。発表にあたっては、視覚的効果に留意してポスターやパワーポイントなどを活用する。
E当事者自身の経験知は専門家の持つ知識や技術と基本的に対等であり、統合失調症など精神障害を抱えることによってもたらされる生きづらさとは、現状の理解を助ける適切な情報へのアクセスと、その経験に基づいた有効な対処の仕方を習得する機会の欠如によってもたらされたものである。
F統合失調症を抱える当事者を助ける主役は「当事者自身」であるとするエンパワメントの視点に立ったスタッフの姿勢が、当事者自身の「研究意欲」を高めることにつながる。それらは、当事者研究の実践活動の端々で、繰り返し確認する必要がある。

■書評・紹介


■言及



*作成:永橋 徳馬 更新:山口 真紀
UP: 20101228 REV: 20110428, 20110614 0822
べてるの家  ◇精神障害/精神医療  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
TOP HOME (http://www.arsvi.com)