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『顔の見えない定住化――日系ブラジル人と国家・市場・移民ネットワーク』

梶田 孝道・丹野 清人・樋口 直人 20050225 名古屋大学出版会,341p.


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梶田 孝道・丹野 清人・樋口 直人  20050225 『顔の見えない定住化――日系ブラジル人と国家・市場・移民ネットワーク』,名古屋大学出版会,341p. ISBN-10: 4815805024 ISBN-13: 978-4815805029  \4410 [amazon] ※ w0111 n09

■内容(「MARC」データベースより)
ブラジルから日本への「デカセギ」に関わるさまざまな制度に焦点をあて、その制度の特性と変化によって現象を説明する。国家・市場・移民ネットワークというキーワードで分析を行い、未解明の領域に光を当てる。

■目次

序章 デカセギと移民理論
 はじめに
 1 ブラジル人の移住過程
 2 移民理論の展開とブラジル人
 3 顔の見えない定住化と国家・市場・移民ネットワーク
 おわりに

第T部 国家・市場・移民ネットワーク

第1章 人の移動と国家の制御――出入国管理からネーションフッドの再定義へ――
 はじめに
 1 理論的前提
 2 入国管理政策の推移と決定要因
 3 統合政策をめぐるジレンマ
 4 分析枠組みと日本への適用
 おわりに
第2章 企業社会と外国人労働市場の共進化――移住労働者の包摂過程――
 はじめに
 1 理論的前提
 2 労働市場への二つの接近方法
 3 雇用構造の変動と外国人労働者
 4 変容する日本の企業社会と雇用手段
 おわりに――顔の見えない定住化の基本構造
第3章 移住システムと移民コミュニティの形成――移民ネットワーク論からみた移住過程――
 はじめに
 1 理論的前提
 2 移住過程における移民ネットワークの役割
 3 移住システムと移民コミュニティの比較分析
 おわりに

第U部 顔の見えない定住化

第4章 国民国家の境界と日系人カテゴリーの形成――1990年入管法改定をめぐって――
 はじめに
 1 日系人問題への着目
 2 在日韓国人問題との交差
 3 「定住者」をめぐる諸問題
 4 日系人にみる法的資格と社会学的現実
 おわりに
第5章 ブラジルから日本への移住システム――市場媒介型メカニズムの形成――
 はじめに
 1 グローバルな人の移動と斡旋組織の成長
 2 デカセギから斡旋へ――ブラジルにおける労働力供給システムの形成
 3 斡旋のメカニズム――労働のジャストインタイム供給システム
 4 斡旋組織への需要――誰が利用するのか
 おわりに
第6章 人手不足からフレキシブルな労働力へ――労働市場におけるブラジル人の変化――
 はじめに
 1 業務請負業とブラジル人労働者
 2 労働力を編集する業務請負業
 3 下請け企業にかかる圧力と労働市場の変容
 おわりに
第7章 労働市場のミクロ分析――顔の見えない定住化の進展――
 はじめに
 1 地域社会と業務請負業
 2 業務請負業の事業活動の分析
 3 インターフェース装置の引き起こす社会問題
 おわりに
第8章 移民コミュニティの形成?――社会的ネットワークの再編成をめぐって――
 はじめに
 1 移民コミュニティの機能原理
 2 社会的ネットワークの再編成
 3 制度の供給とコミュニティの形成
 おわりに

第V部 多文化共生モデルの陥穽

第9章 市場の地域社会の相克――社会問題の発生メカニズム――
 はじめに
 1 奇妙な現実
 2 顔の見えない定住化の政治問題化
 3 制度設計なき共生が引き起こす共生社会の矛盾
 4 ビジョンなき公共政策の問題点
 5 場当たり的対症療法と社会問題の固定化
 おわりに
第10章 一時滞在と定住神話の交錯――ブラジル人労働者の滞日見通しをめぐって――
 はじめに
 1 デカセギの動機と担い手の変化
 2 滞日経験と滞在長期化
 3 滞日見通しとブラジル人の分岐
 おわりに
第11章 共生から統合へ――権利保障と移民コミュニティの相互強化に向けて――
 はじめに
 1 デカセギをめぐる逆説――顔の見えない定住化の構図
 2 「国際化」と「共生」モデルの限界
 3 共生から統合へ――権利とコミュニティの強化による解決
 おわりに

補遺 調査データについて
あとがき


■引用

第4章 国民国家の境界と日系人カテゴリーの形成

「…このようにして進行する民族の混交・共存と、本章で取り上げるエスニックな法的カテゴリーとの緊張や乖離についての指摘は必ずしも多くない。逆に、文化の共存や混交がなされていても、法的カテゴリーとしての民族に基づく「民族の再分離」や「エスニック移民・難民」が生じることを、世界各地の民族紛争は如実に示している。本章では、上記の二つの動きのうちの後者、すなわち「民族的均質性」へと向かう動きに焦点をあて、それと関係する問題状況を分析する。」(p.108)

「…日系人の日本へのUターンに似たケースとしては、経済破綻のアルゼンチンからスペインへのスペイン系住民の帰還、南米諸国に移民したイタリア系住民のイタリアへの帰還、さらには移動の自由なEU諸国への移動等があげられる。また、近年になってハンガリーや韓国によって制定された「在外同胞法」の存在も、外国に居住する民族的同胞者への帰還の呼びかけと読み替えることができよう。
 ところで、こうした人びとはエスニックな絆を利用して移動する人々であり、「エスニックな移民」ないしは「エスニックな難民」ということができる。こうした移動を支えているのはネーションフッドのイデオロギーである。」(p.109)

「 日本に入国する日系人労働者における急激あ形での世代交代は、日系人一世の高齢化、さらには日系人人口の絶対数という点での制約に負うところが大きいが、10年以上の間に、一世から二世、三世へと重心が移行し、瞬く間に彼らの「非公式なエスニシティ」を大きく変化させていった。日本語に堪能な日本国籍保有者から、日本語をほとんど理解せず社会学的にはブラジル人でありペルー人である存在へと移行したのである(梶田、1998)。
 たとえば、他のエスニック集団との結婚をとってみると、サンパウロ人文科学研究所が行った1987〜88度の調査によると、日系人の「混交度」は、一世では定義上0%であるのに対して、二世では6.4%にとどまる。しかし、これが三世では実に42.0%にまで上昇し、四世ではさらに61.9%にまで達する。現在、日本で働いたり日本の学校に通う若者の多くが、この三世、四世であり、彼らの多くは血統的には純粋な日系人とはいい難い(サンパウロ人文科学研究所、1990)。日本人である一世とは異なり、二世、三世、四世は社会学的現実>124>としてのエスニシティはむしろブラジル人やペルー人であり、時間的経過のなかで日系人のエスニシティの虚構化が進行していった。その最もよい例は、日本人経営者が日系人を日本人に準ずる存在とみなして雇用し、長期間の就労を期待したのにもかかわらず、日系人は日本人労働者とは異なり、わずかでも自給が高い企業へと簡単に移動することによって転職を繰り返し、「日本的慣行」が彼らには通用しないことが明らかになった点であろう(イシ、1995、137-58頁)。また近年においては、「日系人」ではなく、三世以降が主流となった現実を反映して「ブラジル人」「南米人」という形で直截に表現されることが多い。日系人の多い愛知県豊田市等でも、日本人による日系人の呼び方は「ブラジル人」あるいは「ブラジルの人々」である。
 さらに、日本における入国管理担当者その他によると、「日本人の配偶者等」「定住者」「永住者・定住者等の家族」という法的地位を得ようとして、旅券の偽造がしばしばなされ、南米当地においては、現地の人々の間に日系人との結婚が望まれるケースすら存在するという。ここでは、「エスニックな移民」の地位が獲得されるべき対象となっていることがわかる。こうした人々も含めて考えれば、日系人という法的資格と社会学的現実との乖離はさらに大きなものとなる。」(p.124-125)


第11章 共生から統合へ

「…第U部と第V部では、国家、市場、移民ネットワークという三つの制度に即して、デカセギの特徴とその規定要因を分析的に描こうと試みてきた。そこまでの議論を要約すると、「市場が作り、国家がお墨付きを与えて放置し、市場が支配するネットワークにより加速した」のがブラジルから日本へのデカセギであるといいうる。このような特質を浮き彫りにするために、移住過程を決定的に方向付けていったポイントを中心に、この20年を振り返ってみることにしよう。」(p.286)

「 まず、ブラジルから日本への人の流れは、5章でみたように入管法改正以前から制度化され始めていた。当初は個人的な不可視のデカセギだったのが、そのデカセギ者がブラジルに戻って斡旋組織の担い手になったことにより、遠く離れた日本とブラジルの労働市場が結び付けられることになる。この時点で初期のデカセギ者が日本企業の意を受けて市場の論理をブラジルに持ち込まなかったとしたら、現在はどうなっていただろうか。…現時点では確認しようがないものの、80年代後半の段階で斡旋組織が移住システムを作り上げていったことは、現在に至るまで大きな影響を及ぼしていると考えられる。
 ただし、この時期にデカセギブームが起きたとはいえ、滞日人口は90年後半の一割にも満たない。爆発的な増加には、入管法改正という国家のお墨付きが必要であった。…少なくとも初発の発想においては、日系人は潜在的なネーションとして捉えられていた。1章でみたように、日本で定住を事実上認められているのは、身分または地位に基づく在留者にほぼ限定される。日本での居住実績を持たない日系三世に「定住者」という在留資格が付与されたことは、ネーションフッドの再定義の問題と関連付けないと理解できない。仮に労働省(当時)との取引の産物として日系人「労働力」導入を決定したとしても、それが「日系人」でなければこれほどまでに自由な移動を認めることはなかっただろう。
 ここにブラジル人の移住過程をめぐる逆説がある。90年入管法で合法的な就労が認められた非熟練労働力は、公式には労働者ではない日系人であった。仮に、労働省の主張が認められて雇用許可制度が実現していたならば、それにより導入された労働者に対して転職や在留期間などで多くの制約が課せられたことは間違いない。すなわ>287>ち、より厳格な管理を必要とする「外国人労働者」であれば、労働市場に対してかなりの規制がなされたと思われる。そうであったならば、労働市場と移民コミュニティの関係、あるいは移住システムの発達はまったく別の軌跡をたどっただろう。相対的に「自由な移動」が可能な潜在的ネーションである日系人労働力が導入されたからこそ、市場の論理は国家の規制を受けることなく、移住過程を支配できたのである。それにより、80年代後半から形成されてきた市場媒介型移住システムは、日本側の労働需要にすばやく応えるジャストインタイム労働供給を可能にしたといっても過言ではない。」(pp.287-288)


■書評・紹介

○日本経済新聞 [2005年4月17日(日) 朝刊] 読書欄
「なぜ定住化が起こったのか、その帰結はどうなり、今後どのような対策をとればいいのかを丹念に解き明かしている」

○書評:佐藤 忍(2005年11月『大原社会問題研究所雑誌』564:69-72)
「本書は3人の共著であるが、著書一人ひとりの寄せ集め、ある種の論文集といったよくある類の本ではない。3人が緊密に連携し、すり合わせ、ひとつの作品へと見事に仕上げている。日系ブラジル人の存在様式の特殊性を規定する論理構造にもとづいて、あるべき政策が提言されている。この特殊性を凝縮的に表現するキーワードが、本書のタイトルでもある「顔の見えない定住化」である。」(p.69)

■言及



*作成:石田 智恵
UP:20080716 REV:
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