『刑事雪平夏見 アンフェアな月』
秦 建日子 20060900=20080520 河出書房新社(河出文庫),348p.
last update:20130506
■秦 建日子 20060900=20080520 『刑事雪平夏見 アンフェアな月』,河出書房新社(河出文庫),348p.
ISBN-10: 4309409040 ISBN-13: 978-4309409047 \600+税
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■内容
生後わずか三ヵ月の赤ん坊が誘拐された。不自然な母親の言動、奇妙な脅迫電話、そして山中から掘り出されたものとは……。ベストセラー『推理小説』
(ドラマ「アンフェア」原作)に続く、「無駄に美人」な女刑事・雪平夏見シリーズ待望の最新刊!
■目次
プロローグ
第一章
第二章
第三章
第四章
第五章
第六章
最終章
エピローグ
解説(新保博久)
■引用
仕方ないじゃない! 娘が産まれたんたんだから! 生後三ヶ月。私が世話をしなければ、三日と生きていられない、弱くて無防備な生き物。生まれる前に実の父親に棄てられた、
哀れな生き物。
ささくれる気持ちを必死に抑え、私は、画像ソフトを立ち上げる。>068>
今、大事なことは、とにかくこの仕事を仕上げること。イラストを描き上げ、納品し、ギャラを貰うこと。それでなくても、当初の予定より、一週間近く作業が遅れている。
これ以上遅れると、月末の家賃が払えなくなる。
「X社、夏の販促イラスト」と書かれたフォルダから、私は二〇点ほどのイラストデータを呼び出す。さあ、集中しよう――――と、その時だった。
隣の部屋から、「んぁ んぁ」と璃子のむずかる声が聞こえてくる。
(嘘でしょう)
暗澹たる気持ちで私は時計を見た。
こっちの部屋に戻ってきてから、まだ一〇分も経っていない。
お願い。そのまま寝て。お母さん、急ぎの仕事があるの。
もちろん、そんな願いは通じない。
璃子の泣き声は、倍々ゲームで大きくなる。母親を求めて、私を求めて、全身全霊で泣き叫ぶ。
私は、思わず、両手で自分の顔を覆う。
窓から指し込む初夏のうららかな日差しが、私には、いっそ、恨めしい。
「子供なんて産むんじゃなかった……」>069>
思わず、そんな言葉が口から出た。
「子供なんて産むんじゃなかった……」
一昨日のことだ。私は確かに、その言葉を口にした。璃子さえいなければ、私はまだやり直せるのに。自分自身の人生をやり直せるのに。
私は思い出す。
私は立ち上がり、璃子の部屋に向かうと―――
―――たまには、私たちと外でランチとかしようよ。>308>
外でランチか。オープン・テラスの。昔はよく出かけた。ボーナスを貯めて買った、かわいい黄色いオープン・カーで。たとえば、ことこと一〇時間以上煮込んだビーフシチューに、
焼き立てのパン。深い苦みのある珈琲。昔は、雑誌で情報を仕入れては、友達とあちこちランチ探検をしていたものだ。
璃子を妊娠するまでは。
■書評・紹介
デビュー作『推理小説』(CX系ドラマ「アンフェア」原作)で著者・秦建日子さんのが生み出した型破り――――30代、バツイチ、子持ち、大酒飲み、刑事、捜査一課検挙率No.1、
そして「無駄に美人」――――な女刑事・雪平夏見はおかげさまで前作で多くの方のご支持をいただきました。ドラマ「アンフェア」で篠原涼子さん演ずる雪平夏見を見て、
『推理小説』を手にとって下さった方も多いのではないでしょうか。
あれから1年半、シリーズ第2作となる『刑事 雪平夏見 アンフェアな月』がやっと完成しました。今回は雪平刑事が、生後わずか3ヶ月の乳児誘拐事件に挑みます。
相棒の安藤くんや山路課長、娘の美央ちゃんなど、おなじみのメンバーも大活躍。思いもかけない結末には、お読みになった方それぞれが、
いろいろな思いを抱いていただけると思います。
■言及
*作成:北村 健太郎