『階層化する労働と生活』
本田照光・白井邦彦・松尾孝一・加藤光一・石畑良太郎 20061010 日本経済評論社,p.364
■本田照光・白井邦彦・松尾孝一・加藤光一・石畑良太郎[20061010]『階層化する労働と生活』日本経済評論社,364p. ISBN-10:
4818818763 ISBN-13: 978-4818818767 [amazon]/[kinokuniya]
■内容(「BOOK」データベースより)
格差拡大のもとで、労働と生活の総合性と相互関連が問われている。雇用、生産システム、職業教育、家族と社会的排除について、日本、英国、中国の比較をふ
まえ検証。
内容(「MARC」データベースより)
労働と生活の相互性と相互規定性を、日本企業の技術・競争力強化と人材育成、技能形成と職業訓練教育、社会的排除とホームレス問題の側面から、日本、中
国、イギリスなどヨーロッパの国際比較を踏まえて検証する。
■著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
本間 照光
青山学院大学経済学部教授(社会保障論・保険論)。1948年生まれ。小樽商科大学卒
白井 邦彦
青山学院大学経済学部助教授(労働経済論・産業労働論)。1963年生まれ。中央大学大学院経済学研究科博士後期課程退学
松尾 孝一
青山学院大学経済学部助教授(社会政策論)。1966年生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)
加藤 光一
信州大学農学部教授(比較農業構造論・北東アジア経済論)。1953年生まれ。九州大学大学院農学研究科博士課程修得。農学博士
石畑 良太郎
青山学院大学名誉教授(社会政策論・労働問題)。1932年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載
されていたものです)
■目次
はしがき
第1章 労働と生活という視点
1.グローバル化と「労働=生活」関係の変容
2.先行研究――「労働」と「生活」の分離
3.「労働」と「生活」の統合としての「人間発達(人間開発)」
4.ILO・国連・社会教書への合流
5.もうひとつの労働,生活へ向けて
第2章 ミニマムの欠如と労働=生活問題
1.労働と生活をつなぐ
2.裂け目・不安定・企業社会の強まり
3.「構造改革」による問題の「構造化」
4.問題の近さ,問題意識の遠さ
5.いま,再びの改革
補論 団体生命保険の国際的受容と変容
―保険に映った労働と生活―
1.「遺族のため」が「会社のため」に転化
2.遺族保障としての米・欧・戦前日本
3.現代日本の特異現象と韓国・中国
4.最高裁判決,100年前の警告
5.可能性としての生命の尊厳
第3章 競争戦略と雇用・生活保障システム
―企業競争力の視点から―
1.迫られる雇用・生活保障システムの再構築
2.従来型の「企業競争力依存型雇用生活保障システム」とその機能不全
3.新たな競争戦略とそれに対応する効率的生産システム
4.セル生産方式と人材育成・活用
5.「新段階の企業競争力依存型雇用生活保障システム」なるものの可能性と限界
6.雇用生活保障システムの転換の必要性
第4章 職業教育の現状・課題・国際比較
―内部労働市場から生活連携型―
1.はじめに
2.グローバリゼーション下における内部労働市場型職業能力形成システムの変質と本章の課題
3.内部労働市場型職業能力形成システムの展開・帰結とその再編
4.近年の若年層の労働・生活問題と若年層向け雇用政策
5.ノンエリート層への職業教育の現状と課題
6.エリート予備軍への職業教育の現状と課題
7.イギリス労働組合による職業教育からの示唆
8.まとめ:内部労働市場型から生活連携型へ
付録 進学校アンケート質問表と単純集計表
第5章 中国における出稼ぎ労働者の「労働世界」
―「珠江デルタ」の日系・香港系企業の比較―
1.はじめに
2.「珠江デルタ」の構造変動
3.日系中小企業の労務管理の「動揺」と「変容」
4.出稼ぎ労働者の「労働世界」
5.おわりに
第6章 社会的排除とホームレス問題の研究動向
1.課題の限定
2.イギリスにおけるホームレス事情の概観
3.イギリスの「ホームレス問題」研究の動向
4.日本におけるホームレス事情の概観
5.日本の「ホームレス問題」研究の動向
6.「ホームレス問題」研究動向の集約と所見
あとがき
■引用
「時に「ユートピア」「復古」とみられるラスキンではあるが,産業革命がもたらした19世紀イギリスの労働と生活問題,労働と生活の現実に向きあい,その
変革の方向をみいだそうとしていた.その意味で,現実的で進歩的であった.
彼は,労働は本来的には苦痛ではなく,喜びであるとし,「労働=生活(ライフ・生命)=芸術」と把握し,「労働の人間化」を実現する経済社会を展望し
た.労働は,モノの「固有価値」を生かし制作する喜びであり,労働を含めた生活はモノの価値を理解し使用する喜びに満ちた過程(「享受能力」)であり,労
働も生活も質の高い芸術となり,その質を支える自然環境や文化財も保護される.固有価値を理解し生み享受し社会を運営する人間とライフ(生命・生活)その
ものの生産こそが「最高の生産」にほかならない.」(p.11)
「ラスキンの「労働の人間化」,そして,それを継承し具体化していったモリスの「生活の芸術化」は,「労働=生活」と把握し,「労働=仕事の人間化,芸術
化」そして労働者=生活者としての人間発達を展望するものであったといえよう.」(p.12)
「その,質的変化の第1は,非正規雇用労働者は従来は職場の中で主として補助的周辺的業務で活用され,正規労働者の雇用を守るためのバッファーとしての役
割を果たしてきたのが,90年代半ば以降は正規労働者にかわり基幹的中心的業務でも活用されるようになり,正規労働者の雇用を守るバッファーという役割が
希薄になってきたことである.(…)
第2は,従来は労働市場において相対的に有利な立場にあった若年層において,非正規雇用労働者が量的にも比率的にも大幅に増大し,今日では若年層が非正
規雇用労働者の大きな核を形成するようになったということである.(…)
第3は非正規雇用労働者のなかで派遣労働者,請負労働者といった間接雇用の非正規雇用労働者が急増し,確かに量的には直用形態がまだかなり多いとはい
え,直用から間接雇用への移行の傾向が明瞭にみてとれるということである.」(p.110-113)
「では新たな競争環境に適合的な競争戦略はどのようなものであろうか.さきに述べたような状況の市場において競争に勝つためには,メーカー各社は消費者の
限られたニーズを的確機敏に把握し,そのニーズに対応した高品質高精度低価格の製品を即座に市場に提供することがどの程度できるか,ということがカギとな
る.つまり国内生産に関しては90年代半ば以降,かつての量産効果による低コスト化と高い均一性を有する相対的高品質化の実現という競争戦略にかわって,
変種変量生産の徹底と高品質高精度化,低価格化の実現という競争戦略を展開することが本格的に迫られるようになったのである.
とはいえ変種変量生産の徹底と低価格化は一見すると矛盾した要求である.低価格化=コスト削減,を実現する最も簡単な方法は,量産効果を発揮することで
あるが,それでは変種変量生産に対応できない.この一見すると相矛盾する要求を両立させるためには,部品,およびユニットの部分においてはできるだけ共通
化をはかり,その部分で量産効果を発揮しコスト削減を実現するとともに,最終組立工程でその部品・ユニットの組み合わせを多様化することで,最終製品段階
において変種変量生産の要求に応えるという方法しかない.これを生産システムに即して述べれば,部品加工・ユニット組立の工程までは形状の定まったものを
大量,迅速,正確に加工,組み立てるために,単体機器レベルの自動化を促進し,量産効果によるコスト削減,高品質高精度化を実現し,最終組立工程ではもっ
とも柔軟性にすぐれた「人」をできるだけ活用することで,形状面での多様性に応えるとともに,そこに投入される「人」の量を需要量にあわせて増減させるこ
とで,生産量の変動に対応し,もって変種変量生産を実現する,ということである.」(p.119-120)