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『生きる意味』

上田 紀行 20050120 岩波書店,岩波新書,228p.


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上田 紀行 20050120 『生きる意味』,岩波書店,岩波新書,228p. ISBN-10: 400430931X ISBN-13: 978-4004309314 777 [amazon] b

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/400430931X.html

経済的不況よりもはるかに深刻な「生きる意味の不況」の中で、「本当に欲しいもの」がわからない「空しさ」に苦しむ私たち。
時には命をも奪うほどのこの苦しみはどこから来るのか?苦悩をむしろバネとして未来へ向かうために、いま出来ることは何か?生きることへの素直な欲求を肯定し合える社会づくりへ、熱い提言の書。

上田紀行[ウエダノリユキ]
1958年東京生まれ。1989年東京大学大学院文化人類学専攻博士課程修了。専攻は文化人類学。東京工業大学大学院助教授(社会理工学研究科・価値システム専攻)

■目次

1「苦悩」の正体
  「生きる意味」の病
  「かけがえのなさ」の喪失
2数値化と効率化の果てに
  グローバリズムと私たちの「喪失」
  「数字信仰」から「人生の質」へ
3「生きる意味」を創る社会へ
  「苦悩」がきりひらく「内的成長」
  「内的成長」社会へ
  かけがえのない「私」たち

■引用・メモ

 「これだけ豊かで、成功しているように見える社会の中で、ひとりひとりが、「自分は犠牲者だ」と思ってしまうような社会。私たちに求められているのは、そうした不毛なシステムを「生きる意味」を生成しうるものへと再構築し、私たちの生を取り戻すことなのである。」(p.54)
 「世界にはいたるところに中心があり、その中心どうしが互いを尊重し合う社会への道がそこにある。与えられた「生きる意味」を生きるのではなく、ひとりひとりが自分の人生の創造者となるよう「生きる意味」を再構築していくことは、私の尊厳とあなたの尊厳をともに回復していく歩みなのである」(p.220)

◇現代は「生きる意味」が見えない時代だと著者は言い、「学校のせい」「社会のせい」だと教えることによって「被害者」意識が生まれると指摘する。
 「傍から見れば恵まれているはずなのに、本人は自分を被害者だと思い、犠牲者だと感じてしまう。それは、この社会において、その感じ方は多くの人たちに共有されている感覚なのではないか。そして、これは若者に限らず、すべての世代に広がりつつある感覚だといったら言いすぎになるだろうか。」(p.7)
 「これだけ豊かであるにもかかわらず、自分のことを「被害者」だと思わされてしまう社会。自分のことを「犠牲者」だと思わされてしまう社会。」(p.12)
 →「○○のせい」と外在化することの“落とし穴”と社会学的行いはどこで分かつのか。

◇何故「被害者」意識では苦しいのか。
  ACの子供たちは「両親の葛藤や家族関係の歪みを「私のせいだ」「私が悪いのだ」と思わされてきたので自責感が強く、自己評価も低い。そうした「生きづらさ」に悩むことになるのである。」緒方明『アダルトチルドレンと共依存』1996
  ↓引用後、
  「あなたには責任はない」とは免責する言葉であり、「この言葉は、「いつも私が悪いんだ」「私のせいなんだ」と自分を責めてしまう人たちにとっては救いになる。」(p.51)
  しかし、「「あなたには責任はない」「すべては親のせいなのだ」という言説がどんな人に対しても適応されてしまうこともあって、それは非常に大きな問題である。
  ↓何故か。
  @「加害者」もシステムのひとつであるため解決しない
  「「親が悪い」という言説でその状況に説明を与えることは、この日本社会がシステム的にそういった親を生み出しているという現実を覆い隠してしまう。もちろん明らかに特異的に「本当に」ひどい親もいる。しかし、構造的に暴力性を強めている親に対して、それを個別の親が悪いからこうなったという説明を与えることでは問題は決して解決しない。」(p.52)
  →ある個人の生きづらさを「○○のせい」と外在化しても、別の○○へとそれが返されるだけで、解決には至らない、ということ。ここでの解決とは、そもそもその生きづらさを作り出した社会構造自体へのアプローチ。けれども外在化の手法は、例えその場しのぎでも、個人の“今在る”生きづらさへの救済にはなっている。

  A「自分を確立する」という次のステップへと至らない
  「自分がACであるということ。親の「意図」に服従させられ、それ故に自分を見失ってしまったということ、その自己発見は重要だ。しかしそれが重要なのは、それが自分にとって大人になるべき通過儀礼のきっかけを提供するからである。「親が悪い」という説明にとどまって、自分が被害者であるという立場に安住するためでは決してない。しかし、現実には「親が悪い」という言説は、自分が被害者であるという立場を温存し、いつまでも大人として自立することなく、子どもの立場にとどまることの言い訳を提供してしまっているように思えるのだ」(p.54)

  著者は、現代の私たちは「人の欲望を生き」てしまっているので、「わがままに生き」て良い、と言う。そうした個人はしかし、「自己中心的な集団」とはならない、という話。「自らを恥じる」という恥の文化が縮小して、「自尊心」が欠けているのではないか。
  「自分自身に対する自尊感情がある人間ならば、「人の目」がないところでも、何でもやり放題ということにならない」「<我がまま>が<ワガママ>に転ずるかどうか。それは、そこに自尊感情、自己信頼があるかどうかが大きな分かれ目になる」(p.209)


*作成:山口真紀
UP: 20071229 REV:
上田 紀行  ◇感情/感情の社会学  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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