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『認知症とは何か』

小澤 勲 20050318 岩波新書・新赤版942,208p.

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last update:20141113
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小澤 勲 20050318 『認知症とは何か』,岩波新書・新赤版942,208p. ISBN4-00-430942-5 C0247 735(700+) [kinokuniya][amazon] ※

■内容

内容(「BOOK」データベースより)
「痴呆」という用語が「認知症」に変更された。これはどのような病、障害なのか。また患者はどんな気持ちで不自由な日常を生きているのか。『痴呆を生きるということ』で、この病をかかえる人の精神病理に光をあてた著者が、最新の医学的知見を示すとともに、患者の手記、自身の治療・ケア体験などから、誤解されがちな病の真実に迫る。

岩波書店のHPより
 http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/43/5/4309420.html
 http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn0503/sin_k226.html

*著者紹介
小澤 勲(おざわ・いさお)1938年神奈川県生まれ。1963年京都大学医学部卒業。京都府立洛南病院勤務、同病院副院長、老人保健施設桃源の郷施設長、種智院大学教授を経て現在、種智院大学客員教授。著書に『痴呆老人からみた世界』(岩崎学術出版社)『痴呆を生きるということ』(岩波新書)『物語としての痴呆ケア』(三輪書店)など。
 小澤氏が前著『痴呆を生きるということ』を書いた経緯については、2003年7月のクローズアップ「痴呆を生きるということ、そして、癌を生きるということ」をご参照ください。

■目次

はじめに
第一部 認知症の医学
第一章  認知症とは
 1 認知症の定義
 2 間違えられやすい状態
 3 認知症とせん妄
 4 「ぼけ」という言葉
第二章  認知症の原因疾患
 1 変性疾患(アルツハイマー病など)
 2 脳血管性認知症
 3 その他の認知症
第三章  認知症の症状
 1 中核症状と周辺症状
 2 中核症状
  (1)記憶障害
  (2)見当識障害
  (3)失語、失認、失行
  (4)病態失認
第四章  認知症の経過
 1 原因疾患によって異なる経過
 2 前駆状態
 3 初期認知症
 4 中等度認知症
 5 重度認知症
第五章  アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症
 1 医学的視点から
 2 生き方という視点から
第六章  告知をめぐって
第二部 認知症を生きる心の世界
第一章  ある私小説から
 1 青山光二『吾妹子哀し』を読む
 2 周辺症状を生むもの
第二章  ある認知症者の手記
 1 「認知症体験の語り部」クリスティーン・ブライデン
 2 再生の軌跡
 3 私を超越するもの
第三章  認知症をかかえる不自由
 1 外側からの見方を越えて
 2 体験としての中核症状
 3 クリスティーンの場合は
第四章  つくられる認知症の行動
 1 周辺症状の成り立ち
 2 コーピング――人それぞれの対処戦略
 3 さまざまなコーピング
 4 コーピングはなぜ生じるのか
 5 失敗したコーピングから抜け出させるもの
 6 介護者のコーピング
おわりに
あとがき

■引用

◆認知症の定義はいくつか提唱されている。…その中核は、「獲得した知的機能が後天的な脳の器質性障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活が営めなくなっている状態で、それが意識障害のないときにみられる」というものである。/注釈を加えておこう。
@認知症の中核は知的機能の障害である。情・意の領域に障害が及ばないというわけではない。しかし、それはあくまで二次的に、あるいは随伴してみられるに過ぎない。
A後天的な障害、つまりいったん発達した知能が低下した病態を指す。
B脳の器質性障害、つまり脳のかたちに現れる損傷が基盤にあることを求めている。そのことは、CTやMRIなどの画像診断で生前から明らかにすることができる。
C障害が、ある期間持続していることを求めている。その期間を、ICD10では「少なくとも六か月以上」としている。
D暮らしに不都合がでるようになって、はじめて認知症とよぶ。
E意識障害があれば、当然、認知機能は低下する。そこで、意識障害がない時に、以上のような状態がみられることを求めている。
なお、かつての認知症の定義のなかに不可逆性、つまり「治らない」という基準があった。しかし、最近では認知症のなかには治療・回復可能なものがあることがわかり、それらは知能可能な認知症(treatable dementia)とか可逆性認知症(reversible dementia)などとよばれるようになって、不可逆性という条件は外されることになった。[2005:2-4]

◆…健常者にみられるもの忘れと認知症者の記憶障害とは異なる。前者を良性健忘、後者を悪性健忘と名づけて区別する。…/この概念は、カナダの精神科医クラール(Kral, V.A.)によって一九六二年に提唱されたものであるが、その記述を引用しておこう。
「良性健忘には、名前、場所、日付のような、あまり重要ではないできごとや体験の一部を忘れてしまうのだが、別の機会に思い出せるという特徴がある。…このような体験は昔のできごとよりも最近の体験であることが多いようにみえる。/また、本人は自分が忘れっぽくなっていることを自覚していて、遠回しな言い方で何とか補おうとしたり、忘れたことを謝ったりする。/この種のもの忘れには性差はなく、緩やかにしか進行しない。/これに対して、悪性健忘は体験の一部を思い出せないだけではなく、体験自体を忘れてしまう。…」[2005:33-34]

◆認知症の言語障害は、まず名詞が出てこなくなり、「ほら、あの切るもの」(包丁)、「こうして書くもの」(鉛筆)などと言う。さらに認知症が進むと、「あれ」「それ」などの代名詞が増え、慣れた人でないと、理解できなくなる。/認知症が重度になると、語彙も減り、最後には…何を言っているのかわからない、ジャルゴンとよばれるコミュニケーションに役立たない言葉になってしまうこともある。文字を読むことは出来、写すことはできても、意味は分かっていないということもある。[2005:36]


@認知症の初発症状として周囲に気づかれる記憶障害は、エピソード記憶の障害であることが多い。
Aアルツハイマー型認知症にはその初期からの病態失認的態度がみられる。つまり、一見記憶障害に思い悩んでいるかにみえても、一つひとつのもの忘れのエピソードに対しては、意外なほどに動揺を示さない。このような病態失認的態度を伴ってはじめて記憶障害は日常不適応を生み、認知症特有の記憶障害に転化する。
B個々の健忘のエピソードに対しては病態失認的態度を示すにもかかわらず、初期アルツハイマー型認知症を生きる者には日常生活上のつまずきが蓄積して生じる不如意の感覚、つまりなんとなくうまくいっていないという感覚、あるいは自我が解体していく漠たる予感と不安が存在する。[2005:49-50]

◆認知症がさらに進むと、記憶障害は近時記憶だけではなく、長期記憶にも及ぶ。簡単な計算も難しくなり、釣り銭の計算ができなくなる。見当識障害は時間だけではなく、場所に及び、通い慣れた道でも迷子になる。言語障害が進み、「あれ」「それ」といった代名詞が増え、文法も乱れてきて、文脈を追いにくくなる。/初期は記憶障害を主兆候とし、妄想や不安、心気症などの精神症状をともなうことが多かった。ところが、中期では行動障害が前面に出てくる。そのために介護は難渋し、本人の混乱も大きくなるので、混乱期ともよばれる。/徘徊、いらいら、気分の急激な変動がみられ、興奮や攻撃的な言動がみられる。自分の物と他人の物との区別がつかなくなり、他人の物を無断で持ち帰る人もいる。火の不始末がやっかいな問題になる。いくらでも食べてしまう多食、食べられないものを口にする異食が問題になることもある。…/ただ、ここでふれておきたいのは、ここまではだれの目にもつく症状で、陽性症状とよばれるのだが、実は中期に至って陰性症状の頻度が高まる。つまり意欲が失われ、それまでやっていた家事や趣味などをまったくしなくなり、一日中、何をするでもなくこたつで過ごしていたりする。退屈している様子もない。/認知症の症状というと、どうしても陽性症状に目が向けられがちだが、認知症という病は、生きるエネルギーを奪うところに実は最大の問題があって、そこに援助の手を差し伸べねばならない、もう一つの問題の核心がある。[2005:54-55]

■書評・紹介

・この本の紹介(田島明子さんのHP内)
 http://www5.ocn.ne.jp/~tjmkk/hon22ozawaisao.htm

■言及


UP:20070323 REV:20141113
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