『不確実性のマネジメント――新薬創出のR&Dの「解」』
桑嶋 健一 20061002 日経BP社,216p.
last update: 20110124
■桑嶋 健一 20061002 『不確実性のマネジメント――新薬創出のR&Dの「解」』,日経BP社,216p. ISBN-10: 4822245411 ISBN-13: 978-4822245412 \1680 [amazon]
■出版社/著者からの内容紹介
問。巨額投資を要する創薬ビジネスは「バクチ」や「宝くじ」の類にすぎないのか?答。否。そこには競争優位の源泉たる固有のマネジメントが存在するーー新薬開発は、俗に「千に三つの成功」「アイロンの開発を目指して電気ポットができる世界」と評される。では、百億円を投じる画期的新薬の開発は、どこまでも"水もの"で、効果的なマネジメントなど存在しえないのだろうか?気鋭の経営学者が創薬ビジネスの構造と、そこにおけるマネジメントのあり方を、本邦で初めて、明解に読み解いてみせる。プロジェクトX的な開発ストーリー(世界初の高脂血症治療薬「メバロチン」、アルツハイマー型痴呆治療薬「アリセプト」)もふんだんに紹介しつつ、業界の雄・武田薬品の開発力の秘密を解剖し、かつ、これまで明らかにされてこなかった製薬企業の研究開発マネジメントの核心を書き下ろす。産業間比較の視点を導入し、自動車からソフトウエアまでの、「イノベーション」研究史を、興味深いキーワードを通じて学べる工夫も凝らされている。
内容(「BOOK」データベースより)
高度な不確実性を有するハイテク製品の開発、ビジネスに関心をもつすべての読者のために。武田薬品の強さの秘密がわかり、自動車、ソフトウェアの「イノベーション研究史」も詳説。
■目次
第1章 医薬品開発は「一攫千金」のビジネスか?…5
1・医薬品開発の一般的なイメージ…6
膨大な投資が生む巨大な利益/素朴な「宝くじ」モデルなのか?
2・新薬とは何か?:本書の分析対象…9
医療用と一般用の医薬品/ピカ新・ゾロ新・ジェネリック
3・医薬品開発の特徴とは?…13
何が特殊なのか/人の命にかかわる製品/成功確率は1万分の1以下?!
4・研究開発プロセスの実際…19
上流の探索段階/下流の開発段階
5・まとめと本書の構成…23
第2章 画期的新薬はどのように開発されるのか?…25
1・二つの新薬開発物語…26
〈ケース1〉高脂血症治療薬「メバロチン」…27
ノーベル賞研究に触発される/マイナーな研究グループ/どうすればコレステロールは下がる?/リード化合物の発見/なぜか実験動物での値が下がらない/ニワトリで再チャレンジ/正式な臨床試験を経て上市へ
〈ケース2〉アルツハイマー型痴呆治療薬「アリセプト」…39
「親の敵討ち」からの出発/何がアルツハイマー病を引き起こすのか?/不名誉な"撃墜王≠フ称号/吉報は思わぬ所から/捲土重来を期す/米国で先行上市へ
2・新薬開発の成功要因を探る…49
「アイロンを作ろうとしてポットができる」世界/医薬品開発を成功に導くマネジメントとは?/成功要因1:プロダクト・チャンピオンの粘り強い研究姿勢/成功要因2:スポンサーの存在と研究の自由度/成功要因3:積極的なコミュニケーションと情報収集/成功要因4:適切な研究ドメインの設定
3・探索段階のマネジメント可能性…58
限定的な探索段階のマネジメント/部門間調整も不要という特性
4・「ゴミ箱モデル」が当てはまる探索段階…69
ゴミ箱モデルとは/ゴミ箱モデルと医薬品の研究開発/「高不確実性」「個人ベース」「ゴミ箱モデル的」が特徴
第3章 医薬品開発における競争優位の源泉は何か?・・・69
1・「go or no-goの判断」能力と競争優位…70
何が競争優位をもたらすのか/「go or no-goの判断」とは?/問題解決の方法がプロセスで変わる/「やり直し」による開発期間の延長/早期参入が重要な医薬品市場/後戻りできないから「go or no-goの判断」が重要
2・製薬企業の「go or no-goの判断」能力を比べる…79
各社の判断能力の違い/「生存時間解析」をモノサシに/トレードオフ要因のマネジメント/大きく網を張ってタイミング良く一気に絞り込む/成功確率よりも「絞り込みパターン」が肝心/武田薬品にみる理想的な絞り込みパターン/「go or no-goの判断」能力の構成要素(1):因果関係知識の蓄積/「go or no-goの判断」能力の構成要素(2):意思決定システム/武田型絞り込みパターンの戦略的意義/「go or no-goの判断」能力と研究開発パフォーマンス
3・「プロトコル・デザイン」能力と競争優位…121
「プロトコル・デザイン」能力の重要性/「プロトコル・デザイン」能力は企業間で違うのか?/研究開発成果への影響/大切だが難しい失敗事例の分析
4・組織能力の構築プロセス…145
「組織能力」とは何か?/強い「組織能力」が形成された理由/自社開発志向で組織能力を構築/いかに実になる経験を積むか
第4章 優れた製品開発マネジメントの産業間比較…121
1・成功する製品開発マネジメントとは…122
製品・産業ごとにマネジメントは異なるのか?/イノベーション研究の系譜/イノベーションのきっかけは「ニーズ」か?/「ゲートキーパー」と技術情報の流れ/本当のイノベーターは誰か?/リード・ユーザーを探せ/日本企業の強さの理由/成功度を精緻に測定する/統合性を高める「重量級プロダクト・マネジャー」
2・「成功要因」の考え方・測り方…145
成功とは何だろうか?/「パフォーマンス」と「成功要因」を分けて考える/パフォーマンスは階層的に考える/パフォーマンス測定の基本はQCD/QCDと競争力/開発期間とは"スイングの速さ=^「プロセス」を分析することの重要性/視点が変われば結論も変わる
3・製品・産業により成功パターンは違うのか?…164
なぜ自動車でHWPMやオーバーラップが有効なのか/新技術と新製品を結びつける「技術統合」/経験戦略VS.圧縮戦略/「同期安定化プロセス」による開発期間短縮/産業横断的枠組みの構築
4・医薬品開発の特殊性を産業間比較から分析する…177
分析のフレームワーク/問題解決モデルとは何か?/「原因不確実性」と「結果不確実性」がともに高い/「原因―結果不確実性」の産業間比較/「幅広いサーチ」と「詳細なシミュレーション」/自動車とゲームソフトは開発スタイルが似ている別/"異業種交流≠フすすめ
終章 研究開発戦略と企業戦略…197
1・本書で何を議論してきたのか…198
「一攫千金」「宝探し」は上流段階のみ/「組織能力」が競争優位に貢献する下流段階/武田の組織能力構築戦略
2・企業戦略への示唆-研究開発戦略を超えて…205
実証されていない製薬産業の「規模の経済性」/日本の製薬企業がとるべき戦略とは
あとがき…213
*作成:植村要