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『福祉の市場化をみる眼――資本主義メカニズムとの整合性』

渋谷 博史・平岡 公一 編 20041020 ミネルヴァ書房,319p.

last update:20100082

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■渋谷 博史・平岡 公一 編 20041020 『福祉の市場化をみる眼――資本主義メカニズムとの整合性』,ミネルヴァ書房,319p. ISBN-10: 4623040909 ISBN-13: 9784623040902 \3500 [amazon][kinokuniya] ※ wp

■内容

資本主義の発展による「豊かな社会」と並行して形成される福祉社会に本来的に内在する市場論理を、その背後にある「コスト」としての社会問題も含めて、体系的に論じる。(「BOOK」データベースより)

■目次

序章   20世紀の経済成長と市場化と福祉社会
第1部  福祉国家形成のためのコスト
 第1章 福祉国家と安全保障のコスト――沖縄問題の本質
 第2章  成長至上主義と企業ガバナンス問題――水俣公害
 第3章  薬害HIV感染と企業ガバナンス――〈産・官・学〉の構造的視点から
 第4章  拡大生産者責任と経済学――「外部不経済の内部化」の新たな意義
第2部  福祉制度における市場論理
 第5章  日米の公的年金における市場原理――垂直的所得再分配との関係
 第6章  日本の確定拠出型年金(401k)――アメリカ401(k)との比較を中心に
 第7章  日本の住宅金融システムの転換と証券化の課題――1990年代以降の住宅金融公庫の役割の変化
 第8章  アメリカの福祉改革――公的扶助に浸透する市場論理とその現状
第3部  福祉メカニズムにおける市場論理の強まり
 第9章  擬似市場論――社会福祉基礎構造改革と介護保険に与えた影響
 第10章  農協の高齢者介護ビジネス――介護保険制度下における総合農協の事例分析を中心に
 第11章  保育サービス提供主体の多様化――保育ビジネスを中心として
 第12章  アメリカにおける非営利団体と市場化――社会福祉における進展状況と論点・課題
終章   社会サービスの市場化をめぐる若干の論点――まとめに代えて

■引用

◇市場と福祉
「福祉国家や福祉社会と、市場経済は反対概念ではなく、矛盾するものでもなく、むしろ相補的関係にある。市場経済が人間社会を全面的に覆うようになると、福祉国家や福祉社会によって、その非人間的インパクトを緩和してもらわないと、人間社会を破壊してしまって、結局は市場経済自体の存立基盤を喪失することになる。逆に、市場経済の強烈なインパクトから人間社会を防衛するためのメカニズムとしての福祉国家や福祉社会は、市場経済の側からの費用負担がなければ機能できない。市場社会が不調になって、その費用を負担する力が低下すると、福祉国家や福祉社会は、厳しいスリム化を強いられることになる」(1) [序章:渋谷 博史]

◇疑似市場論
「疑似市場はこれまで政府が直接現物給付を行ってきた分野、すなわち(1)教育、(2)医療、(3)保育、(4)高齢者介護、(5)障害者介護、(6)職業訓練、(7)職業紹介サービスに置いて導入されつつある。[原文改行]疑似市場のポイントは、「供給者」と「購入者」の分離である。これまでは政府は自らの部門で公的サービスを生産し、自ら購入してきた。しかし疑似市場では、政府が自らサービスの生産を行わない。サービスの生産は政府ではなく、多様な民間競争事業者が行なう。さらに「購入者」と「財政(支出者)」の分離も重要である。これまでは政府は「購入者」でありかつ「財政(支出者)」であったが、疑似市場では、政府は「財政(支出者)」になるが購入<<213<<者にならない」(213-214)
「[疑似市場における『代理人』の役割について]経済学で想定されている消費者は自己責任の下で、合理的な判断ができる個人であり、経済学では購入=消費=効用となっている。しかし障害者福祉や高齢者介護サービスの場合は、個人の残存能力を経て、個人の自立や生活援助支援という機能を果たして初めて効用をもたらす。すなわち、財の徳性→個人の能力→機能の発揮→効用というプロセスを経る。たとえば、介護サービスは、人間らしい生活を送れるような基礎的機能を給付するサービスとして位置づけることができる。もちろん、この人間らしい生活は人それぞれである。介護サービスをこのように位置づけることによって、誰もが利用できるニーズ的な要素をもちながら、本人の多様な生活機能を達成できるための給付の多様性が認められることになる。ケアマネージャーは、利用者の選択能力を補完する「能力→機能」の変換の仲介人として、本人の代理人として位置づけられる。」(230)
「本人の意思と能力、そして社会的資源を結びつける代理人は、介護保険におけるケアマネージャーにとどまらず、医療においては家庭医、障害者福祉においては障害者ケアマネージャー、職業訓練におけるアドバイザーなどの対人社会サービスのすべてにわたって重要となっていくであろう。個人の多様な生活形態に合わせて、潜在能力を機能に変換することをサポートし、本人の代わりに資源を調達するさまざまな代理人制度が、ニーズと需要の乖離を克服するキーパーソンとして疑似市場の可能性を左右することになる。」(230)[第9章:駒村 康平]

■書評・紹介

■言及



*作成:角崎 洋平
UP:20100082 REV:
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