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『障害・病いと「ふつう」のはざまで――軽度障害者どっちつかずのジレンマを語る』

田垣 正晋 編 20060831 明石書店,246p.

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last update:20160929

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田垣 正晋 編 20060831 『障害・病いと「ふつう」のはざまで――軽度障害者どっちつかずのジレンマを語る』,明石書店,246p.  ISBN-10: 4750323918 ISBN-13: 978-4750323916 2400+税  [amazon][kinokuniya] ※ b ds

■内容

「健常者でもなく障害者でもない」「病気だけれど健康でもある」軽度身体障害、軽度発達障害、脳損傷、慢性疾患をもつ人々の経験世界をもとに、 既存の障害者福祉の内容への違和感と広義の軽度障害の問題を問い直す。障害や病いをもつ人々による画期的論考8編。

■目次

序章 脱援助と、絶えざる言い換えの努力 田垣 正晋

第1章 社会における障害とは何か 田垣 正晋

第2章 軽度障害というどっちつかずのつらさ 田垣 正晋
1 なぜ軽度障害者なのか
2 軽度障害という基準の整理
3 どっちつかずのつらさ
4 「重度」障害者よりもつらい
5 顕在化しにくい障害 障害の「可視性」と比較して
6 介助希求における障害のカミングアウトのジレンマ
7 カミングアウトのストラテジー
8 セルフヘルプグループによる軽度障害の支援
9 軽度障害者の支援のあり方
10 軽度から見えてくるもの 健常者/障害者という二分法への異議
11 今後、考えられるべきこと

第3章 知的障害のある人が地生活をするための見方とかかわり――地域に根ざした支援に向けて 古井 克憲
コラム 私たちが変わる 古井 克憲

第4章 物語としての精神障害――本人の語りを中心に 稲沢 公一
コラム 「精神障害」とのおつきあい 稲沢 公一

第5章 顔に違いがあるということ――先天的な変形を中心にして 松本 学
コラム ふつうとは何か――当事者から距離を置くこと、間遠になること 松本 学

第6章 「実態」としての障害と「問題」としての障害 赤松 昭
コラム 不純な動機で十分OK 赤松 昭

第7章 軽度発達障害をめぐって 今泉 佳代子
コラム 発達バランスの悪さを知る 今泉 佳代子

第8章 慢性の病気にかかるということ――慢性腎臓病者の「病いの経験」の一考察 今尾 真弓
コラム 「どうして“慢性疾患”なのですか?」 今尾 真弓

あとがき
執筆者紹介

■引用


5 顕在化しにくい障害 障害の「可視性」と比較して
 二つの例から、それぞれの障害にかかわるつらさや不自由さが、他者に伝わりにくいことがわかる。 このように、日常生活上当然できるはずの活動が独力ではできないということ、すなわち、能力障害が具体的にどれほど伝わるかということを顕在性と呼ぶことにする。 (田垣[二〇〇二])。 顕在性の低さに伴うつらさには、他者による手助けや配慮を要さないものの、困難を抱えながらも、無理をしながら活動をしていることを知られたいという場合(Aさん)と、 具体的に何らかの対応を求める場合(Bさん)とがあると思われる。 麻痺による身体の変形や切断などといった機能障害が視覚的に他者に伝わる度合いとは異なり、>059>単純に障害の見た目ではない。 むしろ、機能障害から能力障害が具体的に他者に伝わるかどうかである。(pp.58-59)

あとがき
 本書で取り組みたかったのは、既存の障害者福祉の内容への違和感と、広義の軽度障害の問題を言語化すること、 そして自らが障害や病いをもつ方に執筆を依頼することによって、当事者ゆえのリアリティと学術的考察とのバランスをとることだった。 全文を読み通して、いずれの目標もおおむね達成できたと自負している。筆者が学生時代から疑問に思い続けてきたことを世に問うことができるのは、本当に感慨深い。
 本書では「軽度障害」という言葉をあえてメインタイトルにせずにサブタイトル扱いにしている。 その理由は、メインタイトルにすれば、本書の内容が軽度障害の定義と見なされかねないからである。 心理学などの社会科学では、操作的定義、すなわち、一定の妥当性を明らかにした上で暫定的な定義をすることがあるが、本書の操作的定義が、 「科学的」定義として一人歩きしかねない。とはいうものの、 「軽度障害」ということばは、障害が軽くても、あるいは軽いがゆえの問題があることをアピールするのに効果的であるために、妥協策としてサブタイトルに用いた。 章のタイトルにも軽度障害という趣旨の言葉を使っているが、各著者は、あり得る定義の一つという、暫定的なニュアンスをもって論を展開している。 読者諸氏には、この苦渋の事情をご理解いただければ幸いである。(p.242)

 障害・病いと「ふつう」のはざまの問題について、本書で議論が終わるとは考えていない。だが、どのような研究実践を展開していくのかは未定である。 読者諸氏からの 率直なご意見をいただき、今後の方針を考えていきたい。(p.243)
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■関連書籍

倉本 智明 20060301 『だれか、ふつうを教えてくれ!』,理論社(よりみちパン!セ17),161p.  ISBN-10: 465207817X ISBN-13: 97846-52078174 1200+税  [amazon][kinokuniya]
◆秋風 千惠 20130303 『軽度障害の社会学――「異化&統合」をめざして』,ハーベスト社(質的社会研究シリーズ6),189p.  ISBN-10: 4863390408 ISBN-13: 978-4863390409 ¥2310 [amazon][kinokuniya] ※ s, ds

■言及

北村 健太郎 20140930 『日本の血友病者の歴史――他者歓待・社会参加・抗議運動』,生活書院,304p.  ISBN-10: 4865000305 ISBN-13: 978-4-86500-030-6 3000+税  [amazon][kinokuniya][Space96][Junkudo][Honyaclub][honto][Rakuten][Yahoo!] ※

■書評・紹介



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*増補:北村 健太郎
UP:20061010 REV:20070627,20160929
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