『貧困の終焉――2025年までに世界を変える』
Sachs, Jeffrey D. 2005 The End of Poverty: How We Can Make It Happen in Our Lifetime, Penguin.
= 20060430 鈴木 主税・野中 邦子訳 早川書房, 534p.
■Sachs, Jeffrey D. 2005 The End of Poverty: How We Can Make It Happen in Our Lifetime, Penguin.
= 20060430 鈴木 主税・野中 邦子訳 『貧困の終焉――2025年までに世界を変える』, 早川書房, 534p. ISBN-10: 4152087234 ISBN-13: 978-4152087232 /2415円 [amazon]
■内容(「BOOK」データベースより)
現在、全人類のうち10億人が飢餓・疫病・地理的な孤立のために「貧困の罠」から抜け出せず、1日1ドル未満で生活することを強いられている。そのうち、生きる闘いに破れ、死に追いやられる人は毎日二万人もいる。しかし、人的資源の確保とインフラの整備さえ行なわれれば、自然と促される経済活動によって貧困を過去のものとすることができるのだ。そして、そのために必要な援助額は先進各国のGNPのたかだが1パーセントに満たない。私たちは、人類史上初めて「貧困問題を解決できる可能性を手にした世代」なのである。東欧革命中のポーランド、解体直後のロシアなど、世界各国の歴史的局面で経済政策の顧問を務め、トップの政治家たちに助言を与えてきた国際開発の第一人者が、その豊かな経験を振り返りながら、貧困をなくすための方策を明らかにする力強い希望の書。
■目次
序文(ボノ)
イントロダクション
1 地球家族のさまざまな肖像
2 経済的な繁栄の広がり
3 なぜ繁栄を享受できない国があるのか
4 臨床経済学
5 ボリビアの高海抜ハイパーインフレーション
6 ポーランドがEUに復帰するまで
7 ロシアが普通の国になるための闘い
8 五百年の遅れを取り戻す――中国の場合
9 インドのマーケット再編成――恐怖を乗り越えた希望の勝利
10 声なき死――アフリカと病
11 ミレニアム、9・11、そして国連
12 貧困をなくすための地に足のついた解決策
13 貧困をなくすために必要な投資
14 貧困をなくすためのグローバルな協約
15 豊かな社会は貧しい人びとを助けることができるか?
16 まちがった神話、効かない万能薬
17 なぜ私たちがそれをすべきなのか
18 私たちの世代の挑戦
■書評・言及
◆A Modest Proposal By William Easterly (Sunday, March 13, 2005; Page BW03, Washington Post.)
◆池田 信夫 「貧困の終焉」
◆ 著者のジェフリー・サックスは、国際金融およびマクロ経済政策の分野で業績を挙げ、84年に29歳の若さでハーバード大学の教授に就任した。その優れた才能の一端は、邦訳もされているマッキビンとの共著『グローバル・リンケージ』(服部彰ほか訳、学文社)からも窺われる。
先進国における経済政策の相互依存について理論的・計量的に分析した同書は数式も多く難解だが、本書にはそうした数式は登場しない。代わりに著者自身が足を運び、自らの目で確認した「貧困」の実態を表す写真や地図および図表が多数掲載されている。というのも、現在の著者は理論と統計を駆使する経済学者ではなく、貧困という病に立ち向かう「臨床」医だからだ。
研究室から現場への転機は、元教え子の縁で経済の高熱(ハイパー・インフレーション)に苦しむ南米のボリビアを訪問したときだった。そこで著者は「患者」を直接診断し、国家予算の基盤である石油価格の一時的な急騰で高熱を抑える処方を提案した。一見不合理な処方の実践によって、高熱は収まり「ボリビアは片足を開発の梯子に」かけられるまでに回復した。この成功が評価され、著者は様々な国から経済顧問として招かれるようになったという。
著者は、途上国に対して金融引き締め、財政赤字削減といった教条主義的な改革を迫るIMF(国際通貨基金)よりも、極度な貧困の救済に消極的な先進国のODA(政府の途上国援助)を強く批判する。実際、DAC(開発援助委員会)加盟の22カ国がGNP(国民総生産)の0.7%をODAに回せば、「全世界11億人にのぼる極貧層を」救済できると著者は主張する。その財源は、アメリカの場合20万ドル(約2200万円)を超える所得に5%の追加税を課せば賄える。同じことは日本においても言えるはずだ。
「これは私たちの危機なのだ」と、本書の序文でボノ(ロックスター)が語るとき、危機とはまさに命の危機である。その救済のために、富裕層にそれなりの負担を求めるのは是か非か。答えは本書を読んでから出してほしい。(朝日新聞2006年06月11日号、評者:高橋伸彰(立命館大学教授))
*作成:坂本 徳仁