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『障害医学への招待――特別支援教育・自立支援法時代の基礎知識』

杉本 健郎・二木 康之・福本 良之 20060630 クリエイツかもがわ,221p.


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杉本 健郎・二木 康之・福本 良之  20060630 『障害医学への招待――特別支援教育・自立支援法時代の基礎知識』,クリエイツかもがわ,221p. ISBN-10:4902244578 ISBN-13:978-4902244571 \2310 [amazon] [kinokuniya] ※ m02a

■内容

重い障害をもつ人たちが、地域で「普通に暮らせる」ために。
障害とは何か、歴史、脳の仕組み、障害のなりたち、脳障害の病態、診断から予後まで。
重症児教育のあり方から医療的ケアの考え方、「意見表明できない人の生きる権利」、意識的障害からの脳死、現場で活躍する専門スタッフの支援内容までが系統的に学べる。

■目次

はじめに
第1章 障害とは何か
1 障害とは何か 杉本健郎
2 障害の歴史 杉本健郎・福本良之
 1.障害児者と時代・社会
 2.世界の医学・医療と障害児者の歴史
 3.日本の医学・医療と障害児者の歴史
第2章 脳の仕組みと働き 二木康之
1 神経科学発展の歴史
2 脳の発育―中枢神経系の個体発生
 1.人体の発生
 2.神経系の発生
3 神経系の構造と働き
 1.神経細胞とグリア
 2.大脳半球
 3.連合野
 4.大脳基底核
 5.脳幹
 6.大脳辺縁系
 7.小脳
 8.脊髄および末梢神経
第3章 障害の原因・胎生期 杉本健郎
1 発達障害の発現
2 流産の意味と原因
3 遺伝性疾患
 1.メンデル遺伝病(単一遺伝子疾患)とは
 2.非メンデル遺伝
 3.代表的な遺伝病の発達障害の成り立ち
4 染色体異常症
 1.数的異常
 2.構造異常
5 多因子遺伝病
 1.口蓋裂、唇裂
 2.二分脊椎
6 胎芽期の障害発生に関係する環境的因子
 1.薬剤・サリドマイド
 2.ウイルス・先天性風疹
 3.放射線・原爆小頭症
7 胎生期
 1.ウイルス・サイトメガロウイルス感染症
 2.母体の中毒、疾病(甲状腺、糖尿病など)、
   化学物質、アルコール
 3.双胎間輸血症候群(脳梗塞)
 4.脳梗塞
 5.脳奇形 胎生早期の脳形成時期の障害・神経
   細胞遊走障害など
第4章 周産期医療の発展と取り組み
    ―NICUの子どもたち 二木康之
1 周産期医療のシステム
2 周産期・新生児期に顕在化する神経疾患
 1.早期産児のもつ特徴
 2.脳室内出血
 3.脳室周囲白質軟化
 4.新生児仮死
 5.脳性麻痺(cerebral palsy, CP)
 6.胎児水頭症
 7.染色体異常症
 8.先天性代謝異常症
3 新生児・乳児期早期の神経学的評価と予後
 1.新生児・乳児期早期の神経学的評価の特質
 2.神経学的評価と診断時期
 3.出生体重1,000グラム未満児の予後
 4.フォローアップ外来の役割
4 周産期医療センターの役割と課題
第5章 新生児・乳児の発達神経学的診断 二木康之
1 障害の早期発見と発達神経学的診察
2 発達神経学的診察とフォローアップ
3 発達神経学的診察法
 1.状態(state)
 2.姿勢(posture)
 3.筋緊張(muscle tone, muscle tonus)
 4.原始反射(primitive reflex)
 5.運動
 6.精神発達の評価
 7.総合評価
第6章 障害の診断・治療と科学技術の発展
1 障害の診断技術の発展 二木康之
 1.新生児・乳児の神経学的評価の進歩
 2.画像診断
 3.脳波、誘発電位
 4.脳血流・脳代謝検査
 5.遺伝子・DNA検査
2 発達薬理学の進歩 二木康之
 1.抗てんかん剤
 2.筋弛緩剤
 3.精神病薬・精神機能調整薬
3 リハビリテーション医学の進歩 二木康之
 1.ボバース法
 2.ボイタ法
 3.上田法
 4.治療効果
 5.小児リハビリテーションについての近年の考え方
4 典型症例
 1.ダウン症候群(Down syndrome) 岡本伸彦
 2.点頭てんかん(West syndrome) 杉本健郎
 3.脳性麻痺(cerebral palsy, CP) 二木康之
 4.低出生体重児(low birth weight infant) 二木康之
 5.レット症候群(Rett syndrome) 杉本健郎
 6.アンジェルマン症候群(Angelman syndrome) 杉本健郎
第7章 科学の進歩と生命倫理
1 胎児と人権 福本良之
 1.人権からのアプローチ
 2.バイオエシックスからのアプローチ
 3.医療者の支援
2 脳死・移植と人権 杉本健郎
 1.遷延性/持続的植物状態
  (persistent vegetative state: PVS)
 2.人の死と脳死
 3.子どもの権利の視点
3 医学の進歩と生命倫理 二木康之
 1.神経可塑性
 2.クローン技術と胚性幹細胞(万能細胞)
 3.再生医療
 4.出生前診断
 5.医学の進歩と生命倫理
第8章 障害を支える援助とその理念
1 障害者自立支援法成立までの流れと今後 杉本健郎
2 養護学校全入と訪問教育の現状―就学免除猶予と訪問教育 福本良之
 1.インクルージョン
 2.養護学校全入
 3.訪問教育
 まとめ
3 知的障害者の加齢に伴う変化と地域生活支援 植田 章
 1.高齢障害者問題としての「加齢」研究への着目
 2.知的障害者の高齢化の現状と加齢に伴う変化
 3.知的障害者の加齢と地域生活支援の方策
4 障害の重い子どもたちの教育保障・医療的ケアと
  学校保健 杉本健郎
 1.「医療的ケア」
 2.「医療的ケア」と関連した学校保健の視点
5 自己表現、自己決定できない人の権利と子どもの
  終末期医療の考え方
 1.重症障害新生児  福本良之
 2.終末期医療―患者家族の視点  杉本健郎
第9章 重症児への専門スタッフの支援の課題
1 障害医学専門医師の支援 杉本健郎
 1.問われている専門的な支援
 2.診療科で見る専門医師
 3.地域での実例・あいほうぷ吹田の試み
 4.専門医師の集団、学術学会・日本小児神経学会、
   社会活動委員会と支援ネットワークづくり
2 重症心身障害児者看護の支援課題 多久島尚美
 1.重症心身障害児者看護の前提として
 2.医療ニーズ・看護ニーズの変化
 3.看護学の中の課題
 4.重症心身障害児者看護の特殊性
 5.地域生活支援としての重症児看護
3 重症児とコミュニケーション―コミュニケーションの
  しかた 佐藤八郎
 1.子どもの発達とコミュニケーション
 2.重症児のコミュニケーションの問題
 3.重症児のコミュニケーション支援
 4.重症児のコミュニケーション支援に利用できる
   設定活動について
 5.支援者自身の課題について
4 リハビリスタッフの支援―呼吸障害への援助 瀬藤乃理子
 1.重症児の呼吸の問題
 2.呼吸障害の援助のために必要な知識
 3.呼吸障害へのアプローチ
 4.おわりに:重症児のQOLの可能性を信じて
5 リハビリスタッフの支援―在宅生活の支援 稲葉耕一
 1.在宅・地域生活の中での作業療法
 2.生活の中の活動の支援
  (環境を整え、作業を作り出す事例から)
 3.地域・在宅の可能性を求めて……
 4.さまざまな状況の人・3つの作業・4つの環境の
   調和をめざして……
あとがき
索引

■著者紹介

杉本健郎[スギモトタテオ]
1948年生まれ。1974年関西医科大学卒業。1980年同大学院修了。同大学小児科、同大学男山病院小児科部長、同大学小児科助教授を経て、現在、第二びわこ学園園長。1996年カナダ・トロント小児病院神経科留学(1年間)。日本小児神経学会理事・社会活動広報委員会事務局、日本小児科学会倫理委員会委員

二木康之[フタギヤスユキ]
1947年生まれ。1973年大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院小児科、大阪警察病院小児科、耳原総合病院小児科、大阪府立母子保健総合医療センター小児神経科を経て、現在、佛教大学社会福祉学部教授。医学博士。ニューヨーク科学アカデミー会員

福本良之[フクモトヨシユキ]
1954年生まれ。1980年関西大学文学部卒業。兵庫教育大学大学院学校教育研究科修士課程修了。元兵庫県公立学校(小中学校)教諭。現在、岡山大学医歯薬学総合研究科博士課程(社会環境生命科学専攻)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

■引用

「1.遷延性/持続的植物状態(persistent vegetative state:PVS)

 植物状態というのは、慢性化した意識障害であり、通常3カ月以上同じ状態が持続する状態をさす。
 米国では、1976年のカリフォルニア州に「自然死法」が多くの州であり、PVSの予後不良が神経学的に確認できれば(通常二人の神経学者の認定)、治療放棄して「自然死」を迎えることが法的に「保障」されている。この背景にはリビング・ウイルの考え方、日本の「尊厳死」に近い考えがあり、自己決定の論理から「意味のない生」の「自然」死を認めようというものである。
 植物状態の米国診断基準を表1に示す。この基準は、正常発達していた人が中途に病気や事故に遭ったために起こる急性意識障害の連続線上にあるもので、「もとの意識のもどるのか」、「どのくらいまで回復するのか」がまず問われる。特に頭部外傷の場合は1年以上の期間を経ないと予後を評価することはできないことになっている。
 日常的に寝たきりの重度脳障害児者、特に鈴木の提唱する「超重症心身障害児」(表2)の場合とどこが異なるか。
 PVSは追視や目的のある動きがある場合は、その範疇に入らない。超重障害児は表1の3、4、5、6は当てはまるとして、1、2、7は当てはまらない。しかし、米国の基準そのものは、生命の質を問い、予後不良で健常には戻らない・発達しない時は積極的治療を放棄するという考えに基づいていて、障害者の人権擁護の立場からは大きな問題が残る。
 この背景には、受益者負担の考えに基づいた米国の医療保険制度が色濃く関係していて、アングロサクソン系人種の歴史と文化が関係する面もあるが、同じ白人でもゲルマン系の北欧各国は、別の哲学に基づいた医療・福祉を展開している。
 出生直後から重度脳障害をもつ子どもたちは、頭部MRIでみても中脳以上が髄液で埋められている水無脳症で寝たきりの児も多くいる。超重度障害児と米国の定義するPVSを同一的にとらえることなく、どんな重い障害をもっていても、定義の1と2にある障害児者自身からからのメッセージを受け取る姿勢と技術、さらにはたとえ微々たる伸びであっても、生涯発達を促す支援をしていく必要がある。」(pp129-30)

■言及



*作成:三野 宏治 
UP:20100112 REV:20100128
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