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 『認知症と診断されたあなたへ』

小澤勲・黒川由紀子 20060120 医学書院,136p ISBN: 4-260-00220-1 1600


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小澤 勲・黒川 由紀子 編 20060120 『認知症と診断されたあなたへ』,医学書院,136p. ISBN: 4-260-00220-1 1600 [kinokuniya][amazon]  ※,

 *白石正明さんより

書 名:認知症と診断されたあなたへ
編著者:小 澤  勲(種智院大学教授)
    黒川由紀子(上智大学教授、慶成会老年学研究所長)
仕 様:A5版、タテ組、140ページ
定 価:1680円(本体1600円+税)
発行日:2006年1月20日 ISBN4-260-00220-1


 「認知症を知る一年」(@厚生労働省)である今年度、もっとも注目を集めたのが認知症当事者の存在です。これまで介護する側ばかりに着目して肝腎の本人 を忘れていた、という反省がそこにはあります。
 認知症もいよいよ「当事者の時代」になったということでしょう。

 認知症介護本は数あれど、本書は本邦初の、認知症当事者向けガイドブックです。
 『痴呆を生きるということ』『認知症とは何か』(岩波新書)で認知症の世界を余すところなく表現した小澤勲氏が、回想法で著名な黒川由紀子氏とともに、 当事者の悩みや苦しみに真っ正面から答えます。

 当事者の気持ちに焦点を当てた結果、彼らが何をどう感じているのかわからず困惑していた介護家族の方々や、「認知症の方と何をどこまで話したらよいの か……」と戸惑いがちな専門職にも大いに役立つ一冊となりました。

cf.
◇立岩真也 2006/04/25 「『認知症と診断されたあなたへ』」(医 療と社会ブックガイド・58)
 『看護教育』47-04(2006-04):-(医学書院)[了:20060227]


■紹介 辻本勝洋(応用人間科学研究科)


1.認知症って何?
 認知症は病気であり、年齢を重ねることによって誰もが陥るもの忘れとは異なるものである。認知症は「いったん獲得した知的機能が、脳の器質性障害によっ て持続的に低下し、日常生活や社会生活が営めなくなっている状態」と定義されている。「脳の器質性障害」ということからもわかるように、認知症の背景には 「脳の形に表れる損傷がある」ということである。認知症の代表的なものとしてはアルツハイマー病と脳血管性認知症が挙げられる。アルツハイマー病は脳の神 経が脱落していく脳の病気であるが、まだ原因はわかっていない。一方で、脳血管性認知症は脳梗塞や脳出血によって脳に損傷が及び認知症となる病気であり、 元々は血管の病気である。認知症全体の中でこの二つは約70%を占めるが、他にも100以上の疾患が見られる。そのため認知症と診断されたとしてもそれぞ れの疾患によって治療法が異なるため、それぞれの基礎にある病気を断定することは重要となる。
 また認知症は珍しい病気ではなく、ごくありふれた病気であり、六十五歳以上の人口の6から7%の人が認知症を抱えていると言われている。発病の原因につ いては上述したそれぞれの基礎にある病気によって異なる。脳血管性認知症では生活習慣病が深くかかわりを持っているが、アルツハイマー病ではその原因が分 かっていない。アルツハイマー病の中には家族性アルツハイマー病という遺伝性のものもあるが、これは認知症全体のごく一部であり、認知症の大半は弧発性の ものである。
 認知症の経過においては、それぞれの基となる病気や発病した年齢、認知症者の置かれた環境によってその経過は異なる。アルツハイマー病は、潜行性に始ま り、ゆっくりと進行するのが一般的とされていて、発病時期が五十歳代前後では進行が早く、七十歳代後半以降に発病した場合は進行が遅いとされている。また アルツハイマー病では発症から五年後に80%の人が亡くなるというデータが過去にあるが、現在では的確な治療やケアによって以前よりも長く生きることがで きるようになっている。一方脳血管性痴呆症では、脳梗塞などの新たな血管性障害が加わるごとに段階状に進行するが、新たな梗塞が起こらなければ、ある段階 でとどまることが多い。
 さらに認知症の症状では、記憶障害、見当識障害、言語能力や数的処理能力の低下、疲労感、周囲に騒々しさを感じる、同時に処理する能力の低下、感情のコ ントロールの欠如、妄想、幻覚、失禁などが挙げられる。しかし感情のコントロールの欠如、妄想、幻覚、失禁は誰にでも起こるものではなく、もしこれらの症 状が見られたとしても感情のコントロールや失禁などは薬などによって改善が見られる。また妄想や幻覚は認知症全体の十数パーセントであり、幻覚においては 薬や脳梗塞、血腫などが原因で起こることがあるので医師に相談し適切な対応をとる必要がある。適切な対応がされれば短期間で治るのが一般的である。
 これらの症状から日常的な困難を認知症が発病した人が感じるのは、一人暮らしの問題や仕事の問題である。一人暮らしを続けたい人でも認知症がかなり進ん だ状態で一人で生活することは困難である。そのため一人暮らしをするのならば、ホームヘルパーやデイケア、ショートステイなどの社会資源を用いるほうが良 い。そのためには認知症者自身の考えを変える必要がある。他人に家事をしてもらうのが嫌であったり、ヘルパーが来るのでお茶の準備などをして帰って疲れて しまうということがある。しかしこれらのことを長い目で見ると、人手を借りることを少なくし、一人暮らしできる期間を延ばすのである。また仕事の面では、 仕事内容や同僚、会社などの周囲の環境によって変わってくる。それだけではなく、認知症者自身が複雑な仕事から単純作業になることに対して受け入れられる かどうかということが関わってくる。仕事の問題は認知症者とその家族での話し合いを行った上で決定されるほうが良いだろう。
 認知症者にとって不安となることは、「人とのつながり」がなくなるかもしれないということである。確かに知的機能が徐々に低下していき、「できないこ と」が増えて、将来的には友人や家族の名前を忘れてしまうかもしれない。しかし例え名前を忘れたとしても、大切な人に出会ったときは、その人が自分にとっ て大切な人であるということがわかるのである。

2.家族との関係はどうなる
 認知症の人がよく考えるのは「家族に迷惑をかけるんじゃないだろうか」「家族や周囲のお荷物になりたくないということである。認知症者をかかえる家族に とって起こりうる問題は3つに分けることができる。1つは認知症者の「日常生活を補う」ことである。認知症が進行すれば、どうしても「できないこと」が増 えてくる。それを補うために誰かがそれを手助けし、その手助けした人の役割の一部を誰かが補う。その慣れない役割の転換への戸惑いから生じるのである。2 つ目に「周囲との関係」が挙げられる。家族は生活の変化などから大変な思いをするが、たまにしか合わない親戚や知人は以前との違いにあまり気づかず、家族 の不自由さを周囲に分かってもらうことができないということである。最後に「心の緊張」である。認知症を患った人は家族に対して十分に感謝する一方で、 「好き好んで介護されているわけじゃない」という思いがあり、イライラして家族に当り散らすことがある。それに対し、家族もイライラしてしまい、このよう な行き違いが生じてしまうのである。
 これらのことを解決するには、これまでの生活スタイルや考えを家族を含めて変えることが良い方法である。今の生活スタイルに合った、新たな家族のあり方 を認め、家族全員で新たな役割分担を協力して作り出すことが必要である。また「自分でやろう」とすることはすばらしいことであるが、それは帰って家族の負 担になる可能性がある。そのため、「自らやりきること」と「家族に任せること」の折り合いをつけることが大事である。現在ではホームヘルパーなどの社会資 源もあり、家族の負担を軽減するためにそれらを用いること、またそれを受け入れる考えを持つようにすることが必要である。現在では自分の家族が面倒を見て くれることが少なくなってきているので、そういった意味でも社会資源を受け入れるような考えを持つ必要がある。

3.病院と上手につきあうには
 本人が認知症かもしれないと思ってから病院で受信するまでには時間がかかる場合が多い。その理由としてはまず、認知症は他の病気と違い、病気を自覚する ことが難しい。例えば「もの忘れをする」という自覚があっても、それが病気によるものなのか、年齢によるものなのか、自分では判断しにくいということが言 える。また認知症は治らない病気、恥ずかしい病気、なったらこわい病気というイメージが根強いため、本人も家族も認知症という診断を受けることにおそれを 抱いているためである。しかし、早期に診断がつき、早期に対処し始めるほうが後の経過が良いものである。また病気の型と時期によって、治療、ケア、養生の 方法が異なるので早期に発見することは重要である。それだけではなく、診断の結果によって、養生環境の整備や、財産管理など今後の人生設計についてあらか じめ備えておくことができる。さらに、アルツハイマー病や脳血管性痴呆症は「完治しない」病気であるが、適切な服薬、ケア養生をすることでそれぞれ病気は 改善されたり、認知機能の低下を遅らせることができる。そのため、「完治しない」認知症であっても早期の診断とともに、その後の継続した通院は大変意味の あることである。
 受診時の流れはまず、現在の気になる症状や過去や現在の病気、服薬中の薬の有無が問われ、診察では認知症の原因となる病気やそれに似た症状をきたす症候 の有無が確認される。続いて認知機能検査と血液検査が行われる。さらに頭部画像検査が行われ、脳の形をみるCTやMRIと脳の働きをみるSPECTや PETが用いられる。以上の結果を総合して、認知症の有無、原因である病気、治療・ケア・養生の方針を知ることができる。これらを行わずに診断された場合 は他の医療機関の受診を受けるほうが良い。
 認知症に対する治療薬には塩酸ドネペジルがあり、これはアルツハイマー病などの変性疾患にのみ適応があるとされている。この薬には認知機能を改善させる 効果と認知機能の低下速度を遅らせる効果の二つがあり、個人差はあるものの、内服加療を始めて一ヶ月前後から認知機能の改善がみられる。その後半年から一 年後再び認知機能の低下が見られるが、その後数年は認知機能の低下速度を遅らせることができる。一方副作用として吐き気や便が柔らかくなることがある。ま た活発になりすぎたり、イライラして落ち着かなくなることがある。ただしこれらの効果は、一人閉じこもり、認知機能の改善を待っていてはその効果が十分に 発揮されない。そのため服薬治療とともに養生、ケアも十分に行うことが薬の効果を発揮するのに必要である。
 診断の結果、もし認知症だと判断された場合は、担当医師から今後の病状の見通しや治療方針、ケアや養生についての説明を家族と一緒に聞き、今後の対処を 決めていくほうが良い。また認知症の養生には「闘病」というよりも「老いと病との共存共栄」を念頭に置き、最も良い形で病気を経過させることを目標とすべ きである。
4.暮らしの注意点あれこれ
 認知症だと診断され、医師から「なるべく多くの人と会ったほうがいい」と言われることがある。しかし無理に人と会う必要はなく、自分自身で会いたいと 思った人に会った方が良い。会いたくない人に会ってもそれは本人にとって負担になるが、信頼できる誰かに話をして理解してもらえると今抱えている気持ちが 楽になるだろう。同じ病を抱えているグループがあれば、参加してみるのも良いだろう。また外出は控える必要はないが、外出の際には緊急のときのために身元 カードと行き先、行き先の住所と電話番号も持参すると良い。
 食事においては楽しく食事をすることが一番であるが、身体的な健康は病気の進行を遅らせることにもつながるため、食生活に配慮することも大切である。認 知症になると自己管理が難しくなるので、介護者の協力や配食サービスを利用すると良いだろう。またお酒をやめる必要はないが、「適量」を自分で判断するこ とが難しくなるので、あらかじめ量の約束事を決めておくと良い。一方でタバコは認知症に関する害については断定されていないものの、他の成人病や小火の可 能性もあるのでやめたほうがいいだろう。
 認知症だと診断されたときに重要なことは家族を含めてこれまでの生活スタイルを無理に変えないことである。もちろん「できないこと」が増える中で変えな ければならないことは多々あるが、その必要もないのに無理に理想的な生活スタイルに家族がしたとしてもそれは双方にとって負担になる可能性がある。双方に とって無理のない生活スタイルこそが望ましい生活スタイルかもしれない。

5.この不安、なんとかしたい
 認知症になると誰しもが不安になる。以前はできていたことができなくて不安になり、さらにその不安が別の不安を呼んで、十分に睡眠をとることができなく なったり、食欲がなくなって身体的な不調さえ招きかねない。そのような時は一人で抱え込まず、専門家などに相談したほうが良いだろう。また世間では認知症 は「何もかも分からなくなる」という誤ったイメージがある。認知症と診断されることでこれまで培ってきた自信が大きく揺らぎ、この揺らぎが患者を脅かし 「自分が自分でなくなる」という不安につながっているのかもしれない。確かに知的な機能は徐々に低下するが、「何もかも分からなくなる」のでも、「自分が 自分でなくなる」のでもなく、ただ自分の考えや気持ちを上手く表現できないだけである。認知症で不自由が増えて、以前のようにいかなくなったとしても、そ の人がそこで感じた感情はこれまでと変わらない、その人の感情である。
 これらのような不安を抱え込むとストレスが溜まり、認知症の進行を早めることになりかねない。また悩みつかれてうつ状態になってしまうこともある。それ らを防ぐためにはカウンセリングを受け、カウンセラーと悩みを共有することが良いだろう。そうすることで落ち込みや不安が軽減されるだろう。またカウンセ リングは本人だけではなく家族も必要となってくる。家族はまず自分の家族が認知症になったことに対して大きなショックを得ることになる。また長年一緒に暮 らしてきた人が生活の中で徐々に知的能力が衰えていくさまを、日々目の当たりにしなくてはならないのである。さらに病気のせいとは分かっているものの思い 通りにいかない苛立ちを本人にぶつけてしまって、そのことに対して辛い思いをしてしまうこともある。このような時は家族がカウンセリングを利用することで 問題に対する具体的な対処法をカウンセラーと一緒に考えることができる。また辛いことを話すことで心理的な負担が軽くなるかもしれない。他にも家族会とい うものがあり、同じ立場の仲間と様々な思いを共有することで心理的な支えを得ることができる。
 認知症と診断されると不安などから「生き生きと暮らす」ということができないと思う人が多い。しかし認知症の方でも生き生きと暮らしている人は多くい る。その人たちは過去や未来にとらわれず、「今このときを生きること」に専念できているのである。本人の意欲が失われたままでは、生き生きと暮らすことか ら程遠いものになってしまう。生き生きと暮らすには、病ばかりにではなく、自分自身に焦点を当ててみるべきである。そしてこれまでどんなことが好きだった のかということに立ち返ることから「生き生きと暮らす」方法が見つかるかもしれない。
 また認知機能の低下を遅らせる方法として、「回想法」「音楽療法」「コラージュ法」「絵画療法」などのリハビリや「脳ドリル」や「音読」などがある。確 かにこれらの方法は効果が見られるものの、本人がそれをしたくない場合、その効果は逆効果となってしまう。認知症を遅らせるために何かをしようと思うな ら、苦痛なものではなく、自ら楽しんで取り組めることを選ぶことが大事である。

6.サービスを利用すると楽になる
 サービスを受けるために相談をすることができるのは市区町村の相談窓口、地域包括支援センター、かかりつけ医に相談する、総合病院の相談窓口が挙げられ る。市区町村の相談窓口では高齢者福祉を担当する課の窓口で相談をすることができる。地域包括支援センターは保健師やソーシャルワーカー、ケアマネー ジャーなど専門のスタッフがいる公的機関であり、申請に必要な書類の作成、サービスの種類や内容の説明、ケアマネージャーの紹介を受けることができる。総 合病院の相談窓口ではソーシャルワーカーに相談することができる。また「地域医療連携室」「医療相談室」があれば住んでいる地域の相談機関のリストを提供 してもらうことができる。これらに相談に行くときは一人ではなく家族と行くほうが良いだろう。もし相談に行っても納得できない場合は他の窓口へ行くべきで ある。
 介護保険のサービスでは「訪ねて来る」サービス、「通う」サービス、「泊まる・暮らす」サービス、「借りる」サービス、「改修する」サービスがある。こ れらのサービスを利用するための手続きは市区町村の高齢者福祉の担当窓口で行うことができる。「主治医意見書」は本人を十分に理解している医師に依頼し、 介護上どんな困難な問題を起こしているかを書いてもらうことが大切である。またサービスを利用するときに相談相手となり計画を立ててくれるのがケアマネー ジャである。ケアマネージャーは今後のケアに関して相談する相手なので、「この人なら」と納得できる人に担当してもらうほうが良い。これらのサービスを実 際に受けるには、申請してから一ヶ月近くかかることがあるので、利用するつもりなら早めに申請するほうが良い。
 ホームヘルパーを頼んだとき、ホームヘルパーの仕事は「家事援助」と「身体介護」の2つである。ホームヘルパーを利用するメリットは、自分の生活を守 り、維持していくためにヘルパーに協力してもらうということである。ヘルパーを雇った際には、何をしてほしいのか希望をしっかりと伝えることと性格が合う かどうかということが大切である。
 またデイサービスでは、朝夕の送り迎えまでの間、他の利用者と昼食を食べ、レクリエーションを行ったり、入浴したりするサービスである。デイサービスの メリットは入浴、おしゃべり、レクリエーションやリハビリ、食事、また家族が外出したり休息したりと家族を含めてデイサービスを利用する価値は十分にあ る。
 上述してきたのは自宅で暮らすための方法であるが、自宅で暮らすほうがいいのかどうかは、認知症を含めた心身の病気の状態、同居している家族の有無、家 族の仕事や健康状態、経済状態など様々な要因を考慮する必要がある。施設を利用しながら自宅で暮らしている人もいれば月に何日かショートステイする人もい る。これらは家族で一緒に考える必要があるだろう。一方で施設に入る場合は、部屋や職員など施設環境に自分で気に入って納得して決めたならば、入居後も前 向きな生活を送ることができるだろう。施設に入ると、話し相手、バランスの取れた食事など様々なメリットがある。
7.最後まで自分らしく生きるために
認知症の症状が進行した後も自分の意思に沿った人生を貫くために、自分の考えに沿った決定を代行してもらう制度がある。しかし人の気持ちはその時々で変化 するものであり、何から何まで決めておくのは無理なことである。それでも、自己決定できなくなった後でも、自分の思いを大切にした生涯を送ることを手助け するための制度である。
 「地域福祉権利擁護事業」では、貯金や年金で暮らしていくために「専門員」や「生活支援員」によって生活の支援をしてもらうことができる。このサービス では、介護サービスの申請や業者選びを支援したり、金銭の管理、通帳や印鑑などの保管が挙げられる。
 「任意後見制度」は、将来の後見人とその権限を自分で決め、公正証書による契約をし、実際に能力が低下したときに備えるという制度である。この契約を結 ぶにはこの契約を理解し、自分で決定するだけの能力が保たれていることが条件となる。また能力の低下が小さく、自分で生きていけるときは自分の意思だけで 資産管理などをすることができる。一方で、「公的後見人制度」は信頼できる人に「同意権・取り消し権」という権限を持ってもらい、間違って判などを押して も取り消すことが可能となる。これは「任意後見人制度」にはない権限である。また「任意後見人制度」と同様、資産を代わりに管理する権限を付与する「代理 権」もある。また「任意後見制度」では代理権を誰に与えるかは自分で決めることができたが、この制度の場合最終決定は家庭裁判所が行う。「公的後見人制 度」には「後見類型」「保佐類型」「補助類型」がある。これは認知症者の現在の能力によって家庭裁判所が決定を行う。
 最後に終末期の延命措置などの決定の問題がある。そのようなときを迎えたとき、もし本人に自己決定する能力がなかったとすると、それを決定するのは家族 や親族である。法的な代理人である成年後見人にも医療上の決定を代行する権限はない。「リビング・ウィル」のようなものを残しておくこともできるが、終末 期を迎えたときに同じ考えであるかはわからない。そのためこまごまとしたことを決めるよりも、今目の前に起こっていることに本人が何を感じ、どう考え、ど う行動するのかを周りの人に見てもらうこと、その時々の思いを語り続けることが大事である。


UP:20060212 REV:0227 20070731
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