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『近代・労働・市民社会――近代日本の歴史認識T』

東條 由紀彦 20050210 ミネルヴァ書房,445+9p.


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東條 由紀彦 20050210 『近代・労働・市民社会――近代日本の歴史認識T』,ミネルヴァ書房,445+9p. ISBN-10:4623036146 ISBN-13: 978-4623036141  [amazon][kinokuniya] w01 w0112

■内容(「BOOK」データベースより)
本書は、「市民としての労働者」の視点から日本の近代社会の歴史的位置を明らかにするとともに、そうした諸個人(=市民)の固有のあり方という視点から日本社会の歴史に貫通するある種の「構成原理」をも比較史的に示す。

内容(「MARC」データベースより)
「市民としての労働者」の視点から、日本の近代社会の歴史的位置を明らかにするとともに、そうした諸個人(=市民)の固有のあり方という視点から、日本社会の歴史に貫通するある種の「構成原理」をも比較史的に示す。

■著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
東条 由紀彦
1953年宮城県生まれ。1979年東京大学文学部国史学科卒業。1984年東京大学大学院経済学研究科修了。経済学博士。東京大学社会科学研究所助手、 小樽商科大学商学部助教授を経て、1999年現職、明治大学経営学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

■目次
第T部 総論――日本近代社会の論理的再検討
第一章 近代・労働・市民社会
第二章 「複層的市民社会」としての日本近代社会
 一 「市民社会」概念の再検討
  (1)幕末日本の「市民社会」状況
  (2)市民社会概念の「含み」
 二 市民社会概念の限定
  (1)所有の諸概念――総有、個人的所有、私的所有、私有
  (2)「共同体」の諸概念――共同態、共同体、共同性、団体性
  (3)近代市民社会の特徴
第三章 「複層的市民社会」の歴史的形成
 一 「市民社会」成立の指標――再論
  (1)「所有」の主体としての「個人」と、その第一次性
  (2)相互認知された第二次的構成としての市民社会と、その「同意」の内容
 二 農業共同体の「複層的市民社会」展開の特徴
 三 日本の「複層的市民社会」展開の特徴
  (1)市民社会の「封建的編成」と「(純粋)家産制的編成」
  (2)個人=「家」の内的編成――共同性としての個人の人格性
  (3)「コ」の交換――アイデンティティとしての個人の人格性
  (4)「家」の外的編成――差異性としての諸個人の人格性
 四 日本の近代社会形成の時期区分
  (1)初期近代
  (2)中期近代
  (3)後期近代
第四章 「同職集団」の生成と展開
 一 産業革命前後の同職集団
  (1)クラフトユニオンの欠如と同職集団
  (2)「群化社会」の形成
  (3)「道徳性」としての国家の出現
 二 「同職集団」の日本的特質
  (1)日本の同職集団の経営規制
  (2)批判にこたえて――「同職集団」をめぐる諸論点
第五章 まとめに代えて――伝統的唯物史観の再構成
 一 産業革命
 二 資本の原始的蓄積
 三 独占資本
 四 日本資本主義の「後進性」

第U部 各論――日本近代複層的市民社会の諸相
第六章 初期製鉄業と職工社会――幕末日本の市民社会状況と前提としての「同職集団」
 一 近代産業移入の初期条件
 二 幕末大島高炉の性格
  (1)近代の「同職集団」と「複層的市民社会」
  (2)幕末南部「たたら金山」の性格
  (3)大島高炉という「町」の性格
  (4)大島高炉の可能性と現実
 三 大島高炉群のその後の展開
  (1)反射炉需要の杜絶
  (2)銀座兼営
  (3)鋳銭の禁止
 四 田中製鉄所の小高炉再建
  (1)官営化と二五トン大高炉
  (2)横山再建木炭小高炉と職工社会
  (3)新しい職工社会の形成へ
 五 初期移植産業の「離陸」条件と同職集団
第七章 産業革命期日本労働者の基本構成――複層的市民社会とその文節的存在構造
 一 資本による社会の「自律的」編成とその制約
 二 重工業労働力の処理・再生産と諸「同職集団」の複層的構成
  (1)重工業労働力の処理・再生産の構成の概観
  (2)研究史上からのアプローチ
  (3)重工業労働者の求心性と内的規制力
  (4)日露戦後「転換」の評価
  (5)諸「同職集団」の累層的構成
  (6)伝統的職種の労働者も含めた「同職集団」の複層的構成
 三 不熟練労働力の基幹的部分も含めた諸「同職集団」の複層的構成と「窮民」型労働力
  (1)不熟練労働力の諸「同職集団」
  (2)「窮民」型労働力
  (3)「同職集団の複層的構成」概念図
 四 「生計補充」型労働力
  (1)女工と生産過程
  (2)女工と労働市場
  (3)女工と「伝統的縁故関係」
  (4)小括と諸論点
 五 日本における「個人」としての「家」と「市民社会」状況――「家」と「村」の論理と「労働力」の処理・再生産
  (1)「市民社会」の構成主体としての「家」=「個人」概念と「市民社会」状況の差異性
  (2)「労働力」の「所有」主体としての「家」=「個人」概念とその処理の特異性
  (3)日本の市民社会の差異的性格
 六 市民社会と「同職集団」についての反省的判断
第八章 「キカイ」の出現と生活世界――他者性としての資本と複層的市民社会
 一 生活世界レベルにおける資本
  (1)産業革命期の資本と複層的市民社会
  (2)市民社会と生活世界
  (3)「非所有の自由」の現実化としての資本
 二 「侵入する他者性」=資本と、複層的市民社会の人格性
  (1)商品経済
  (2)キカイのテンポ
  (3)家族労働の分割
 三 冥界往来――資本に「包摂」された労働
  (1)「契約」
  (2)「冥界」
  (3)社会の墓場
  (4)冥界往来
  (5)市民社会への侵食
 四 蔓延する他者性とその創造力
第九章 「キカイ」と「年季者」の遭遇――「生計補充」型労働力と「コの交換」
 一 雪の野麦越え――飛騨と諏訪製糸業
 二 揺籃期諏訪製糸業と飛騨
  (1)初期の諏訪製糸業と募集圏
  (2)飛騨=ファクトとしての貧困
  (3)飛騨=社会の伝統性
 三 「キカイ」と年季者の遭遇
  (1)「キカイ」=需要者から見た女工の諸類型
  (2)「年季者」=供給側から見た女工の諸類型
 四 諏訪製糸業の発展と女工の「人格」
第十章 「タコ人夫」社会と同職集団――複層的市民社会と攻撃性
 一 「タコ人夫」社会の分析でわかること
 二 タコ部屋制度――通説と本章の出発点
  (1)通説=筆宝説の視点
  (2)通説=筆宝説における欠落
 三 「完成形態」のタコ部屋制度――大正末年
  (1)タコ人夫の数と「出身地」
  (2)「タコ人夫」と「信用人夫」
 四 タコ人夫たちの社会・「同職集団」――大正末期
  (1)タコ人夫と信用人夫――「土方稼業人」としてのキャリア
  (2)タコ人夫社会の「組織」
 五 タコ部屋・タコ人夫社会の形成過程――明治末年
  (1)タコ部屋制度の前史
  (2)タコ部屋制度の形成――明治三〇年代の新聞記事から
  (3)タコ部屋制度の形成――明治三〇年代の支庁文書から
 六 タコ労働とタコ社会――その同職性と他者性
  (1)タコ人夫と地域社会
  (2)「同職集団」としてのタコ人夫社会の示すもの――協働性と攻撃性
第十一章 工場法の法理――「道徳性としての国家」の出現
 一 「後期近代」の「国家」と工場法
  (1)「道徳性としての国家」の意味
  (2)通説の検討から見た問題の所在――「主従の情誼」
 二 工場法成立前史
  (1)「対決」の底流
  (2)第三回農商工高等会議への諮問
  (3)全国商業会議所への諮問
 三 工場法の成立
  (1)第二六・二七議会への提案
  (2)「社会政策学」と工場法
  (3)実業界と工場法
 四 後期近代と道徳的公民国家
むすびに代えて――次代への展望
あとがき
索引

■引用
第一章
「(…)だいたいその時の「時代」じたいが、その時の「労働」をとりまく意味・連関の一つなのだから、それを遮断して「変わらない」ところこそ、「生活世界レベル」の「労働」なのである。だがここで筆者が言いたいことは、このようにいくら徹底して「遮断」したとしても、遮断「しきれない」ちがいが、やはり各々の時代の「労働」には残る、ということである。一八〇〇年の労働と、一九〇〇年の労働と、二〇〇〇年の労働は、いかに「還元」しつくしても、(それらをとりまく意味・連関のちがいを遮断しつくしても)、「ちがった所」とした表現できないものが残る。それが一体何なのか、ということが、結局本書の究極的な関心なのである。本書で、このような「現象学」的方法が一番徹底して試みられているのは、第八章だが、比重の差はあれ、他の章でもこのことが常に念頭におかれていることを理解してもらいたいと思う。」(pp.4-5)

「他方、ヘーゲルやマルクスは、「労働のされ方」の言わば対極にある、先の例では「食事のされ方」や「性愛のされ方」のサイドにある一連の概念も想定していた。「労働」「所有」「市民社会」の三概念に、できるだけ対応する形でまとめれば「人格」「家族」「共同体(ここでは特にゲマインヴェーゼン)(9)」といった一連の概念である。「人格」とは、さしあたりはある人間が他の人間に対して持っている差異性である。と同時にそれらが全ての人間に分有されているものと認知された普遍性である。そして最後にその両者を総合した、その人間に固有の個別性である。「人格」は、そうした点で、「労働」による「外化」を行う「主体」の立場にあり、その意味で「労働」に、即時的には先立つ。そしてそれを基礎に、「直接的に人格的な関係」としての、「家族」や「共同体」の基礎になる。これらも本書が依拠する基本概念である。言いかえれば、この二つの概念の交錯の中から、「時代」と、その時代に固有の特質を「切りとって」ゆくことが、本書の基本的な目標となる、と言えよう。」(p.6)

「実は、このような、把握された問題構成があるからこそ、本書で、「外化」「支配」「抑圧」「同意」といった概念をもとに、「人格」と「労働」の関係を検討する、といったことも可能になっている。逆に言えば、本書に方法上の特色があるとすれば、生活世界にまでたちかえった時に浮かびあがってくる、こうした概念的把握の親近性を、可能な限りつきつめていくことにあると言ってよいかもしれない。労働も、外面的にはある人格の他の人格に対する服従であり、その成立が、服従「する」者の、何らかの心的過程にかかっている、という点で他の大方の人間関係と変わるところはない。その「心的過程」の中身を、とりわけ「切りとられた時代」によるその中身のちがいを、そうした諸概念を用いながら呈示する所に、本書のねらいはあるのである。」(p.12)

第二章
「筆者の戦前の女工研究のモチーフも、ここにあった。大変荒っぽく言えば、市民社会の成員であるために、現代社会が要求したものは、「人格」であった。なぜならば、「人格」だけが「非人格的なモノ(つまり「労働力」)」を「所有」できるからである。ここではこれ以上「人格」についての詮索はしない。ただ現代社会が、つまり「労働力」をモノとして取引する社会が、「人格」の認知を決定的な内包として成立したことだけは、強調しておきたい。それは一方で、「人格」の内的な構成としての、今日のフェミニズムが提起している「家父長制」の問題を、はじめから含んでいる。他方で「人格」を「承認」する主体として内面化された「国家」の問題を、はじめから含んでいる。現代社会を完成された「資本制」社会と考えるなら、「家父長制」と「国家」とは、それと本源的な共補性を持っているのである。」(p.25)

「他方「近代」の市民社会は、「現代」の「単一の市民社会」とも全く異る。現代市民社会は、労働者をも、「労働力」の「所有」者=市民としてとりこんだことを決定的契機としているが、「労働力」の「所有」なるものはフィクションであって、実はそのことは誰でも知っており、見えない「フリをしている」だけである。だがたてまえだけのことにせよ、「労働力」所有者に、その所有の不可侵――それを所有する資格という限りでの「人格」――を承認した点で、近代市民社会と同一性・連続性をもっている。あるいは歴史貫通的な市民社会概念を用いれば、現代社会に形成される普遍的交通=諸個人の全面的相互依存関係は、ゲマインヴェーゼンとしての「市民社会」のひとつのあり様である。」(p.39)

第八章
「(84)同前、七七頁。この文言を読んで、イギリスの"マスターアンドサーバント"の関係を想起された向も多いだろう(森建資『雇用関係の生成』木鐸社、一九八八年)。重要なことは、このような「契約」が近代(本書の言う意味での)においては何ら「不法」なものとはみなされなかった、ということである。「雇用契約」は近代に成立した人間関係ではない。(現代において成立する。その事情は本書の続刊で説明する。)近代の「雇用関係」は、イギリスにおいては「期間付奴隷」であった。つまり雇主は、サーバントの人格を支配した。期間付奴隷であるからサーバントの方に期間中はやめる権利はない。逆に雇主による解雇は、奴隷身分からの解放であるから大いなる恩情であった。日本の場合、少し事情は異なる。というのは、雇用関係は「コの交換」であり、「オヤ−コ」の関係にとりこまれる性格のものであったから。しかしこの場合も、「コ」は「家」に「没人格的」に融合しており、そこから自立した人格性を持っておらず、従ってそこからぬけることは不可能である。逆に「家」は「コ」を「勘当」することができる。(勘当されたものは帰属する人格のないもの、つまりパリアになる。従ってそうされることは、イギリスにおけるもののようにありがたいものではないが)。労働者が"「労働力」を所有する「人格」"であることを承認されること。(承認の主体としてヘゲモニーとしての"国家"が形成される)。従って雇主は、「労働力」の使い方は勝手だが「人格」を支配したりのみこんだりはできない関係がつくられること(それが現代市民社会である)は、根源的に異なる社会の編成原理の形成なのである。」(p.286)


*作成:橋口 昌治 
UP:20080911 REV:
労働労働運動・労使関係  ◇身体×世界:関連書籍 2005-
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