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『スピノザ――共同性のポリティクス』

浅野 俊哉 20060310 『スピノザ――共同性のポリティクス』,洛北出版,302p.


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■浅野 俊哉 20060310 『スピノザ――共同性のポリティクス』,洛北出版,302p. ISBN-10: 4903127036 ISBN-13: 978-4903127033 2600+税 [amazon]

■内容紹介

ドゥルーズ,ネグリの思想を踏まえ〈群集-多数性〉による民主主義の基底をなす〈喜び〉にもとづく集団的組織化の地平を示す。〈市民〉でもモラルでも契約でもなく……。 スピノザの倫理的な定式はただ一つ。「汝の活動力を増大させるように行動せよ」すなわち「汝の〈喜び〉を最大限に味わうように行動せよ」。これだけである。国家も共同体も法も制度もすべて、活動力の増大という生命活動のあとから要請され、組織されたものであり、その逆ではない。

■著者略歴

1962年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。筑波大学大学院哲学・思想研究科博士課程単位取得満期退学。現在、関東学院大学法学部教員。哲学・社会思想史。本書に収録した論文の他に、「理性と情動──スピノザ哲学における合理主義の一側面」「スピノザ主義の経験主義的解釈──ドゥルーズ『スピノザ 実践の哲学』をめぐって」など。翻訳に、マイケル・ハート『ドゥルーズの哲学』(法政大学出版局、共訳)など。

■目次

はじめに――〈喜び〉と共同性

第1章〈現代性〉
スピノザ・ルネサンスが意味するもの

第2章〈倫理〉
〈善悪の彼岸〉を超えて

第3章〈理性〉
合理主義のメタモルフォーズ

第4章〈組織化〉
集団的協同(アソシエーション)の理論

第5章〈強度〉
〈成熟〉の主題

第6章〈環境〉
〈自然〉の脱構築(デコンストラクション)

第7章〈民主主義〉
国家論の異例性

第8章〈抵抗〉
『〈帝国〉』の行方

第9章〈マルチチュード〉
〈群衆―多数性(マルチチュード)〉の危機と倫理性


後記
文献一覧

■引用

 「具体的な例を考えてみる。ある二つの身体が出会うということ、これは換言すれば、二つの力が出会うということと同じである。例えば、ある人間が別の人間と出会う場合、私とその人間は力を合わせて一つの新たな関係を作り上げ、より大きな力の集合を作り出すことができる(恋人あるいは夫婦の結びつき、労働者の連帯、等々)。しかし、私たちはいつも力を高め合える身体と出会うとは限らないし、それまでは生産的な結びつきだった二つの身体の関係がある段階から互いに力を弱め合う関係に変質することもある。私たちは、自らの身体のバランスを破壊するような食物と出会えば死にすら至る。私たちの活動力を阻害するような思想との出会いが私たちの生きる力を蝕むこともあれば、順調だった結婚生活がある時点から互いの身を滅ぼすような消耗した状態に落ち込<0126<むこともまれではない。力には二つの力が合成しあってより大きな力を形作る場合と、互いの力が相手の力を解体する場合との二つのケースが必ずあるからである。
 身体は力であるとはいえ、一つの身体はさらに分節していけば、様々なより小さな身体の集合なのだから、その力の組成も多種多様である。血液やリンパ球といった無数の身体が、無数の結びつきで微妙なバランスをとりながら、人間身体という一つのより大きな身体を維持しているのであり、それらの力の総体がある個体の生命力を規定する。」(pp.125-126)

 「私たちと他の諸身体とが出会うことによってそれらの間に生ずる共通なもの、すなわち複数の身体間にそれを包含するような一つの構成関係が成立した時に生ずる存在する力能の表出こそ、私たちの思惟する能力を増大させる源泉である。
 このように考えてみるとスピノザの十全性の議論は、「何が真理(トゥルース)か」に答えるものであると言うよりは、誤解を恐れずに言うなら、「何が本当(リアル)か」という問いに答えるものであるような、さらに言えば、「何が生き生きとした(ヴィヴィッドな)ものか」という問いに答えるものであるような性格を持っていることが分かる。あるものが真理か否かという問いは、主知主義的な問いであり、ともすれば観念論的な議論に私たちを導いていってしまう。身体と経験によっての確かさを問う後者の問いかけの方が、<0128<活動し思惟する力に関わる存在論的な議論へと私たちを進ませる糸口となり得る。この点を踏まえなければ有名なスピノザの次の言葉の意味もはっきりととらえられないに違いない。

  真理の規範として、真の観念〔=十全な観念〕以上に明白で確実なものがあろうか。実際、光が光自身と闇とを明らかにするように、真理は真理自身と虚偽の規範である。」(pp.127-128)



*作成:北村健太郎
UP:20090112 REV:20090822
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