『デンマークの高齢者福祉と地域居住――最期まで住み切る住宅力・ケア力・地域力』
松岡 洋子 20051006 新評論,366p.
■松岡 洋子 20051006 『デンマークの高齢者福祉と地域居住――最期まで住み切る住宅力・ケア力・地域力』,新評論,366p. ISBN-10: 4794806760 ISBN-13: 978-4794806765 \3360 [amazon]/[kinokuniya] ※
■内容
1988年、デンマークでは高齢者施設「プライエム」の建設禁止に踏み切った。大胆な政策が成功したのは、それ以前に、高齢者向け公営住宅の蓄積、24時間在宅ケアの整備、施設機能の地域への開放が戦略的に進められていたからである。住宅、ケア、地域で構成されるこれら「三種の神器」は、「住宅に住みながら最期まで地域で生き切る(地域居住)」には何が必要か?という今日的課題に対して、有用な視座を拓いてくれる。
そこで本書では、高齢者住宅の地域での面的分散、分刻みの在宅24時間ケア、地域福祉について、現地を歩き、歴史を遡って、デンマークの最新の「地域居住」の実像と真相に迫る。そこで私は、デンマーク民主主義に根ざす公営住宅政策や、医療と福祉が融合した人中心主義のケア体系が岩盤のように横たわっていることに行き着いた。一方で留意すべきは、中道右派連立政権の下小さな政府と持続可能な福祉が求められ、民活の推進、サービス量の抑制や合理化、インフォーマルケアへの依存などが見られる点である。とはいえ、こうした中でも「地域居住」が比較的よく機能しているのは、民主主義の歴史や自立支援に向けての価値観共有が大きく力を貸していることにも気付いた。
日本は今、改正介護保険法の制度設計のただ中にあり、その方向性は施設依存から地域居住へと大きく舵が切られた。ユニットケアや宅老所などの内発的な取り組みや先進の試みが、制度を動かすほどの力動を持ち始めたことも事実である。しかし、住宅政策は地域居住を支えるものとなっているだろうか? ケアはどうか? また、われわれの自覚や地域への愛着はどうだろうか? 本書を通じ、デンマークの知見を踏まえた発展的提言を行うことが、「域居住」をわれわれ自身の問題として考えるきっかけになることを願っている。本書は、デンマークで出会ったおじいさんの日常をつづったエッセイから始まる。
■目次
序章 バルデマーの死――高齢者住宅で最後まで
第1章 デンマーク高齢者住宅の歴史
1・プライエム増設から施設凍結へ
1 高齢者福祉と住まいの変遷
2 多様な高齢者の住まいとプライエム
3 プライエムの大規模化
4 施設凍結と「居住とケアの分離」
コラム 統合ケアはここからはじまった
2・施設凍結を可能にした3種の神器
1 住宅政策のポテンシャル
2 二四時間在宅ケア体制の整備
3 「総合施設」の地域への開放
3・高齢者住宅の時代――住いの一元化とケアの統合化
1 高齢者住宅の時代
2 プライエイボリー(介護型住宅)の誕生
3 プライエイボリーでの生活
コラム プライエイボリーと住人委員会、そして地域
4 高齢者住宅への早めの引っ越し
第2章 地域福祉のビジョン
1・ヴィダゴーに見る地域福祉のビジョン
1 「住宅」+「ケア」によって地域で最後まで
2 デンマーク流「小規模多機能」
3 一五年後のヴィダゴー
4 ヴィダゴーの高齢者住宅
5 地域福祉ビジョン
2・新しく目ざしたもの
1 「デイセンター+高齢者住宅」というコンプレックス[複合体]
2 アウト機能とイン機能
3 人口1万人前後の小規模な地区割り
4 高齢者同士が楽しみながら支え合う
コラム 血まなこバンコ!
5 二四時間在宅ケア体制
3・フレデリクスベアコムーネにおける地域福祉の実際
1 フレデリクスベアコムーネの概況―財政
2 福祉地区と施設・住宅・在宅ケア
3 地域でのアクティビティとボランティア
第3章 デンマークの住宅政策
1・デンマークの住宅政策と公営住宅
1 ゆたかな住宅は社会保障の一環
2 公営住宅の重い位置づけ
3 供給主体(非営利住宅協会)とテナント・デモクラシー
2・高齢者福祉と住宅政策
1 高齢者住宅法から公営住宅法へ
コラム ドアを開けると、そこは「社会」!
2 地方自治と高齢者住宅の財政
3 「居住とケアの分離」のダイナミズム
4 高齢期のさまざまな住まい
5 高齢期の住み替え相談
第4章 デンマークの高齢者ケア政策
1・ニーズ判定とケースマネジメント
1 個別ケアと自立支援
2 新政府の方針
3 デンマークのニーズ分類モデル――ICF(国際生活機能分類)を踏まえて
4 ニーズ判定とBUMモデル、共通言語
5 自由選択
2・24時間どう支えるか
1 在宅二四時間ケアは広薄狭厚で
2 夜間巡回の実際――統合ケアを導入していないフレデリスクベアコムーネ
3 夜間巡回・深夜巡回の実際――統合ケアを導入しているフレデリスクベアコムーネ
3・在宅ターミナルの実際
1 デンマーク人はどこで死ぬか?
2 医療体制とターミナル期の連携
3 リビングウィルと社会的支援
4・地域リハビリの考え方
1 生活を支えるリハビリテーションとは?(ICF理論)
2 中間施設での回復期リハビリテーション
3 地域のなかにある維持期リハビリテーション
コラム 医療と福祉のカベがない!コーディネーション・ナース
4 言語聴覚士も暮らしの身近に
5 認知症高齢者のケアも在宅生活継続が基本
第5章 新しいデンマークと地域居住
1・新しいデンマーク
1 二〇〇一年秋、新政権誕生
2 お金持ちと新世代人
3 小さな政府と持続可能性――Ny Danmark 構想
2・民間導入の高齢者居住と施設の変容
1 ヘニンセンさんの引っ越し
2 民間企業ベースで進められるプロジェクト
3 施設は本当になくなったのか?
4 「より安心な住まい」はどれほど必要か?
5 施設の質的変容――生活居住環境 LEVE-og BO Mijo
6 施設の質的変容――地域のコモンへ
3・10年後の高齢者住宅とデンマークからの学び
1 シニア共生型住宅「クレアティブシニアボ」の一〇年
2 高齢者住宅コンプレックス「ソフィルン」の一〇年
コラム コムーネと友人と
3 二項対立から融合へ、人間中心主義へ
終章 わたしたち日本のこれから
あとがき
参考文献・関連文献一覧
索引
■著者紹介
- 松岡 洋子(まつおか・ようこ)
- デンマーク高齢者福祉研究家。1955年、兵庫県生まれ。1977年、神戸大学文学部卒業。1997年、国立コペンハーゲン商科大学(国際コース・マーケティング)留学。2003年、関西学院大学大学院社会学部社会福祉学研究科前期課程修了(社会福祉学修士)。松岡事務所代表。デンマーク高齢者福祉について執筆、講演、視察ツアーを企画・主催。西日本デンマーク商工会議所理事
■書評・紹介
■言及
*作成:三野 宏治